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花火を打ち上げて。  作者: 黒花
第1章 点火
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第5話 庭師の女の子

 窓側の席からは、先程眺めた城下町が望める。


 時折聞こえる周りの人達の話し声。

 その中で俺、緋村拓巳と彼女ロゼリスは向き合っていた。



 俺は今、遠く離れた国から訪れた外国人の程で、彼女の話を聞いている。


 本当は別の世界から来たというのが正しいのだけれど、学校のクラスメイトにすら話していない事を、出会ってから間もない彼女にそこまで話す必要は無いと思ったからだ。



「驚いたんだ。見渡す限り、どこも花の手入れされていて、凄く綺麗で」


 先程感じたこの国の素直な感想を伝えれば、彼女の表情が明るくなる。最初は少なかった口数も、随分と増えてきた気がした。



「この国は花の栽培が有名で……輸出もする程の特産品なんです。でもそれ以上に有名なのが、実はこの国の花に花の精霊たちが集まってくることなんです」


「精霊?」


 うわ、魔法に続いて精霊もいるのか。花の精霊って、そのワードだけでファンタジー感が増すよな。



「精霊がもたらす力は色々あるんです。大陸国でも知っている人が多いはずなのですが……ご存じないですか?」


「あ、うん……ごめん、知らなかった。俺はかなり遠い国から来たからかな……」


 

 精霊が集まるという花を国総出で育て、その花を守るのが彼女らの仕事、「庭師」だという。


 彼女は顔を上げてはいるものの、視線はあまり合わせてはくれない。確かに出会いがあの出会いだから、まだ距離を感じるのは仕方がないのかもしれない。


 だが、この国の花の話をする彼女は、どこか楽しそうで生き生きとして見え、話をする感じではちゃんとしている人みたいだ。



「この国の食事は口に合いますか?」


 フォークを置いたタイミングで彼女が尋ねてきた。

 そして目が合った。


 俺たちはこの職員食堂で昼食をとっていて。

 もともと昼飯を求めて探索していたところだったのだ。折角だからと彼女も誘い、空いていたテーブルを選び互いに向き合って座っていた。


「苦手なものも今のところ無くて、美味いよ」



 返事した俺の声が周りに響いたような気がした。


 休日だからなのか、思ったよりも人気の少ない食堂。時折周りから視線を感じるのは、きっと俺の外見が見慣れない色をしているからだろう。



 黒髪黒眼。


 俺の姿。

 この世界では中々見ない色だという。


 それは目立つだろうな、と彼女を見る。


 反して目の前の彼女はピンクゴールドの髪に瑠璃色の瞳だ。まるで自分とは真反対のような色素をしている彼女は、とても神秘的に見えた。



 数日前に馬乗りにされた事と、先程屋根から飛び降りてきた事を除けば、所作も合わさり本当に上品にみえる。もしかしたら案外良い家柄で育った子なのかもしれない。


 じっと彼女を見てしまっていたのか、俺の視線に気づいたロゼリスもじっと俺を見つめてきた。


「タクミ様は、何をされている方なのですか?」


「俺は入学したばかりの、そこの学生だよ」


「……」


「……うーん」



 会話が途切れ、再び沈黙となってしまった。何というか俺の言葉一つ一つに対して、彼女がかなり慎重に返事の言葉を探しているような、そんな感じがする。


 人見知りなのか。


 だがそれとは別に、さっきから会話中に何かムズムズするなと思ったが、その原因に気がついて俺はすぐさま口を開く。


 名前だ。


「俺の名前。タクミって呼び捨てでいいよ。そんな誰かに様付けされるような人間じゃないからさ。


 せっかくこうしてゆっくり話が出来たんだ。

 君と仲良くなりたいし、これからも俺に色々な事を教えてほしい」


 彼女に気を遣わせてはいけないな、と提案してみる。すると彼女は更に真剣な顔をして、じっと何かを考えはじめてしまった。


 あれ? そんなハードル高い事言ったつもりは無かったけど。もしかして人見知りとかのレベルではなく、この国には男女間のコミュニケーションに独自のルールがあったりするのだろうか。


