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インテリジェンス・アイテムと過ごす日々  作者: ラッキーな亀
第一章 青のペンダント
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宝物庫(?)の宝物(?) その1

 これは、あるお屋敷の家宝であり、当主の証でもあり、インテリジェンス・アイテムでもある、「青のペンダント」を手にしてしまったお嬢様が、そいつの言葉(口がないので念話)に振り回されることになる、お嬢様とその周辺の者たちの苦労物語。


 それでは、はじまり、はじまり……



 カツン、コツン、カツン、コツン、……


 うす暗い通路の中、二人分の靴音が小さく響いた。

 一人はかなりの年配の男性で、短い白髪頭で眼鏡めがねをかけており、グレイの執事服をきちんと着こなしていた。

 もう一人は十歳くらいの少女で、金髪のロングヘアを白いリボンでまとめた、美しいブルーアイだが少々釣り目で、いかにも辟易へきえきとした様子であった。


「こんな所にあるの? うす暗いし、じめっとして鬱陶うっとうしいわね!」


「案内せよとは、お嬢様のお言葉でしたが」


「わかってるわよ。でも、文句の1つも言いたくなるわ」


「なにしろ、先々代からのお言葉で、

『この通路は手入れも最小限で良い。なるべくあの部屋の近くから人払いせよ』

とのことでした。そのため、掃除も最低限となっております。

……

ああ、あそこのお部屋でございます」


「我が家ながら、けっこう長く歩いた気分よ」


 二人が辿り着いたのは、屋敷の正門からは最も遠い、北側の通路の最奥にある、一応は宝物庫と呼ばれていたという部屋であった。 そこには、厳重な造りの分厚い金属でできた扉があった。


「爺や、鍵を開けてちょうだい」


「しばし、お待ちください」



***



 少女は、部屋に入ってしばらくの間、あきれたような表情であたりを見渡していた。


「ねえ、爺や」


「はい、何でございましょうか? お嬢様」


「これが、我が家の宝物庫?」


「いかにも、そのように呼ばれておりました」


 そこには、空っぽで、少しよどんだ空気がただようだけの、だだっ広い部屋だけが存在していた。ただ、何もないわけではなく、入ってすぐそこに、四人掛けのテーブルとイスがあった。

 すぐ横には、小さな台所のように、水場と火を起こせるコンロ、小さなヤカンまで備え付けられていた。

 お茶の準備ができるように、一式の茶器がそろった小ぶりの棚が設置されていた。棚の一部には、日持ちのする菓子類が少し置かれているようだ。


 それ以外は全く何もなく、宝物庫という名称にふさわしい、宝物を飾る棚も、宝箱も、普通の金庫の類いもなく、四角い部屋、という空間だけがあった。


 少女は周りを見渡してから、テーブルのある一角に目を向けて、確認するかのように言う。


「この部屋の一角だけ、すぐにでも、商談か話し合いでもできそうに準備されているのね」


 爺やと呼ばれる男性が頷きながら答える。


「それも、先々代からのお言葉どおりでございます。

『この一角には、お茶の準備のため、できるだけ良い品を用意しておけ。

たまの掃除の際には、賞味期限を確認して入れ替えもするように』

とのことでした。

もっとも、羽振りの良い頃はともかく、近年は準備しておく品のレベルを少々落としております」


「それでも、準備しておくことを止めることはしないのね?」


「『止めると、とんでもないことがある』

とのことでした。具体的なことは何も言われることはなかったそうですが。

……

それと、この部屋には誰も入っていないはずの期間の後で、たまの掃除の際にお茶や菓子類の賞味期限を確認すると、一部に使用したり消費した跡があったそうです」


「幽霊がお茶を飲みに来るとでも?」


「さあ、私には何とも」


「むしろ、お父様が良からぬ商談のために、こっそり招き入れた不良商人と、ここで打ち合わせしているということかも。

代々、そうしたことに宝物庫の一角を使用してきたということなら、近づくなという指示も、お茶の準備の指示も、妥当だし。その方がありそうよね」


「旦那様に限って、そのようなことは、ありません!」


 カタン


 その時、テーブルのある一角から、誰もいないはずなのに、物音がした。


 テーブルの上には、いつの間にか、ペンダントが置かれていた。

 年代物なのか近年の作か、全く分からない凝った意匠の金色の台座には青い宝石がはまっており、上品な感じをかもし出していた。台座の一角から、か細いがしっかりとした金色のチェーンがつながっていた。


