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花火を打ち上げて。  作者: 黒花
第5章 燃える赤い花
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第94話 静かに色を変える

 皆と別れた後は、それぞれが各自室へと戻っていった。


 俺はシャワーを浴びてからベッドに横たわるも、中々眠気が来ずにいた。



 心臓がまだ早い。

 身体が熱い。


 多分それは身体も心も興奮状態だからだと思う。

 仕方ないよな、と天井を見上げた。



 植物園の奥へロゼリスを探しに行ったのが、もう凄く前のような感覚だ。


 そのあとは、魔物の竜と対峙して……。



「……………」



 暫くの間、なにも考えずにぼーっと天井を見つめる。すると赤土色の天井にキラリと光が反射し、明かりが写った。



「あ、そうか、使っちゃったんだ。ペンダント」


 光の元、首から下がる魔法石を手に取る。

 ガラスのように見事に透明になった魔法石だ。


 魔法石の中央には、白い花びらが残っていて。バラの花びらと思われる、透き通る程の薄いその花びらは、まるで彼女の持つ白い羽根に見えた。



(きっとロゼの、最上級の魔法の一つだったんだろうな)


 俺には想像つかないほどの、遥かに高いレベルの魔法。術が発動した瞬間を思い出す。



 あの時。


 魔物の竜が最後の悪あがきとして振り回した尻尾が、俺に当たる直前。

 眩い白い光を放ったこの魔法石。

 


 もしかしたら魔法石の力だけではあの竜の攻撃に耐えられなかったのかもしれない。


 魔物に立ち向かう直前、俺から離れる前の彼女が、俺に魔法を掛けてくれたのだ。


 魔物から攻撃を受けた彼女だからこそ出来た判断だったのか。その魔法と魔法石の力が合わさり、魔物の攻撃を弾き飛ばせたのだと思われる。



 あれは水魔法か光魔法か、はたまた花魔法か。どれかの複合魔法だとは思うも、結局のところ俺にはどういう術か分からなかった。

 ただ、彼女の魔力量は脅威の10だ。俺たちの倍の魔力を持っていて、高度で強力な術だったことだけは分かる。


 お陰で今の俺は無傷だ。魔力を大量に消費し、夜通し動いた事で身体は怠いが、食後ということもあり眠れば問題無さそうな程度である。



「また、御守りに守られた」


 彼女にプレゼントした魔法石も、彼女から貰った二つの魔法石も。どちらも守り合った。お互いがお互いの役には立たないかも、なんて言いながら渡しあった魔法石だったのに。



 机の上のもう一つの魔法石。


 身体を起こして手を伸ばし、新旧二つの魔法石を並べ交互に見比べると、確かに今の魔法石の方が透明度が高い気がした。誕生日に貰ったこの花びら入りの魔法石は、完全に空となったのだろう。



(前のはまだ花魔法が残っているって言ってたもんな)


 魔法石を握りしめて目を閉じる。


「ロゼ、苦しんでいないかな」



 暗闇の広がった中で思い出されるのは、先程までの数々の出来事だ。


 精霊から火事の知らせを聞いて、向かった先、植物園。燃え広がる炎の中、あの魔物の竜に遭遇して。


 そうだ、その時に俺は魔物に啖呵を切ったんだ。一気に怒りが湧いて。彼女の愛するこの国を、破壊されていくのが許せなくて。でもその時放った火魔法では、効果がなくて。


 それから彼女を探しに行って、怪我をして血に塗れた彼女を城まで送り届けて。


 魔物を倒した。彼女のアドバイス通りの、青い炎。燃やす傍らで考えていたのは、異世界の魔物やそれらに関する仕事の事だ。興味というよりは使命感が理由の殆どだが。それをランタナ王子に伝えて。


 

(それからロゼリスに会って。号泣したんだった)



