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花火を打ち上げて。  作者: 黒花
第6章 乱れ咲
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第110話 答え合わせ

 用意していた天然石の砂が全て使い終わり、広場に再び静寂が訪れた。


「これで供養は無事に終了しました。


 皆、ご協力ありがとう」



 俺は皆に向かって頭を下げる。すると皆もそれぞれのタイミングで返事をくれた。



「タクミはこの後どうする? 僕はペルシカを宿まで送ってくるから、先に寮に帰って大丈夫だよ」


 そう言ってナタムとペルシカリアさんは城下町の方へと消えていき。


「私たちは城にもどる」

「ロゼ様、あまりご無理をなさらずに。今日はもう飛ぶのはおやめくださいね。歩くだけですからね。あとは……」


 トレチアさんがロゼリスに色々と注意喚起をした後、ガルベラと彼女は城の中へと消えていく。



 結果、俺とロゼリスは、その場に二人残された。

 ベンチに座っていた彼女の隣に並んで俺も座る。



 ああ。彼女と再会して、はじめて二人きりの時間だ。久しぶりの時間。


 改めて彼女を見る。

 白いローブを羽織った彼女は、まっすぐ前を向き、更地になった植物園を見つめていた。



「拓巳くん、ルーブベルのお別れを手伝ってくれたって」

「うん」


 彼女の口からルーブベルの名が出て、俺は咄嗟に胸元のペンダントを握った。すると背後で灯りのついた城の周りを、色とりどりの光が囲んでいるのに気がついた。


 精霊たちの姿だ。

 沢山の精霊たちが城の周りを飛んでいる。


 俺が城の方を見ているのに気がついたロゼリスは「もしかして、見えてる?」と一緒に振り返り、城を見上げた。



「その魔法石、まだ花魔法が残っていたのね」

「うん。だから今もこうして見えているんだと思う」


 精霊の姿は、本来俺には見えない。

 だが彼女から貰った魔法石の花魔法の力で、俺は彼女と同じように精霊の姿が見えている。


「でもルーブベルを送る時に結構使ったから、もうすぐ残りの魔力も切れると思う」


「そうしたら、元気になったら、魔法石また作るね」



 すると彼女は首元から紐を手繰り寄せた。コロンと彼女の手の中で転がる透明な石。俺の魔法石だ。



 俺たち二人の首からは、それぞれ透明な魔法石が揺れていた。お互い自分の胸元の石を触る。



「本当に、お互いの御守りになったな」



 彼女の魔法石が俺を守り、俺の魔法石が彼女を守って。そしてまた彼女に守られて。


 渡した頃は、ただ単純にプレゼントしたいという気持ちだけで作ったものだったけれど。俺の魔法は役に立たないかもしれない、なんて思いながら渡したものだけど。


 俺がそう思い出していれば、彼女も色々と思い出していたらしい。こちらを向いて、それからぽつりぽつりと言葉を紡ぎ出した。



「お手紙。書いてくれてありがとう。そして、ずっと待っていてくれてありがとう」


 あの手紙は。ロゼリスが俺に宛てて書いてくれたのが、嬉しかったから。だから俺も書こうと思って書いた。彼女をずっと待っていたのは、彼女とそう約束して、守りたかったからで。


