宝物庫(?)の宝物(?) その4
前回のあらすじ:
夕食の席で、執事が、お嬢様が家宝の「青のペンダント」を入手されたことを報告しました。
お嬢様のお部屋で実物を確認された旦那様は、お嬢様が次期当主に決定したことを、皆の前で宣言されました。
旦那様は、先々代の当主が残した『あれとの付き合い方』と表紙に書かれたノートを、お嬢様にお渡しになられました。
<少女視点>
私は、自分の部屋を出て、姿勢を正して胸を張った。部屋の前に並んで待っていた従者たちに、青のペンダントが見えるように、ゆっくりと彼らの前を歩いて最後尾の従者のところで折り返し、再び自分の部屋の前まで戻ってきた。
部屋の前で待っていた家族の中から、お父様が前に出て宣言しました。
「確かに青のペンダントであることを確認した。ここに正式にわが娘、デイジーを次期当主にすることを宣言する」
居並ぶ従者たちから、おおっと感嘆の声が出たところで、お父様が私に向かっておっしゃいました。
「明日の午前中に話がしたい。呼んだら執務室に来てくれるかい?」
「わかりました」
お父様は、私から従者一同の並んだ方に目を向けなおして、
「それでは、解散! 夜の仕事があるものは速やかに取り掛かること。仕事が終わった者も、夜更かしせずに、さっさと休めよ」
そして、家族の方に向かうと、
「では、私たちも自室に戻って休むことにしよう。皆、おやすみ」
「「「おやすみなさい」」」
***
私は、当主の証となる青のペンダントのお披露目を一通り終えて、自分の部屋へと戻ってきた。部屋付きのメイドである、メアリーも一緒に入ってきている。
部屋に備え付けの白いテーブルに着いたところで、大きくため息をついた。
「疲れた……はあ」
すると、部屋付きのメイドであるメアリーに注意される。
「まあ、お嬢様。ため息をつくと幸せが逃げる、と言いますよ」
「ふふん。それは単なる迷信よ。実際には、ストレスを緩和しリラックスするために、体が深呼吸代わりに実行しようとしているのよ。だから、出したくなったら下手に我慢せずに出した方が体にいいのよ」
私は、お父様から頂いたノートをテーブルの上に置いて、じっくりと表紙を眺めた。
「私のひいおじい様が、このノートを書き残したってことは、このペンダントのことをよく知っていたということよね」
表紙に『あれとの付き合い方』と書いたノートを残して逝った、先々代の当主、シュー・コーラムバインかあ。宝物庫についての色々な指示とか、自分の死後に、収納魔法らしきもので物品を隠してしまったこととか、なかなか謎めいているわよね。
パラパラとめくって、軽く各ページの見出しのあたりだけに目を通す。そして、ノートの後半になると別の言語に変化していることに気づいた。
「あら、後半部分は、この国の言葉じゃないのね? でも……」
私は、気になって仕方なくなってしまい、寝る前にできるだけノートを読み進めることにした。
***
『あれとの付き合い方』<前半部分の要約>
以下は、推測を含む部分もあるので、読む際には注意してほしい。
中には、見当違いも甚だしい、と言われるような事も書いたかもしれない。
だが、かなり気になったこともあるので、後継者の君にも考えてもらいたいと思う。、
そのために、へたに整理して消すことはせず、メモに残しておく方が良いだろう。
とりあえず、頭の隅にでも入れておいてほしい。
●青のペンダントについて
コーラムバイン家の家宝。いつの間に、そのように指定されたかは定かではない。
インテリジェンス・アイテム。超古代文明の遺産? ある遺跡から出土したらしい。
イブツという名前らしい。
イブツとの主従契約を結ぶ際には、宝石部分に新しい主の血液を一滴垂らす必要があるらしい。
不潔なナイフなど使わず、きれいな刃物を火であぶるなどで殺菌したものを冷ましてから処置するように。
・所持している情報
「超古代文明の時代に実現できていたもので、現在の技術でもわりと簡単に再現できるものはないか」というような質問した時には、かなり饒舌になった。技術の再現・復活については、かなり積極的になるようだ。
