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花火を打ち上げて。  作者: 黒花
第1章 点火
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第17話 緋色の石

 窓から少し生ぬるい風が入る。



 カーテンの裾が揺れて音が鳴り、拓巳は読んでいた本を閉じた。


 開けた窓からは、日本にいた時と同じように、少し欠けた月が夜空を照らしているのが見えた。



 机に両肘を着き、手のひらを見つめる。



 あれから、本当に沢山の魔法石作りの練習をして。


 ガラスの破片程度のサイズだった魔法石は、ビー玉くらいの大きさまで作れるように上達していた。


 だが未だに大小様々とバラバラで、安定した同じものを作るには、もっと練習が必要なのだろうという感じだ。



 魔法石は大きく分けて二種類作ることができた。



 一つ目は魔力そのものを石にするもので、魔法を一気に使いすぎた時などに、石の魔力を吸収して力を補えるもの。

 以前ガルベラがペンダントにつけてくれていた魔法石は、このタイプのものだ。



 そして二つ目。これは特有の術を発動できるというタイプの魔法石だ。


 ガルベラとは、特化型が一番いいものを作れるんじゃないかと話していたが、実際には違う結果となった。


 ガルベラは土魔法が発動する石を、俺は火魔法が発動する石を作れたのたが、ナタムが作った石は水魔法に土魔法と火魔法が混ざった、複合魔法の石が出来たのだ。



 つまり一つ目の石は、特化型のガルベラや俺の作る石が一番魔力の量が多いものができたのだが、二つ目の石は正に石の作成者の魔力の形をそのまま写したようなものだった。



 一人ひとり、魔力のバランスが異なるし、練習やイメージによって使える魔法の種類も変わってくる。


 俺は複合魔法というものをよく知らなかったが、これは全く同じ魔法が発動できる方が珍しい、と言われるほど個性が出る魔法で、種類も本当に豊富にあるそうだ。

 種類が豊富にあるということは、それだけ石を使いたい人の色々な要望に合わせて石が使える、ということだろう。


 その他にも使用者の状況によって、発動する術が変わる石は作れないかと挑戦はしてみたが、これは未だ作ることが出来ずに失敗に終わっている。



 それでも魔法石の生成に成功しだけでも、凄いことだという。


 披露したら恐らく注目が集まりそうだ。研究機関で更に調査をしたり、これをビジネスに繋げたいって人も出てくるだろう、と意見が仲間の中から出ていた。



 ビジネス、という言葉を俺は再び思い浮かべる。そしてそれから日本の事を思い出した。



「そうか、最近まで俺ビジネスマンだったんだよな」


 一緒に入社した同期たちは、今も元気にやっているだろうか。ブラック企業だもう辞めたい、なんて言い合いながら朝まで飲み明かした日が懐かしい。


 この世界に来てすぐの頃。


 日本での俺はどうなっているのだろうかと考えた事もある。だが確認の仕様が無かった。そのためそれ以上考えるのはやめていた。


 

