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花火を打ち上げて。  作者: 黒花
第6章 乱れ咲
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第104話 彼の兄たち

 午後の授業が終わり、学園を後にした俺は、騎士団本部へと向かった。


 入り口で手続きをして少しだけ待っていると、以前訪れたことのある最奥の部屋へと案内される。



 この部屋は、ランタナ第二王子の執務室にあたる部屋で。今日はその彼にとある許可を貰いにきたのだ。



「タクミ。今日はどうかしたのか?」



 扉が開けば、中央には以前と変わらず机が置かれていて、そこにはランタナ王子が座っていた。


 ガルベラと同じ金色の髪に瑠璃色の瞳をした彼は、外見こそ似ているものの、山吹色に青紫色の花の刺繍がされた独特な服装をしている事もあってか、ガルベラとは違う不思議な雰囲気を放っている。


 国の裏担当という立場がそうさせているのかもしれない、と思いながら挨拶をして部屋に入ると、入り口からは死角となっていた部屋の角に、もう一人誰かがいるのに気がついた。



「やあ、タクミ。久しぶりだね、調子はどうだい?」


「……トネアス王子!」



 椅子に腰掛けて座っていたのは第一王子のトネアス王子だった。

 弟たちと同様、金色の髪に瑠璃色の瞳をした彼。だが山吹色に緑色の花の刺繍がされた服装は、ランタナ王子と比べると国の表担当という言葉がしっくりくるような、華やかさがある。


 何というか、こうやって改めて二人を見比べると、トネアス王子とランタナ王子は対称的だ。


 俺は急いで頭を下げた。


「ランタナ王子に色々指導していただいております。……あの、お話中ではなかったでしょうか?」



 同じ王宮内とはいえ、第一王子が城から離れた騎士団本部の第二王子の執務室にいるくらいだ。何か重要な話をしている最中だったのかもしれない。



「いや、確かに話はしていたがもう終わった。心配しなくていい」


「理由つけてでも外に出ないと、ずっと城の中にいるから気分転換も含めて時々ここで話するんだよねー」



 二人の声を聞いて訪室のタイミングは問題なかったと一安心する。そうとなれば本題に入ってしまおう。もちろんトネアス王子にも聞いてもらっていい話なのだから。



「今日はひとつ許可を貰いたいと思って伺いました」


 鞄の中から持ってきた小袋を取り出すと、中身を机の上へと広げる。いくつもの小さな音を立てて転がったのは、色とりどりの天然石だ。



「この石は」


「魔物討伐のあと、竜の灰の中から見つかったものです」


 ランタナ王子が石を手に取り見始めた。これは魔物退治のあとで見つかり、マスターから渡された天然石だ。

 ずっと俺の部屋で保管していたのだが、実は早くからこの石の使い道を考えていたのだ。



「報告を受けていたから知っていたとも。タクミに渡すよう命じたのは我々だ」

「そうでしたね。ありがとうございます」



「これを城の西側の広場でまた燃やしたいんです」


「ほう。この石も燃やせるのか」



 この石は、燃やすと火の色が変わるのだ。

 俺がその事実をそのままを二人に告げれば、二人とも凄く驚いていた。


 そうだろう、俺だって驚いたのだから。



「空中でこの石を燃やすだけなので、建物や人に火が飛ぶことはないと思います。勿論注意しながら燃やそうと思うのですが」


 具体的にどんなことをするのかも伝えれば「そのくらいなら大丈夫だ」と返事があった。



「火災などの被害が起きぬようにしてもらえれば、別に構わぬよ。日頃、王宮の各研究所から騒音が出ることなど日常茶飯事だからな。



 で、どうしてそれを燃やそうと思うのだ?」



 これは十中八九聞かれるだろうと思っていた質問。だからちゃんと答えられるように頭の中で整理してあった。


「供養です」

「クヨウ? ……どういう意味だ」


「死んだ者が安らかに眠れるよう祈ったりするものです。今回は、先日倒したあの魔物の竜への供養です。


 せめて今は安らかに眠れるよう、苦しい思いをしていないよう、祈りたいんです。その祈りの形としてこれを燃やしながら空に向けて打ち上げようかと思っているんです」


「打ち上げる……」



 ずっと心に引っかかっていた事だ。


 それはやはりあの魔物の事だった。


 この国のために魔物を殺したことは、俺は今でも間違っていなかったと思う。ただ、それでも、俺と同じように突然この世界へ紛れ込んだ者の命を、こちらの都合でひとつ奪ってしまった事を思うと、苦しく思えて仕方がなかったのだ。



