ヒロイン絶賛困惑中
「……は?」
イリーナは頭が真っ白になった。
「初めは魔法を学びたいが為に必死でわからなかったけど、俺のお願いに返事をする時まるで子どもに言い聞かせる様な口ぶりだった。」
アレンは淡々と根拠を話す。
「そ、そう?ほら、あれよ!アレンがあんなに必死だったから逆に落ち着いたというか?」
イリーナはしどろもどろに言い訳をする。しかし、
「俺の口まわりのパンくずを手で拭ってくれたのもおかしかった。普段なら顔を洗ってこいと洗面所に連れて行く。」
追い打ちをかける様にまた話す。
「それはえぇっとぉ…。」
いよいよ言い逃れができなくなりアレンがとどめをさす。
「そしてイリーナは俺のこと呼び捨てにしない。アレンくんと呼ぶ。」
さっきまでの可愛らしい少年は消え、まるで親の仇を見る様にイリーナを睨む。
(あ、これはもう誤魔化しきれないやつ。)
イリーナは心の中でそう諦めた。
「ここだと話しにくいから場所を変えましょ?」
そう言って、二人は歩き出した。
◇◇◇
二人はいつもイリーナがクリスに魔法を教わっている街の離れの原っぱに来ている。
「ここなら誰も来ないから安心して話せるわ。…そっかぁ。アレンくんねぇ、そこまで知らなかったわぁ。ごめんなさいね?私はイリーナではないの。でもね、悪い事をしようとは思ってないわ。」
「そんなの信じられる訳ない。」
イリーナは優しくさとす様に話すが、アレンは警戒したままだ。
「まあ、そうなるわな。うんうん、わかるよぉ。こう言ったらいいかしら?」
そう話しをくぎると深呼吸を1回する。さっきまで優しい笑顔が消え真剣な顔付きでアレンに向き合った。
アレンはそれを見て少し動揺し後退った。
「イリーナの絶望を希望に変える為、そしてイリーナの仇をとる為に生きている。」
「イリーナの…?」
アレンはまるで話しがわからない様子だが目の前の少女の真剣な表情を見て冗談で言ってる訳では無いことは理解した。
「そうよ、あの子はこの先神様が決めた人生しか送れないと悟って死んだの。それを知った私はその人生を変える為に頑張ってるの…って。アレン?!」
イリーナが話し終えるや否や、アレンは膝から崩れ落ちあ然としている。
「イリーナが死んだ?なんで…?神様って何だよ……。」
「ア、アレンだいじょ__」
「……せよ。」
「…?アレンなんて言ったの?」
イリーナが聞き取れずアレンにもう一度促し同じく膝を付くと、いきなりアレンがイリーナの両肩を掴み睨んだ。かなりの強さにイリーナの顔が歪む。
「返せよ!!何が絶望を希望にだ!何が仇を取るだ!そんなの知らねえよ!イリーナを返せよ!!この人殺し!!」
アレンがイリーナに訴えを喚き散らしてるのを冷静に眺めていた。
(そうよね、いきなりずっと一緒にいた幼馴染が死んで、誰かわからない人にわかりに生きてるって言われたら辛いでしょうね。でも、このまま放っておいたら私の目標達成が遠のくわね。少し強引だけど頭を冷やさせるか。)
そう心の中で呟くきイリーナは両肩を掴んでるの手を振り解きながら立ち上がると、膝を付いたままイリーナを睨み上げているアレンの頬を思いっきりビンタした。
「…っ?!何をする、この人ごろ__」
アレンが言い切る前にまた反対の頬をビンタ、これを自分の手が傷み始める頃合いまで手を止めなかった。その間イリーナの表情は真顔であるが先程の覚悟を決め打ち明ける様な顔ではなく、一切の感情を失った様な顔である。
「落ち着いた、アレン?」
(あの状態だと、私が何を言っても聞いてくれない。だから落ち着かせる為に恐怖を植え付けたらいいってなんかのテレビであったから実践してみたけど、心痛むわぁ。)
平然とやってのけてよくもまあとツッコミたくなるがその効果はあったらしく、アレンは頬に手を当てまるで鬼でも見るような怯えた様子でコクコクと縦に首を振り涙目で見上げていた。
イリーナは返事を確認し尻もちを付いているアレンに近づいてしゃがみこみ笑顔で問いかけた。
「お姉さんのお話し、聞いてくれる?」
「…ごめんなさっ…。聞く…から、もう、打たないで……。」
アレンは少し後ずさり震えながら応える。
(え、待ってそんな怯える?!これ、下手したら少年虐待で訴えられるやつ?!ほっぺた叩き過ぎた?!恐怖の余りちゃんと聞いてくれるか、この子??どうする、イリーナ!!)