かなりの知識の宝庫だが、ノウハウは知っていても、本人に体がないためか、体を使っての具体的なやり方を説明することは苦手としているようだ。そのような場合は、職人に何回か試作してもらい、ノウハウを増やしていくことになるだろう。
だが、新規の発明とは違い、できると分かっていることを再現、再発見するだけなのだから手間が違う。イブツの情報があることは、本当にありがたい。君も十分に活用したまえ。
例えば、手始めに「これこれの技術改良はできないだろうか?」などのように問いかけてみることだ。注意しておくが、ときどき、「その他のやり方はないだろうか? それと前回の案との違いは?」などと言って、代案も提示させること。でないと、直近では効果的でも、後々で損害が大きくなるような提案だったりすることがある。
イブツは人間ではない。その思考は人間とは異なる。あくまでも「無生物が、聞かれたことに対してだけ回答したもの」に過ぎないということに注意すること。
・媒体としての性能
イブツ自身は『超古代文明の時代では、自分は準特級クラスの媒体という扱いでした』と言う。
本当の最高クラスといえる特級クラスの媒体が、超古代文明の滅亡とともに失われてしまったため、現時点では、他の杖などを振り切った高性能であることは確かだ。
実際に、軽くイメージしただけで、以下の魔法を高出力で再現できたことを確認している。
ファイアボール、ファイアウォール
アイスランス、アイスシールド
ウィンドカッター、ハリケーン
ロックバレット、ストーンウォール
ライト、ヒール
スリープ、ポイズン
・会話の方法
周囲の数人に、音声ではなく、念話で話しかけられる。伝達先を特定できるため、無関係の者が漏れ聞くことはできない。
就寝中の所有者の夢に、少年執事のような姿で出現することで、ジェスチャーも交えて詳細に話し合うこともできる。
・意思や思考
自分の意思や思考はあるようだが、所有者の許可がないと何もしないし言わない。「これこれもした方が良くなるな」とわかっても、所有者が指示めいたことを意思表示していなければ、そのことに対しては何もしない。
ただし、所有者が明らかに希望しているような態度や言動を示していれば、確認を取ってから「でしたら、これこれの方法もあります。」などの補足や提案をすることはある。
・追記
全く指示していないのに、私の荷物を収納魔法に入れて、イブツ自身も消えていることがあった。
確認のため、急いで荷物のあったところに行くと、出現して、
『出しっぱなしにしておくと、盗難にあう可能性が高かったため隠しました』
などと言っていた。
使い初めの頃には、独自の判断での行動能力など確かになかったはずで、気の利かないやつだとよく思っていた。
最近になってできるようになったのか?
インテリジェンス・アイテムには、経験による成長要素がある? 今後も確認要。
***
『あれとの付き合い方』<後半部分の要約> (解読結果)
これ以降を読み解くことができる、私の後継者へ。おそらく、君も地球の日本人からの転生者なのではないか。
とりあえず、日本語の伝わる相手を仮定して、これ以降は、日本語で書き進める。
私は、シュー・コーラムバイン。
かつての日本人名は、 苧環 《オダマキ》 修だ。
オダマキという植物を知っているかな? それの英語名がコーラムバインだ。
この地方では、向こうでの西洋風の風習が多いようなので、西洋っぽい名乗りにしていたのだ。
なお、領主一家のコーラムバイン家と家名が同じなのは、偶然の一致だ。
転生してしばらくの間、私は冒険者としてこの領地内で活動していた。その時に、偶然、盗賊たちに囲まれて襲われていた領主の馬車に出会ったのだ。そこで、まあ、転生時の特典が超剛力というパワーアップ能力だったため、そこらの大木を引っこ抜いて振り回しているうちに、盗賊たちをやっつけることができたわけだ。盗賊たちを一掃して馬車を助けたことと、名乗った時に偶然にも家名が一致していたことから、当時の当主様に気に入られて、この家の娘さんと結婚して入り婿になった、というわけだ。
まあ、私のこれまでの顛末はこのくらいだが、分かってもらえただろうか。
さて、ここからが本題だ。