「爺や、あのペンダントは、さっきまでなかったわよね?」


「は、はい。確かにテーブルの上には何もありませんでした」


 少女は、つかつかとテーブルに近づいて、ペンダントを取り上げた。

 そして、じっくりと裏と表をひっくり返して眺め、しばらくしてからテーブルに戻した。

 ついでに、テーブルの上を軽くコンコンと叩いて、普通の木製のテーブルであることを確認した。


「仕掛けなどは、何もないわね」


「お嬢様、不用意にそのようにご自身で調べずとも、まずは私めに手に取ってみよ、など言っていただけたら、お調べしますのに」


「結局、危険はなさそうだから、いいじゃない」


 二人は、部屋には、その他には何もないことを確認した後、出ることにした。

 その際、少女は、何となくテーブルへと再び目をやった。

 そして、無性にペンダントが気になっていることを自覚し、テーブルの所に引き返した。


「結局、これしか見つからなかったから、これを持っていくことにするわ」


 テーブルからペンダントを取り上げて、自分の首に掛けると、くるりと回って見せた。


「割と似合うんじゃないかしら」


「確かによくお似合いですが。虚空こくうから急に出てきた得体えたいのしれない品ですぞ」


「そのトリックもそのうち分かるんじゃないかな。そんな気がするわ」


「仕方がないですね。お嬢様が頑固がんこなのはいつものことですし」


 今度こそ、二人は宝物庫を退室し、鍵をかけなおして各々の居室に戻ることにした。

 部屋から出る瞬間、ペンダントの宝石には、窓からのかすかな光源とは全く関係のない面に、チカリと光が宿っていたが、二人が気づくことはなかった。



***



 少女は自分の部屋へと戻るため、しばらく爺やと呼ばれる男性と一緒に、来た通路を戻っていった。

 少女は、男性に話しかけた。


「爺やは、これからお父様の所に戻るの?」


「はい、仕事の残りもありますが、お嬢様が何をお選びになったかの報告もありますので」


「だいたいお父様がいけないのよ。私の今月の誕生日プレゼントを、まだ用意していないからって、屋敷の宝物庫の中から、好きなものを選べ、なんて」


「お忙しい方ですから、街に買い物に行く余裕がなかったのではないかと」


「領主のお仕事が大変そうなのはわかるけど、日程に余裕も取れないほどなのかしら」


「ここ数日、急に書類が多くなってきたようでした。一度は、現地にもお出かけになられたようですし、かなりの難題でも起こったのかもしれません。詳細については、私は把握しておりませんが」


「そう、まあ、仕方ないわね。ところで、聞きたいのだけど」


「何でございましょう?」


「あの宝物庫は、いつもあんな風に空っぽなの?」


「先々代の頃には、様々な物品で一杯になっていたはずでしたが、お亡くなりになられて数日後に、空になっていることが発見されました。すぐに盗難として調査したのですが、何もわかりませんでした。それと、……」


「それと、何?」


「しばらくの調査ののち、跡目をお継ぎになった先代が、何かにお気づきになった様子で、

『先々代のいたずらだった。無くなったものは仕方がないから、あきらめろ』

とおっしゃられて、調査を打ち切らせました。さらに、

『いつかまた出現するかもしれないから、物品のあったあたりに物を置かないように』

とも、指示されておられました」


「あの宝物庫から、物品が忽然と消えて、それがまた現れるかもしれない、ですって? まるで伝説の空間魔法『収納魔法アイテムボックス』みたいじゃない!」


 確か、収納魔法アイテムボックスの伝説では、術者の魔力が尽きた時点で収納された物は吐き出されてしまうはず、と言われていたと思う。


収納魔法アイテムボックスは、理論だけある魔法で、実現できたためしがないと言われております。しかし、先代は、それに近い何かが、先々代にはあったのではないかと」


「それで、テーブルのあたり以外は、今でも空っぽのままなの? 魔法が切れるのを待つつもりなのね?」


「はい」


 屋敷の正面まで戻ってきてから、それぞれの部屋に向かうことになる。

 男性は、年下の少女に向かってお辞儀をしながら挨拶した。


「それでは、私はこれで」


「付き合ってくれて、ありがとうね」


 少女は、胸にかかったペンダントを撫でながら、ニコニコ顔で自室に戻っていった。

 そして、部屋の近くまで来たあたりで、はたと気が付いた。


「あれ? 収納魔法アイテムボックスの話で気を取られてしまったけど、結局のところ、あの宝物庫は、現在は使われていないってことじゃない? それじゃ、今の貴重品の格納場所は、あそことは別にあるの?」


 少女は、部屋の前まで到着したところで立ち止まり、びっくり顔になったり、悲しげな顔になったり、コロコロと表情を変えながら、考察を続けた。


「これは、お父様からの宿題だったに違いないわね。あそこに着いて中を確認した時点で、爺やにいろいろ確認したり、別の宝物庫もあるんじゃないかと気が付いたり、しないといけなかったんだわ!」


「ということは、これを見つけなかったら、あそこにあるものからというと、棚のお菓子か、いつもよりほんの少しだけ質の良い茶葉か、そのあたりで手を打たねばならない所だったわ! むむむ……不覚を取ってしまったわ」


 少女は、胸のペンダントを持ち上げて、じっくりと眺めてから手を離し、元のように胸元にぶら下げた。


「でも……結果オーライということで!」


 とりあえずは無事に、上等なもののように見えるペンダントを入手できたことで、気を良くしながら部屋に入って行った。




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