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決着

準備は早急に行われた。包丁棒の有効性が分かったことで追加で6本が作られた。戦いに参加するものはレイ達を含めて9人。元々大きな村でもなく、これまでの襲撃で犠牲になったものも多い。6人増えただけでも良しとしなくてはなるなかった。

「それで、どう戦う?」

大体の準備を整えた後、村長の家で話し合いが始まった。

「獣はおそらく残り四体。二人一組で相手をするのはどうでしょう?」

昨晩焼失した家の住人であるケンが戦いに参加してくれることとなっていた。村では一番足が速いらしい。

「少し力不足な気もしますが、こちらも数が少ないですからね。そういえば、昨日の火は何故?」

「実は、あれが突っ込んで来たとき慌ててランプを投げつけたんです。そしたらあんなことに。」

「なるほど、ランプは使えるかも知れませんね。」

火が有効なことは明らかであった。使えるものは何でも使いたい。

「でも、火なんて使ったらこっちも危ないんじゃないかな?」

サラが小声で言った。レイもその点については気になっていた。

「空き家に誘い込んで投げつけたら?」

「いや、難しいかもしれない。」

少し考えた後トッドが言った。

「これまでの様子を見ての予想だが、あいつら空き家には近づいていない。多分人の気配が分かるんだろう。誰かいなければ誘い込めない。」

場に沈黙が流れた。

「…とにかくランプは用意しておくことにして、メインは包丁棒、二人一組で対応。戦えない者は宿に集めてそこだけ三人で守るというのはどうかな?」

最後は村長がまとめてくれた。皆それに賛成し、襲撃に備えることになった。


村長の家から解散していくなか、最初に獣を目撃し生き残ったエレナがレイ達についていた。エレナも今回の戦いに参加してくれることになっていた。

「まさかエレナさんも参加してくれるとは思ってもいませんでした。でも、私は嬉しいです!」

サラは楽しそうに笑った。今回のメンバーに女性は二人だけだ、きっと不安だったのだろう。

「ありがとう。…あなたたちは教えてくれなかったけど、彼もあいつらにやられてたんでしょ。」

「それは…。」

「いいの。分かるから。今度は私がやる番だなって思ったの。」

エレナの表情からは、うまく感情が読み取れなかった。きっと複雑な思いなのだろう。

「夜が来たら頑張りましょう。」

エレナは笑った。


緊張が町を包んでいる。すでに宿に皆避難している。戦う9人は予定通り二人一組でそれぞれの家に散らばっている。

「今日で終わらせるぞ。」

「そうだな。オレもこんなことは何度もやりたくない。」

「そろそろ来るかな?」

明かりがついている家は四軒。月も雲に隠れ薄暗い。自分たちの呼吸音だけが聞こえてくる。その時、叫び声が聞こえた。獣の叫びだ。

「来た!」

どこかで戦いがはじまったらしい。しかしここからでは分からない。包丁棒を握る手に力がこもる。前回のように逃がす訳にはいかない。

「よし、こっちにも来た!やるぞ!」

一体が突撃してくるのが見えた。弱点は分かっている。胸のあたりだ。

「まずい、この位置では狙えないぞ!」

突進の態勢では弱点は隠されている。直接は狙えそうにない。

「レイ、サラ、二人同時に奴を突き刺してくれ!」

すでに獣は扉の直前に迫っていた。二人は返答する間もなく、突き刺した。瞬間、トッドが外に飛び出した。その勢いのまま、怯んだ獣の胸を突き刺した。獣は声をあげることもなく動かなくなった。

「トッド!すぐに戻れ!」

レイは腕を引っ張ってトッドを室内に戻した。

「やったの!?」

「…多分な、確実に弱点をさした。死なせたと思う。」

普段冷静なトッドも興奮し息が荒れている。

「他の所はどうだろう。上手くいっているといいが。」

「破られたぞぉ!」

外から声が聞こえた。

「今のは…村長か!まずいぞエレナさんもいる。」

「助けにいかなきゃ!」

「トッド、ここを頼む!」

「分かった。」

サラとレイは外に飛び出した。獣に刺さったままになっていた包丁棒を引き抜いていった。村長達が戦っていた家に着いた。他のメンバーも集まってきていた。戦いはうまくいっていたらしい。パリン、という何か割れる音が聞こえた。数秒後窓から炎が覗いた。

「ランプを使ったのか…」

火はだんだん強くなっていく。二人は出てこない。その時二階の窓を割って獣が飛び出してきた。体には火がつき、何ヵ所か刺されている。すでに立ち上がる力は残っていない。こちらの勝利は明らかだった。

「…助けに、行かないと。」

「もう、手遅れだ。」

この炎、そして獣が生きていたこと。恐らく二人は最後の手段でランプを使ったのだろう。

「これで、すべて終わったんだな。」

村の西側の家で戦っていた男が言った。これまでの戦いで何人がやられたのだろうか。最後の戦いで更に二人が倒れた。はっきりと喜ぶことはできなかった。

「何か来ます!」

サラの言葉に暗闇に目を凝らす。今までの獣より一際大きなものがこちらに突っ込んでくる。包丁棒を構える隙もなく目の前で獣が跳躍した。

「あぁぁぁ!」

レイは叫びながら獣と共にその場に倒れた。

「レイ!」

獣の首からは包丁棒が貫通して見えた。まったくの偶然であったが、飛び付いた獣に包丁棒があたりその勢いのまま貫通したのだろう。レイは何とか下から這い出した。恐怖で足が震えていた。この三度の襲撃で自分が直接狙われたのははじめてだった。このときになってようやく、自分の目前にも死があったことを自覚した。

「こいつ、他より大きい。多分これがリーダーだったんだ。…今度こそ終わりだ。」


戦いが終わり三日たった。その間襲撃はなく、やはり戦いは終わったようだった。レイたちもこの村を出ることに決めた。

「君たちはこれからどうするんだ?」

ケンが見送りに来てくれていた。この三日間で少し仲良くなっていた。

「まだ決めていませんが、もう少し死について探るつもりです。今回の事で分かったこともありますから。」

「そうか、ならこの先にある山小屋を探すといい。」

「山小屋ですか?」

「ああ、前村長が言っていたんだ。山小屋に他とは違う人が住んでいると。俺は会ったことがないが何か知っているかも。」

「分かりました。探してみます。」

「…気をつけてな。」

「また会いましょう。」

別れをすませ三人は村を出た。ひとまず山小屋を目指すという目的ができた。この先も何が起こるか分からない。三人は包丁棒を携え歩きはじめた。


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