救い
「さて、ここが異世界というわけだが・・・」
充が目を覚ますと、そこは鬱蒼と生い茂る森。乾いた心地よい風が頬を撫でる。木漏れ日が所々に漏れ、とても神秘的な雰囲気がある。
「フランス、いや、ドイツだな。そこが一番近いな」
ある都市伝説の宝を探すためにドイツの森を散策していたことがあったが、この森はその場所に近しい雰囲気があった。
「さて……この箱の中か?」
目の前に突如現れたゲームに出てくるようなあの箱。あの女神は特典は見られるようにしてあると言っていたからこの箱の中に特典が書かれた手紙が入っているのだろう。
『やっほー。君がこの手紙を読んでいるということは問題なくできたということだね。さて、君の特典だが。君らしいものを付けた。その力をどう使うかは、君次第なのは言わなくてもわかるよね。最後に、かねてより光を恐れたまえよ』
箱から取り出し手紙と小さな小包が入っていた。手紙の内容はあの女神らしい緊張感のかけらもないものだったが、最後の文言が充の頭を悩ませた。神など充は信じては居ないが南米の地でおそらく人がまだ会うべき存在ではないモノにであったことがある。
あのモノは人が使っていた言語よりも古い言葉を使用していた。そのモノが最後には手紙の最後の言葉が言っていた。充の解釈の中では南米での光は隕石を指す。マヤ文明やアステカ神話系統にも大衝突の記述はある。あの女神もあのモノの一端なのだろかと勘ぐってしまう。
「あいつもあれの配下なのか」
膝を曲げ地面にうなだれる。たしかにモノに好かれた記憶ある。虫を頭の中に埋め込まれた悪夢もよく覚えている。だが、こうして干渉を受けている。
意外にも彼女あるいは彼は人らしいものを持っていたのだろう。
「まぁ、さすがにここまでの干渉はないだろうな」
気楽に考えるしかあのモノの形が頭の中に思い浮かぶ。
「そういや、これがあったな」
思い出したように小包の封を開ける充。
「紙?ステータス的なやつか」
その中には紙が入っていた。小包を箱の中に戻し、紙を広げると。
『レベル:12 性別:男 スキル:鍛冶・盗掘・商売上手』
とものすごく充が愛読していた本の一節に出てくるそれと酷似していた。しかし、盗掘のスキルは理解できない。していたことは認めよう。そこは発掘でよくないかと思うのは充だけだろうか。
「はぁ、特典ってなんだよ。いや、俺の生前の技が特典になっているのか」
この特典が生前の技が起点になっているのだろうと充は考えた。物は作るし、物は盗むし、商売で金は稼いだりしてる。しかし、この森から出るには些か、物足りない。
「こんなところで考えても、仕方ない。近くの町に出よう」
森の中をのんびり歩く、鳥のさえずりもかすかに聞こえこの森が肥沃な土地なのだろう。木漏れ日は暖かく、誘う道を作る。
「ン~。これは……随分と誰かを守るのに必死だねぇ。果たして、森がそうなったのか。誰かがそうしたのか。ふむ、そそるね」
歩けども歩けどもどこかに誘われるように作られる道に違和感を覚える充。しかし、この森の雰囲気がイギリスで感じたことがある。比較的に新しくもあり古い物語、ブリタニア王列史。それを起点にして語られるアーサー王伝説。サクソン人を撃退されたとされるアーサー王の物語。その中に妖精の森が出てくる。
一度だけ古い土地に迷い込んだ際にここの森の雰囲気によく似ていた。
充の耳に消え入るような小さな声が聞こえた。「助けて」。若い女性の声、しかし危機に瀕した時のような切羽詰まった声でなく、叫びにさけび続け、声が枯れかけている声。
「俺はこの世界の者ではない。誰かを守る者たちよ、聞け。助けたい、だから案内してくれ」
充の声を聞き届けたのか森が一斉にざわめきだし、木々が移動しだす。竜の探索に出てくる人面樹のような雰囲気はない。
「おぉ、木が避けるというか道を作るのか」
さすがの充もこんな体験は初めてなのか驚きの声を上げる。眼前には木が避けたことでできた道が一本だけ。はるか前方には洞穴があり、あの場所に例の女性がいるのだろうとあたりをつける。そして、ゆっくりと歩を進める。まるで頭を下げる民衆のように脇を固める木々にすこし落ち着かない。生前に魔王と仮称されていたが下げられることはなかった、だからなのかすこし恥ずかしく感じる。