以下に、重要ではあるが、現地人たちには理解できないであろうと、理解させることをあきらめた事、また、重要過ぎて隠蔽すべき事などについて、まとめておくことにする。日本語で書いているのは、秘密事項だからだ。
話を進める前に、まずこれだけは言っておかねばならないが、ここは本物の魔法のある世界ではない。
ラノベの読書経験のある転生者であれば、この世界に来て魔法の存在に気づいたときには、狂喜乱舞したであろうが、以下の言葉を検討してみてほしい。
「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」 作家アーサー・C・クラークの言葉より。
杖や指輪などで呪文を発動する、という仕組みは確かにある。では、杖や指輪などの道具に頼らない魔法はあるか、いやない。
この状況は、リモコンを「えいっ」と掛け声をかけてテレビをオンにする状況とさほど変わらない、ということを忘れないようにしたまえ。……この世界にテレビはまだないがね。私が生きているうちに実現するかも難しいだろうね。
さて、これまで、イブツと話したり自分で検証したりして分かったことを要約して、以下にまとめておく。
ただし、私がこれを書いている時点での推測まじりのものも、かなり多くある。
君自身でも、確認と検証を怠らないように。
そして、修正や追記すべき事があれば、忘れないよう、どんどん書き込んだ方がいい。
●イブツについて
通称:イブツ(異物、または、遺物からか?)(命名者は不明)
IBTU (The Intelligence-Base Terminal-Units) などの略称からか?
人類の知識、ノウハウなどを後世に残すために作成されたと思われる、
小型のコンピューターのような、科学の産物である。
同系統で色の異なるペンダント型インテリジェンス・アイテムが存在する可能性が高い。
以下のように、役割分担していたようだが、他の分野も分からないわけではないらしい。
・青のペンダント(一般的な生活についての詳細な技術がメイン)
・黄のペンダント(防衛的なことについての詳細な技術がメイン)
・赤のペンダント(攻撃的なことについての詳細な技術がメイン)
イブツたちは、超古代文明の滅亡時期に、急場でかなり大雑把に設計されたらしい。
以下は、このことについての、本人の言葉である。
『私と同僚たちとで意見交換する機会があった頃に出した結論ですが、私たちの設計はかなり大雑把です。
当時の他の魔道具たちと性能比較しても、はっきり言って、欠陥品もいいところではないかと』
様々な特級クラスの媒体(杖や指輪やアクセサリーなど)が、超古代文明の滅亡とともに失われてしまっている。
そのため、当時の準特級クラスの媒体という扱いであったイブツたちは、現時点では、他の杖などを振り切っており、最高クラスといってもいい性能であることは確かだ。
そのことを差し引いても、「成長要素を持ち、様々な主に仕えることで経験を積み、柔軟な思考を身につける可能性がある」としたら、そして、それがイブツたちだけに与えられていた特徴だったとしたら、かなり話は変わってくるだろう。
なお、成長要素の重要性については、イブツには言っていない。君も説明してやる必要はないぞ。
むしろ言うな。イブツの部品の一部には敵性因子が含まれている可能性がある。
●超古代文明について
魔法ではなく超科学の文明だったが、はるか昔に滅亡している。現在は、いくつかの遺跡のみ残っている。
太古の昔、超古代文明が惑星全体に、魔素と仮称される謎の物質を大量に生産して散布していたらしい。
現在も、空気中や水中・土中など、あらゆるところに魔素は存在している。
魔素は、増幅機器などで強化された人間のテレパシー(脳波)を受けることで反応して、様々な物質や熱などに変化する。それにより、魔法のような現象を引き起こすことができる。
超古代文明が残した魔道具・媒体(杖や指輪やアクセサリーなど)に、人間のテレパシー(脳波)を受けて増幅して、魔素を操る仕組みがある。
人類が、直接的に魔法を使用することはできない。一定レベル以上の強いテレパシー(脳波)を発生させられれば、理論的には可能だが、実質的には増幅機器なしでの人間の肉体では不可能であり、実現性はない。