 俺は彼女との壁が少しでも薄まれば、と早々に敬語をやめて話しはじめたというのに。


 内心焦りながらも彼女の反応を待てば、意を結したかのようにパッと姿勢を直した彼女がこちらを向いた。



「そうしましたら、タクミくん、でよろしいでしょうか? 私の事も愛称のロゼと呼んで頂きたいです」


「ロゼ……?」


 なんと。俺の呼び方だけでなく、彼女からあだ名で呼んでほしいとの希望ありだ。一気に距離が縮む予感がして、嬉しくて咄嗟に問い返すように彼女の名を呼ぶと。


 彼女が少し笑った気がする。


 距離というか、心の壁が、薄くなった感じだ。



「はい。ロゼです。

 あの、……タクミくんの歳をお尋ねしたいのですが」



 この流れ。ナタムからも聞かれた。歳を聞くのはこの国の自己紹介の王道パターンなのだろうか。


「俺は今年、二十三歳」


「え?! わ、私、歳上の方を愛称で呼ぶわけには……」


 ピタリと動きを止めた後、慌てはじめる彼女。意外にもその表情は豊かだ。なんだ、この子そんな表情も出来るじゃん。


 彼女の反応からすると、彼女は俺を同い年くらいに思っていたのだろうか。歳下に見られるのは慣れている。民族的にも幼く見られやすいというし。


 だが目の前の彼女を見ていると、そこまで慌てるか? というくらい彼女は明らかに動揺していた。

 なんだろう、そんな彼女を見ていて何故か俺は更に嬉しくなった。思わず笑いそうになるのを堪えながら、話を続ける。


「ロゼは、何歳なの?」


「私は、十八になります」



 今年十八歳ということは日本でいう高三か。

 まあ俺と五歳の差なら、言葉使いもあまり気にしなくていい年齢差だと、俺は思う。


「俺は気にしないから、ロゼも気にしないで。

 敬語も使わなくていいよ」



 あだ名で呼び合うだけだと、なんだか勿体ない気がした。だったらガルベラやナタムと同じように、仲のいい友だちのように話がしたい。きっと形から入る事で、縮まる距離もあるだろうから。


 提案を受けた目の前のロゼリスは、どこか一点を見つめはじめた。彼女は考え事をする際に、こうやって動きを止める癖があるのだろうか。先程からよく見る行動な気がする。


 時折瞬きをする、その眼が、綺麗だ。

 俺は彼女の事をじっと見つめていた。


 すると何かを心の中で咀嚼するかのように、胸に手を当て頷いた彼女が、俺へと顔を向けて笑った。



「はい……ううん、うん。

 あの、タクミくん。これからよろしくね」


「…………」



 今日何度目の驚きだろう。

 彼女は先程とは打って変わって、まるで太陽みたいな明るい笑顔をしていた。


 目を奪われるような笑顔とは、まさにこういうものを指すのだろう。

 眩しくて、見ていたいのに。心地よくて目を瞑りたくなる。



 この世界に来てからの俺は、幸いなことに周りの人たちに助けられ、不自由な生活を強いられることなく過ごせていた。

 だが、やはり今後の事を考えると不安に思う所は拭いきれなくて、心のどこかに少し沈む気持ちもあった。


 けれど不思議だ、彼女と話してからは、それが軽くなった気がする。



 もう少し彼女の話を聞きたい、そう思うと自然に口が開いた。

 

