両親の知人
一方で、教室を飛び出した悠也はいつもの帰り道を歩いていた。
両親が亡くなってからは1人で行動することが多くなった悠也。自分でも分かってはいるのだ、いつまでもこんな風に腐っていては駄目だと。だけど、未だに心はあの日から動いてくれない。
それと同時に悠也には、頭に引っかかっている事があった。両親が残した言葉と例の腕輪だ。父から譲り受けた形見のそれは、両親が言った通り肌身離さず付けたまま左手首にしている。
悠也はブレスレットをしている左腕を自分の目の前に持ってきて見回してみたが、特徴的な形をしているだけで普通のブレスレットにしか見えず、何か特別な力があるようには見えない。
「……いったい、コレに何の力があるんだ それに、聞き取れなかった言葉…… なんか関係があるのか……?」
2人が話して居る時、聞き取る事が出来なかった父-龍一が言っていたこの部分……
【 ホントにな…… 結局は縛られる 〟 〝の因果は…… 相当に…… 深い…… 】
因果とは何だ。そして、それに関係して色々起こると言う事はどういう事なのか。両親の死はただの事故じゃ無かったのか。悠也には分からない事だらけだ。だけど、両親たちが言った事はまだ悠也の身には起こっていない。本当にそんな事が起こるのだろうか、両親の杞憂だったのではないかとさえ思えてくる。だったら、あれはやっぱり不運な事故だったという事で……
そんな事をつらつら考えていたら、自分のマンションに繋がる脇道がみえた。悠也がそこを通り過ぎようとした時だった。
『ねぇキミ、もしかして龍一君の息子さん?』
反対側の脇道から女性の声に呼び止められた。悠也が横に顔だけ向けると腰まである赤茶色の長い髪に緩くパーマをかけ、派手目なメイクをした、モデル体型のキレイな女性が立っていた。寒空にもかかわらず丈の短いファーの付いたトレンチコートの下には、同じような丈の短い赤のミニスカート。そこからはスラっとした素足が伸びており靴は黒のショートブーツ。肩には赤色のチェーンバックを持っている。
「……アンタ、誰? 俺、会った事ないんだけど なんで俺が息子だって分かった」
悠也には見覚えのない人物で、誰だとばかりに女性を睨み付けるが、女性は全く気にしてないのかニッコリ笑いながら悠也に近づいてくる。両手を胸の前で軽く振り、何もしませんよとアピールしている。
『あぁ、そんなに怖い顔しないでよ! 私、あなたのお父さん-龍一君の知り合いなの 前はちょこちょこあってたんだけど彼が結婚して忙しくなっちゃて会うことは無くなっちゃったんだけど 彼が亡くなったって知って葬儀には出たかったんだけど、仕事が立て込んでてこれなかったの……』
「それの、俺がその龍一の子供と分かる理由にはならないだろう」
にこやかに距離を縮めようとしてくる女性から、徐々に後退しながら一定の距離を保つ悠也。
『クスクス 確かにそれもそうね じゃあ、証拠を見せればいいのね?』
そういうとカバンから取り出したのは薄い紙のようなもので、悠也に差し出した。
そこには――
「これ…… 去年の……」
去年出した年賀状だった――
それには、両親と一緒に写った自分がプリントされている。
「そ 会っては無いけど、連絡は来てたのよ」
「そうだったんすね…… すんません……」
「い~いのよ 仕方ないもの ねぇ、時間あるなら少し話さない?」
「はい、大丈夫です」
「ホント! 良かった~! ありがとう!」
2人は、話せる場所に移動することにした。いくら両親の知り合いと言えど家の中に招くのには躊躇いがあった悠也は、マンションを通り過ぎた十字路の近くにある公園で話そうと、女性に持ち掛けた。女性は快く頷いてくれ、2人は移動するために歩き出した。
行き方を知らない人を案内する形になるので、悠也は女性の若干前を歩き先導する。
女性の名前は、火影マユムというらしい。
前を進む悠也には気付かなかった―― 女性の目が獲物を見るような目で自分を見ている事に――
そして、脇道に近いとはいえ、いつも人で賑わっている通りなのに人の声どころか物音一つしていないことに――
悠也は気づく事なく、女性の話してくれる父ー龍一の話に聞き入っていった――