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花火を打ち上げて。  作者: 黒花
第1章 点火
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第7話 鑑定花と赤い星

「ではタクミさん、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 午後になり、魔法の授業の時間となった。


 俺はというとまず先に魔力の流し方の練習をするため、クラスメイトとは別室で先生と一対一の特別授業を受けている。


 目の前に立つこの初老の先生とは、一度城の中で会っていて挨拶をしていたからか、授業開始からすぐさま実践が始まった。



「早速ですが、まずは魔力の感覚を掴むところから始めましょうか。ではタクミさん、手のひらを上に向けて」



 先生に言われた通りに手を前に出し、器のような形を作る。一体どうやって魔力の感覚を掴むのだろう。すると柔らかなものが俺の手の中へと置かれた。



「……これは本物の花ですか?」


「本物ですよ。ただそこらに生えている花ではなく、ちょっと特別な花ですね」


 両手の中に軽く収まるサイズの、虹色のガラス細工みたいな色をした不思議な花。ちょっとどころかどう見てもバリバリ特別な花だ。


 本当に生花だろうか? 造花に見える。あまりの美しさに信じられず、指でそっと触ってみたが花びらの柔らかさからすると、やはり本物のようだった。



「何か感じますか?」


 先生に指摘され、改めて意識を花に向ける。


 すると少し温かな何かがじんわりと手のひらから腕、胸、全身へと伝わる感覚があった。


「温かいです」


 植物がこんなに熱を持つのだろうか。そう思うくらいには花から温かさが広がる。



「そうか、なら君は正真正銘のこの国の魔法使いだ。いいぞ。

 そうしたら今度は、この熱をその花に送り返すように思い浮かべて」


「……」


 花を見つめる。


 何も起こらない。

 それはもちろん見つめているだけだったから。


 先生から再び「思い浮かべるのが大事だよ」と声が掛かった。イマイチよく分からないけれど。この熱い魔力、あなたにお返しします……



 そう思った途端に手のひらがカッと熱くなった。


 ビクッと身体が跳ねてしまう。


 続けて全身、特に心臓からお腹に掛けてからはじまり、腕を通って手の先へと。まるで血液が全身に流れるかのように、何かが熱く伝っていく。


「先生、身体とか手が……」

「そうそう、それが魔力ですよ」


 先生が優しい眼で笑ってくれたから、きっとこの感覚は間違いないのだろう。


 魔法が、身体の中に沢山詰まっている感覚。

 こんなにも熱いのか。


 初めて感じる身体の感覚に心が踊り始めた。



 図書館の時には分からなかった俺の魔力。本当にあるんだ、俺にも。


「流石ですね……初めての魔力操作にしては上手い。


 ではタクミさん。今度はその花に自分の魔力を渡してあげましょうか。さあ、思い切って」


「魔力を渡す? えええ……と、えっと、どうぞ?」



 咄嗟に出てきた言葉。疑問系なのは許してほしい。

 それに合わせて癖で下げた頭。


 するとお辞儀と共に手のひらにあった花が。


 ボンっと音を立てて、一瞬にして炎に包まれた。



「…………」



 瞬く間にサラサラの灰となった花が、指の隙間から零れ落ちていく。


(燃え…た…?)


 先程まであったはずの虹色の花は、どこにもなくて。


「……熱くなかった」


 手に残る灰を握る。間違いなく今、火がついて燃えたはずなのに。


 再び手を開けば残りの灰も床へと溢れていって。


 だが俺はこの数秒間の出来事を理解できず、呆然とし足元を見下ろすことしかできずにいた。



「これで君の魔力の属性型が鑑定できた。……それにしても灰になったのを見るのは、久しぶりだ」



 先生が落ちた灰の前へとしゃがむ。これから何かするのだろう、そう思い一歩後ろに下がった。すると先生はポケットから石を取り出し、灰の周りに円を描き、文字を刻んでいった。



(あ、魔法陣だ)



 書き終わったのか、先生も一歩後ろに下がり俺と並ぶ。

 じっと魔法陣を見つめているので、俺も魔法陣を見た。


 目を凝らしながら見ていると、床に書かれた線が徐々に消えて、魔法陣全体がふわりと黒いモヤに変わる。

 まるで渦を描くように灰と混ざりながらクルクルと周った黒いモヤは、中央に集まるとパッと消え、それと同時に何かがポトリと音を立てて床に転がった。



 赤い星の形をした小さな石のようだ。

 先生が石を拾いそれから俺を見る。


 凄く驚いたような、顔をしている。


 何だろう、そう思ったと同時に先生が口を開いた。

 タクミさん、貴方は……




 バタバタバタ……!


