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花火を打ち上げて。  作者: 黒花
第1章 点火
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第15話 新しいこと

 二か月後にある建国記念日に、王宮と城の一部を開放する。


 それに合わせてこの王宮学園でも、日々の活動の披露したり、製作した物を売買することができるのだという。


 参加自体は強制ではないそうだが、中には技術者や商人などの目に留まり、卒業後の仕事に繋がることもあるため、参加する生徒はまずまずいるらしい。



 そんなイベントの準備に学園は賑わっていた。


 活動は、半日授業の日の午後に行われていた。



 空き教室を使って参加メンバーが各々で準備をしているところもあれば、学校の敷地内外で活動する人もいて。


 感覚的にはサークル活動といった方がいいかもしれない。


 興味のあるものや好きなものを学生だけで作ったり調べたり、人によっては先生の研究を手伝ったり、活動の仕方は多種多様だ。



「タクミも一緒に参加しないか」


 そうガルベラとナタムに誘われた俺は、彼らが集めた他のメンバーと共に、放課後の空き教室へと来ていた。



 ガルベラ達が集めたメンバーは、特定の目的がある訳ではなく、「皆で何かしよう」というやんわりとした名目で集まったメンバーだった。


 ナタムいわく「ガルベラ王子と共に頑張る会」らしい。どおりで普段からよく会うメンバーな筈だ。彼らは去年、一昨年もガルベラたちと共に活動をしたという。



「今年は何がいい?」


 そんな質問から始まり、メンバー各々から意見が挙がる。装飾品……魔法陣の研究……ジャンルは本当に多種多様だ。


 俺も何かやりたいことがあるかな、と考えていると、胸元で揺れる、ガルベラから借りているペンダントに目が留まった。



 翻訳の魔法陣が刻まれた魔法具。

 最初は石を借りて使っていたけれど、今は自分で魔力を流して使っているものだ。



「そうだ、石……!」



 彼の魔力でできた、黄色の石。魔法石。

 あの石はどうやって作るのだろう、皆作れるのかな? それとも一部の人だけ? 俺にも作れる?



「首飾りにあった石?」


「そう、作りたいな、と思って」



 魔法石について話してみると、皆がわりといい反応を見せた。


 詳しく話を聞いていくと、昨年度、魔法石の存在について噂で聞く程度の事はあったものの、未だ日常生活で目にする物ではないらしい。


 実物を見るのも、実はガルベラの魔法石が初めてだ、という人が殆どで。



 そんな貴重なものを俺は持っていたのか!

 だから最初ペンダントを渡された時に、ガルベラが「落とすなよ」と言っていたんだな。



 胸元のペンダントから思い出した魔法石の存在。ただの案の一つとして挙げたつもりだったが、思った以上に皆の会話が膨らんでいく。


「そもそも魔法で石が作れるって判明したのが、ここ最近なんだよ」


「俺たち学園に通っているからこそ知っているだけで、知らない人の方が多いぞ」


「魔法石の作成か、いいかもしれないな」



 正直なところ、魔法初心者の俺が発言するのはどうなんだろう、と思っていたけれど。


 蓋を開けてみれば、どうらや皆もよく分かっていない物らしい。分からないものを一緒に挑戦するのなら、俺もやりやすかった。



「ガルベラは魔法石作れるんだろう? 俺たちに教えてくれないか」


「それは構わないが、タクミはいいのか?」


「え、なんで」



 皆が楽しそうな表情をする中、一人深妙な面持ちをしていた彼。今の言い方だと、まるで俺が何か不利な状況になるかと言われた感じだ。



「魔法石の作成は、おそらくその者の魔力の質に比例する。


 タクミ、俺たちは特化型だから、もしかしたら他の者たちより強い石が作れるかもしれない。もしこのまま魔法石の作成を行って、他人に披露をするとなると、火魔法の事で声を掛けられる可能性はあるぞ」