 彼女は庭師をしていると言っていた。もう少し仕事について聞いたら、何か今後の参考になる事を教えてもらえるかもしれない、と。



「庭師の仕事はどんなことをするんだ? 花壇の手入れ?」


 庭師と言えば俺が知っているのは、日本庭園で木の枝を整えている人だ。そうなのかと尋ねれば、少し違ったようで彼女は小さく首を振る。


「研究に必要な花の手入れが主な仕事なの。

 それと私有地以外の土地は、国が全て植物の管理をしているから。王宮内の植物はもちろん、公園や広場なども全て……その全てを手入れするの。


 依頼があれば、特定の花を増やしたり協力して観察をしたり、手入れとはいっても仕事の内容は色々あるわね」



 花の研究か! そう聞くとこの国の花の扱われ方がだいぶ想像できる。国中の植物を自分たちで管理しているのか。それは凄い仕事だ。想像以上の仕事内容だ。


「てっきり花泥棒を捕まえるのが仕事かと思ってた」


 なんせ出会いが出会いだから。彼女は城の中で騎士と並ぶ、花専門の用心棒をしているのかと思っていた。


「それは庭師なら当然だし、この国の人なら誰もがする行動じゃないかしら」

「え……」



 さらりと答えた彼女に、俺は動かしていた手を止めた。

 一般国民も花泥棒を全力で捕まえようとするってことか? 花の扱いが違いすぎる。



「花の国、か……」



 この花に対する独特な感覚に慣れるには、かなりの時間が掛かるだろうな、と俺は苦笑いをした。この国の人の花への存在価値は、俺が思うよりも遥かに高いのだろう。


 価値観の違い。

 それはきっと時に争いを生み出すものでもあるから、扱いには気をつけなきゃな、と心に刻む。


 その上で彼女に聞いてみたいことを探した。



「ロゼは何魔法が使えるんだ? 庭師だと土?」


「ううん、私は主に水魔法。でも他の庭師さんは土魔法の人の方が多いのかな」



 彼女の話を聞きながら頭の中で想像を膨らませる。


 水魔法に、花の国で働く庭師か。


 確かに彼女のように水魔法が扱えたら、植物の管理とか凄く上手にできそうだ。勝手なイメージだけど。でも多分そう。



「実は俺ね、魔法に馴染みのない国で育ってきて。


 自分がどんな魔法が得意かとか、実はまだ何も分からないんだ。週明けには分かるみたいなんだけれど」



「魔法に馴染みがないの?」



「だから色々と期待をしたくなる。


 もしも俺が水魔法や土魔法が使えたら、俺もロゼと同じで庭師を目指そうかな」


「この仕事、結構見た目よりも大変よ」


 俺の言葉が可笑しかったのか、ロゼリスが肩をすくめ口元を手で覆いながらクスクスと楽しそうに笑った。


 花の話題で明るくなった彼女の表情からは、彼女が本当に花が好きで、そして花に関する仕事が好きなように感じる。


 羨ましいなと思うのは、きっと先日までの俺の仕事へのモチベーションが低かったからだ。俺も興味のある仕事ではあったけれど、全てが楽しかったかと聞かれるとそうではない。仕事が楽しいことばかりじゃないのは、どの業界も同じかもしれないけれど。



 それに対して彼女の仕事はどうだろう。

 花や植物に携わる仕事が国にとって重要だと評価されている。安定した仕事ができる。しかも楽しそうに働けるのなら。



「またどんな魔法が使えるのか分かったら教えてね」

「ああ」



 俺もそういう仕事ができるといいなと思う。

 小さいながらも生まれた目標に口元が緩んだ。


 色々と教えてくれた彼女には感謝だ。

 にこりと笑ってくれた彼女へ俺も笑い返した。




 食事が終わり「ごちそうさま」と手を合わせると、彼女が不思議そうに見てきた。どうやら「いただきます」の時は特に気づかなかったらしい。


 こらも故郷の習慣だと教えたら「素敵ね」と彼女も真似して手を合わせた。故郷の習慣を真似てもらえるというのはこんなに嬉しいものなのか、と胸がいっぱいになる。



「この後は、また仕事?」



 そう彼女に聞けばやはり仕事の続きがあるとの事で、彼女とはその場で挨拶をして別れた。


 彼女は別れ際に「基本的には王宮にいるから、すぐまた会えるよ」と笑っていた。



 確かに、彼女とはまた話がしたいな、そう思いながら外をみる。


 出会いは悪かったけど、この時間は楽しかった。

 彼女とは仲良くなれる気がする。


 彼女は、俺とのこの時間はどうだったのだろう。

 そう辺りを見渡すも、彼女の姿はもうどこにもなかった。



 そういえば、先日も一瞬で姿を消してしまった彼女。


(もしかして一瞬で屋根に戻った? まさか魔法とかで飛べたりもするのかな)



 もともと屋根で作業をしていたくらいだ。ナタムが言っていたように実は彼女は希少な魔法が使えて、もしかしたら空を飛ぶ能力でもあるのかもしれない。




 見上げれば変わらずに青い空が広がっている。



 空が飛べたりしたら楽しいかもしれない。あの空の下で自由自在に飛び回れたら、きっと凄く気持ちがいいだろう。俺は高いところは少し苦手だけれど。




 ふわりふわりと暖かい春の風が吹く。



 花の香りがする。



 風に乗って足元に飛んできたのは白い羽根、結構しっかりとした大きな羽根だった。


 拾って指で羽根をくるくる回してみると、羽根からも僅かに花の香りがした。再び空を見上げてみるが、空中を飛んでいるものは無さそうだ。



「鳩とか烏とかいるのかな。でも白い羽根だと……何の鳥? それとも本当に天使とかいるのかな」



 ロゼリスが花の精霊がいるって言っていたくらいだ、この世界には俺が想像するようなファンタジーな生き物が沢山いるのかもしれない。


 運が良ければお目にかかれる日が来るのかも……そう思うとワクワクしてくる。


 新しい世界、新しい生き物、新しい存在。未知の世界に心が躍るのなら、異世界転移も悪くはないな、と景色を見ながら考える。




「あれ、あの人たちも庭師だよな」



 柵の近くへと寄り、城下などをゆっくりと見ている時に気がついた。城の前の広場で、花の手入れをしている人たちがいる。

 深緑のパンツスタイルの上下の作業着に、様々な色のエプロンをつけた数名の男女だ。花壇の中や植木の作業をしているようで、中には木の上に登っている人も見える。


 ここからでも分かるように、結構身体を張った仕事だ。だけど彼女はワンピース姿だったよな?同じ庭師の同じ班でも、力仕事とそうじゃない仕事とで仕事着も変わるのだろうか。



 今度会った時にでも彼女に質問してみよう、そう思う。


 止めていた足を動かし、近くにあった階段を降りてみる。


 さあ、探検ツアーの続きでもしよう。



 トントンと音を立てる石畳の階段。通り過ぎるその階段の両脇にも、色とりどりの花が植えられていた。


 もしかしたら彼女の植えた花かもしれない、そう思うと周りの景色に磨きがかかった気がした。それだけでも、今日がいい日になったと、俺は一人笑いながら歩き始めた。

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