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クラスメイト編第十話『舞台の最後を締めくくるには』

GWが終わり、また更新頻度が亀に戻りそうです…大変申し訳ありません…。




————あれから、また5日が経過した。





勇者たちは徐々にしっかりと訓練を積んでいる。打ち合いの成果で剣を振うのにも、スキルというシステムにアシストされる感覚にも慣れ、今では打ち合い式の訓練を積んでいる者の方が多いぐらいになった。


そして陽のルーティーンも変わっていない。訓練では勇者の振り方を棒術でも再現できるようにひたすら体に馴染ませる。そうして振り方に新しい要素が加わると、陽は効率の良い使い方をまた学習し思考する。そういった武術の成長を最も効率よく行っているのが勇者の中でも陽が断トツだ。


そしていざこうした訓練法が終わると同時に、騎士団長がいざと近づいてくるのだ。


「さあ。訓練は終わったかな?」

「……やっぱり、俺の訓練の仕方見てたんすね」

「―――ああ、当然だとも、少なくとも王国の騎士団の団長として素人の動きぐらいは見分けられる。そして君だけが少し違う動きをしていたものだからな。どうしても君に興味が湧いた。だからこうして初日から打ち合いをしているだろう?さあ来い!」

「………了解っす」


こうして、毎度の様に陽と騎士団長は打ち合いを始める。今現在では勇者メンバーの中でも騎士団長との打ち合いを望む者も多く、それらすべてに騎士団長は答えてくれている。そしてその内の一人として陽はいて、初日のように目立つ必要もなくなった。これは幸運といえるだろう。


そして打ち合いはいつもと同じ時刻に終わる。だが騎士団長相手に初日の10~15分とは違い、20~25分持たせられるようになったというのは、確かに成長を感じることができるのだろう。







「皆さん!聞いてください!」


そうして訓練が始まり、その熱気が少しずつ上がってきていたころ、それに水を差す声が一つ上がった。隣には勇者である天上優雅が立っていた。


「皆さんの勇者としての訓練、実に見事です!この国を、世界を守っていただこうという意志を感じることができます!皆様をお呼びだてした我々を代表して、心よりの礼を申し上げます!」


王女がゆっくりと頭を下げる。そしてそのころには誰も声を立ててはいなかった。


「そして!日頃の訓練の成果を見せるときが来ました!王城は皆様により良い訓練の場をご用意するべく、皆さまを『迷宮』へとご招待する事に決定いたしました!」


そして、迷宮という言葉のその意味と重さを考え、また新しい場所という言葉のインパクトからか、一斉にヒソヒソ声が上がった。


「迷宮。それは凶悪は魔物が出現する異界。ですが勇者の皆様方であれば余裕をもって訓練として励むことが出来ると、我々は考えております。そして万が一にも皆さまを危険な目に合わせない為、我々も最大限の配慮と準備を致します。安心して『迷宮』での訓練に励んでいただけると思います」


(ついに王国側は俺たちに魔物の殺しをさせるのか…)


陽はついに王国が動き始めたと考えていた。本格的に勇者としての訓練を積ませて魔王を討伐。もしくは大陸統一のための戦争の道具として使わせようと考えているだと悟った。


「迷宮への出発は明日となります。身支度の方は我々で全て行いますので、皆さまは安心して明日に備えてください!」


こうして、王女がまた一例して後ろに下がる。すると前に出てきたのは優雅だった。


「皆!ここで迷宮に行って、さらなる訓練を積んだら、きっと僕たちは今以上に強くなれる!だからさ、行ってみないか!?迷宮に!」


そして、その言葉を皮切りにクラスメイト達が同調。舞台は完全に明日の迷宮攻略ムードになっていった。


「うおおおお!!!」

「もっと強くなれるのなら…アリだな!」

「皆でなら強くなれる!」


そんな熱気に包まて行く。だが陽はそんな熱い空気とは裏腹に、冷徹で非情な王女の策略を疑っていた。


(あの王女…いつ気が付いたんだ?それにいつ手を出していた?…クソ、分かんねえな、奴ら俺たち日本人の事理解しすぎなんじゃないのか…)


日本人の特性。それは群れる事だと陽は前に秋と話したことがある。そして陽もまたその意見に共感し秋と話していたことを思い出していたのだ。


(群れにはリーダーがいる。この群れのリーダーは認めたくはないが優雅だろう。そして王女はそれを見破り隣に着け、そして勇者である優雅に好印象を持たれている。優雅に気が付かない間に策略の道具にされている……ホント嫌な奴だ。おかげに頭も回る。クソ、完全に目を点けられたら終わりみたいな感じの王女様じゃねえかよ…一筋縄じゃ、いかねえか)


王女の動き。その迅速さ、何よりこの行動に至った経緯。この状況。陽の思考はさらに加速していく。


(でも動きとして実際早すぎやしないのか……王女が化け物だった。で片づけていいのか?気づいた要因があるはずだ…何か…何か…。例えば普段の動向。あのラウンジを監視されている。出会える場所はある。おそらく優雅の部屋はその能力にあっている部屋になっているはずだから広いし豪華だろう。それにそこにいるクラスメイトって言ったら大抵想像がつく。あの四人組に決まってる。それじゃあ別に人の眼が多いわけじゃあないし、そもそもあいつはいつもどこから部屋に帰っているんだ…?それすらも俺が分からない状況でだ。王女が分からずに優雅と会う事なんて容易い…って事になる)