 ボロボロの彼女の身体と、飾られていた彼岸花を見て。彼女が回復魔法に頼れない事を知って。無意識のうちに蓋をしていた感情が飛び出してきたんだ。



 この世界で生きていくことへの恐怖。


 ずっとずっと胸の奥で感じていた恐怖を、彼女に曝け出した。あの世界を生きてきた過去と、この世界を生きる未来が俺には怖くて。今ここにいる自分自身が何より怖かった。


 怖かった、だがもう過去形だ。

 未だ怖さが残るものの、彼女に曝け出したことで、どうやら新しい感情も生まれたらしい。


 彼女は俺のことを守らせて、と言っていた。俺だって守りたい。君のことをこれからも。



「俺に、できること……」


 目を閉じて彼女へ想いを馳せていると、窓からふわりと風が入る。


 先程までは強い煙の匂いしかしなかった風から柔らかな花の香りがして、気付けば俺は眠ってしまっていた。




「ガルベラ、おはよう」


 次の日、学校までの通学路は大した距離も無いのに長く感じた。なんせ俺が昨日の魔物退治をした張本人だからだ。

 振り返る人多数続出、先生たちまで振り返って俺を見てきた。


 たがナタムが一緒に居てくれて、特に声を掛けられる事なく教室に着く。クラスメイトは察してくれたのか、いつも通りの挨拶をくれる。


 教室には金髪の彼が先にいた。



「タクミ、ナタム。昨日はお疲れ様だった」

「ガル様もお疲れ様だぁ」


 彼、ガルベラが俺たちよりも早く教室にいる時は、必ずと言っていいほど理由がある。なんだろう、と彼が話すのを待ちながら席に着くと、案の定彼は口を開いた。



「タクミのやりたい事は決まったか」


「俺?」


 なんと彼は俺に聞きたいことがあったらしい。だがその質問は遅かれ早かれ彼から聞かれると思っていた。だからさほど驚きはしなかった。



「やりたい事ね。昨日、あれから一日かけて考えたけど。


 俺は、植物園の再建に関わりたい。

 ロゼリスが再び元気に働けるように、彼女の居場所をもう一度作ってあげたい。


 俺は火魔法しか使えないから、魔法については殆ど役に立たないと思う。それでも関わりたい。荷物運びでも雑用でもなんでもいい。彼女のために何かがしたい」



 具体的な事はまだ見つからないけれど、目の前にあるものとすれば植物園の再建だと思ったからだ。


「俺でも参加できるかな? ガルベラはどう思う?」


 彼は同級生でかつ親友だが、その前にこの国の王子なのだ。そのあたりの賛否についてはよく知っているはず。



「学業に支障が無ければ大丈夫だ。

 それに植物園の再建に携わる者の中には、同世代の者も多く参加するだろう。学園以外の者と関わるいい機会かもしれない」


「学園以外の人……それは王宮内で働く庭師や研究員の人?」

「そうだな。そんな感じだ」



 確かに。俺の交流関係はまだまだ薄い。


 学園を卒業した時に少しでも顔を見知った人がいた方がいいだろう。感情論で参加したいと考えた植物園の再建だが、社会的な面でも必要性は高そうだ。



 考えを整理していると、ふと机で伏せていたナタムと目が合った。


「僕もやろうかな……」


「「何を?」」


「植物園の再建」


 ナタムの言葉にガルベラと顔を見合わせる。


 ナタムが植物園の再建を? いやいや、彼が今までに花への興味を示したことがあっただろうか。花の国と言われるこの国だが、彼は「有名だけど僕は興味ない」って言っていたのを、何度か聞いたことがある気がするのだ。


「何か興味あるものがあるとか? 花とか建築とか……それについての魔法とか?」


 騎士団に所属するために高等部まで進学するくらい志の高い彼のことだ。もしかしたら何かここで学んでおきたいことがあるのかもしれない。



「逆だよ」

「逆?」


「魔法に頼らない何かに興味があって」

「魔法じゃない事?」



「……タクミのいた世界って、魔法のない世界だよね。


 ロゼ様の怪我の時も思ったけど、あれは手当てっていうのかな。タクミは難なくやってたけど。あれ、凄い技術だなぁって思ったんだよね。ゼリーの事とかも、色々……世の中の現象を魔法じゃなくて、色々な学問の視点で考えようとするところとかね。


 タクミは別に専門家でも何でもないって言ってたけれど、それでも凄い知識と技術を持っているんだもん。タクミと一緒に参加をしたら、タクミのそういう考えに触れる機会がありそう。


 ロゼ様だけじゃなくて、これから新たに出会う人たちが、もしかしたら魔法で解決出来ないような状況に陥るかもしれない。

 その時に僕にも何か出来たらいいなーと思ってね。

 騎士団に入ったら、尚更そういう場面に遭遇しそうだし。


 だから僕も参加して、タクミのやる事とか考えとか、そういうのを知りたい……」



 植物園の再建について考えていたのは、俺だけじゃ無かったようだ。一緒にあの魔物の前に立って、ロゼリスを探して、焼け野原と化した植物園を彼も見たのだから。


「ガル様、僕も参加出来るかな。僕は土魔法1だから、大きな事は出来ないかもしれないけど」


 ガルベラを見上げるナタム。俺もガルベラを見つめる。



「分かった分かった。兄たちに相談してみるから、少しだけ待っていてくれ」


 俺たちを宥めるような仕草をしたガルベラ。その顔はどこか嬉しそうだ。


 そんな彼の顔を見て、俺とナタムは目を合わせると、お互い笑った。

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