「ゼリーもありがとう。食べたらね、不思議なくらい凄く元気が出たのよ」

「植物園の再建のことも手伝ってくれてたんだよね、ありがとう」


 それは俺がロゼリスに直接は会えないから。だからそれ以外の事で何かできないかと思って行動したからで。



「私、ずっと貰ってばっかりで、何も返せてない」



 彼女の顔が曇り始める。

 違う、俺はそんなお礼を言われたいわけでも、責めたいわけでも何でもない。


「いいんだよ、俺がやりたくてやってた事だから。だからロゼは絶対に謝ったら駄目だからな。ロゼの事が好きだから、俺がやりたいって思ったの」


「ごめ……ううん、ありがとう。拓巳くん」



 俺はちょっと自分の言葉に恥ずかしくなったけど。

 彼女の曇った表情が少しだけ和らいだから、いいとしよう。


 ロゼリスは手を伸ばすと、俺の手を握る。



「もう一度だけ、打ち上げても貰ってもいい?」



 花火を? 魔力の量的には問題ないけれど。

 まだまだ人が活動する時間ではあるものの、少し遅い時間になってきているから、ド派手な花火でなければ大丈夫だろう。



「何色がいい?」

「やっぱり赤い花火がいい」


 やっぱり? なんでだ。



「あのね。ある日部屋で目が覚めたときに、窓から赤い光が見えたの。しかもね、それからほとんど毎日、空が暗くなると光が見えたの。


 最初は精霊たちの光かと思ってた。


 でも動けるようになって、空の高い所が見られるようになった時に、その光が高いところで咲くのが見えたの。

 それを部屋からずっと見ていて、気づいたの。拓巳くんの花だなぁって。


 あれは、拓巳くんが上げていた花火だよね」


「……見えていたんだ」



「今日もね。ガルベラから、拓巳くんが何かをするよって聞いていたの。

 それで、今日は調子が良かったからバルコニーに出てみようと思って。そうしたら部屋から見えていた赤い光が目の前に浮かんできて。

 すぐそこに、拓巳くんがいるんだ、って分かったから。もう羽が動かせるようになってたから、思わず飛んできちゃった」



 そして彼女の言葉を聞いた途端、なぜか魔法を使ってはいないにもかかわらず、俺は身体中が熱くなりはじめた。何なんだ、この熱い気持ちは。



 実は、ナタムにもガルベラにも、誰にも言わずにしていたことがあった。



 あの日、ルーブベルを見送った日。


 あの日から学校終わりに、用事の度に、俺はロゼリスの部屋の窓の下を通るようにしていて。例え遠回りになったとしても向かうようにしていて。


 窓を見上げるたびに、赤い花を打ち上げていた。

 あの開いた小さな窓から、目を覚ました彼女が花火を見上げていると信じて。



「苦しくて、痛かった。こんなに痛い思いをするくらいなら、ずっと眠ったままでいたいと思った。目が覚めるたびに辛かった。

 でもあの赤い花が見えるたび、早く拓巳くんに会いたいって思えたの。頑張ろうって思えた」



 本当に見ていたんだ。夜空に打ち上げたあの赤い火の花を。



 その度に彼女は俺を想い、俺は彼女を想って。


 あの日から今日までの間、俺たちはずっと会えなくて。でも同じ花を見上げてずっと想いあっていた。



 青い空の下、深緑色のワンピースを揺らしながら、花に囲まれ太陽のように笑う彼女を想って。



「俺、ロゼとずっと一緒にいたい」


「私も、ずっとずっと一緒にいたい」



 マントを広げ、彼女を腕の中へと引き寄せた。そっと抱きしめれば夜なのに彼女からはお日様と花の香りがする。


 ああ、本当に彼女だ。彼女が、ここにいる。

 離れて分かった。やっぱり俺は彼女が好きだ。



「ずっと会いたかった。元気になってよかった」


「心配かけてごめんなさい」


「もう、動いて大丈夫なのか」


「まだ大きく動くと色々な所が痛むの。でも拓巳くんに抱きしめてもらえるのなら、全然痛くなんかない」



 背中へと彼女の腕が回された。小さなその身体でゆっくりと力を入れて抱き返してくれるその姿が、愛おしくてたまらない。もう離れたくなくて、ずっとこのまま抱きしめていたかった。



 でも病み上がりの彼女を無理させたくはない。

 今だって彼女は言ったんだ。動くと痛い、と。



「あのねロゼリス。明日、王様たちとの謁見があるんだ」

「聞いているよ、私はまだ出られないけれど」


「俺はね。この国の英雄になるかもしれないんだって」

「……」



 何か話したい。

 彼女と話したいことは山ほどあって。


 でもその中でも特に話をしたかったのは、明日の謁見のことだった。


「トネアス王子とランタナ王子に恩賞をどうするか考えておいた方がいいって言われたけど、俺はほしいものがよく分からなくて。


 ロゼなら、何をもらう?」


 抱きしめていた腕を緩めれば、彼女も腕を解き、身体を離す。手だけはマントの下で繋いだままだ。


 俺の質問の答えを考え始める彼女。ああ、この真剣な表情を見るのも久しぶりで、愛おしくて堪らなくなる。



「恩賞ね、何かな。


 私は生まれた時からお姫様だから、結構ほしい物は貰ってきたと思う。だからなのか、改めて恩賞としてほしいもの、と聞かれても私もすぐには答えられないかな。

 でも、拓巳くんが本当にほしいものがあるのなら、遠慮なく正直に言っていいと思うわ」


「そうか」



 まあ、人に聞いたところで、結局は決めなきゃいけないのは自分なのだ。ロゼリスが言うように、俺が本当にほしいものを考えないとな。


 さてと。俺は彼女と手を繋いだまま立ち上がると、手元に赤い炎を点ける。



「花火、打ち上げようか」


 先ほどよりも腕に力を込めて力強く火を放てば、小さくヒュルヒュルと音を立てながら空へと上がった火の球が、城の遥か上空でポンと音を立てて花を咲かせた。



 再び訪れた静寂。

 二人で手を繋ぎ、城の周りを歩いていく。


 彼女の歩幅に合わせてゆっくりと。

 移動して来たのは彼女の庭だった。



 もう何度も空へと花火を打ち上げた庭。


 だからこの庭に訪れる度に、新しい花が植えられているのを俺は知っていた。「花が綺麗だな」と庭を眺めると、彼女もそれに気付いたのか「庭師の子たちが皆で手入れをしてくれたんだって」と説明をくれた。



 庭のベンチへと腰を下ろせば、冷たい風が吹いて彼女が一瞬目をつぶった。



「ここ入れよ。俺の方が暖かいから」


 マントを彼女の肩にかけると、彼女が身体を擦り寄せてきた。ナイス火魔法。冬の俺は天然ストーブレベルで暖かいのだ。


 ふと周りを見ると先程までいた精霊たちの光が見えなくなっていることに気がつく。首元から魔法石を取り出してみれば、透明な石だけが残っており、おそらく最後の花魔法を使い切ったようだった。



「魔法石が空になった」


「そうだね。魔法は切れちゃってるけど……でも今、多分周りには精霊いないよ?」


「そうなのか」



 彼女が魔法石を確認してくれた。どうやらちょうど彼らが居なくなったタイミングで石の魔法も切れたらしい。


 精霊たちすらいない庭は本当に静かで。俺と彼女の声だけが庭に響いた。彼女は俺の肩に頭をもたれ掛かると、俺の胸元の魔法石を静かに触りはじめた。



 あ、そうだ。空の魔法石を植物園の温室に利用するって話。まだ彼女は知らないというのを思い出した。



「この御守り。実はまた新しい御守りに変わるから楽しみにしていてね」


「どういうこと?」


「その日までのお楽しみだよ」


 彼女に伝えれば不思議そうにして、でもすぐに笑いながら俺を見上げた。


 あー、その見上げてくる感じ。俺は弱い。



 魔法石を掴む彼女の手を石ごと包むと、俺は距離の近づいた彼女の唇に軽くキスを落とした。


 キョロキョロと視線が落ち着かなくなった彼女。至近距離で目が動いて、それから見つめ合って。



 俺は今度は深くキスを落とした。

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