二度目
山小屋を目指す道のりは、村を出発した頃と比べて恐怖に満ちていた。山はすでに、彼らの知るものではなくなっていた。少しの物音に怯え、夜は交代で見張りを立てた。それでも深い眠りが訪れることはなかった。ほとんどの場合、火を囲みながら話しをして夜を過ごした。
「そういえば、あの本のこと覚えてる?」
揺らめく炎に照らされたサラの顔には、はっきりと疲れの色が浮かんでいた。
「あんな内容忘れられないよ。」
「そうじゃなくて、本の装丁のこと。」
あの本の装丁には見たことのない素材が使われていた。
「ふと思ったんだけと、あれってこの間の獣の毛に似てなかった?」
「…なるほど、確かに似ているな。」
目を閉じていたトッドが静かに言った。
「もしあの装丁に獣が使われているなら、本の内容も信憑性が増す。」
「なんにせよ、早く山小屋を見つけたいな。ここよりはゆっくり眠れるはずだ。」
そう言ってレイは目を閉じた。
太陽はすでに真上だ。最近は昼頃になってようやく行動を開始するようになっていた。そこから三時間ほど歩いただろうか。ようやく山小屋を発見した。三人は走って小屋に向かい、弾む息を整えながらノックした。
「はい。」
少しかすれた声と共に現れたのは、髪に白いものが混ざり、顔にシワのある男だった。
「えっ!」
思わず声を漏らしてしまった。そのような姿の人間を見るのは初めてだったからだ。
「どうやら、驚いているようだね。無理もない。まぁ入りなさい。」
すすめられるまま部屋に入る。思ったより片付いていた。男はマッシュと名乗った。
「さて、何から話したらいいか。こんな時期に訪ねてくるということは、死について調べているな。」
「その通りです。」
「やはりな、まず言えるのは死が現れたのは私が知る限りでは二度目だ。君たちから何か質問は?」
三人は顔を見回した。知りたいことは沢山あったがレイには特に気になることがあった。
「あの、失礼だとは思いますが、その顔は…死の影響ですか?」
マッシュは少し笑って答えた。
「そうとも言えるし、違うとも言える。」
「どういうことです?」
「そうだな、我々の成長は大体二十年前後で終わり、後はそのままだ。だが、死が現れるとその先に向かうようになる。私のように。」
「でも、オレたちの村にも、この間寄った村にもあなたのような人はいませんでした。」
「だろうな、こうなった者はほとんど死んだだろうからな。」
「俺からも質問して構いませんか?」
トッドが口を開いた。もちろん、とマッシュが答えた。
「前回の死を覚えている人が村に一人もいませんでした。それは何故?」
「あぁ、簡単なことだ。皆死んだのさ。」
「どういうことです。死が現れたのは最近では?」
「訳が分からないと思う。実際私もはっきりと分かっている訳ではない。予想の話しだ。死が現れる前から死は存在していた。」
「何か根拠が?」
「ある。君たちにも心当たりがないか?誰が作ったか分からない建物や、何故か人が住んでいない家を見たことは?」
「…私たちの村の村長、最初の村長のはずなのに、知らない本が棚にあったって。」
「それだよ。恐らく前の村長がいたのだ。そして死んだ。」
「しかし、それが事実だとして何故覚えていないんですか?」
「分からない。何かの力が働いているのかもしれないな。…いきなり話しすぎたな。今日はもう遅い。続きは明日にしよう。」
三人は二階に案内され眠った。気になることは多かったが久しぶりに深い眠りに落ちた。