 早足というよりむしろ小走りで廊下を進むと、外でクラスメイトが魔法の練習をしているのが見えた。


 その中にガルベラとナタムを見つけると一気に加速して本気で走る。


「き、聞いてよ! ガルベラァァ!!」



 走りながら叫ぶと二人が凄い驚いた顔をしてこっちを向いた。二人の前まで走り、足を止めると乱れた呼吸を整えるため何度か深呼吸をする。



 久々にこんな走った。


 大人になってからは、初めてかもしれない。


「どうした!? タクミそんな大声出せたのか!?」


「出せる! ……じゃなくて聞いて!」



 彼の方こそ、そんな大声が出せたのか、と俺もまた驚いて大声で返事をした。突然の俺たちの大きな話し声に、何だ何だと周りのクラスメイトが見てきたことに気が付いた。



 あ、少し気持ちが落ち着いた。


 そう思いもう一度大きく深呼吸をすると、改めて二人の方を見て口を開く。


「実は俺ね「「火魔法しか使えなかった」」んだ……って、え? なんで二人とも知っているの?」



 同時に同じ事を口にされ、思考が停止する。


 訳が分からず彼らを見れば、にやりと笑うガルベラと柔かに笑うナタムがいた。



「「その徽章だよ」」


「きしょう……あ、これ?」


 二人が更に揃って指を差した。その先には俺の胸に付いているバッチがあった。


 これは先程、先生から渡された赤い星の石で作ったバッチだ。


「もしかして、これで魔法が分かるのか?」


「むしろ先生に何の石か聞かなかったの?」


「あ……」



 そう指摘されてから気がついた。自分の魔力の属性に驚き慌てていて、この石の事を聞くのをすっかり忘れたまま、ここに来てしまった。

 だって先生も「一応頼まれたのはここまでだから、後は皆と一緒に授業受けてきてね」なんて言うからさ。そう言われたら挨拶したら直ぐここに向かうよね? 俺悪く無いよね?



「うん、忘れた」


「「あぁ……」」



 顔を見合わせた二人。


「冷静な性格かと思っていたが、案外慌てやすいのだな、タクミも」そうガルベラが笑った。反論する余地もなく苦笑いを返せば、「そうだな」と彼は腕を組み、何か考える素振りを見せはじめた。




 ガリッと地面が音を立てる。


 音を立てたのは、ガルベラが手に持つ小石だ。


 彼が地面に描いたのは五つの円だった。


 そして円を描き終わった彼が、こちらを向いて説明を始める。



「我々の魔力は、生まれた時から皆平等に、同じだけの量の魔力が使えるそうだ。

 いや、子どもだったり、怪我をしていたりすると十分には使えないから、同じ魔力を溜める器がある、と言った方がいい。その器の大きさを5とする」


「5? 数字の?」


「そうだ、器が5だ。そこに土がいくつ入るか、水が、火がいくつ入るかによって使える魔法も変わるんだ」


 描いた五つの円の中を一つずつ塗りつぶしていく彼。


「基本魔法の三種が……例えば水3土1火1の比率で使えるとする。すると水魔法が得意な魔法となるが、土魔法も火魔法も簡単なものなら扱える……となる」


「うん、言ってる事は理解できる」


「それが僕ね!」



 それがナタム? 水魔法が得意だけど土魔法も火魔法も簡単なものなら使えるのが?



「ナタムは三種類とも使えるのか?」


「うん使えるよ。

 でもね、三種類使えるのは世間的にはよくある型なんだ。逆に二種類、一種類しか使えない……って方が珍しいよ。ね、ガル様?」


「そうだな、珍しい」



 彼の説明をもう一度整理してみる。


 頭の中に浮かんだのは、スロット台だった。

 5連のスロット。


 この世に産まれる直前の赤ん坊に、イケイケな神様がドンとスロットを出してきて「これを回して止まって出たものが産まれた後のあなたの魔力ですぅ!」みたいな感じで言い出して。

 それで「あらあなた5つとも火魔法が出たのね、大当たりじゃないの、おめでとう!」と言われたような感じだ。



 それで合っているのか?


「じゃあ、俺は強い火魔法使いって事?」


「いや、なれる素質があるというだけだ。練習を重ねたり研究をしたりして、そこでやっと本領発揮となるんだ」


「そうなのか」


 火の魔法に特化した強くなれる素質を持つ魔法使い。



「…………」


 予想外の結果に色々と追いつけていないのは、俺の気のせいだろうか?