(じゃあ、どの時期から手をつけていた?誰からそれを聞いていた?この国じゃあそういう文化はない。はっきりとした序列が存在しているならこういった考えにはならない…ってのが、地球で出した俺と秋との結論だったはずだ)


そう、秋と陽とはこういった考えを放す仲でもあった。陽が下らない問題を定義し、それを秋と陽で答え合う。こうして答えを導き出す遊びを出していた。


(―――確かあの時は俺がライトノベルを読んでいて、“異世界人と日本人の違いは?”だったはずだ。時代は中世。丁度今の時代だ。魔力とか、そういうのは無しだったはずだ————答えは確かこうだった気がする。

『人と人の間に明確な序列制度があるかどうか』という結論になった。そうだ。その通りだ。明確な序列制度があるのに、こうして日本人の考え、意識。こういったものが分かるわけない…じゃあどこで知った?今の勇者たちから聞いた?だがどう考えても聞ける状況じゃない。王女がいきなり身の回りの事を聞いてきたというそれこそ話題の元だ。だが俺は聞いたことがない…。じゃあ、どこから?)


そう日本人の習性。それは帰属意識。現代の人間。日本人は何かの集団の中からは逃れられず、何かの集団に属している。そしてその集団の中に入れない。いない事に危機感を感じる。だから人は何か集団に属していないと生きてはいけない生き物になった。だが人間の本能として誰かよりも上に立ちたいという欲は存在し、結果的にその所属の中で明確ではなくとも序列を作ろう、他者を蹴落とそう。他者よりも優位に立とうとする者が存在し創造される。これが日本人という物の習性だと陽は知っている。


そして今、それを巧みに操って王女はこのクラスメイト達を誘導したと思われる。だがそこに至るまでの経緯が分からない。そう、何故日本人の習性を学べたのかどうかが分からないのだ。



(――――――まさか。過去にも勇者が召喚されていたとしたなら?)



(もし、過去の勇者から聞けたとしたら?聞けたとしなくても、その勇者の行動を見て学習したとしたなら?すべて辻褄が合うような気がする……。というか、まず勇者との出会いを記録して、どういう為人だったかとか記録しているような…いや、記録しているんじゃないのか?だって勇者は王国から兵器としての捉え方をされているはず。なら、管理できるように最大限の情報なんかを残しているんじゃないのか?いや、そうじゃなきゃおかしいはずだ。というかそれをしない所があるのか?もし、過去に勇者召喚を実施して、その時にこうした習性があることを学んでいるのであれば、今の状況は全て辻褄が合う…というか、それしか無い気がする。だが……だが……)


“全てを疑う”。その誓いは嘘ではない。全てを疑い思考を続ける。だがいくら答え合わせをしてもそれしか答えが出てこない。それよりか更に思考が加速する。


(まいったな…こりゃ。もし俺の事が正しかったら、向こうは完全に勇者を操るエキスパートって事に最悪ならねえか?俺はまだいけるとしても、こいつらは完全にコロッと騙されるぞ……おいおい。いよいよこれは本格的に不味くなってきやがった……)


陽はこうして、正解を導き出してしまった。王国は勇者の習性や生態を書き記したノートを厳重に保管している。そう、正に正解。陽はまたしてもこの国の秘密を暴いてしまったのだ。







「ねぇ……ちょっと。ねぇ。聞いているの?」

「んっ?……ああ、いつからいた?茉奈さん」

「いつからって、皆王女様の話を聞いて明日に備えて部屋に帰ったのに、貴方だけずっとここで突っ立っているんですもの。何かと思って」

「何がって……何が?」

「貴方。いつも皆とは違う事言ってるから。何かないのかなって」

「おお……茉奈さんも王国の事。疑い始めてるって事?」


陽は小声でそう呟いた。茉奈もまた。小声で話した。


「………ええ、そうよ。無条件で信頼するのもどうかと思って」

「へぇ……。小声で話しているってのがどういう事かもわかっているのか…ほう……んじゃ、今考えてたことを簡潔に話しておこうか。なんで王女様は優雅を横に置いて一言喋らせたと思う?」

「何故って、それは……クラスメイトの士気をあげて…」

「じゃあ何故、優雅の一声で士気が上がると王女様は思った?おかしいとは思わないか?俺たちの事。日本人の習性を知りすぎてるとは思わないか?」

「それは………」

「まあ、そういう事だと俺は思うぜ?んじゃあ俺も部屋に戻るとしますかね。お疲れさん。茉奈さん」


こうして陽もまたこの訓練場から自室へと足を動かした。


(茉奈ちゃんの意識にしっかりと変化が起こっている様に感じる…王女様が優雅を使っていく以上。二人にもその手が及ぶ確率は存在している———次の遠征。それは王城から離れられる機会だ……手を打とう。最大の手を)


