表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

反撃

「どういうことだ?」

「つまりオレたちだってあいつらに死を与える…、言いにくいな。そうだな…死なすことができるんじゃないかと思うんだ。」

「なるほど、しかしどうやってだ?死の条件が何なのか分からないぞ。」

「それは、まぁな。」

今までみてきた例は、特に共通点のようなものはなかった。何が死に直結するのか。

「私の考えだけど…。」

静かに聞いていたサラが遠慮がちに口を開いた。

「たくさん血を出すこととか、体が大きく傷つくことが関係してるんじゃないかな?」

「なるほど、この前の鹿、男には共通しているな。可能性はあるか。」

「となると、どうやって傷つけるかだ。」

自分の三倍はある獣だ。素手でやりあうのは不可能だろう。

「石で叩くとか?」

「それはまずいな、近づけばやられる。それに大きな傷はつけれないだろう。」

今晩もやつらの襲撃があるとすれば、時間はあまり残されていない。即興でもいいから何か用意しなくてはならない。

「例えば、包丁ならあの体をきれるだろうか?」

包丁で動物を切ったことはない。レイだけでなく、この世界のすべての人がそうだろう。だが野菜がきれるのだ。動物も切れるのではないか?

「どうだろう、大きな傷になるか?いや、突き刺せばあるいは、しかし長さが…」

トッドはぶつぶつと考え出した。しばらくすると結論が出たようだった。

「木の枝に包丁を縛りつけて長くすれば、やれるかもしれない。」

早速製作に取りかかった。一時間もかからずにそれは完成した。

「上手くいくかな…。」

「練習のしようがない。やってみるしかないな。」

「なぁトッド、今思ったんだけどやっぱり危険だ。相手は集団だ。一匹相手しているうちに他のにやられるぞ。」

「俺もそれは考えた。要するに体を外に出さなければいい。あいつらが扉に体当たりしてきたところを扉の穴から狙おう。失敗しても封鎖する余裕はあるはずだ。」

「なるほど。」

「村の人には教えないの?」

「…実はこれを作っているときに何人かにはなした。」

「どうだった?」

「ダメだ。まぁ、昨日の今日だ無理もない。守りを固めた方が確実だからな。」

「あと少しで夜が来るね…。」

宿屋の主人は自分の部屋に鍵をかけて閉じ籠っている。多分何があっても出てこないだろう。

「やるしかないな。」

三人は覚悟を決めた。


夜がきた。月は出ているが、村の家々に明かりが灯っていないためか暗い。皆物音一つ立てずに過ごしている。

「…来たぞ。」

闇に紛れて獣が入ってきた。やはり集団だ。昨晩と同じく五体いる。

「こっちに来るかな。」

サラは少し震えていた。レイもトッドも内心恐怖していた。一歩間違えれば死はこちらに襲いかかる。しかしやらなければならなかった。

「今明かりがついているのはここだけだ。来るなら最初だろう。」

トッドの予想通り一体がこちらに近づいてくる。襲いかかる時奴らは一体で来る。それで十分だと思っているのだろう。

「いいか、レイ、サラ。合図したら一気につき出すぞ。」

二人は静かに頷いた。トッドは窓から様子を見ている。昼に作った道具、三人はこれを包丁棒と安直に名付けていた。それを扉の隙間にセットしている。つき出せば獣にあたるはずである。

「今だ!」

包丁棒は勢いよくつき出された。何かに当たった手応えがあった。その瞬間、耳を突き刺すような絶叫が上がった。獣の叫びだ。その音に膝が震えた。

「どうだ、トッド!」

「ダメだ、動いている!…いや、逃げていくぞ、効果ありだ!」

引き戻した包丁棒には赤黒いものが付いていた。獣の血だろう。

「やったね二人とも!大成功だよ!」

上手くいった安心感と達成感で、三人は興奮していた。

「あと四体だ、何とかなるかもしれないぞ。」

その時、破裂音と共に周囲が明るくなった。窓の外を見ると家が一軒燃えていた。その炎を嫌ってか獣が森に戻っていった。

「終わったのか?」

レイは突然の出来事に呆気にとられていた。

「それよりは火を消さないと!」

これにはさすがに村の人々も協力してくれた。延焼を恐れたのかもしれない。消火には一時間ほどかかった。家は結局全焼した。住人はかろうじて逃げ出せていたようだ、二階にいたのが救いだった。問題はもう一つの方だった。獣が一体取り残されていた。全身が焼け焦げているが呼吸をしている。こちらに襲いかかる力はすでにないようだった。村の人々の憎々しげな目が向けられている。

「レイ、包丁棒を持ってきてくれ。」

「何故?」

「こいつで試す。死なせる方法を。」

トッドの目は本気であった。実際それは今後のために必要であろう。レイにもそれは理解できた。言われた通り持ってきたものの何故か心苦しいものを感じた。

「ありがとう、それじゃあいくぞ。」

そういうとトッドは両手で包丁棒を握りしめ獣に突き立てていく。足を指し、腹をさした。まだ動いていた。サラはその状況に耐えられなくなったのか、離れていった。村の人々も何人かが嘔吐した。トッドの額には汗が滲み、その顔は青ざめていた。トッドだけにやらせる訳にはいかない、そう思った。

「代わるぞ。」

「…きついぞ。」

何も言わずトッドから包丁棒を受けとる。そして突き刺した。その瞬間レイを今まで感じたことのない嫌悪感が襲った。扉越しに突き刺した時には感じなかったものだ、吐きそうになるのをこらえながら胸の辺りを突き刺した。獣は低いうなり声を上げ、動かなくなった。

「終わったな。」

レイは包丁棒を引き抜き放り投げた。村人がどよめいている。対抗策が見つかった今、村人も閉じ籠ることをやめることにしたようだ。

「すまないレイ、一番きついところを任せてしまったのかもしれない。」

「いいんだ、いつもトッドに任せてちゃ格好つかないからな。」

フッと気取った笑いをしながら言った。トッドもそれに応えるように笑った。

「ごめんなさい、私何もできなかった。」

サラが小さな声で言った。誰も責めることはできない。こんなことは普通耐えれたものではない。トッドもレイも引けなくなったからやっただけなのかもしれない。

「気にしなくていいさ、それよりやつらの弱点が分かった。火と胸の辺りを刺すことが有効らしい。作戦を立てよう。」

「それなら我々も協力させてほしい。」

村長だった。数人の村人も残っていた。

「すまなかった、隠れているだけでは駄目だとようやく気づいた。図々しいとは思うが一緒にやらせてほしい。」

村長は深々と頭を下げた。かえってこちらが申し訳なくなるほどだった。

「謝らないでください。皆で協力して奴らを倒しましょう。」

おそらく明日も奴らは襲ってくる。こちらもこれ以上やられる訳にはいかない。

明日決着をつける。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