クラスメイト編第十六話『何かを成すという事は』
ふぅぅぅぅぅぅぅ………(二週間更新がストップしていたことを表す呼吸)
こうして、テラ・タイガーを打ち倒した棒術の勇者。吉鷹陽は倒れたテラ・タイガーの死体により、支給品の小型ナイフで毛皮を剥ぎ始めた。
「何をしているんだい?」
「え?まあ、せっかく倒したので、記念に取っておこうと思いまして」
「ああ。なるほどね。それなら確かにそうだ。剥ぎ取りの方法なんかは一応座学の方で叩き込まれているかい?」
「はい。まあ実践ではこれが初めてなんですけどね」
「その割には手際がいいじゃないか」
「教え方が良かったんじゃないんですかね?」
王城での座学では、王国の歴史や魔物の種類や習性なんかを叩き込まれる。異世界版の学び舎という意味では勇者たちは完全に学校みたいな暮らしをひたすらに過ごしていたのだ。
その中でも陽は特に、座学訓練ともに真面目に過ごしていた人間としての一人だろう。自らの糧とするべく、自らが生きるための知識。そういう意味では陽は真面目以上に学び鍛え、そしてこの世界にいち早く順応するべく動いている。
「終わったかい?」
「はい。無事に終わらせました」
「よしよし、初めにしてはよくできているじゃないか?これは売るのかい?」
「いや、せっかくですので置いておこうかと。記念というやつです」
勿論使用用途は違う。陽はそんな記念だとという無意味な事に力を使う事はしない。全ては紙の代わりとなる媒体であるテラ・タイガーの裏皮を用いるためなのだから。
「じゃあ、帰ろうか。今回はここまでだ」
「「「「はいっ!!!」」」」
こうして、本当の意味で第一回迷宮攻略が成功した。
◇
「魔法剣!!」
「魔法剣!!」
魔術を纏った剣が、2階層の弱い魔物に向かって放たれる。明らかなオーバーキル。それを引き起こしているのは間違いなく勇者の職業を受け取った優雅と、聖騎士の職業を受け取った雄介だ。
(やはり凄まじいな……あの二人の能力、職業。どれをとってもトップクラス。それでいてまだ発展途上の最中なのだから、本当に凄まじい…)
「さっきのあのトラよりかは弱いな……お前もそう思うだろ?雄介」
「ああ、まあな。だが俺たちも全ての魔物を一撃で葬ってるわけだし、敵の強さを本当に測れてはないのかもしれないがな」
「ああ…確かにそうだな。警戒して行かなくちゃな」
そういう優雅の言葉。だがガルは気づいている。その真剣み溢れる言葉の中に、若干の間の抜けたような感情。まるで本心から言っていない様な、少し現実を見ていない様な。そんな感情が覗けているようで。
(———ヨウの言葉が、心に突っかかる。ヨウの言葉が、やはり正しいのでと思いしらされているような)
ガルは一人、そう考えていた。確かに勇者パーティーの実力。成長速度は異常だ。今のままでも間違いなく、未来の魔王討伐の為の主軸となるパーティーであることが確約されていることだろう。
だが、戦いとは能力だけで決まるものではないことを知っている。騎士団長として、戦いのプロフェッショナルとしては、心根でその仕合が決まることがないわけではない。わずかな可能性。一瞬の硬直。それが確実な負け。最悪の結果。自らの生の否定ヘと繋がるのだ。僅か1%の欠片程の可能性ですら潰して戦に持ち込まないといけないのだ。
(————これから、育てていけるだろうか。私に、彼らが)
彼らの心は未熟と言えるだろう。それももしかしたら違うのかもしれない。もしかしたらこれからグッと育っていくのかもしれない。だがどうしても、ガルの不安は拭えなかった。
◇
陽の班は、10分程帰りの迷宮をさ迷い、そして入り口へと戻ってくることへと成功していた。帰ってくると勇者パーティーを除く他の班は全て帰還しており、残されていたのは勇者パーティーと陽の班だけだったようだ。
「じゃあ僕は報告に行ってくるよ。皆本当にお疲れ様。初めての事だろうけどよく頑張ったね。それじゃあ、また。お疲れ様だったね」
「「「「はい!!」」」」
こうして、陽の班の騎士アランは、班のメンバーなどの生存報告等をしに騎士の輪へと戻っていった。勇者たちも勇者たちで集まり、それぞれの感想などを集まっては話していた。
陽や俊平なんかも、その輪に交じってどんどんと話を進めていく。勇者たちが何をして、どんなことを成し遂げたのか、些細な事でも知っておきたい。そう思ってしまう陽は、間違いなくこの世界で一人で生き抜く覚悟を決めているという事だろう。何故なら、人を信用していないという意味が、その行動によって現れているのだから。
◇
