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花火を打ち上げて。  作者: 黒花
第5章 燃える赤い花
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第90話 彼女と彼女の本当の秘密

 人は時に、本当に大事な情報を、その時が来るまで

教えてくれなかったりする。



 ランタナ王子と一緒に城へ行くと、城内にいた侍女さんが魔法を掛けてくれた。煤まみれの身体があっという間に綺麗になる。


 記憶に新しい謁見の間へと向かうと、俺の立った間の中央には大きなテーブルが置かれ、そこに王様とお后様、そしてトネアス王子がいた。

 周りにも、騎士など沢山の人が出入りをしている。魔物による被害の対応に追われているようだ。



「タクミの力に救われたな。感謝する」


 魔物について報告し、王様からお礼の言葉をもらった俺は、そのまま彼らに促され上の階へと上がり、廊下の奥まで進んでいった。



 ある部屋の入り口に女性の騎士さんが立っていて、俺を見るなり敬礼をされる。



「タクミ様。中でロゼリス様がお待ちです」



 青いステンドグラスの扉の向こう、広い部屋の中央には大きなベッドが置かれていた。側にはガルベラとトレチアさん、そしてロゼリスの侍女さんが立っていて、三人とも表情が固い。


 なんだろう、この空気。


 恐る恐る近づくと、ベッドのうつ伏せになり、肩から足まで布を掛けられた彼女が、薄らと目を開けて俺を見る。すぐにお互いに目が合った。



 熱があるのだろうか、目が虚ろでぐったりとしている。


 顔が赤くて、あまりにも赤いからおかしいなと思い腕へと視線を移すと、布から真っ赤な腕が覗いていた。



 全身が赤い。


 辛そうな顔。布越しでも息が荒いことがよく分かる。



「もしかして、そんなに酷い火傷していたの?」


 彼女は何も反応しなかった。ただぼんやりと俺の方を見ている。



「外では、暗くて火傷が分かりにくかったのですが、手や足、背中側が特に多くて。酷いところは水脹れが出来ていました。


 足の傷も中々深くて、塞がるまでに時間も掛かりそうですし、痕も残ってしまうかもしれません。もしかすると、歩けなくなる可能性も否定できません……」



 顔を歪めたトレチアさんが俺の方を向き、説明してくれた。



 トレチアさんは、ガルベラの婚約者だ。

 彼女は5種類の魔法を持つ。それで以前、俺から魔物から受けた瘴気を消して、傷を治してくれたことがある。


 彼女は今回も治療のためにいる?



 ロゼリスもきっと瘴気を受けていただろうから、闇魔法も光魔法も扱える彼女へと、ロゼリスの治療を任せたのかもしれない。



(でも、やっぱりなんか変じゃない?)



 だって、トレチアさんの光魔法は1だ。王女の治療をするなら、もっと光魔法の強い人が居てもいいはず。地方郊外ならまだしも、ここは城だ。いないはずがない。


 それにロゼリスは、服が染まるほどの大きな切傷と出血、そして全身に火傷を負っているのに。未だに治療を受けずにそのままだという感じだ。



「治療師さんは居ないんですか?」


 周りを見渡すも、それらしき人は見当たらない。



 しん、と部屋が静まる。トレチアさんもガルベラも、そして振り向いた先のランタナ王子も、それぞれが険しい顔をしている。



「え、どういうこと?」


 するとトレチアさんが、重々しく口を開いた。



「タクミ様ですから、お伝えして構わないかと思いまして。私からお話いたしますね。


 ……ロゼ様には光魔法が使えません」



「光魔法が使えない? それ、どういうことですか?」


「ロゼ様に光魔法を使っても、何も効果を示さないという事です」



 光魔法が効かない。

 ということは回復魔法が効かないってこと?



「じゃあロゼはこのまま治らないって事ですか?」


「いいえ、自力で治すしかないということです」



 トレチアさんから修正が入る。



 自力で治す? ああ、そうか。向こうの世界では当たり前だったことをもう忘れていた。


 この世界だって、平民は小さな怪我くらいなら魔法に頼らず、自然に治るのを待つとナタムも言っていたし。



 でも。この大怪我の状態の彼女が、自力で治るのを待つしかないだって?


