遭遇
こうして、夕日が沈みゆく中で、秋はこの旅の中で初めて見る光景を目にした。
『秋のおかげで今日中にここまでこれたわ———ここが山岳地帯よ』
こうしてのノワールの背の上からでも分かるぐらいに大きく、そしてそこだけ大地の高度が高くなっていると錯覚してしまう程には横にもその景色が広がっていた。
岸壁や崖というわけではない。確かに山なりにはなっているが急勾配であることは間違いなく、無理をしてやっと登れるというレベルで急斜面であることはここからでも見て取れる。
そこは間違いなく雄大な自然を思わせる、生物として圧倒される景色がそこにはあった。
『ここに人は住んでいないはず。この山岳地帯に住めるのは私たちみたいな竜人族と一部の有翼族。そして身体能力の高い獣人族などがそれぞれ集落を作って暮らしているわ』
竜化したノワールからここの説明が聞こえてくる。同時に目的地が近いことを察していた。
『さあ、いよいよ明日からは山岳地帯へと入れるわ。秋のおかげよ———そろそろ準備をしておいてくれると助かるわ』
こうして今日は山岳地帯と森林の間で野宿となった。
◇
3日目の夜となるとやはり少しは慣れる物で、言葉を交わさずともキャンプの準備を始めた。夕飯も少し豪華に、英気を養うという目的の元でノワールの手によって振る舞われ、もう完全に自然は夜の姿になった。
秋はここに一日目と同じ光と闇の二つの魔術を設置し、その上で『真魔群剣:イヴェルダント』を配置。以降は魔物を自動で迎撃、複雑な状況にはアルタが操作を代わって臨機応変に対応するように設定して就寝の準備を終わらせていた。
そして今日、いよいよ明日にでも邪龍が住まう場所に向かう。なので秋は自身の戦力を再確認していた。
「アルタ。今日のスキルの収穫はどうだ?」
(はい。前回800種。1500の構成要素が獲得出来ていると説明いたしましたが、今回の生成により950種。2000の構成要素が取得できました。ですがマスターの召喚系スキルに合う構成要素は存在しなかったかと…最も私の推測では、です。確実ではありません)
アルタは秋のスキルを全て理解できるわけではないが、ある程度の予測を説明することはできる。今回の予測では全てがアルタが世界に存在すると当たりをつけた構成要素しか手に入らず、秋の求めるスキルの材料を得られたわけではないと判断したためマスターである秋にこうして説明したのだ。
「そうか……分かった。ありがとうアルタ」
(こちらこそ事実を伝えられず、申し訳ありません)
秋はアルタとの会話を一度止めると、少し自分の中でも考えた。もちろん秋のスキルは一級品。万能の敵に通ずる圧倒的な力という名の暴力が常識外の所から襲ってくる。だが相手は『邪龍』と呼ばれ、最強の種の一角である竜人族にも古代から恐れられるもの。用意は必要だろうと考えたのだ。
(今取れる手は…前と変わらずか、魔剣創造・魔術を主戦力として、緊急時には『最終王化』、守りは『メーベル=ブルームの皇盾』をフルで展開……まあ、いつも通りと言えば変わりはないか。だが今回は迷宮の様な魔剣を生産しての討伐は、相手があまりにも未知数だという事と時間がないことからとることが出来なかった…)
迷宮との戦いは正確には生物ではなかった。動くことも迷宮自体が襲う事もなかった。迎えてくる敵を討つのみの迷宮では、トライ&エラーを繰り返すことで攻略が可能だった。
だが邪龍ではそんなゲームブレイカーな手法はとれない。自分の身を削って倒しきるしかない。だからこそできることと言えば———
(今自分ができること……毒を霧にして放つ邪龍。か…)
こうして秋は邪龍の特性から対策を予想し、ある程度対応できる様にシミュレーションを回しておく。こうして秋の夜は終わった。
◇
4日目。秋はさっそくノワールの背に乗り、山岳地帯を進み始めた。
景色は打って変わって岩肌と魔物が肉眼で確認できた。4本足と大きな角を持つ羊の様な魔物。岩の様にゴツゴツとした、人型でありながら4本の足を持つ巨人など。様々な魔物が確認できた。最も肝心の集落は一つも見えないが、
『ほかの集落はこの山岳地帯の奥にあるわ。この辺りは魔物が多く住処としているところね』
