洋服
「ようこそお越しいただきました。今日はどのようなご用件で?」
秋とリアが昼食を食べ終わり、やってきたのは予定にもあった洋服店。大通りの外れにあった昼食を食べたお店からもう少し外れたところにある。静かな住宅街の中にたたずむ静かで落ち着いた洋服店に足を踏み入れていた。
「ああ、リアの服を何着か見繕ってもらいたい。予算は金貨2枚。俺たちは旅をしているから量や替えもいるんだが…足りるか?」
「ええ、大丈夫です。十分足りるでしょう、了解いたしました。それでは服の色や型など、何かご要望はございますか?」
かっちりとした服を着ている老紳士と、秋が話を進めていく。やはりそこは服屋というべきか、その服は現在の白シャツのようなものに茶色のベストを着た現代にいても十分通用するほどの穏やかな雰囲気を漂わせていた老人だった。
店の雰囲気としてはこれまた老紳士のセンスがいいのか、辺りにはもちろん服があふれているのだが、上下のセットで服が置いてあったりと、現代にもあったようなものも見られた。壁や内装は茶色だが、置かれている服の派手さや彩色の鮮やかさもあって、店として雰囲気を完全に調和させている店だと思わざるを得なかった。
「リア。あとは任せる」
「ん。じゃあ————」
リアと老紳士が話を進めていく。
「了解いたしました。それでは店員の案内の方へとお進みください。採寸等をさせていただきます」
「さあ、こちらに」
女の店員がリアの案内を始めたのを確認して、老人もお辞儀をして後ろにあるレジらしき場所へと戻っていった。男は案内室には入らないという老紳士らしい気の使い方なのだろうと秋は勝手に思いながら、自分の役目はこれまでだといわんばかりに壁の方によっては男性用の服を少し見て、そのあと壁にもたれて目を閉じた。
◇
「秋。これはどう?」
「ああ、いいと思うぞ」
ただ壁にもたれかかっているだけ———では、終わらなかった。
秋は失念していた。異世界でも女という生物は変わらないらしい。案の定店員にリアが入っていった案内室に呼ばれたと思ったら、いつの間にかリアファッションショーのただ一人の観客として呼ばれていた。強制的にだ。
(やっぱ、どこの世界でも女という種族は変わらないらしい…)
秋は心の中でその言葉を大事につぶやきながら、次のリアの服までただただ待機していた。こんなやり取りをかれこれ1時間もやっていたらそれは秋でも顔の一つやつれてもおかしくないのかもしれない。
「秋。これは?」
「ああ、いいと思うぞ」
「…秋。さっきから言葉がワンパターン」
「え?あ、いやいや。俺にはあまり服とかのセンスはないから、リアが決めてくれていいと思うぞ?」
「……………」
「え?リア?どうかしたのか?」
緊迫した状況。リアの服を片づけたり一緒にコーデを考えている女店員もこれには苦笑いだ。秋に逃げ場はない。心臓の音だけしか聞こえないこの状況に救いを与えるべく、一つの物音が木霊した。
「失礼ですがお客様。大丈夫でしょうか?入っても?」
「あ、ああ」
こうしてドアを開けて入ってきたのは老紳士。おそらくは店長だろう。
「おお!これはリア様、服のセンスも相まって美しいですな。しっかりと黒と白の対比をベースがしっかりとしており、シンプルな服の雰囲気がリア様の可憐さを更に際立たせておりますな、そう思うでしょう?」
「あ、ああ」
「ですがそろそろ私の店の方の服はほとんど着尽くしたころかと、かれこれ一時間は立ちましたかな、どうですかリア様?とりあえず一度その服を着替えて、一番お気に入りだった服を選んでもらうというのは」
「……ん。それでいい」
「それでは、あとは任せましたよ」
「はい!」
こうして女店員とリアは裏へと帰っていった。
「ありがとう。本当に助かった」
「いえいえ。こちらではよくあることです。なんせ男女で服を買って二時間もこの状態の者もおりましたので、慣れっこ。というやつですよ」
「それでも本当に助かったよ。俺は秋だ。よろしく頼む」
「ええ、分かりました秋様。ですが秋様には次の大事な役目が残っております。それは私目では手伝えますまい。私たちにできるのはここまでのお膳立てですよ」
「ああ、分かった」