こうして、陽は二人にだけ効く最大のカードを切ることを決定した。ここから先は、陽のゲームメイクだ。







茉奈もまた、陽の話を聞いて自室へと戻る。浮かない顔をしながら戻ってくる茉奈に対して、ドアが開いた瞬間に笑顔の声が漏れ出てくる。


「お帰り!茉奈ちゃん!」

「ええ、ただいま夕美」

「どうしたの?浮かない顔して、それに少し遅かったね?」

「ええ…話を聞いていたの、彼から」


彼。そう聞くと二人の間に出てくるのは、間違いなく吉鷹陽だった。


「陽君かぁ……」

「ええ、彼はこの世界で随分頭が回っている様ね。さっきも話を聞いてビックリしたわ。私の思ってもないことまでもが平気な顔して彼の口から飛び出してくるんですもの。びっくりしたわ」


————“俺は君たち二人を、もしかしたら救う事の出来る『あるもの』を持っている”


それが、陽から送られた摩訶不思議で怪しすぎるその言葉。だがその前に言われた陽の言葉が、まるで心に溶け込むように思考に混ざり合った。


そう、考えてみるとおかしいのだ。確かに相手は私達の事を遇してくれている。求められている物も分かっている。そうして一見普通に見える関係だからこそ疑わない。疑えない。だが考えてみて欲しい。この梯子を外されたら?今の生活を外されて、今外に出て一人で生きてはいけるのか?そもそもこの世界がどういう貨幣で回っていて、どういう街の形をしているのかさえ知らないのだ。こうして、一つずつそのプレゼントの箱紐を開けるように謎を紐解いていくと、最後に茉奈に残ったのは最大の疑念だったのだ。


(そう、確かに陽君は怪しいかもしれない。けど彼が言っていることは、間違ってない)


そう、茉奈は結論付けた。そしてその意見を茉奈は全て夕美と共有しているのだ。


「で?陽君はなんて言ってたの?」

「ええ。彼が言ってたことは————」


こうして陽の、茉奈の、夕美の求めた最終幕へと動いていく。ゲームのチェックメイトを決めるのは吉鷹陽しかいない。だが次の舞台の一幕を開けるとき。それは三人同時に開くことを、何よりもこの三人が望んでいるのだ。







そして寝る前。迷宮攻略前日の夜。茉奈と夕美は寝床に入りながら少し話を進めていた。


「…陽君は、いろんなことを考えているんだね」

「ええ、そうね。彼は私達の知らない事までも推察してくれる。確かにありがたいかもしれないわね。まあ、小出しにしかしていないところは少し嫌らしいのだけれども」

「…陽君は、秋君の事。どう思ってるのかな?」

「…じゃあ、逆に彼は秋君の事を、どう思ってると思う?」

「どうしてそんなこと聞くの?」

「なんとなくよ。彼が秋君と親しかったように、夕美も秋君と親しくしようとしてたじゃない?だからそういう感覚の部分が似ているかなと思って、あなたの意見を聞くことで、私は彼の思考や思いに近づけるかもしれない」

「………陽君を見ていて、私思ったの。陽君。秋君の事諦めてないんじゃないかって」

「―――どうして?」

「なんか、なんとなくだよ?……諦めてない。諦めない。って感じがした。それは多分。秋君の事だと思うの」

「……確かに彼は、全てを疑っている。王女の事。王国の事。この世界全てを疑っている感じがした。じゃあ、秋君が死んだという事もまた、疑っているのかもしれないわね」

「……そうかもね」

「―――一つだけ質問していい?」

「茉奈ちゃんがそう聞くって事は、いいよ。」

「―――もし、もし秋君が生きてたら、どうした?」

「……多分、一番喜ぶ。世界で一番幸せになれる。けど……けど…」

「――ごめんなさい。辛い質問をさせたわね。本当に…」

「……ううん。いいの、私は、これを乗り越えていかないといけないと、思うから…」

「そうね…現実で、そんなことが起こる訳、死んだ人間が蘇るなんてこと。ないものね…」

「うん。だからさ、私は日本に戻って、秋君のお墓を立てる。それまで、私は死んじゃいけないと思うから」

「……ええ、そうね…。苦しいことを言わせてしまったわね。ごめんなさい。明日はついに外よ。私達も寝ましょうか」

「うん。そうだね…」


こうして、二人もまた悩み、苦悩し、けど必死にこの世界で生き、あがきもがきながらこの世界で泳いでいる二人なのだと理解させられる会話の中で、その言葉が嘘であるとはっきりわかる一幕が存在する。


それは、仲岡秋という存在は死んではいないという事。それだけが唯一。この悲壮な短編集から放たれた嘘。




だが、仲岡秋が生きていると知るための扉は締まり切っている。鍵が必要だ。そう、吉鷹陽という、鍵が。




お読みいただきありがとうございます


5月21日追記:大変申し訳ございません。現在諸事情により更新が完全に停止しております。次回の更新は来週以降になるかと思われます。読者の皆様には待たせてしまい申し訳ありませんが、もうしばらく待たせることになりそうです。

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