或多は望む。
秋のアルタの導き通りにスキルを創造するべく立ち上がり、草原の方へと足を運ぶ。そして胡坐をかいて座ると、少しの間目を瞑った。
秋の意志を、波の様に広げているイメージ———それに呼応するように、ある星は光を強め、そして夜天を見上げる海からはシャボン玉の様な物が続々と現れ始めた。
「………ふぅ」
こうして息を整え、目を開ける秋。そこには確かに秋を主とした作業場の姿が映されている様に思えた。
「まずは……そうだな。魔物系の構成要素なんかはどうだ?」
こうして秋が指パッチンをする。指パッチンはただのイメージ、構成要素を思い浮かべるためのルーティンのようなものだが、それに合わせるようにシャボン玉がまた海から出てきては、砂浜へと近づいてくる。そしていつしか秋の周りへとふわふわ漂っていた。
「なるほど……とりあえずは————」
こうして秋は構成要素を取捨選択しつつ選び取る。今までにはできなかったことがこの世界ではできる。それを噛みしめながら秋は己のスキルの形を思い浮かべつつパズルのピースをはめていく。
そしてふと上を見る。夜天の世界は星の輝きがスキルのあるべき形やその先を教えてくれる。秋だけの世界。この海と夜天の世界は秋だけの世界だからこそ、秋にしか見えない景色がそこにはあった。
そして星の輝きを眺めつつ、海から素材を生み出す。あの輝く星の様に今から創造するスキルも輝けるよう—————。
こうして秋は構成要素を混ぜていく。【獣】【魔獣】【招集】【人智】【魔物】【空間】【支配】【交換】————様々な構成要素を無数に混ぜて、織りなす。
こうして秋は、体感で約2時間程スキル創造に没入していた。
◇
そして約2時間が経過した頃。秋は草原にその体を寝かせ身を預けていた。
そして秋の前には、まさに黄金や白金の光が交互に交わり放たれる玉が存在していた。間違いなく秋が作りたかったスキルそのものなのだろう。だが、
「完成しねぇ……」
そう、秋の望みはまだ高い。高すぎたのだ。
(マスター……申し訳ございません。まさかここまでのスキルを創造できる程に進化されていたとは……)
アルタの計算はマスターである秋にも行われていた。だがアルタの予想を秋は飛び越えた。だからこそ望みを叶える構成要素が存在しておらず、創造は難航を極めたのだ。
これに関しては先ほどのアルタの応急案も使えない。アルタは【魂世界の総統者】と自身の計算能力を駆使する事で秋が今だに持っていないまでも、この世界に存在するであろう構成要素に当たりをつけている。だからこそ先ほどの応急案が可能だったのだ。だからこそ秋には今ない要素でも、アルタが当たりをつけた要素なら設計図の後にアルタが組み立てられる。そう認識しての策だった。
だが秋が望むスキルは『アルタが存在するであろうと当たりをつけた要素』では創造できない。アルタの創造の範囲外にある構成要素を望んでいたのだ。それでは応急策も意味を成さない。設計図を秋が書いても、アルタには理解できない構成要素が含まれているのであればそれを作ることが出来ない。読めない文字で設計図を書いているのと一緒だ。
そしてそれを理解させられるほどに、秋が今作ろうとしているスキルは壮大でこの世界に大きく影響を及ぼすものだとアルタは理解したのだ。
(さすがはマスター、私が認識できない次元を認識し、そこに立ち向かっているとは…)
こうして寝そべりながら策を講じる秋に、クールビューティーな美女は笑みを零した。
◇
「アルタ、一応で申し訳ないがこの未完成スキルを預かっておいてはくれないか?」
「イエス・マイマスター」
「悪い。今日では完成しなさそうだ……完成しないと設計図にもならない。ままならないものだな。全く」
「いえいえ。マスターが成すべき事に、私はついていくのみです」
こうして秋から未完成スキルを受け取り、それらを保管する。同時に今の未完成スキルを鑑定する。結果は————
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◇魔物支配召喚LV3
LV30以下の魔物を支配して召喚する事ができる。魔力を使う事で召喚する事が出来、LVが大きければ大きいほどより大きな魔力を使う。召喚される魔物は全てイーシュテリアに存在する魔物でなくてはならない。
召喚する際にはその魔物に対して現在の人族が名付けている別称やその魔物の特徴などを思い浮かべることで召喚が成功する。また曖昧なイメージにより魔物の特徴が複数合致する場合には召喚出来ない。
◇魔物召喚LV1
LV80以下の魔物を召喚する事ができる。魔力を使う事で召喚する事が出来、LVが大きいほどより大きな魔力を使う。召喚される魔物は全てイーシュテリアに存在する魔物でなくてはならない。
召喚する際にはその魔物に対して現在の人族が名付けている別称やその魔物の特徴などを思い浮かべることで召喚が成功する。また曖昧なイメージにより魔物の特徴が複数合致する場合には召喚出来ない。
◇????
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※現在このスキルは使用不可能です
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「はい、確かに預かりました、マスター」
「ああ、ありがとう。じゃあ俺は戻る、後は任せた」
「イエス・マイマスター」
こうして秋は作りかけのスキルをアルタに預けて自身の世界から肉体へと帰っていった。
◇
秋を見送った後、アルタは秋が新しく作り上げた世界で、ただ一人立っていた。
(このスキルがあれば、順調に達成できるかもしれない—————)
“なぜ、アルタは秋に召喚系スキルを作成させたのか”。これには秋に語った目的より、アルタ独自の目的が存在していた。
(私は【スキル】。そう、私はスキル。肉体を持たないマスターを支えるには、もう一つの別の次元———今いるマスターの世界たる異世界イーシュタルテに、直接アクセスするための手段が存在しない———)
アルタの最大の弱点。それはスキルであること。万能すぎるアルタの能力は、ついには【スキル】という器でさえも小さく感じていた。いや、アルタの“マスターのお役に立ちたい”という、スキルにあるまじき人間の心の様なナニカが、スキルという器を小さく感じているのだ。
(私はこれまで、何度もトライしてきた。私をイーシュタルテにアクセスするための手段———【糸人形】は失敗だった。あれでは貴重なマスターの魔力を消費してしまう。それに燃費も決して悪いとは言えないが、いずれどこかで魔力が切れる。それでは私の望みは叶わない。)
アルタが昔に【魂世界の総統者】を用いて作成したスキル『至上で至高の糸人間』は、結果として失敗だった。理由はアルタが先ほどを呟いていた通り、マスターである秋の魔力を消費して発動する事と、いずれどこかで魔力が切れること。
(マスターのお手を1mmでも煩わせるなど論外故に、このスキルは失敗だ。間違いなく。だが————)
そう、アルタは自分を構成する体を作るという方向で考えを進めていたが、アプローチを変えたのだ。秋の支配する他の肉体を、アルタの管理に置くことでアルタがイーシュタルテに干渉するための依り代としようと。
(そう、それであればマスターにお手間をかける必要も存在しない。だからこそ、かんせいさせなければ、マスターと、私の為に)
こうしてアルタは行動を開始した。全てはあの召喚系スキルを完成させるために。
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