解離
秋の世界での二時間は、現実世界の二時間ではない。心象世界と現実世界という、物質の有無という点において、物質に流れている時間に縛られることなくその世界にいることが出来る。昔にゼウスの神界にいたときには二時間が3分もかからないくらいに時間が圧縮されていたが、新しい世界になった今は分からない。
そしてそんな現実世界で、リアとノワールだけになった。これはある意味初めての事だった。
『……秋は、大丈夫なの?』
「ん、これはいつもの事。心配ない、すぐ戻ってくる」
『いつもの事…秋にとってはそうなの?』
「ん。これが秋の力の秘密」
秋はノワールに隠してなかったわけではないのだが、積極的に言う事もなかった。秋の力の源について、だがリアはノワールと今後邪龍討伐まで長い可能性があり、その上で隠し事を行って、事実を隠すために労力を使うぐらいなら、もういっその事事実を伝えた方がためになると判断し、ノワールにそのまま伝えることにした。
「秋は、スキルを創造できる。それが秋の力の源」
『え…………それは、本当なの…?』
この異世界に生きる者としては受け入れがたい事実だろう、ある者は秋を神として崇める程にこの言葉の破壊力はあるのだ。この世界においてスキルとは、技能以上の価値を持ち、人間には制御できない力なのだから。
それを制御できる秋は、まさしく神の様に見えても仕方ないのだ。
「もちろん、制約はある。簡単な物じゃない———けど、ノワールも見た。数々のスキルを使って、私たちを導いてくれたその力は、スキルの創造によるもの————ノワールが秋を見つけられた。始まりともいえるスタンビートもまた、根本はスキル創造によるもの」
『—————』
ノワールは少しの間沈黙した。何か考えているのかどうかは知らないが、それでもリアの言っていることは事実なのだと思い知らされた。
(ええ、そうよね……大規模なスタンビートを一人で壊滅させ、私の戦いをものともせず、私と稀有なスキルである契約のスキルで契約した後にも、また稀有な透明化のスキルを使った……明らかに異常なのはわかっていた…けど、まさかこれほどとは———)
「……信じられない?」
『————いえ、逆に信じられるわ、辻褄が合うもの。教えてくれてありがとうリア、けど、勝手に言ってしまって大丈夫なの?』
「ん、大丈夫。秋なら多分そう言うし、メリットの方が大きい———隠す努力よりも、ノワールの場合は打ち明けて協力してもらう方が良いと思った」
『そう、それなら良かったわ————』
こうして二人が喋っている間に少しだけ時間が過ぎた。だが秋が起きるのには、少しの時間で十分だったようだ。
◇
「ノワールに俺のスキル創造を教えた?ああ、構わないぞ———隠して隠すための努力をするより、今のノワールなら全部吐き出して協力してもらう方が建設的っぽそうだ」
「……ね?」
秋の言葉をリアが言い当て、嬉しそうに声色を上げて、少し崩れた声でそう言ったのを、ノワールは苦笑いを浮かべながら聞いていた。
『秋、貴方が嫌ならあれなんだけど———なんのスキルを作ってたの?』
「ああ、召喚系、っていえばわかるか?そういう感じのスキルを作ろうとしたんだが———まだ材料が足りない、俺の望むスキルを作るための材料が、だから今それが手に入るまで待ってるってわけだ」
『召喚系のスキルを作ろうとしたのは分かったけど、材料?がいるのね……』
「まあそこらへんの話は面倒だから省くがそういうもんだ。無からは何も作れないって事だよ。———で、その材料を集めるために魔力が必要なんだ。そのために少しだけ協力してくれないか?ノワール」
『え?』
こうして、竜化したノワールに秋の手が加えられることとなる……。
◇
今もなお飛行しているノワールは、協力も何もできないと思っていたが、どうやらその限りではないらしい、秋から話を聞いている限りだと“装備”してほしいとの事を説明していた。
「そう、俺が魔力回復を早めるある物をノワールに装備させて、それを使って俺の魔力を回復させようって事だ」
『ええ、それは分かったけど———どうやって?』
「ああ、それは今から“作る”所だ」
こうして秋はスキルを発動させる。そのスキルは【魔防具創造・帝】。そして作り出すのは、秋ではなくノワールの防具———もとい、身に付ける魔剣ショルダーだ。
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魔剣竜のチェストショルダー
竜に魔剣を持たせる者が、竜に負担なく自らの装備と竜を守るべく作り出した胴防具。同時に大量の収納を持たせており、最大25本の剣状の物が収納できるストレージとも一体化した防具。
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「ほれ、これだ」
秋の魔力が指向性を持って放出された後、魔力が形を形成し、そして全てが魔力によって再現された後に、微光と共に物質となって表れたのは革の様な防具にいくつもの魔剣収納用の収納機能がその革一面に取り付けられていた。そして端と端には留め金が用意されており、それを繋げると縦から見て円が一周するようになっている作りだ。
「これをノワールに付けてもらう」
『ええ、けど……小さすぎない?』
「大丈夫だ。これは自動伸縮機能があるから、所有者の形に合わせてくれる。つけても大丈夫か?」
『え、ええ…大丈夫だけど……どうやって————』
「ああ、大丈夫だ」
そう言い残すと、秋はノワールの背中に立ち、一言放つ。
「『翔り妖精の颯』」
そう言い放った後に、秋がノワールの背でジャンプした。
空気抵抗は秋を捉え、ノワールの背中から追い出して地面へと落とそうとする。
『秋!!!————』
ノワールが悲壮な叫びと共に心配の声を上げるが、返答は数秒後、ノワールの真横か帰ってきた。
「ああ、確かにすげえや、ノワールの前まで来ると空気抵抗が一気に減った。んでだノワール、取り付けても問題ないか?」
『—————貴方、空も飛べたのね……』
「え?ああ、まあそうだ。つけるぞ」
『……秋の異常っぷりを舐めてたわ…』
こうしてノワールに先ほどの革装備を取り付ける秋。そして取り付けた後にノワールの背に戻り、またおのずと作業を始めた。
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