洞穴の前までくるとまた木々は動き始め、道を隠す。
「さて、初めての探検だな」
心なしか楽しそうな充。いくつになっても探検というのは男の心をくすぐる。
明かりを持たずに洞穴に入るのは自殺行為にも等しいこと。だが、充はこの洞穴は迷宮と呼べるものではなく、ピラミッドやフランスの地下墳墓みたいに誰もがダンジョンと口をそろえるような場所ではない。
洞穴の中はすこしばかり舗装された道があり、なんなく進める。ほどなく進むと大きな広場にでた。
「これは……なかなかに興味深いものだ。騎士か。果たして、ここにいる姫様は悪人か善人か。まぁ、あの声を考えればここにいる騎士は監視が目的だろうな」
そこには剣を地面に突き立て、片膝を立てる騎士の亡骸が数百体ほど存在した。充の中でこの亡骸がキリスト教に存在したとされるテンプル騎士団のように見えた。伝説などではキリストの聖杯を守護していたさている。キリストの連れであるマグダラのマリアという娼婦が聖杯だという噂がないわけではない。
だが、この雰囲気は守護を目的ではなく何かを監視しているように見えた。その監視対象はあの女性だろう。
しかし、これは異常というしかない。これだけ位の高い騎士が逃げることなく、ただ監視のために命を捨てられる。生贄と言えば聞こえがいいかもしれないがこれではただの無駄死になっている。彼らの目測が生きているまでに封印が解けると考えたのだろうが、彼らの装備と腐敗から見るに100年以上は経っている。
「カエレ、タチサレ!!」
顎に手を当て、彼ら観察し思考していると金属がこすれあい、ガシャガシャと音が鳴り響く。後ろを振り返れば、数百の騎士がそこにはいた。隊列を成し、充に迫る歴戦の亡者。
しかし、彼に一切の恐怖は無い。あるのはこの面白い現象に対する好奇心だけ。だが、この数を相手にするには些か無謀と言える。
「しかたないか、武器をもらおうか」
地面に突き立てられた槍を手に取り肩に置く。およそ片手では振るえぬそれを軽々と持ち上げ、充は笑う
。
他者に魅せる技などはない、ただ殺す技のみ。仕事の関係上でただそれだけが磨かれた技。亡者相手に通用するかは不明。だが、それを試せるのは僥倖と言わなければならない。
「来い、戦士たちよ」
その声を皮切りに亡者は大地を駆ける亡者。土ホコリを巻き上げ、充に迫る。殺気、憤怒、憎悪が全身から放たれる。肉が無い体であっても感情だけは拭い去る事は出来ない。
「ㇵッ、吠えてろ」
彼らの怨嗟の声は広場を踏み鳴らす音でかき消されるが充の耳には届いた。だが、彼はその声を笑った。彼女は英雄だったのだろう。だから、殺すことはなく封印という形で彼女を閉じ込めた。そして、彼女を解放させないために彼らは戦っている。
しかし、そんな思いは充からすれば輝かしいものではない。この世界とあの世界とでは当然、倫理感も違うだろう。人を帰すつもりの意志ならば一国の主か、世界を救った英雄のどちらかであった彼女を救い逃げて、生きるべきだった。
彼女は少なくとも生きたがっていた。きっと、死していく騎士たちを封印の中から見ていたのだろう。その心中は察することは出来ないが、心苦しかっただろう。だから、『助けて』とずっと叫んでいたのだろう。
ゆえに充は槍を振るう。輝かしいものでは無けれども、そこに誇りある光に対して敬意を。
剣と槍がぶつかり火花が散る。強度はほぼ同じ。だが、使い手が違うというその点だけ。
「!?」
驚愕という他ないだろう。目玉は無いがあれば目を見開いただろう。
ただの打ち合い。風化の具合は同じである、なのにこちらの剣が打ち砕かれるのだろうか。この男と私たちの間にそびえたつ壁には恐れを抱く。
だが、守ると誓った。たとえ、誰かに後ろ指をさされようが、目の前の男に笑われようとも、この思いに間違いはないのだから。
久しぶりに投稿しましたが、やっぱり書くの楽しいですね
読み物としてはすこし物足りない感がありますがここの先人たちを見習い文字は少なめで行きましょうかね