回復効率
ま、また開いてしまった……。
―――ビリビリッ!!!
「はっ!!!」
突如電流が流れたかのような刺激。慌てて飛び起きる秋。そして慌てて飛び起きた秋が見た光景は借りているログハウス風の家の壁と床だった。
「痛てててて…」
慌ててベッドから転げ落ちてしまった秋。だがしかし電流が走る痛みというのはあっという間に影を見せなくなったようできょとんとした顔で秋は周りを見渡す。そこには丁度眠る前に創造した剣が床に突き刺さっていた。
そして思い出す。今何をしていたのかを
「アルタ。今何時だ?」
『丁度マスターが目を瞑り微睡み始めてから30分と少し』
「了解。魔力は?」
『回復しております。大丈夫かと』
「よし、次の刀剣を作ろうか」
そして秋は自分でも魔力の回復具合を確かめると、ゆっくりと再び目を瞑り想像の世界を広げていく。想像を創造に。そうしてゆっくりと創り上げていく。想像に魔力を通し、形作っていく。そしてゆっくりと秋の思いの産物が顕現する。
名前を『群癒剣:ウエルトバルト』と呼び、これ以上の魔力回復効果を呼ぶためには群刀にすることが必須条件ともいえたために群刀。そして勿論その効果は計り知れない物になっている。群刀にしたことにより周囲の魔力吸収の速度は格段に向上、更には一本一本が魔力吸収できるため範囲も実質的に向上したことになる。これによりより大きく効率的に魔力を吸収する事が可能になった。更に魔力の生成も早く行えるため、ダブルで使用者に魔力を供給することができるという優れものだ。これでまたしても魔力回復が効率的になった。
『マスター。群癒剣ウエルトバルトはマスターの魔力回復速度を10分から8分に短縮することが可能です。ですがこの群剣の内指揮官剣をここに残し残りを西の森に放つ事でより効率的な魔力回復が望めます。いかがしますか?』
「出来るのか?破壊されたりしないか?それに魔物に見つかっても面倒だ」
『ご安心ください。私が何とか出来る範囲です。問題はございません』
「―――了解。任せた」
『ありがとうございますマスター。これで魔力回復の効率が8分から6分に短縮可能です』
昔のアルタでもこの作業は出来たが、今のアルタなら歩くよりも簡単というレベルにあるだろう。分かりづらいとは思うが着実にアルタのレベルも上がっている。やはりこれも『アルタ・セラフィム』としての進化が関係している。
『では、リンクを開始します』
こうしてアルタはウエルトバルトをリンクさせ、指揮官剣を除く他の魔剣を全て西の森へと飛ばした。迷宮があるあの森では、やはり魔力の密度が濃くここら辺一体で回収するより効率がいい。実際にすぐさま効果は表れた。
「おお、やはり4分も縮まっているとなると感覚も変わる。注がれていく感覚が強くなってきた」
やはり秋でも分かるぐらいの感覚で魔力の回復が始まっている。アルタが濃密な魔力のある西の森で群剣を用いて魔力を回収してくれているおかげだ。
「この結果なら、群刀を量産して送り込む方がいいか?アルタ」
『はい。私の方もまだまだ力に余裕がありますし、西の森の迷宮付近にはまだまだ魔力がございます。おそらくここの魔力をも取り込むことが出来れば魔力の効率を1万あたり3分で回復させることができるでしょう。』
「そうか。じゃあまたしばらく俺は休むよ。そうだな……まあ30分後に起こしてくれ」
『了解しました。マスター』
こうしてまた秋は眠りについた。家の中には合計で4本の剣が、眠りにつく秋に魔力を与えていた。
◇
「………ああ、おはよう」
『おはようございますマスター。現在の時間でいうと眠りについてから30分少し前ですね』
「ああ、了解だ」
秋はきっかりと眠りから覚める。これは人外になった時の副作用みたいなものなのかもしれないが、秋は眠るときは眠れるし寝だめも出来る。それに起きようと思った時間に起きれたりもするという中々にハイスペックになりつつあるのだ。そしてご飯を食べずともあまり空腹を感じないというのも当てはまる。勿論食べようと思ったら食べられるし、美味しく食べる事も出来る。ただ食べずとも活動できるし、眠らずともある程度なら活動できる。それに決めた時間に起きれるなどという人間活動を営む上であって嬉しい物が手に入っているのだ。これも秋が人間から少し外れかかっている証拠なのかもしれない。