とノワールから説明が入ったので、秋は少し気持ちを抑えつつ周りを見ていた。
無論スキルの創造は続いており、を15万残して残りの15万をスキル創造に回している。魔力の回復効率は少し落ちるが、ノワールの補助を行える魔術の行使や戦闘になってもおかしくない為の措置だ。
秋は邪龍だけを敵とは見ていない。ノワールが竜人族という者の強さを見せつけたからこそ、秋は警戒していた。敵はこの辺りの魔物や邪龍だけでなく、集落の竜人族や辺りに住まう獣人族との衝突も警戒しているためだ。
『ああっ!集落が見えたわ!……この集落がここってことは…、私たちの集落までは、昼過ぎ頃にはつけるはずよ!準備しておいて!秋!リア!』
そうしている間に、初めての集落が見えてきた。茅葺の様な屋根がぽつぽつと見え、そこには耳のついた人たちが生活しているのが見えた。ノワールの説明だと、この集落は狼人という獣人の一種が暮らす集落との事。狼人は戦闘力も高く、この辺りの魔物を狩って生活しているとのこと。
そしてこの集落が南の先端に近い集落だという事から、北の先端にあるノワールの集落までは、約3時間ほどで到着と言われた。
(アルタ。いざという時は戦闘態勢で、『真魔群剣:イヴェルダント』の使用を許可しておく。なんかあったら頼むぞ)
(イエス・マスター。この身に変えてもお守りいたします———それと、リア様との連絡手段を確保したくございます。私の能力【魂世界の総統者】にて、『念話』のスキルを作成しリア様との連絡を図ってもよろしいですか?)
(ああ、頼む)
こうして秋の許可により、アルタが念話機能を持つスキルを作成する。こうして作られたのがこれだ。
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念話
頭の中に念を送る事で、対象と距離を超えた連絡が可能になるスキル。
対象の距離は1000kmまで、一度対象に設定する際には目視での設定が必要になる。二度目は不要、頭の中に思い浮かべるだけで念を送ることができる。
・双方向
念を受信する受け手側も、念を送り手側に返すことが出来る。なお送り手側が念を送った後にしばらくすると能力の発動が止まる。
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文句のないスキルをアルタが創造したのを確認した後に、秋はアルタに命令し『念話』のスキルを使用させた。対象はもちろんリアだ。
(あーあー、リア?———これは新しく作ったスキルで、『念話』だ。今ノワールの集落に付く前にこちらだけで連絡を取っておきたいと思って交信している。顔には出さないでくれ。一応用心の一つとして、敵は邪龍だけじゃなく、ノワールの集落の竜人なども状況によっては敵になると考えている。一応で申し訳ないが警戒はしておいてくれ、なるべく分断されないように近くにいておいてくれ、何かあったら細かくこちらから連絡する。俺の身に何かがあった場合は、俺の代わりにアルタが状況を伝える手はずだ———今なら返信できる。頭の中に念を思い浮かべて俺に送ってみてくれ)
(—————ゅう?…秋?)
(リア、つながったぞ)
(……秋、全て了解。何かあったら伝えて、こっちも備える)
(よし、じゃあ頼んだぞ)
(ん。)
こうしてリアと秋の念話は終了し、時刻は丁度昼を迎えようとしていた。
空からは複数個の集落がポツポツとあるのが確認できており、複数の人族がそれぞれ暮らしている生活圏に入っている事を意味していた。
『もうすぐよ!もうすぐ着くわ————』
少しテンションの上がっているノワールを尻目に、邪龍討伐の第一歩がようやく動き出そうとしていた。
こうして昼を過ぎ、秋とリアが非常食を食べて昼食を済ませた後、臨戦態勢を整えるべく戦いの準備を進めて待つ。
そして準備を済ませて約一時間後
こうして事態が動き出したのは、秋の目の前に飛来してきた2匹の、まるでノワールの様な姿形をした竜の姿だった——————。
お読みいただきありがとうございます。
カクヨムでは5話先行公開しております。
お時間ありましたら是非読んでいただけると幸いです。




