表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

昔話

清々しい朝だった。すっきりとした目覚めは三人にとって久しぶりだった。階下からは、何かの良い香りが漂ってくる。朝食を作ってくれたらしい。急いで下に降りていく。

「よく眠れたかな?」

「はい。久しぶりに落ち着いて眠れました。」

「それは良かった。さぁ、食事にしよう。」

目の前に用意された食事の中に見慣れない食べ物があった。やや赤みがかった茶色をしている。

「これは何ですか?」

「分からないだろうな。食べてみるといい。」

三人は顔を見合わせた。初めて見る物だ。口にするのは勇気が必要だった。レイが思いきって食べてみた。

「うまい…。」

未知の味だった。野菜や木の実とは違う、複雑だがクセになりそうな味。歯ごたえがあり、噛み締める度に旨味が溢れてくる。レイの表情を見て二人も口にした。二人ともレイと同じ感想のようだった。味を確かめた後改めて質問した。

「結局、これは何なんですか?」

「これは鹿だよ。」

「鹿!?食べられたんですか?」

「今は食べることが出来る。死が現れた今だけは。」

「…どういうことです?」

「鹿を食べようと思ったのは前回の死が現れた時だ。植物が死にだして仕方なくな。しかし、死が消えてから食べることができなくなった。」

「何故?」

「食事が終わったら説明しよう。上手くできるかわからんが。」


30分程で食事を終えた。外に出るとマッシュが説明をはじめた。手には何かを持っている。

「君たちもすでに獣に襲われたらしいな。その棒はその時に作ったのだろう。」

マッシュが包丁棒を指差しながら言った。

「我々の頃はそれを槍と呼んでいた。そしてその先の物を作った。それがこの弓だ。」

トッドは弓を受け取るとまじまじと観察した。しなりのある木材に弦を張った物のようだ。

「何かを飛ばす物に見えますが。」

「その通り。小さめの槍を飛ばす。矢と呼んでいるがね。これで相手に近づく危険をおかさなくてよくなった。」

これで、簡単に鹿を倒せるようになった、とマッシュは語った。

「それで前は食べることができなかったのはどうして?」

「消えるんだよ。恐らくだがね。打とうとしたことはなんとなく覚えている。しかし気がつくと矢だけが地面に刺さっている。」

「消えるというのは?」

「そうだな、サラ君。」

「はい!」

突然名前を呼ばれたサラはビクッとしながら返事をした。

「君の家に鳥かごはあるかね。」

「あったと思います。」

「鳥を飼ったことは?」

「…ない、と思います。」

「では。何故鳥かごだけがある?」

「さぁ?」

「恐らく、鳥は飼っていたのだよ。しかし死んだ事で鳥に関する記憶が失われた。…君たちの村にいたはずの前村長のように。」

短い沈黙が訪れた。が、トッドがそれを破る。

「しかし、今まで見てきた死は形が残っていました。記憶もあります。」

「その点について私たちも前回の時に考えた。そして一つの仮説にたどり着いた。…死はずっと前からいたのではないか?」

「ずっと前から…、では今の死は姿を変えただけだと?」

「仮説だがね。」

「あの、私からも一つ質問していいですか?どうしてそんなに死に詳しいんですか?」

確かにそうであった。前回の死を経験しているとはいえ、あの本以上のことをマッシュは知っていた。何か理由があるはずだ。

「君たちと同じだよ。私も仲間と旅をした。途中までだがね。」

「何かあったんですか?」

「詳しいことは言えん。私は途中で旅を続けられなくなった。しばらくすると死は姿を消した。彼らが何かしたのかもしれない。」

「その、旅の仲間は?」

「帰ってこなかったよ。誰一人な。ここも昔はもっと人がいたんだが私一人になってしまった。」

「そういえば、前回の死はいつ頃現れたんですか?」

「100年近くたつ。その間に前回を知るものはいなくなった。私が消えないのは、死に近づきすぎたせいかもしれないな。」

皮肉なものだな、とマッシュは笑った。その目には寂しそうな色が浮かんでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