勇者たちの会話は白熱していき、集団が寄っては分かれを繰り返し、何をしたかの情報が十分に溜まってきたところで、勇者パーティーが帰ってきた。
そして団長のガルが帰還するとすぐに、勇者たちは迷宮入り口前から宿場へと帰還する事となった。
そして、帰っている際にも陽は自身の確認を怠らない。だが変化を確認したのは、魔物との戦闘でステータスの変更点等を確認しようとしていたその時だった。
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吉鷹陽
15歳
学生
ステータス
筋力:1650
体力:1700
魔力:1350
魔耐:1290
俊敏:1540
スキル
・棒術
棒術派生「棒術:槍型」
棒術派生「棒術:剣型」
棒術派生「棒術:斧型」
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(———間違いなく、スキルの表記が増えている)
そう、陽のスキル欄に、『棒術派生』という文字と共に、新しいスキル能力と思われる三つの項目が追加されていたのだ。
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棒術:槍型
棒術の熟練度がある一定の指向性を突破した時に発現する派生スキル。その槍型。
槍術の型を棒術の応用型として用いる事が出来る。
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棒術:剣型
棒術の熟練度がある一定の指向性を突破した時に発現する派生スキル。その剣型。
剣術の型を棒術の応用型として用いる事が出来る。
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棒術:斧型
棒術の熟練度がある一定の指向性を突破した時に発現する派生スキル。その斧型。
斧術の型を棒術の応用型として用いる事が出来る。
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(仮説として、だが———俺が勇者たちの型を真似して振るっていたのが、“ある一定の指向性”って奴で、それがある程度まで溜まったから、こうしてスキルとして発現したって感じか?)
実際に正解である。だが陽には確実な正解なんて分からない為、それでも疑いながらスキルを何故入手できたのか。このスキルの能力は何なのかという思考を続ける。
(まあ書いてあることとしたら、棒術の型の延長線上として、槍・剣・斧の型も棒術の範疇として扱う事が出来るって事か?例えば、棒で突く。とか。棒で剣の様に振るう。とか。斧の様に振り下ろす。とかになるのか……いや、割と強いかもしれないな…)
(そして入手条件は…分かんねえな…。でも、剣。槍。斧。それぞれの武器が名前としてついてるなら、他の武器もいけるんじゃないのか?…例えば、槌。ハンマーとかは?…いや、行ける気がしねえなぁ…。後は、といっても特にはないのか。基本的に西洋がベースのこの世界に、そこまで武器の種類を求めるのも酷って話か…)
(でも俺がやっていたことが後天的なスキル入手の条件になるなら、やはり一番濃厚な線は勇者の型なんかを見様見真似でパクっては試したあの時だろう。後は基本的には素振りなんかや打ち合いしかしてないしな。やっぱその線が一番濃厚だろう、これは要検証といった感じになるだろうな)
(そして肝心なのはそのスキル能力の効果だ。どれだけ効果があるのか。これも要検証といった感じか。まあ、自分が強くなっているのなら、それは楽しみだ。)
こうして陽は、また一つ強くなっていくの感じていた。陽が強くなる。自分が強くなるという事は、この世界で生き残る確率としてわずかながらでも上がっているという事だ。それは喜ばしいことだ。秋との約束の為、また一歩前進したのだから。
◇
こうして宿舎まで帰ってきた勇者たち。帰ってきた勇者たちは各々違う動きをしながらそれぞれ部屋へと戻っていった。ラウンジで談笑を楽しむ者。不安を吐き心の安定を取り戻そうとするクラスメイト。それぞれが異世界の“勇者”という物の返礼を味わった事だろう。迷宮内で魔物という命を武器を以て殺すという初めての経験をしたのだ。いくら力ある若者とは言え心はまだ未成熟。それに現代ではありえない“敵を切る”“敵を殺す”という感覚を味わう事は、日本人として“あり得ない”と言える。それを体験しただけでも、精神的負担は計り知れない物となっていることだろう。