現在は、魔素・魔道具・媒体などは作成不可。遺跡などから発見した遺物の調査結果から、使用方法が判明して、一部のものが使用可能となっているのみ。
遺跡からの出土品の研究から魔法の使用方法が再発見され、超古代文明と同様に魔法を使用することができるようになってから、かなり経過している。魔素から通常物質や熱などに変化した分、魔素が不足していくはずである。しかし、世界中から、魔素が減少している様子は見受けられない。
そのことから、一部の遺跡は活動しており、不足した分の魔素を補充するために、魔素の製造活動を行っている、と推測できる。ただし、活動している遺跡の存在や、各地への散布方法など、詳細は一切不明である。
●超古代文明の滅亡について
謎の存在(宇宙人か異世界人の侵略者?)と対立し、それらの大規模な侵攻を受けていた、という情報があったらしい。
それらの侵攻方法・技術だが、空間に亀裂を入れて別空間を繋げてやってきていた、という情報があったらしい。
それらを空間の亀裂の向こうに追い返すことには成功している、という情報があったらしい。
空間の亀裂は修復して、再度開くことはしづらいような結界技術が仕込まれている、という情報があったらしい。
超古代文明は滅び、技術も残っていないことについては、防衛戦で疲弊しきったために衰退したか、または、追い返す直前に、致命的ダメージを与えるような兵器を使われてしまったか、とイブツたちは考えている。
そのような状況だったとして、謎の存在の再侵攻は、可能性は低いが無いとは言えない、とイブツたちは考えている。
●この世界の現在の魔法について
遺跡から魔道具・媒体(杖や指輪やアクセサリーなど)が呪文書とともに発見され、超古代文明が使用していたという魔法の使用方法が再発見されてから、およそ八百年と言われている。
また、少し前に、主要部分の部品が多数出土したことがあり、それ以外の部分は、当時の技術で再現できたため、そこそこの性能の杖や指輪の模造品が出回るようになってきた。それに伴い多数の魔術師が生まれることになったようだ。さらに、その頃、王都の学園でも貴族教育の一部として、魔法の教育を取り入れることになったらしい。
つまり、この世界には、魔法と呼ばれる技術が存在している。ただし、出土した呪文書どおりの、型にはまった魔法しか教えられていない。魔素と脳波を利用している、というような仕組みも、一部の者にしか伝わっていない。
媒体の、人間のテレパシー(脳波)を利用して魔素を操る仕組みは、ブラックボックスのままである。そのため、以前に出土した主要部品が尽きれば、新規の媒体作成は不可能になる。遺跡の手つかずの階層を探せば、まだあるかもしれないが。
●まとめ:
イブツたちの存在意義、つまり、製作者たちの意図したところは、人類文明の復興、超古代文明の滅亡理由の調査、侵略者への対策の確認、対策不十分だった場合の補正方法の確立、といったところではないだろうか。
今は、技術の復活を促して、人類文明の復興に取りかかっているところか。
超古代文明の技術の特徴は、魔素を開発したことだろう。それに付随して魔道具・媒体(杖や指輪やアクセサリー)などが開発されて、科学的に疑似魔法を使用可能にしていたのだ。
いわば、物質やエネルギーの操作技術での、魔法の再現と言ったところか。
また、脳波を解析して魔法のイメージを確認する技術があったとしたら、脳医学も発達していただろう。
一方で、侵略者たちは、他の星か異世界かその出所ははっきりしないが、空間の亀裂を使用して侵攻したということだから、時空間を制御する技術に長けていたと思われる。
●疑問点
イブツに使ってもらっている収納魔法だが、時空間の制御技術だよな……。
ふと気になって、イブツにいくつか質問した内容が、以下だ。
・収納魔法の実現方法だけど、
敵の部品とかをそのまま再利用して組み込まれている? その可能性が高い、とイブツが言っていた。
・せめて解析して安全だと確認してから使っているよな? 不明、とイブツが言っていた。
