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食事




村長の家を出ると、そこにはもう十分に立ち昇る煙の臭いと、村人たちの喋り声が聞こえてきていた。


「申し訳ございません、旅人様が肉の提供をお受けになってくださってから、家内の方がすぐに調理をと村人総出で調理の方行っておりまして…」


立ち上る炎では確かに先ほど魔剣で串刺しにした魔物の肉と思われるものが、大きな骨付きの肉として焼かれていた。


(ああ、そういえば自覚なかったけど、俺5時間ダッシュしてんだよな…)


自分自身が人外であることを改めて証明するかのように、異世界に来てから一度も何も口にしていない。それでもなお5時間ダッシュを可能にしたのは、秋の人外っぷりとゼウスの元で行っていた修練の成果だろうが、それでもお腹は空くもの、あの魔物肉を見ていると余計にお腹が空いてくる。


「なぁ村長。あれは俺もご同伴に預かれるのかな?」

「―――ええ、もちろんですとも。ですがあの魔物の肉は火の通りが遅いため、先に泊まっていただく家の方にご案内致します。よろしいですか?」

「ああ、構わない」


こうして村長と秋は、歩きながら秋の泊まる家の方へと歩き始めた、少し村の外れの方にはなるが、それでも立派な家としての形を保っていた。


「こちらです。元々冒険者が来たとき用のゲストハウスとして機能していたものです。しばらくはこちらにお泊りください。それと荷物を置かれましたら、先ほどの広場の方に――」

「ああいや、構わない。元々荷物と呼べるような物はなかったんだ。今から広場の方に行こう。肉は焼けているのか?」

「はい。この時間であれば焼けている肉も出てくる頃でしょう」

「ああ、でも先に村民で食べるといい、俺は後の物で大丈夫さ。お前らの疲弊している感じを見ていると随分と腹いっぱい飯を食えていなかったんだろう。そんな中で一人先に肉にかぶりつくのはさすがに食べずらい。いいな?」

「……はい。ご温情。感謝します…」

「それじゃあ行こう。家の場所は確認した。しばらくは自由に使わせてもらうぞ」


こうして家の紹介も終わり、広場に戻るとそこには笑顔で魔物の肉を頬張る子供。子供に肉を渡す母親。大の大人が骨付きの肉を片手に肩を組んで踊っているさまなど、若干宴会じみていたのだが、秋はある程度村民に渡っていることを確認してから村長と別れ、骨付き肉を一本貰ってからそこらへんの木の陰に腰を落ち着けた。


「うぐうぐ……んっ。おお、異世界初めての食事も相まってか、うまいなコレ」

『はい。マスター。私もマスターの味覚などの記憶から辿って味の情報を知覚出来ております。確かにおいしいのですね。データの収集を開始します』


こうして秋があっという間に一本を食べ終わると、一気に腹が膨れたのか腕組みをして目を閉じる――寝ると見せかけた情報整理の時間といえる


(さて、村長から入手した情報によると、この国――ゼウスの言う『三大国』とその国の大まかな位置。それとここがこの異世界イーシュテリアのどの辺りなのか、そして…『迷宮』の存在が明らかになったわけだが…さて、とりあえずしばらくここで過ごせる環境自体はある。この辺りには魔物も多そうだし、村人たちは飢えている。持ってきたら調理自体はしてくれるだろう)

『その認識で間違いはないと思われますマスター。あの魔物は特別魔物調理の事を知っている物と推測できます。おそらく昔からあの村には魔物を食べる文化があったのかと。それに……迷宮に向かうにあたって、この村は最適な拠点と思われます』

(そうだよなぁ…ま、しばらくの予定は決まっている。迷宮攻略というものを一度体験してみたい。だが……ごり押しで行くぞ、今回の迷宮は攻略を目的とするが、攻略の為なら何でも惜しまない。あれを的にして、俺の様々な能力を試すっ…)

『イエス、全てはマスターのお望みのままに、ですがマスター。マスターはもうすでに十分すぎる程の力を得ていると神ゼウスから太鼓判を押されているではありませんか。それなのにどうしてこんなことを?』

(ああ………といってもアルタ。お前ならその演算機能とか俺の記憶からとかで、なんとなくわかるもんなんじゃねえのか?)