内心冷や汗かきまくりであるがそんなのは顔に一切出さず話しを始める。
「話は1ヶ月半くらい遡るんだけどね__」
イリーナは極力優しく優しく笑顔で丁寧にゆっくりと事の発端から始めた。
◇◇◇
「って事なの。わかった??」
「うん、わかった。わかったけど…けど…。」
互いに座り込み向き合ってイリーナの話をアレンは真面目に聞いていた。
(よかった、案外私の話し聞いてくれた!!また泣き出したらどうしようと思ったわぁ。)
イリーナの安堵をよそにアレンは俯いたまま思い詰めていた。
「それより、落ち着かせる為にとはいえあんなに打ってごめんなさい。痛いよね?頬見せて?」
そういうとゆっくりアレンに手を伸ばすが先程の仕打ちが蘇ったのかアレンの身体が強張り手を頬からどけようとしない。
「大丈夫、もう打たないわ。安心して。」
イリーナは優しく、ね?と微笑みかけるとアレンは恐る恐る手をどける。
(クリスさんから教わった魔法を試して見るか。上手くいきますよーに。)
両頬に添えられた手が淡く緑色に光った。
「あったかい…。」
アレンがそう呟く頃には光が収まり始め真っ赤に腫れ上がっていた両頬が引いていて元の健康的な小麦肌に戻っていた。
「あれ、痛くない。何をしたんだ?」
アレンは頬を触り痛みが無いことに不思議に思った。
「これも神官様が教えてくれたのよ♪」
「そうなのか、すごいな…。」
イリーナが立ち上がり手を腰にあてドヤ顔でそう言うとアレンが感心する。
「なあ、お前の事なんて呼べばいいんだ?他の人前だったらイリーナって呼ぶけど俺はお前の事をイリーナと思ってない。だから、二人だけのときは別の名前で呼びたい。例えば、前の身体の時の名前とか…。」
アレンが立ち上がりさっきイリーナを疑った時とは違った真剣な目で見つめた。
「お前って…そんなふうに呼ぶんじゃないの!でもそうね、アレンがそう望むなら変えたほうがいいかもね。私の前の名前は__?!」
イリーナはあれ?と思った。いくら思い出そうとしても前の名前が出てこないのだ。
「どうしたんだ?言いたくないのか?」
アレンが怪訝そうに様子を伺う。
「違うの、思い出せないの。私、前はなんて名前だったかなぁ?」
いくらウンウン言っても出てこない。イリーナはよし!と開き直りアレンに言った。
「出てこないものは仕方ない!新しく名前を付けてもややこしくなるだけだし私の事は『お姉さん』と呼びなさいな?」
「おねえ、さん…??」
「まあ、同い年にそう呼べって言われても無理かな?でも、私君たちより歳上なのよ??」
「そうなのか?!てっきり同い年と思ってた。そういえばやけに世話焼き上手だったりたしなめる様に話しかけたり、自分の事お姉さんって呼んでたな…。」
アレンが一瞬驚くが今までのイリーナの言動を思い返してブツブツと手を顎に置き俯き呟きだす。その後、パッと顔を上げイリーナを見る。いきなりのことだったのでイリーナ少し身体をこわばらせる。
「なーに、どうしたの?!アレン。」
「わかった、これから二人の時はそう呼ぶ。これからよろしく『姉さん』。」
「そ、そう?こちらこそよろしくね?アレン。」
「改めて俺が『姉さん』にお願いする。俺は魔法を教わりたい、そして立派な魔法使いになる。魔法使いになって俺もイリーナの仇を討ちたい。おねがい!」
そういうとアレンはイリーナに頭を下げた。イリーナは驚いた。てっきり魔法も生活が便利になる程度に使えたらいいと思ってると考えていたが、いやこの話を聞くまでそうだったのだろうがアレンがイリーナの仇を討ちたいが為に教わりたいと言いだした。
(それほどまでにイリーナを想っていたのね。もう、あの子ったら罪な子ね。でも、これはいい事だわ。目標達成に近づくし、これ《スクリーン》だけだと正直不安だったからありがたいわ。)