 だって俺は勝手なイメージを持っていたから。


 複数の種類の魔法を熟せる人の方が強いって。


 日本にいた頃の、よくある魔法のイメージだったんだ。


 だから疑いもなく勝手にそう期待した。


 俺も複数の種類の魔法を熟せたらいいな、って。



 だけど実際は違かった。複数扱える人はゴロゴロいて、むしろ一種類しか使えない者の方が少なく、貴重で、そして強い……と。



「めずらしいのか」



 ガルベラが地面から俺のバッチへと視線を移す。


 一瞬だけ彼と目が合い、それを機に思考の世界から一気に現実へと意識が戻される。


 落ち着け、俺。今はとにかく彼の説明を聞くことに集中しよう。



 二人が俺の魔法のタイプが直ぐに分かったということは、このバッチの赤い色はその色の通り、火魔法を表すのだろう。



「で、この徽章。形はその人の力の量を示している」


 ガルベラが再び地面に図形を描いていった。


 丸いバッチは1


 葉形が2


 三角形が3


 ダイヤは4 


 そして星型が5


 つまりこの赤い星のバッチは、俺が火魔法5であることを示していた。



「僕のを見て、タクミ」


 ナタムがローブの襟を上げると、青い三角形のバッチと赤と黄色の丸いバッチがそれぞれつけられている。


 単なる飾りかと思っていたそれらは、まさかの大事なものだった。


 赤は火魔法、きっと青は水魔法だろうから残る黄色は土魔法だろう。


「水の3……火の1、土の1」


「そう、合ってるよ」


「つまりこれを見れば、瞬時に相手の魔力が分かるのさ」.



 二人から説明を受けて、改めて自分のバッチに目を向けてみた。


 太陽の光でキラリと反射する赤い星。


 火魔法の魔法使い。


 そうか、火の魔法……か。



 魔法の中で一番自分の扱うイメージが無かった火魔法。先程からチラチラと脳裏に浮かんでは消えていた、週末に読んだばかりの建国神話の言葉を思い出す。



『いのちをもやす ほのお』



 もやす、燃やす、焼く。そういえばさっきも魔法で花を灰にしたな。燃やす、焼く、俺はこれから何のために何を焼くのだろう?



(命を焼く?何の、……誰の?)



「タクミ、大丈夫か?」



 急に黙り込んでしまった俺を心配してか、ガルベラが顔を覗いてきた。


 ああ、もしかして。まだ存在がぼんやりとしているけれど、これは新生活早々に大きな悩みができたような気がするぞ。



「火の魔法が、俺の中では攻撃的な印象があって。


 技術的な部分以上に精神的に、自分がちゃんと扱えるようになるのか、心配になった。


 魔法もちゃんと使えるようになったら、最終的には仕事に活かしたいって思っていたけど、俺って珍しいタイプなんだよね?



 何だか異世界から来ただけでも十分異端なのにさ、それが更に増した気がして、……なんか受け入れ難いなって思ったんだ」



 この世界の人たちの一般的な価値観がどうとか、まだ分からない。


 俺の考えていることは、この世界からすると悩みの種にすらならないような、どうって事のない小さなものかもしれない。


 でも、俺の中では大切な部分。

 これからこの世界でしっかり生きていくためにも、今ちゃんと考えていかなきゃいけないと思う。こういう事は放置すると、きっと後で大変な事になりかねないから。



 そしてこの気持ちは、二人には打ち明けてもいいと思った。

 理由は特になくて直感だけど、何故かこの二人なら、俺の話を馬鹿にしたりしないで聞いてくれると思ったからだ。



 話せる範囲で話し終えると、ちらりと視線を移す。柔かに笑ったナタムと目が合った。



「そっか。タクミはそんな風に思うんだね。


 でもタクミ大丈夫! 君には心強い味方がいるから心配しないでいいと思うよ」



 明るい声で励ましてくれるナタム。

 まずは否定せずに聞いてくれて、ありがとう。うん、彼はやっぱりイイ奴だ。……それで何だって? 心強い味方?



「何が?」


 すると立ち位置を変えた彼は、じゃじゃーんと効果音の鳴りそうな勢いで、俺の直ぐ側に立つ人を更に俺の前へと押し出した。


「なんと! こちらに在らせられるガルベラ王子様は、タクミ殿と並ぶ珍しさ、土魔法の5の魔法使いなのでーす」


「なんとそうなのだー。はっはっは」



 笑うナタムの顔を見てからガルベラを見ると、彼もナタムほどでないが笑っていた。



 一種類しか使えない魔法使いは珍しいんじゃなかったのか? まさか隣に同じような人がいるなんて。だが周りにいるクラスメイトの胸元を見ると、バッチを一つしか付けていないのは、俺とガルベラだけのようだった。



 はあー、とため息を吐きながら地面にしゃがむ。


 魔法の世界に落とされてから一週間。

 俺は世間的に珍しいタイプの、火魔法に特化した魔法使いだという事が分かった。


 隣にはこの世界の王道タイプの魔法使い。


 そして俺と同じ、一種類の魔法に特化した王子様がいる。



 バランスが良いと言えば良いのかもしれない。



 どうにかこの魔法を使えるようになって、仕事を持ち、一人で生きていけるようになる。それが俺の目標だけれど、でも今は、とりあえず本当にいい仲間に出会えてよかったと思う。


 こうして今みたいに、色々と悩んだ時に。きっと彼らから視点の違うアドバイスがもらえそうだから。



「僕で良ければいつでも相談にのるからね。タクミ」



 ナタムが隣で一緒にしゃがんで、俺の背中を叩いてエールをくれる。


 火魔法の特化型については不安しかないけれど。でも相談できる仲間がいてくれるのなら、頑張れるかもしれない。



 俺はそう強く自分に言い聞かせた。

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