「んじゃ、創るか」
そしてベッドから起きた秋は、立ち上がりしっかりと床を踏みしめると、またしても目を瞑り想像の世界ヘと入っていく。想像を繰り返しイメージを固める。そしてそこに命を吹き込むかの様に魔力を注ぐ。魔力に反応しスキルが蠢き、その想像を形にしていく。
こうして完成したのは群刀。名を『治癒刀:生玉』と呼ぶ。語源は日本神話にて、十種神宝と呼ばれた物の一つ。生者に活力を与える生玉の名前をそのまま譲り受けた魔群刀なのだ。
勿論その効果は先ほどの『群癒剣:ウエルトバルト』と同格いやそれ以上の性能を誇る。魔力は明らかに『治癒刀:生玉』の方が注がれて誕生している。そのおかげで神器の名を冠する程の魔刀が完成したのだ。
注がれた魔力はおおよそ5万。その5万の魔力のほとんどを回復効果に回した刀剣といえる。ウエルトバルトの3万とは2万の絶対的な差というものが存在するのだ。
その二万の差は、魔力回復効率を高めるうえでの問題である“効率を上げる方が難しい”という大きな壁を打ち破れる程の力を持っているのだ。
『おめでとうございます。この刀剣を用いることが出来れば、魔力効率を4分まで縮小する事が可能です』
「おお、そこまで来たか」
『刀剣の作成による魔力効率の強化はこれが限界だと思います。残りの魔力効率を1分上げる方法ですが、迷宮の周辺にこの『生玉』を飛ばし魔力を吸収することで解消されると思います。これで1万辺りの効率が3分という驚異的な結果をたたき出すことが可能となりました。残りの時間と魔力では明日攻略に使われる強力な魔剣の生成に充てるべきかと思われます』
「了解。じゃあそうしよう。迷宮付近まで飛ばせるか?」
『もちろんですマスター。それではリンクを開始いたします』
こうしてアルタと『生玉』がリンクを完了させると、先ほどの『ウエルトバルト』と同じ様に飛んで行った。そして手持無沙汰になった秋は、何をしようかと考えながらもまたベッドで微睡み始めると同時に、明日の迷宮攻略に用いる魔剣を想像し始めたのだった。
時刻はもう夕方、太陽が沈み始め、光が白から陽色に変わっていく。そんな時間になっていた。
◇
そして秋が微睡み始めてからもうすっかり日が暮れた。秋は新しい魔剣のイメージを固め完全に創造を終了させていたのだった。創造のために使われた魔力は15万。このペースでなら45分に一つ群刀が生成されるペースといえる。
「よし、明日の迷宮攻略ではこれで行こう」
『その感じだと新しい刀剣の創造が完了したのですか?』
「ああ、大丈夫だ。これならおそらく迷宮40階層以降でも戦える。なんたって“進化する魔剣”なんだから」
『それは楽しみです。所でマスター』
「ん?なんだ?」
『これからは寝ている間の魔力を効率よく使うため、私の指揮のもとで余剰に回復している魔力を『スキルランダム創造』に充ててもよろしいでしょうか』
「―――ああ、構わない。むしろそうしてくれ。というかアルタ。お前俺のスキル使えるのか?」
『はい。マスターと私は魂でつながる者。スキルは人間の魂に保存されますが故、同じ場所にいるスキルなら操作が可能になります。それに私は日々マスターのお役に立つため進化を続けております。造作もありません』
「なら頼んだ。任せたよ」
『了解しましたマスター』
こうして秋は少し早めの眠りについた。あれだけ微睡んでそれでも眠れるのは、明日に備えての秋の覚悟の現れかもしれない
◇
ここはアルタの魂の世界。主である仲岡秋のスキルや記憶の一部が保管されている場所。そこでアルタは考え事をしていた。秋の魂世界で、秋の次に権限を持つアルタ。そしてついにアルタがアクションを起こしたのだ。
(今の魔力回復の効率であれば、多少使っ手も余る。いやむしろ余り過ぎる)