 あの魔物だけじゃない。

 グロリオさんと倒した魔物も、学園で遭遇した魔物も。やはり思い出すと苦しく思うところがある。


 だからせめて、植物園の再建をスタートする前に、そして英雄の称号を貰う前に、彼らに向けて何かがしたいと思って。それで考えたのがこの案だった。



「あの時俺は、魔物の殆どを燃やしてしまったじゃないですか。もちろん後悔はしていません。


 でもこの石が残ったのなら、せめてこの石だけでも研究所に回してほしくて持ってきたんです。


 それで、研究用のものとは別で、残りの少しを今回の供養に使おうと思うんですが……いいでしょうか?」



 顔色を伺うように視線を向ければランタナ王子が机に石を戻して笑い、トネアス王子も笑っていて。


「いいさ、タクミのものはタクミが好きなようにすれば」

「むしろ国の事まで考えてくれてありがとう」



 彼らにお礼を言われたことに俺は驚いた。


 訳を聞けば、世の中には新しいものが発見された時、国や研究機関に報告をせずに個人で独占しようとする者も沢山いるとの事だった。


 ジラーフラは国が小さい為か、あまりそのような事は起こらないらしいが、大陸国ではよくある事だそうだ。


 二人に笑顔を返せば、部屋の中に暖かい空気が流れてほっと息をついた。


 なんて、優しい王子様たちなんだろう。


 俺はこの国にない文化を持ち込もうとしているのに。



 今回の事は反対や禁止令が出る可能性も考えていたから、許可をもらえたことを素直に嬉しく思う。



「異世界研究所の一員としても、いいんじゃないか。

 それで、そのクヨウとやらはいつやるんだ?」


「もうすぐ植物園の再建が始まるんですよね? その前にはやっておきたいと思って」


 希望の日を伝えれば、ランタナ王子が手帳らしき物を広げはじめた。日が決まり、ひとまず今日の本題が解決して、さてそろそろ失礼して寮に戻ろうかなと思っていると、トネアス王子が口を開いた。



「そうそうタクミ。ガルベラから聞いているかもしれないけど、謁見でその魔物討伐の恩賞を聞かれると思うから考えておいた方がいいよ」


「恩賞ですか?」


「国からのご褒美。

 前の討伐はお金だったかもしれないけれど、今回は桁違いの魔物退治だったからね。


 君が何かほしいものとかあれば言っていいのさ。もちろんお金でも領土でも。

 この世に存在しないものとか大陸国の秘宝でもなければ、結構なんでも貰えるんじゃないかな」



「そうだな、例えば身分のお高い伴侶とか」



「……ん?」


 昼間にガルベラたちと話していた事と何か重なった気がする。


 思ったことがそのまま顔に出ていたのだろう。


 声を出して笑ったトネアス王子が椅子から立ち上がり、軽い足取りで扉へと向かった。



「じゃあ、そのクヨウの件は父上たちにも伝えておくから。書類に必要事項を書いてね。そこの部署名は異世界研究所でいい。書き終わったら騎士団本部の窓口へ提出してねー」


「は、はい。明日中に出します!」


「じゃあね、タクミ」



 バタンと勢いよく扉を開けて彼は出ていってしまって。部屋の中がしんと静まりかえった。


 扉の向こうからは彼が騎士団員に声を掛けて歩いているのか、大きな話し声が聞こえる。



「……元気な方ですね、トネアス王子って」


 閉じた扉からランタナ王子の方へと向きを変えれば、椅子に座り直した彼は静かに笑っていた。



「母曰く、ある意味で若いそうだ。

 時々休日に兄弟三人で過ごす時間を設けることがあるのだが、兄がガルベラと話すところを見ているとまあ賑やかで、まるで弟が二人いる気分になることがあるさ」


「はははっ、そうなんですね」



 ランタナ王子は、仕事の時は王子様らしい佇まいをしている。

 だけど今、こうして兄弟の話をする彼は、やはり自分と歳の近い男の人だと思うと話しやすい雰囲気があった。


 これから彼のもとで働くようになれば、彼とはもっと気さくに色々な話ができるようになるのだろうか。そう思うと楽しみがまたひとつ増えた。



「ああそうか、もしかしたら弟が三人になるかもしれないのか」


「……それは、一体どういう意味でしょうか」


「ん? どうって、そういう意味さ」



 俺を見ながらニヤリと笑った彼。

 俺は思わず彼から目を逸らす。


 真面目な話から急に他人をからかいはじめる彼の様子は、まさしくガルベラの血縁者。



 俺が大きくため息をつくと、彼は勢いよく後ろを向いて肩を震わせて笑いはじめた。

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