襲撃
「どうする?出ていくか?」
「まぁ、ここにいてもできる事はない。少なくとも報告はした。俺たちがやるべき事はした。」
「…でもエレナさんはどうするの?」
「俺たちにできる事はない。」
「そんな…、レイはどう思う?」
「ごめん、オレもトッドに賛成かな。どうしようもない。この村にとってオレたちは異物だよ。」
無力感が三人に漂っていた。しかし元々は外の様子を知りたくてはじめた旅だ。人助けは目的ではないと納得するしかなかった。
宿に帰るとすでにエレナはいなかった。きっと自分の家に戻ったのだろう。三人はおとなしく荷物をまとめはじめた。サラは少し不満げだった。レイもこれが正解だとは思っていなかったが、仕方ないという思いの方が強かった。
「この村を出た後どうする?次の場所に行くか?それとも帰るか?」
「オレはもう少し続けたい。まだ、何も分かっていないようなものだからな。」
「私も続けたい。でもこの先もっと危ないこともあるのかな?」
「分からんが、可能性はあるな。まぁ俺も今帰るのは中途半端な気がするし、二人がいいなら続けたい。」
旅は続けることにした。疲れていた三人は、まだ日が沈みきっていなかったが眠りについた。
夜、静寂は再び悲鳴によって破られた。飛び起きた三人は、窓の外を見た。悲鳴の数が昨日より多い。月明かりによって照らされて状況が見えた。人の三倍はあるだろうか。赤黒い毛をまとった何かが人を襲っている。目視できるだけで五体はいる。
「助けなきゃ!」
今にも外に飛び出そうとするサラをトッドが引き留めた。
「待て!これはまずい!扉を塞げ!」
獣は体当たりで扉を破っていた。中にいた人を引きずり出している。
「机だ!机を押して扉を塞げ!」
近くにあった机をおもっいきり押して扉を塞いだ。直後、扉を激しく打ち付ける音が聞こえた。
全身から汗が吹き出した。破られたら終わりだ。直感で分かった。最早外のことを気にする余裕はなかった。部屋にあるものでひたすら扉を塞いだ。
恐怖は永遠に続くかと思われた。しかし実際はほんの数十分の出来事だったのだろう。窓を覗くと獣は一体もいなくなっていた。
「…終わった、のか?」
「どうだろう、もういないように見える…」
「村の人たちは?」
気になることは多くある。しかし外に出る勇気が湧いてこない。村人も同じなのだろう。一人も姿を見せない。結局外の状況を確認できたのは夜が明けてからだった。
「ひどいな。」
それが第一声だった。破られた扉、地面には血の跡が点々としている。何人かの村人が外に出てきている。その中には村長もいた。
「あれが、君たちの言っていた獣なのか?」
「この間ははっきりと姿を見た訳ではありませんが、おそらく。」
「それでは連れ去られた者達は…」
「…」
考えたくないことだった。三人の脳裏にズタズタになった男の姿が浮かんだ。
「何人、連れ去られたんですか?」
「七人だ。産まれたばかりの子もいる。」
「…俺たちはどうすれば。」
「昨日はああ言ったが今森を通るのは危険だろう。もっとも、ここも安全とは言えない。君たちで考えてくれ。」
それだけ言うと村長は去っていった。村を悲痛な空気が包んでいた。あちこちで泣き声が聞こえる。耐えきれなくなった三人は宿に戻った。
「外に出るのも、この村にいるのも、どっちも危険なのか…」
力なくトッドが言った。
「…今晩もあいつら来るだろうか?」
「二日連続で来ている。今日来てもおかしくない。」
「また誰かが連れ去られるの?」
「分からない、それに俺たちに他人の心配をする余裕はないだろう。」
「このままやられてばかりで終わるのか?」
「それ以外どうしようもないだろ。」
「いや、実はこの間考えたことがあるんだ。」
「何?」
レイがそれを考えたのは、森の中で血まみれの鹿を見た時が最初だ。その考えはこの二日間で確信に変わっていた。
「オレたちも、あいつらに死を与えることができるんじゃないか?」