『いいえマスター。それは違います。“魂”と“心”は別物なのです。詳しく話すと時間がかかるので時間があるときにこの話をすることにいたしますが、私『或多アルタ』は、記憶を読めても心。つまり思考やマスターの感情までは完璧に読み取る事が出来ないのです。これはまだ発展途上のアルタですので、完全なアルタになった時には、マスターの精神…つまり常世に存在しないマスターの生命を司る部分と、完全に同化した。といえるでしょう。これは演算でも98%の結果をたたき出しています。楽しみですね』

(さらっと怖い事言うな…ああ、俺が多角的に自分の力を図っているのは、何かあった時の為。だな)

『ほうほう。詳しくお願いします』

(勇者。それはつまりそれを抱えている大国に喧嘩を売るという事に等しい。なんて言ったって俺は、その勇者を引き抜こうとしているわけで、向こうにとって勇者は国を支える軍事力以外の何物でもない。その軍事力を削ごうとしているのだから、それはテロに等しい。それを一人で成すためには、多角的な力の観測と強化。そして――故郷に帰るための方法を確立させないといけない)

『なるほど……はい。完全に理解しました。以降はマスターの行動方針の一つとして加えておきますね』


そう。秋がやろうとしている事はいわばテロ。大国に喧嘩を売る行為。故に秋は慎重すぎる程に丁寧に動かなければならない。それを一人で成そうとしているのだから。それがいかに人外とはいえ、数の暴力を完封できるとは秋も思っていないのだ。


(そして―――故郷に帰る。それはもしかしたら、あの金髪少年の神。あいつに喧嘩を売る行為かもしれない。その時になって、俺はこの力で神を殺す事が出来るのか。俺は心配性という自覚は持っているが、さすがにこの懸念はどうにかしないといけない―――運負かせになんて、してはいけない)


そう、秋には様々な未確定。それも高確率で害を及ぼすであろう要素が多すぎるのだ。頼れるのは自分しかいないのなら、自分の事を知っておかねばなんというのだ。


(それに“あの”ゼウスが注意しろと言っていた。確か――隠ぺい用の結界?だったか。それを破る可能性。なんかもあるかもしれない。それに『運命と次元からの飛翔』も、あまり無暗に使うな。なんて言われている。きっと何かあるのかもしれない。もしかしたらゼウスの様な探知の術を、あの金髪少年は持っているのかもしれない。そう考えると無暗に使うなんてできない)


そう、秋は異世界で友人を助けるという目的を達成する以上。この世界の最大戦力の単位『国』と、この世界で最高の力と権力を持つであろう生命個体『神』を相手にする覚悟を決めているのだ。


「そのためにも、この迷宮攻略は、必ず俺の―――ん?どうした?」


木陰で思考の整理をしている秋に、村の小さい、子供の男の子がつかつかと近寄ってきて、秋の目の前に立った。そして秋とその男の子はぱちくりと目を合わせ


「お兄ちゃんがあれ倒してくれたんでしょ?―――ありがとう!」


そう笑顔で言ったのだ。


「ああ、そうだ。お前も大きくなったら、家族を守れるぐらい強くなれよ」

「うん!僕お兄ちゃんみたいに強くなる!」


こうして、その少年の挨拶を皮切りに、村人からも様々な声かけがなされることになった


「ガキがお礼言ってんのに、俺たちが言わねえわけねえわな!」

「ありがとう!旅人さん!」

「おかげ様で助かったっ!!」

「旅人様万歳!」


こうして秋と村人との距離が少し縮まり、秋もこの村に少しばかり温かい思いを抱けるようになったのだ。







「なあ村長。俺は少し出かけてくるよ」

「ええ、どちらに?」

「『迷宮』のある西の森の方だ、日没までには帰ってくると思うぞ。それじゃあな」

「そんな、おひとりで……いえ、あれほどの魔物を倒された旅人殿なら、大丈夫なのでしょう」

「それと、もし仮に魔物を倒したら、ここに持ってきてもいいのか?お前ら食える魔物が何なのかとか、それの調理方法なんかも理解しているんだろう?」

「ええ、我々の村は代々魔物の肉などに精通しております。我ら村民は魔物肉を調理できる者たち、いくらあっても食料難な我々にとっては利はあれど害はございません。大丈夫です」

「そうか。では行ってくる。日没を過ぎたあたりまでには必ず戻ってくることにしよう」


こうして、秋は迷宮のある西の森へと行くことに決めた。時刻は午後2時を回っている頃であった。





お読みいただきありがとうございます。

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