そうなのだ。割と簡単に魔力の回復効率を高めているが、それもすでに異常なのだ。考えてみてほしい、あの『スキルランダム創造』ですら2万なのだ。つまり今の状況だと6分に一回スキルが創造できてしまうという。これだけ聞くと魔力の回復すらも化け物だという事が簡単に理解できる。あのゼウスですら“多い”と断言したのだ。それを6分で回復できる秋は化け物なのだ。
(そして、今後は主の身も、そのご意志もお守りし、遂行しなければならない―――もっと力がいる。更に強い力が、主を守るために)
(私はスキル。スキル故に能力――力しかない。実体がない。思考できても行動できない。どれだけ思考を繰り返したとしても、その思考に基づく行動がとれない。これでは何かあった時に主をお守りできない)
そう、アルタの最大の弱点はそれがスキルだという事。スキル故に実体を持たない。肉体がないと行動できない。当たり前だが、アルタにはその当たり前すらも存在しない。
勿論アルタには裏技も存在する。秋の魔力を使いそこに意識を埋め込むことで魔力で創造した仮初の肉体は出来る。だがそれでは魔力が切れると消える。いつ無くなってもおかしくない不完全な存在。それを前に主を助ける事などできない。そして今まではアルタが扱える“創造系”スキルという物は存在しなかった。だが、今は違う。
(昔の私には持ってなかった力が、今ではある)
『アルタ・セラフィム』としての力。それは魂世界での素材で創造可能という、魂を統べる力。魂の世界での王としての力であり、魂の所有者に献上するための仕える者としての力。
(かけるしかない。ランダム創造での力で私の体を創造できる構成要素が見つかれば…)
こうしてアルタは、6分に一回スキルを発動させは構成要素に分解する。一時間に10回。秋の睡眠時間が6時間で、魔力の完全回復も含めると無理をし5時間。回数にして50回分。ひたすらに創造を繰り返す。基本的には使う事のできない能力の集まりであり、構成要素に分解したとしても既存の物ばかり、だが、30回目と後半にして、ついに道が開ける。
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糸生成
糸を生成する。魔力を込めた分だけ強い糸を創造出来たり、長い糸や粘着性のある糸など、魔力の具合によりカスタマイズが可能
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(糸を束ねて……いける!)
アルタは見つけた。どんな形であれ体を生成できる可能性。それが糸を束ねて形を成す糸人形。それも飛び切りの魔力を使うオリジナルの糸人形だ。
早速スキル『糸生成』を構成要素に分解する。案の定構成要素は【糸】しか出なかったが、それで構わない。魂世界の王様は最後のピースである【糸】の構成要素を手に入れると、早速取り掛かる。王の創造。そこは魂世界に散らばる構成要素の模倣がちりばめられており、アルタの演算でマッチングする構成要素を繋ぎ合わせつつ、核となる構成要素を合成していく。
そして誕生した。アルタ専用の力。アルタ専用のスキルの存在を。
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至上で至高の糸人間
この世の力や法則、概念を無視して創造された番外に存在するスキル。肉体を持たない究極の
力のみがこのスキルを扱う事が出来る。
・糸創造
糸を創造することができる。魔力を込めるだけでどんな糸でも創造できる。ただし元からある素材をイメージして創造は出来ない。あくまでも状態や効果のみでならどんなものでも糸にして再現可能。
・人間創造
人間の形を創造することができる。食事や生命活動の偽装も可能。人間の形を創造する際には必ず一定以上の魔力を持つ物体でないと構築できない。
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(完成した。自分のスキル。自分だけの能力。これでようやく我が主の傍に立つことが出来る…)
アルタの感動は、魂世界を伝わった。こうして主の進化に一歩ずつ追いついていっているのを、秋はまだ知らない……。
お読みいただきありがとうございます。