「それでは、私はこれで、失礼いたしました」
こうしてリアが帰ってくる寸前で老紳士はドアから出ていった。瞬間にリアが帰ってくるのだからすごいものだと感心しながら、秋はリアにどの服がいいかを伝えた。
◇
「ではお会計ですが、金貨一枚と銀貨が6枚となっております」
「ああ、分かった」
結局秋が選んだのは最後にあったのは黒のスカートと白の対比が美しい。現代でいうならばゴスロリファッションというべきか、それを少しばかり異世界風かつ落ち着けた形にしたものだ。リアの金色の髪に黒と白の対比が一番映えたのだ。秋が一番に押したのはそのような理由がある。リアの持つ金色の髪には、ほかの色をかすませてしまうと思ったのだ。
そしてそれを聞いたリアが、この服のセットをあるだけ買うと言い出したので、結局のところ5着セットで金貨1枚と銀貨6枚。日本円にして1万6千という値段で購入した。現代では安いどころか破格のような値段な気もするが、異世界ではこれが相場なのだ。
「あああと、あそこにいる男性用のコーナーにあった、革カバンをくれないか?二つ頼む」
「ええ大丈夫ですが…あのカバンを加えた値段は金貨2枚と銀貨5枚となります。予算をオーバーしてしまいますが大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。あとはそうだな…ああ、俺の分の下着や服なんかも買いたい。予算の方は大丈夫だ」
「ええ、了解いたしました。サイズの方は一応4種ほど用意しております。合うのをお選びください」
「ああ、分かった」
こうして秋は自分の分の下着と大きい革カバンを手に入れることになった。革カバンの方は茶色の革に革のベルトが二つ付いており、それで開け閉めする、現代では中世にあった四角い革カバンがイメージとしては一番合っているだろう。
「それでは…金貨が2枚と銀貨が6枚となります」
「ああ、じゃあ金貨3枚で頼む。といっても釣りはいらない。俺を助けてくれたサービスの代金だ。あとはチップぐらいに考えてくれるとありがたい。まあもう少し豪快に渡せられれば良かったんだがな」
「………ほほ、そうでございますか。それではありがたく頂戴しておきます。次来た時には私の方も少しお値段の方、勉強させていただきましょう」
「それはいいことを聞いた。ありがとう」
「いえいえこちらこそ、ご購入誠にありがとうございました」
こうして秋と、まだ服を眺めて吟味を繰り返していたリアを呼び、買った革カバンに服を入れてもらい無事に店内を後にした。
◇
もうすっかり日は傾いており、日の色が白から橙色へと大きく変えた今の時間は、現代時間にして午後5時半といったところか。図書館での用事は時間を大きく使うと秋は判断して、今日は宿に戻ることにしたのだ。
「リア、服は本当にあれでよかったのか?」
「ん。秋が一番好きな服を着たかった。だからあれで満足。店員もすごく丁寧に色々と相談に乗ってくれたし、大満足」
「そうか…それはよかった」
大通りには昼頃の活気はなかったものの、人の通りは多く、その多くが住宅街に向かって動きを続けている。
「ま、とりあえず今日はいろいろなことがあったが…明日は、まず図書館か…」
秋は明日の予定を大まかに立てながら、宿へと帰宅していった。
◇
宿に戻って、夕食を食べ終わった直後といったところだろうか、宿での夕食は一人当たり銅貨5枚が必要だが、二人分として銀貨一枚を支払って夕食をいただいた。パンとビーフシチュー、あとはサラダといったメニューだったが、普通に食べられるおいしさといえた。パンが少し硬いが、そのためにシチューがあるのだろう。パンにつけて食べると十分柔らかく、肉のうまみやシチューの濃い味も相まっておいしくいただけた。
そして夕食を食べた後には、秋にはやりたいことがあったのだ。
「?…秋。何してるの」
「ん?ああ、俺のスキルは知ってるだろ?せっかくこうして一段落できたんだ。何か新しいスキルを作ったり、スキルの調整をしようと思ってな」
秋の夜は、もう少し続くらしい……
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