 己の火魔法に未だ抵抗がないわけではないだろう、そう視線を送られた。



 これは、彼からの忠告というよりは、心配されたのだと思う。


 確かに、彼の言うとおり、俺はまだ魔法を使うことに抵抗がある。


 でも、先日ナタムから使い方次第で変わるとアドバイスを貰ってからは、少しずつだが前向きに考えられるようにはなってきたのだ。



「自分が興味を持ったことだから、やってみたい。


 もし声を掛けられたら、その時はその時に考えるし、俺自身が納得いかない時はちゃんと断るから」


「ならいいだろう」



 ふ、と彼が笑い、そしてぱっと表情を切り替えて、皆の輪の中心へと立ち進む。


「なら今日から私、ガルベラ・グランディーンが先生となって皆様にお教えいたしましょうかね」



 拍手が起きて、お願いしますと皆が口々に返事をする。


 どうやら俺たちグループの目標は、魔法石の研究で決まったようだ。


 実際に作ったことのあるガルベラが中心となって、まずは皆がそれぞれ自分の石を作れるようにしていこう、という話になる。


「タクミ、楽しみだねぇ!」


 隣にナタムが座り、ニコニコと笑いかけてきた。


 きっと彼も俺のことを気にかけて、こうして側へと来てくれたのだろう。先日悩みを聞いてもらったばかりだし……と、二人の優しい心遣いに改めて感謝する。


「ありがとう、ナタム、ガルベラ」


 二人にだけ聞こえるように小さくお礼を言えば、この世界に来て何度目になるだろう。


 シンクロした満面の笑みが返ってきた。





 早速始めた魔法石作りは、簡単には出来なかった。



「頭の中でイメージするしかない。イメージが固まればできるようになる。私もそうやって練習した」


 と説明するガルベラ。


 彼を囲んで、皆で何度も挑戦する。


 魔力を石にするという、一見シンプルそうな魔力操作は、その感覚を掴むまでは、やり方もよく分からないというものだった。



(でも俺は最初は魔力そのものすら、分からなかったし、扱えなかった)



 それが今では、ペンダントに一定の魔力をほぼ無意識に送れるようにまで成長している。



 練習あるのみか。



 となれば、自分の手のひらと睨めっこを続けた。



「石を作る……魔力を固める……

 一箇所に固める、固めるといえば……


 プリンプリンのプリン。

 ……ぷるぷるのゼリー……」


「何言ってるのタクミ」


 隣のナタムが手を止めてこちらを見ている。


「ん? イメージするのが大事だっていうから、色々連想したら食い物になってただけ」



 どうやら考えていた事が、そのまま口に出ていたらしい。


「食べ物を連想って……まって。タクミ、それ石じゃない?」


「あ。本当だ」


 無意識に握りしめていた拳を開き、それを見たナタムに指摘され俺も視線を移すと、小さな赤い石が手のひらの中で転がっていた。



 赤といってもほのかに赤い色のついた、角の丸い平たいスケルトンの石。


「石というか……ガラスの破片みたいだな」


 指で摘んで宙にかざすと、光が反射してキラキラと輝いて見える。



「ガル様ーー!!タクミがもう出来たって!」


 ナタムがガルベラを呼ぶと、少し離れていた他のメンバーと共に彼が顔を明るくさせた。



「おお、流石早いなタクミ」


「タクミさん、どうやったら出来たんですか?!」



 先生役のガルベラを除けば、石を作れたのは俺が第一号だから。一気に集まる視線と、質問。



 どうやったら……って。と、先程の自分を振り返る。


 そしてもう一度、と手を握って開くと。手の中には二つ目の小さな石が出来ていた。



「プリンとゼリーが固まるイメージをしたらちょっと出来たんだよ」



 この説明でいいのだろうか、と思いつつもイメージしたのがプリンとゼリーなのだから、と正直に伝える。


「「……………??」」


「その“ぷりん”と“ぜりぃ”はどういうものだタクミ」


「えーーっ?! この国にプリンとかゼリーって無いの?!」



 あんな美味いものが存在しないなんてっ!!


 まさかの“皆がイメージ出来ないものをイメージしたら出来た”という事実に、皆はガックリと項垂れた。


 俺はプリンとゼリーが無いことがショックだよ。

 



「腹減った」



 学校を出て寮へと向かう俺の腹は、さっきから鳴り続けている。


 それもそのはず、練習で魔力を沢山使ったからだ。



 魔力も体力と同じで、使うと腹が減り、食べて眠れば元に戻るというのだから、減って当然なのだろう。



「食べ物で連想かぁ。僕には上手く出来ないねぇ」


 隣ではナタムが同じように手のひらを見つめながら歩いている。



 結果、今日の練習で石を作れるようになったのは俺だけだった。とはいえ、俺の魔法石も小さなガラスの破片程度のサイズ。

 ペンダントに付いていたガルベラの魔法石と比べたら、まだこれから沢山練習を重ねないと近づけない程のものだ。



 連想で出来る程度ではなく、イメージや感覚を掴まなければ。


 イメージで魔法が扱えるね。



「先に出来ておいて言うのもなんだけどさ。イメージすればできるようになるって、便利だけど怖くないか?」



 だってそれができたら、想像だけで恐ろしい事を起こせるという事になる。



「タクミ」


「うん?」


「それは使う人次第だから。タクミがそうイメージしなければ、大丈夫だよ」


 そういう彼は、変わらず手を広げながらも、俺の方を向いて柔かに笑った。


 そうだ、この魔法石だって、俺の気持ち次第できっと良い石にも悪い石にもなる。


 そのどちらにもなれるのなら、俺は良い魔法石を作りたい。


 良い魔法石とはどんな石だろう。


 強い魔法石。珍しい魔法石。それはそれで、魅力的な石だとは思う。


 だが、魔法初心者の俺が作るのだ。どんなものであれ、この国の人や、俺の大切な人が役に立つようなものになれば、俺はそれでいい。



「いや、役に立たなくても」


 花の国の中の火の魔法だ。役に立つとは考えにくいから。


「誰かが、喜んでくれるようなものになればいいな」



 そう呟いた俺の言葉を聞いたのか聞こえなかったのか、ワンテンポ遅れたタイミングでナタムが「頑張ろうね」と歯を出して笑った。

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