・急に不具合が出たり暴発したりとかは、しないよな? 不明、とイブツが言っていた。
昔のイブツの製作者たちが、安全も性能のうちだと理解できるまともな奴らで、ブービートラップの有無を確認できる技術を持っていたことを、切に祈る……。
***
<少女視点>
私は、自分のこめかみに手をやり、しばらくゆっくりと揉みほぐしました。
それから、再びノートに目を戻しつつ、メアリーに声を掛けました。
「メアリー、ちょっと来てくれない?」
「はい、お嬢様。何でしょうか?」
「ちょっと、このページを読んでみてくれないかしら?」
私は、ノートのはじめの部分を開いて、メアリーに見せた。
「はい。ええと、……
●青のペンダントについて
コーラムバイン家の家宝。いつの間に、そのように指定されたかは定かではない。
インテリジェンス・アイテム。超古代文明の遺産? ある遺跡から出土したらしい。
イブツという名前らしい。
……」
「ありがとう。もういいわ。次に、このページを読んでみてくれないかしら?」
私は、ノートの後半の部分を開いて、再度メアリーにお願いしてみた。
「はい。ええと、……
すみません。外国語でしょうか、私の知っている文字ではないようです」
「やっぱり、そうだったのね……はあ」
私は、大きくため息をついた。
私には読めた。いや、それは正確ではない。この国の文字じゃないな読めないな、と思った次の瞬間に、読み方、つまり発音と意味が頭の中に広がっていった。そのまま、次のページ、そのまた次のページとへとめくっていき、いつの間にか最後まで読んでしまっていたのだ。
私は、ひいお爺様と同じ転生者で、前世は日本人ということなのだろうか? それにしては、前世の記憶などないのだが。今回は、日本語とかいう言語を思い出せただけのようだ。
とりあえず、そろそろ寝る時間だし、気持ちを切り替えるとしましょう。
部屋着からパジャマへの着替えをメアリーに手伝ってもらい、ベッドの方に向かう。
「メアリー、そろそろ寝ます。あなたも下がっていいわよ」
「はい、お嬢様。それでは、失礼いたします」
「あっ、明日の午前中には、お父様からの連絡がありしだい、執務室にお邪魔することになるからね」
「はい、聞こえておりました。早めにお起きになられますか?」
「ええ、悪いけど、念のために起こしに来てもらえるかしら?」
「わかりました。それでは、あらためて失礼いたします」
メアリーが部屋を出ていき、私はベッドに入ってから気づいた。
青のペンダントを外しておらず、パジャマの胸元にかかったままだったのだ。
「そう言えば、あなたは夢に出てこれるのだったっけ? 今夜の夢に出てあらためて挨拶してみてくれる?」
『その機能の確認は、早急にする必要性はありません。デイジー様の単なる……好奇心? 気まぐれ? などのように言われているものと考えられます。無駄ですので、拒否させていただきます』
「まあ、所有者に逆らう魔道具だなんて……。でも確かに今夜すぐには必要ないわね。変な命令だったわ。ごめんね」
『いえ、撤回して頂けるのでしたら構いません』
「今後も、私が間違ったことを言ったら指摘してね。理不尽については、文句を言うことを許可します」
『はい、ありがとうございます』
「それにしても、こんなところが、インテリジェンス・アイテムの特徴ってことなのかしらねえ」
『……』
イブツからは何も返答はなかった。
「ねえ、イブツはあのノートを読んだことはあるの? 日本語は読めるの?」
『ノートの前半部分の内容につきましては、把握しております。シュー様がノートの前半部分を記述していたときに、校正を手伝うために、ご一緒に確認したことがあるのです。』
『なお、後半部分は、シュー様がおひとりで記述しておりましたため、内容は存じません。』
『また、この国の言語は学習しておりますが、日本語については、シュー様に「お前は覚えなくてもよい」と言われたことがあり、学習しておりません』
***
しばらくの間、イブツと話をしていたが、そのうちに、目を開けていられなくなり、いつの間にかぐっすりと眠っていた。
あとから、日本語の話のあとに話した内容を思い出そうとしたが、ほとんど覚えていなかった。