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始まりの朝

異変がいつから起こっていたのか、誰にも分からない。初めに気づいたのは、一人の男が眠りから覚めずその身体が徐々に崩れ始めたとき。そして何人かが、草木から色が失われつつあることに気づいた。

村を恐怖が襲っていた。男が動かなくなってから更に数人同じ現象に襲われた。木から落ちた者、川で溺れたもの、ただ眠っていただけの者、区別なく異常に襲われた。人々は部屋から出ることを恐れるようになった。この状況に耐えられなくなった者たちは解決策を探るため、村の外れにある村長の家に集まった。村長はこの村で最も長く暮らしている男であり、その信頼は厚い。今回の異常にも早い段階で気づき調査をしていた。

「村長、何か分かりましたか?」

村長宅に集まってから数分、気まずい沈黙が続いていたがレイの言葉によってようやく破られた。この場には村長を除いて5人が集まっており、レイはその中では最も若い。

「分かったことは少ない。ただ、ある本を見つけた。」

そういうと村長は部屋のすみにある棚から一冊の本を取り出した。それほど厚い本ではない。見たこともない素材で装丁されているが、埃がつき汚れている。皆の視線が本に集まった。

「この現象は-死-であるとここには書かれている。」

初めて聞く言葉であった。集まった時と同じような沈黙が部屋を包みだしていた。その時間は長く続くかと思われたが、トッドの落ち着いた声によって話が再開されることになった。トッドはレイの友人であり、村長の家に集まることを提案したのも彼だ。今回の異変に対しても怯える様子は見せなかった冷静な男である。

「この本によると過去にも同じ現象が世界を襲ったことがあるようだ。人は動かなくなり、草木は失われていくとある。」

「解決方法はないのですか。」

「ここには書かれていないが多くの犠牲をだし、気がつくと治まっていたようだ。」

なんだそれは、という言葉を皆飲み込んでいるようだった。それだけでは何の意味もない情報である。

「一つ疑問なのですが…」

遠慮がちに声を出したのはサラだった。レイ、トッド、サラの三人は生まれた日が近く仲の良い三人組だ。

「その本は誰が書いたのでしょうか?」

「…いや、分からない。本棚にあったのを最近見つけたのだ。」

「村長の本ではないということですか?」

「多分違うと思う。」

「前の村長の物でしょうか?」

「いや、前の村長というのはいない。私が最初だ。」

「え?」

再び会話のない時間が訪れた。レイたち三人組より長くこの村で暮らしている二人は確かに村長は他にはいなかったはずだと話している。村長は難しい顔で本をめくっている。しかしその本が誰の物なのか分かっていないし誰が書いたのかも分からない。そんなものの内容を信じて良いのか分からなかった。

「一つ気になる記述がある。ここには死は解き放たれた、と書いてある。それならば封じ込めることができるのかもしれない。」

「どこから解き放たれたのでしょうか?」

「…すまない、書かれていない。」

それ以上話は続かなかった。


「どう思う?」

村長の家を出た後三人組は村の広場に座って話をしていた。いつもなら賑わっているこの場所も今は静かだ。

「誘った俺が言うのもなんだけど、分かったことは多くないな。」

「死、っていってたけど本当なのかな…」

「分からない。ただ今起きていることと同じ事がかかれていたことは確かだな。」

とは言ったもののレイ自身、半信半疑ではある。本の出自にも謎が多い。

「トッドはあの本のことどう思う。」

こういった場合トッドの意見が一番頼りになるとサラは思っていた。

「本の内容が本物だとして、死のことを誰も知らないのは何故だ?過去にも起きたのなら覚えていないのは変だろ。知ってる者は皆村を出てしまったのか?あり得ないように思う。」

「…このまま続いたらどうなるのかな。」

「草木がなくなっていくとすれば食べ物がなくなるな。あの本が本当なら、それは大きな死を呼ぶらしいが。」

「結局解決策も見つかっていない。このまま怯えているしかないのかよ。」

「また明日考えようよ。私は今日はもう休みたい。」

レイもトッドも同じ気持ちであった。明日集まる約束をして、そのまま解散し家に帰った。


「お帰りレイ、村長の所はどうだった?」

「いや、何も分からなかったよ。」

死については語らないことにした。怖がられるだけだと思ったからだ。

「そう、残念ね。」

「そうだ母さん、村長てずっとあの人なのかな?」

「?私が知ってるのはあの人だけだけど?」

そっかとだけいうと自分の部屋に戻って寝転がった。

(ということは村長がこの町で一番歳をとっているわけだ、じゃあ前回の死を知っている人はこの村にはいないのか。)

考え事が頭を駆け回っていた。しかし、答えを出すには情報が少なすぎる、他の村はどうなっているのだろうか。疲れてはいたのだが眠れなかった。日の昇る頃にはある程度決心がついていた。


「旅に出るですって!どうしてこんな時に?」

一晩考えた結果、やはり外の事が気になった。その気持ちを抑えることができなかった。

「このまま怯えているのが嫌になったんだよ、心配なのは分かるけど。」

「当たり前でしょ、お父さんも何か言ってよ。」

父は一息つくと部屋の外に出て行き、袋を持って戻ってきた。

「…もし本気ならこれを持っていくといい。旅に必要なものは入っている。」

「ちょっと、どうして止めないのよ、レイはまだ成長も終わってないのよ。」

確かに成長は終わっていなかった。人間は大体20年ほど成長を続けそれが終わると姿を変えることはなくなる。だから成長が終わることは一人前の証とされている。

「もうじき終わるさ、その前に経験を積むのも悪くない。危なくなったら帰ってくればいいさ。」

「今の状況で安全な場所なんてあるの!」

「母さんの気持ちも分かるよ。もし無理そうならすぐ帰ってくる。どうしても外の様子が気になるんだ。」

「…これだけ止めても駄目なのね。いいよ。行きなさい。ちゃんと帰ってきてね。」

涙ぐんだ母を見ると心が痛んだか決心は揺るがなかった。むしろ強くなった気がした。理由は分からなかったが。サラとトッドにも伝えておかなくてはと思った。


約束通り広場に行くと二人はすでに座っていた。

「遅かったなレイ、実は言わなくちゃならないことが、」

そこまで言うとトッドはレイの持つ袋に視線を移した。

「なんだ、もしかしてお前もなのか?」

見るとトッドも袋を抱えている、いやサラもだ。

「まさか二人もか!」

「多分そのまさかだ、俺も驚いたよ。」

「トッドはいいとしてサラは大丈夫なのか?両親も反対したろ。」

「昨日帰ってすぐ相談したら怒られたけど、今朝になったら許してくれたの。」

照れくさそうに笑いながらサラがいった。帰ってすぐと言うことは、かなり早い段階で決心していたということらしい。見かけ以上に勇気があるのかもしれない。

「村を出てまずどうする、レイ?」

トッドが立ち上がりながら言った。もう出発するつもりらしい。

「近くの村を訪ねよう、状況を確かめたい。サラもそれでいい?」

「いいよ。誰かがついてきてくれるだけで嬉しい!」

「じゃあこそこそ向かうとしようか。死に見つからないようにな。」

村を出て一度だけ振り返った。解決策を見つけて帰ると心の中で宣言した。


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