120話
そんな衝撃の事実を聞きつつ、わたしたちの旅路は順調に進んでいた。次に向かった村では火事が起きて森が焼けてしまった後だったので、燃えてしまった木々や動物の魂を鎮めるために浄化をしたり、村人たちに少しでも希望が残せるようにと使わないお金を渡した。お金はあって困るようなものじゃないしね。少しでも村人たちの役に立てるなら、そちらのほうが良いに決まっている。
その次に訪れた町は、怪我人で溢れていた。どうやら、魔物が襲ってきたらしい。警備隊が戦ったが深手を負い、このままこの町は滅びるのか……というところでわたしたちが辿り着き、ディーンはササとセセを連れてその魔物を討伐。町は一気に賑わいを取り戻した。
もちろん、わたしは怪我人を治療した。とても人数が多かったから、複数にわけて回復させた。……しっかし、警備隊がダメだったからって町の人たちが立ち上がるとは……。血気盛んというか、それだけ追い詰められていたのね……。もちろん、浄化もした。
目的地につくまでに、そんなことをしていたらディーンたちに「休まなくて平気?」と聞かれた。平気平気、といったけれど、さすがにこうも立て続けに様々なことが起こるは思わなかったから、ちょっと疲労している気はする。
「……行く先行く先、問題だらけなのはなぜなの……」
「……陛下が即位してから五年……あ、六年か。しか経っていないからね、まだ国全体を把握できないさ」
「そうかもしれないけどさ……。あ、違うな。把握できないというか、自分が信頼できる人が少ないんだわ」
「アクアさま、それはどういう……?」
「だって、自分が信頼できる人に任せていれば、安心できるじゃない?」
陛下には安心して使える人がいないってこと。十五歳で即位したということは、恐らくいろいろな人の腹芸を見せられただろうし……。
「……それに、今の領主たちは前王陛下の頃からの人でしょ?」
「そうだろうね。陛下が決めたのって、元ダラム王国の領主だけかも」
「……そういえば、その人ってどんな人なのか知らないわ」
「オレも詳しくは知らないや。会ったこともないかも……」
「ディーンでも?」
公爵家の令息としていろんな場所に顔が広いかと思ったけど、そうでもないみたい?
そしてユーニスがなにかを考えるように顎に手を掛けていた。「ユーニス?」と声を掛けると、ユーニスはハッとしたように顔を上げて、
「すみません、考え事をしていました」
と、謝った。……別に謝らなくてもいいのだけど……。
「なにを考えていたのか、聞いても良いかしら?」
「あ、はい。アクアさまなら、国中どこに向かわれても歓迎されるだろうな、と考えてしまって……」
「わたしが?」
「ええ、アクアさまは回復魔法も浄化も他の魔法だってお得意でしょう?」
土魔法以外はまぁ、そういえるのかな? ……どうして土魔法だけああなのだろう……。いいけどね、ミニゴーレム、可愛いし。
「アクアさまがいれば、いろんなことが解決しそうで……」
「……わたしにそんな能力ないよ……」
「ふふ。きっと、そう思われているのはアクアさまだけですわ」
……わたしで出来ることなら協力はしたいけどね、わたしだって王族の血が流れているわけだし……。……そうか、そういう手もあるのかな……?
わたしが、ルーカス陛下に出来ることも限られていると思っていたけれど、こうやって各地を回ってそこでなにが起きたのかをルーカス陛下に報告出来れば……!
「――ありがとう、ユーニス! なんだかアイディアが湧いて来たわ!」
「え、ど、どういたしまして……?」
目を丸くしてぱちくりと瞬かせるユーニスに、わたしはぐっと拳を握って気合を入れた。許可されるかどうかはわからないけれど、考えることは自由よね!
そんな会話をしていると、馬車が停止した。どうやらやっと、お茶会の会場に辿り着いたらしい。町に入り馬車から降りると、ふわりと花の甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「どうやら、花祭りの真っ最中のようね」
「そのようですね」
「こんにちは、旅の方々ですか?」
少女が話し掛けてきた。わたしたちが首を縦に振ると、すっと花を差し出す。
「今日は花祭りの日です。お花をどうぞ!」
「あ、ありがとう」
みんなに一本ずつお花をくれた。にこっと笑って、少女は去って行った。
「……まずは、お世話になるところから向かおうか」
「そうだね」
まずはマクファーソン男爵家に向かわなくては。……それにしても、ここは今まで見てきたどの町や村よりも活気が溢れている気がするなぁ。領主であるマクファーソン男爵の手腕なのかしら?
マクファーソン男爵家に向かいながら、町の様子を眺めてそう思ったのだ。……あと、一番瘴気が薄い気がする。きっとここに暮らしている人たちは、今の暮らしに満足している人が多いのだと思う。とっても素敵よね!
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