「いいわ、全部のおねがい聞いてあげる。そのかわり、絶対に投げ出したり諦めたりしないって約束してくれるかな?」
イリーナは返事の分かりきった問をアレンに聞く。
「わかった、約束は守るよ。姉さんも守れよ?」
アレンも同じ問をする。
「もちろんよ、約束する。」
ポンッ
-サブイベント「幼馴染と魔法と約束」を達成しました。これより幼馴染はどんなことがあっても必ずヒロインの味方でいてくれます。-
(お、達成したのね?よし、まず目標に第一歩ね!どんなときも味方って言うのは心強いわね。)
そうイリーナが内心ガッツポーズを決めていると。アレンが先程の覚悟を決めた表情がなくなり何だか恥じらうようなモジモジと顔を赤らめてイリーナを俯きがちで見ている。とても年頃の少年がしていい姿ではない。
「…??どうしたの、そんなに恥ずかしがって。」
「さっきの事なんだけど……。」
イリーナが聞くとさらに赤らめてしまいには口元を手で隠してしまった。
「さっきの事??あ、ああ!!あれね、ビンタね?大丈夫、誰にも言わないよ。恥ずかしいよね?女の子に何回も打たれるの。うんうん、わかるよぉ。ごめんね?ほんとにもうあんな理不尽に打たないから!!」
イリーナはさっき頬を打たれた事を周りに話されたら恥ずかしいとアレンが思ってると予想しあっけらかんと笑顔で応える。
「違うんだ!!いや、確かに打たれた事なんだけど。初めは怖くて心臓がバクバクしたけど、今思い出したら心臓はバクバクするけど怖いとはなんか違くて、でもさっきよりバクバクするんだ心臓が!それを思ったとき姉さんの顔を見たら余計にバクバクしてドキドキして、えーとえーと。」
早口にバクバクやドキドキを連呼しているがアレンはよくわかってない様子だ。イリーナは新たに困惑し始めていた。
(え、何?!殴られてドキドキして赤らめるの、この子。え、もしかしてあれか?痛みで快感を得るっていうあれか?もしかして危ない扉開きかけてる?!ウソ、だめでしょーよ!)
先程とは違った冷や汗をかいているとアレンがイリーナを見る。
「姉さん、もう一度俺を打ってくれ!!そしたら何かわかる気がするんだ!頼むよ!!」
今朝魔法を教わりたいと言ってきた時と同じ表情でイリーナに頼む。イリーナは肩に両手を置きさとすように言った。
「気のせいよ、心臓がドキドキするのは打たれてすぐだからよ。打った人が目の前にいたら落ち着かなくなるのは当たり前よ。だから、忘れなさい。」
「そうなのか?」
「そうなのよ。ほら、神官様に手土産買いに行く途中だったでしょ?早くしないと来ちゃうわよ??」
話をそらすように元々の目的を告げるとアレンは思い出したかの様にはっとした。
「それはもう遅いかと思いますよ、お二人とも。」
二人は声のする方に顔を向けるとそこには苦笑い気味のクリストファードが立っていた。二人はさぁっと顔を青ざめ恐る恐るクリスに話しかけた。
「あの、クリスさん、いつからそこに…??」
「は、はじめまして。あの、えと、俺…。」
「私に手土産辺りからいましたよ?あと、君ですね?お話しはここに来る前にイリーナさんのお宅へ伺った際、セレナさんから聞かせてもらいました。はじめまして、神官のクリストファードです。よろしくお願いします、アレンくん。」
クリスがふわっとアレンに笑いかける。聖人君子のごとく。アレンは少し圧倒され緊張気味で挨拶をする。
「ア、アレンです!!こちらこそ、よろしくお願いします!」
(クリスさんナイス!話しの内容も最後の方しか聞いてない感じだし、助かったわ。)
こうして、アレンの新たな扉はクリストファードの登場により開かれることはなかった。