金魚のフン
短編です(-_-メ)
シンジは凄いんだ。文武両道のスーパーヒーローさ。クラスじゃいつだって中心にいて、何をしても完璧にこなす天才さ。
そんなシンジと俺は親友なんだ。あいつが小さい頃、近所の悪ガキに泣かされていたとき、真っ先に助けたのが俺だった。出会いなんてそんなものだが、シンジはそれをいつだって忘れずに恩に感じてくれているようで、遊ぶとなればシンジと俺のセットにプラスαで以下複数人。二人セットは変わらずで遊ぶ相手が変わるだけ。高校二年になっても、俺とシンジは同じ学校の同じクラスだ。
俺はまあ顔も普通で、勉強もさして出来るわけではないけれど、シンジの恋の相談に乗ってやったことのある恋の伝道師だ。恋愛となればお手の物だ。シンジの今の恋人のサキちゃんの好みや好きな食べ物、趣味、その他色々と知っているサキちゃんマスターである。といけない。別にシンジの恋人のストーカーとかいうわけではないのだ。シンジが学校一の美少女であるサキちゃんに一目惚れして、その恋愛について相談を受けていたときに知った情報なのである。それが先月のこと。
スポーツにしても俺は通である。シンジがあらゆる運動部に助っ人を頼まれるたび、一緒になって基本ルールを予習して、練習したこともあって基本はバッチリさ。シンジの運動能力は俺が育てたと言っても過言ではないだろう。
女友達も多い。俺にはこれといって特技といったものはないが、多い。とかく女子はシンジとの繋がりが欲しいのか、シンジよりも先に俺に接触してくるやつらが多いのだ。イケメンの隣にいる凡人という立ち位置にいると、不思議と女というものに夢を見ることがなくなった。はじめはしおらしい態度の女が多いのだ。なんでも「私……シンジ君のこと、いい感じだなって思ってるんだ。だから、紹介してくれないかな?」とか「○○ってなんかいい奴だよね、友達にならない?」とかシンジ狙い表明型ととりあえず俺と親密になってからシンジ攻略を目指すシンジ狙い婉曲型がいるわけだが、はじめの頃はね、俺も優しい心根の人の子さ。素直にシンジに紹介したりした。でもね、そうするとシンジ狙い以外の目的がない女子の集団がシンジの取り合いよ。それで終われば別にいいんだよ。中には速攻で告白して、振られていつの間にか離れていく女もいるんだ。でもね、でもね、中には一向に告白せず万全を期そうとする女子もいる。これが厄介極まりなくて、やれ、私の恋を応援しろと、酷いときは五人掛け持ちの応援をさせられ、挙句別の奴を応援していることがバレて、全員からボロクソに言われたときはシンジに泣きついたものだ。お前に寄ってくる女は悪魔だと洗脳するような言霊を吐き続けて、シンジの女性観を歪めたのはいい思い出である。そんな努力の甲斐もあってか、俺の自慢の親友は追われる恋より追う恋を選び、見事サキちゃんと美男美女カップルとなったわけだ。まったく、なんて良い話なんだろうか。とにかく相談を受けていた友達の頑張りが良い。
いやあ、いい気分である。
そんな気分に包まれていたある日の下校途中のことだ。今日はシンジがバスケ部の練習試合の助っ人を頼まれて、獅子奮迅の活躍の末、バスケ部を勝利に導いた日のことだ。オレンジの夕日に照らされて、自転車を手押しでトボトボ歩く道中のことだ。俺? 俺はあれだよ。シンジのマネージャー的なあれだよ。クールタイムにスポーツドリンクとタオルを手渡すあれだ。ついでにスケジュールを調整する的なやつもたまにする。もはやシンジの女房は俺なのかもしれないと思うこともある重症だ。
「なあ、○○。俺さ、思ったんだけど」
問題っていうのは唐突に訪れるものらしいことを、今日俺は知った。
「これまで色々と助けてもらっておいて、こんなことを言うのは恐縮ではあるんだけどさ……○○って、将来に何になりたいの?」
「何ってそりゃあお前、俺がこれまで歩んできた人生から自ずと答えはわかるはずだろう?」
「わかんないから言ってるんだけど」
「だから、それは……」
思い出す。
幼少の頃、シンジと知り合った。あちこち引っ張りだこのシンジに付き合って、色々な経験をしてきた。シンジを狙う女子の対応に追われた中学時代。シンジが狙うサキちゃんへのプロポーズ大作戦に奮闘した高校時代。合間合間にシンジがスポーツ関連の助っ人として活躍するための修練に付き合った日々。シンジの隣に立つにあたり、最低限の身だしなみを整えろと、なぜか姉から教え込まれたファッション知識や諸々。
「あらー?」
「な? 思い当たらないだろ?」
「…………」
俺って、何がしたくて、何になりたいんだろうか?
さっぱり思い浮かばなかった。