「………」


 再び夜空を見上げる。

 欠けた月はどうしてか、泣いているように見える。


 今夜は、別に雨など降っていないのに。


 そんな風に感じる日もあるのか、と俺は手のひらを見つめた。



「寝る前にもう一個、作ってみようかな」



 そう大きく深呼吸をして、目を閉じる。



 俺の魔法、火魔法。


 まだ全ては受け入れ切れていないけれど、しっかりと向き合いたいのも本音だ。



 俺はこの魔法を、他人を傷つける魔法ではなく、守る魔法として使いたい。


 そう強く願いながら意識を集中する。



 目の裏で思い浮かべるのは、この国の綺麗な街並み。


 澄んだ川が流れ、綺麗な道や建物が並び、仲間たちが笑う周りには沢山の花たちが咲いている。




 花といえば、彼女は。彼女は元気にしているだろうか。


 あれからずっと彼女の事を考えていた。本を読んでいても、食事をしていても、他の事を考えようとしても。彼女のことばかり考えてしまう。



 仕方ないと思う。俺が最後に見た彼女は、城の前で何かと闘い、そして怯える姿だったから。



 俺はまだ、まともに魔法も扱えない男だけど。

 それでも彼女の為に何か出来ないかと、思う。


 あの時、俺の側で震えていた彼女に。

 何か、俺にしかできない、何がしたい。

 早く、笑顔に戻ってほしい。

 その笑顔を、どうか守って……




 目を開けると右手にしっかりとした重みを感じ、俺はゆっくりと手のひらを開いた。



 大きい石だ。はじめての大きさだ。


 緋色の、透き通った石。


 よく見てみると、一部だけ青い色をしていて、それはグラデーションがとても綺麗な魔法石だった。



「もしかして、出来た……?」



 俺は魔法石を再び握りしめると、机の上に置いていた深緑色の封筒の上に、その石をそっと乗せた。



          *




 授業の終わりの鐘が鳴り、クラスメートが各々席を立ち始める。



「タクミは真っ直ぐ寮に戻る?」


「ううん、図書館に寄ってから帰るよ」


「本当、勉強熱心だなタクミは。

 言語の習得に魔法石作りと、夜や休日はちゃんと休んでいるのか?」



 放課後の予定を確認し合うのは、ここ最近の三人の日課だ。大概ガルベラは予定で埋まっている事が多い。王子様は大変だな、とつくづく思う。



「休んでいるよ。

 それに、ここに来てからは健康的な生活が出来て、俺、調子いいから。


 日の出と共に起きて、日の入りと共に就寝だろ? 凄くいい。前の働いていた時は社畜だったからさぁ」



 分かりやすく元気アピールをしてみたら、なんだよ、二人がピタリと動きを合わせて急に止まるからびっくりしたじゃん。俺なんか言った?


 後ろで「タクミってどんな生活してたの」とか「シャチク……って何だ」とコソコソ話が聞こえたが、それは聞こえないフリをして一度廊下へ出る。



 宣言通り、図書館に向かおうとした。

 が、ある事を思い出して俺は再び教室へ戻った。



「私に用か、タクミ」


「うん。この前、城の前にガルベラがいて、人集りができているのを偶然見たんだ」



 俺が話しかけたのはガルベラで。

 思い出したのは、先日の外出帰りの出来事だ。



「彼女の事か」


 何がと聞くまでもなく、返事をするガルベラ。俺も彼女の事が聞きたくて、話しかけたのだが。


 すぐさま彼女の事を指摘した彼に、何か違和感を感じる。なんだ、これは。



「そう。何かあったのか?」


 揉め事だとしたら、俺は解決の手助けが出来ればと思うから。


 そう思い問いた途端のガルベラの顔は、なぜかとても穏やかな顔をしていて。ゆっくりとその場で首を振った。



「彼女は。私が困っていた所に偶然居合わせて、助けてくれたのだよ。

 あの後、彼女に会った時にお礼も伝えたさ」


「人集りって……またガル様の取巻きの人たち?

 ガル様、モテるからねぇ。本当にあの人たち暇人だよねぇ」


「ナタム。本音がダダ漏れだ」「事実でしょ」



 隣で俺たちの話を聞いていたナタムが、にこにこと笑っている。


 ガルベラの取巻き。それは日本でいう厄介な芸能人のファン、いやストーカーに近いものだろうか。


 彼女ロゼリスは、どうやらガルベラとの間でトラブルを起こしたわけではないらしく、むしろ彼女はガルベラを助けたのだという。


 彼女も、自分の意思でそうした、と言っていたから。きっと彼女自身の意思でガルベラのトラブルに首を突っ込んだのだろう。


 取巻きから王子を守った? 庭師の彼女が?

 庭師の仕事ではないことを、した?


 それは多分きっと、勇気のいることで。



 あれ。今、心がもやりとしたのは、俺の気のせいだろうか。



「そう……なんだ……」

 


 自分のもやもやとした気持ちに戸惑ってその場に立ちすくんでいると、ガルベラが変わらぬ穏やかな顔で口を開く。



「タクミ。出来れば彼女が自ら話すのを待っていてほしい。

 私から話を聞くよりも、本人から聞く方がいいだろう?」


 だから安心したまえ。そう囁いた彼はニカっと歯を見せて笑う。



 一体何に安心するんだ? 俺は。そう疑問に思うも、何故だかそれをハッキリさせてはいけないような気がして。俺は考えるのをやめる。



「わかった。待ってみる。サンキュな」


 どうしてか、彼の顔を見るたびにもやもやとした感情が湧いてしまうが、彼が安心しろと言うのならまずは信じてみよう。


 だって彼は俺の親友だから。

 悪いことでは、ないと思いたい。



 また明日な、と教室を後にする。


 手を振る二人。



 だが、教室を出て校舎を出てからも、その後ろ姿をずっと親友二人が見ていたことを、俺は知る由もなく、目的の図書館へと足を運んでいった。




「え? ガル様。一体どういうこと?」

「なんか色々と勘違いしてそうなんだが、どう思うナタム」



 教室の中で黒髪の青年を見下ろす二人は、互いに目を合わせるとうむ、と揃えて首を捻らせた。

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