だがまだ陽にはやるべきことがある。今回ばかりはクラスの輪に入り会話を繰り返す陽で合っても、即座に部屋に戻り準備を進めるべく動き出した。
◇
「……ふう。」
部屋のドアを閉めて一息つく。ようやく人の眼から離されて少しばかり息を吐く。今まで続けてきた緊張の糸を少しだけ解き、次の作業へと繋げていく。
陽の物入れには確かに剥ぐことに成功したテラ・タイガーの裏皮。魔物の皮というのは獣臭さなども残る為、魔物の皮を紙にすることなんて普通はあり得ない。だがテラ・タイガーの裏皮の特性の一つとして、洗剤等で洗うと臭いがほとんど完璧に落ちる。それでいて縮まない。これが紙の代用品としてテラ・タイガーが広く用いられる理由だ。
「ああ、宿屋の人?実はさ、テラ・タイガーを狩ってきて、記念に皮を剥いだんだけど、洗いたくて。洗剤と水あります?自分でやるので」
「———ああ、はい。了解いたしました。では後で桶の方を渡しますので水は井戸の方でお願いいたします。洗剤の方は今から取り計らいますので、部屋の方でお待ちください。何号室ですか?」
「404号室です。よろしくお願いします」
「了解しました」
少しばかり宿屋の従業員も困惑を浮かべていたが、なんとか事務的に対応してくれた。テラ・タイガーを狩ってその皮を持っている事は、班のメンバーなら誰でも知っている。ならそのことを素直に伝えて行動した方が、後々になって行動の綻びというものがなくなる。こういうところもまた、今まで陽が積み重ねてきたものの一種だ。
「んじゃあ、あとはこちらでどうにかできるな」
こうして陽は、また部屋に戻っていった。
◇
陽は帰ってくると、桶と洗剤の到着を待つ。だが紙の代用品は入手できたとは言え、もう一つ大事な物がない。そう、筆。もしくはインクだ。
今回は筆を使うつもりはない、何故ならきれいな字を書こうとは思っておらず、多少汚くとも読めれば問題ないと判断しているからである。茉奈・夕美ペアに何を思われようとも、陽は作戦遂行に命を賭けているといっても過言ではないのだ。
そしてこれは絶対に必要になるであろうインク。これは代用品すら存在していない。だが陽にはたった一つだけ心当たりが存在していた。そう、たった一つ。
(使うしかないのか……自分の血を)
そう、血文字。最悪のケースを常に想像していた。だが最悪に取れる行動があるというだけで、陽にとっては良かった。だが、いざ使うとなると少しばかり後ろへと引いてしまう心がそこにはあった。
「あのー、言われた通りに桶と洗剤を持ってきました。大丈夫でしょうか?」
陽はドアを開けた。
「言われた通りに、洗剤は後で返してください。ここにいる従業員に返していただければ、大丈夫ですので」
「そうですか……あの、テラ・タイガーを紙に書き留めの様なものをしたいんですが、インクや、何か書ける物はありますかね?」
「———そうですね……すみません、インクは貴重な物でして…いくら勇者様の頼みでも、簡単に持ってくることはできないと思います」
「そうですか…有難うございます。無理を言ってしまい申し訳ありません」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
こうやって、どんどんと準備は進んでいく。
◇
陽は水を汲んで、桶に入れたまま部屋へと持ってきた後に、テラ・タイガーの毛皮を洗浄して何とか紙媒体としての役割を果たせるレベルでのものへと持ってくることに成功した。だが次のステップはついにこの裏皮に文字を書く工程。もしも仮にインクを乾かす時間を考えると、もうそこまで時間はない。
机には広げられたテラ・タイガーの裏皮と、支給品のナイフ。後は小さなコップの様な物に入った僅かばかりの水。
そして陽は息を飲みながら、ナイフに手をかけその刃部分を自らの左手指に充てた。
「いてぇ」
そうして、少しづつ血をそのコップの様な入れ物に入れながら、ゆっくりと水を混ぜて色を均一ヘと変えていく。そして均一なった紅のインクで、その紙媒体にこう記したのだ。
————仲岡秋の事で、伝えておかなければならない事がある。
知りたいなら、明日の早朝。裏手にある広場まで。
陽が初めて他者に『仲岡秋』の事を喋ろうとした。初めての出来事。それは確かに、わずかながらでも陽の周りを好転へと導くことになるはずだ。少なくとも陽には、確かな一歩の姿を夢見て、行動を起こしているのだから。
———にしてもこれ、間違いなく犯罪の匂いを醸し出しているなぁ…
陽がそう思ったことは、間違いないなくその通りだろう。
お読みいただきありがとうございます。