 

「何で?」



 頭を整理する。


 ロゼリスは、光魔法を受けられないというか、光魔法を受け付けない身体だというのだ。



「天族の血は、他人を救うためには働くが、己の救いは受け付けぬ、……そう聞いております。


 戦禍では、アネモ殿下も同じ理由で亡くなられたそうです」


 トレチアさんは、俺からロゼリスへと視線を向けた。


「……ロゼ様も。ロゼ様は、ちゃんとご自分の体質を分かっていたはずなんですっ! だからこそ、今回はまさかの出来事で、っ……ロゼ様……」



 ガルベラが彼女の肩を抱いて宥めた。


 目の前のロゼリスは相変わらず虚ろな目をしているが、トレチアさんの声を聞いてか、彼女に向けて僅かに手を伸ばした。



 トレチアさんがロゼリスの手へと自分の手を重ね、ふわりと淡い水色の光を放つ。



「怪我をいち早く自然に治すためには、自身の魔力に頼るのが一番です。


 魔力は物を食べ、眠れば自然と作られます。


 でも、今のロゼ様には。食べることすらままならなくて……」



 静かに彼女の話を聞くガルベラ。

 それにランタナ王子と、ロゼリスの侍女さん。


 彼らは皆、彼女に光魔法が効かない事を知っているような反応だった。



「幸い、ロゼリスは水魔法の特化型だ。


 タクミ、私たちと同じ特化型だ」



 ガルベラの言葉を聞いて、先程マスターが教えてくれた事を思い出した。


 俺が燃え盛る植物園の中で、周りの火を魔力に変えて取り込んだように、特化型は特別に周りのものを魔力として取り込む能力があると。



 火魔法特化型の俺は火を。土魔法特化型のガルベラは土を。そして彼女は水を……。



 今さっきトレチアさんが使ったのは水魔法の一種だろうか? ロゼリスの身体へと吸い込まれるように消えていった気がする。


 そう思い再びロゼリスの方を見ると、ぼんやりとしていた瑠璃色の瞳がしっかりと俺の方を向いた。



「拓巳くん……あの魔物は、倒せたの?」

「うん、倒せたよ。ロゼのおかげだ。ありがとう」



 ここに来て初めて彼女が口を開いた。

 俺は彼女に近づいて、ベッドの前に屈んで答える。



「拓巳くんは、怪我……してない……?」

「うん。大丈夫だよ。ロゼの魔法が守ってくれたから」

「…………」



 沈黙が流れる。


 

「少し、二人で話をするか?」

「いいんですか」


 するとランタナ王子に声を掛けられた。



 ガルベラとトレチアさんは、彼と一緒に部屋を出ていく。ロゼリスの侍女さんは部屋の扉の前で待っています、何かありましたら、扉を叩いてください、と答えるとそっと扉を閉めて出ていった。




 静かな部屋に俺とロゼリスの二人だけになった。



「よかっ……た……」



 安堵の表情を浮かべて目を伏せるロゼリス。だが、変わらず息は荒く苦しそうだ。


 ベッドサイドには氷水が作られていて、中にタオルが浸してある。絞って首元に置かれたタオルと交換すると「ありがとう……」と弱々しく返事があった。



 彼女と目線が合うよう、床の上で足を崩しベッドの縁へと肘をついた。うつ伏せのまま、横を向く彼女と同じ目線となる。



 再びぼんやりと俺を見始めたロゼリス。

 だがなぜか、急にその視線が怖くなり、俺は咄嗟に視線を外し、周りの様子を見始めた。



 ここが彼女の部屋なのか。見渡せば花をモチーフにした家具や小物が多く置かれ、所々に生花も飾られている。


 更に視線を動かしていると窓辺に花瓶が置かれ、四輪の彼岸花があの日と姿を変えぬまま、とても綺麗に咲いているのに気がついた。


 朝日を浴びてそのシルエットがくっきりと見える。



 彼岸花。


 俺の故郷、日本の花だからという理由で、彼女が取りに向かった花。


 未知の魔物が飛ぶ中、火の海へ飛び込んで。


 怪我をしたら魔法では治せないと分かっていただろうに、それでも彼女が守りたかった……花。


 赤と白の彼岸花は、あの日の花火を思い出す。


 俺がこの世界に来る直前、あの世界で見た夏祭りの打ち上げ花火をだ。



 きっかけは何だったんだろう。

 何故、俺はここに来たのだろう。



 何で俺たちは出会ったのだろう。


 そして仲良くなって、お互い好きになって。

 その先に待っていたのが、まさか彼女の大怪我だなんて。



「俺が来なければ。こんな事にはならなかったのかな」


「……え?」



 目が、合う。彼女が俺の事を、しっかりと見ている。顔が赤くて、本当に辛そうで。


 俺と出会っていなかったら。きっとロゼはこんな必死に、彼岸花を守ろうとはしなかっただろう。



「俺と出会ってなければ、今だって、こんな思いをしなくてよかったのに…」


 痛く、辛い思いをしなかっただろうに。




 「………か」



 彼女の腕が伸びて、俺の頬を叩いた。きっと、叩いた。が、彼女がただ、力なく手を添えたような形となってしまった。



「拓巳くんの馬鹿。


 出会わなければ良かったなんて、もう二度と言わないで」



 人は時に、相手の気持ちなど考えもせずに、思うままに本音を打ち明けてしまう事がある。


 俺はその事に、ここに来て初めて気が付いた。

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