クラスメイト編第四話『悪意』
「うぐっ……ぇぐっ……どうしよう茉奈ちゃん…」
「とりあえずは落ち着きなさい。私も、雄介も優雅もちゃんといるから…」
(全く…困ったわね、夕美も、この状況も)
茉奈は今までの事を冷静に考えていた。
(夕美はこんな状況だし、クラスメイトもバラバラ、優雅と雄介はどこに行ったかすら不明だし…まああの二人も同じ部屋を希望したみたい。唯一幸いだったのは私たちの待遇が良いところかしらね。おかげさまで)
茉奈は陽と同じように先の王との謁見(?)の内容を思いだしていた。内容としては“魔王を倒してくれ”というものだったが、王の態度と臣下の態度を見るに、あれはお願いというより命令だ。と気分を悪くしていたのだ。
(さて、これから私たちはどうなるのかしらね……)
茉奈は大概もなくそう思った。ここで陽との決定的な違いが現れるのだ。陽は自分で自分を守ろうと動き、そして茉奈は得体のしれない存在に自分の身を任せようとしている。自分を守ろうとしている奴らが、そのままいい奴などとは絶対に限らないのだ。
(はあ、一番解決するべき問題は夕美かしらね……せめて秋君が生きていてくれれば良かったんだけど…なんで、よりにもよって秋君だったのかしらね…)
茉奈もこう思うほどには、夕美の事を案じて、そして辟易していた。先の事を考えられなくなるのは、当然とも言えるかもしれなかった。
◇
夜。クラスの誰もが眠りに入っている時間。陽は一人棒を振っていた。部屋の中だけでも十分に振るう事ができる広さだったため、気が付くと棒を振っていたのだ。
もう時刻は夜の真っ最中。異世界でも黄色く白い月が出るんだなと陽は一人思いながら、わずかながらの月光の光を浴びながらゆっくりと棒を振るう陽。振るい方によってステータスの補正に効率が存在する事を学んだからだ。
そして棒をゆっくりと、一回一回を心を込めて振るう。そこに棒が切る空気の音以外は存在しない。それ以外の感覚をゆっくりと消し、意識を底に落としながら一点を見つめさせる。だが、そこで邪魔が入る雑音が、部屋の外から聞こえてきたのだ。
―――……だ。だか……王の……け
――――私達は……どう……のだ?
陽は明らかに聞こえた。足音と声。陽は迷った。ここで声を辿ってこの部屋の外に出るかどうかという所で。
(はぁ……どうせこの世界で来た時点で秋が助けに来るまですらギャンブルなんだ―――なら、賭け続けて勝ち続ける以外に生きる道なんてあるかよ!)
陽は心の中で覚悟を決めると、ゆっくりとドアを開ける。幸いにも建てつけが悪いなんて事は無く、ドアは使用者の意に反する事なく音を立てずに空いた。
そして一歩一歩を音を立てないことだけを意識して開ける。自分の部屋は丁度ドアを開けると両手側に通路があり、一定間隔で部屋がある。まさに侍女が住まう部屋といった感じなのだが、陽の部屋はその一片の端にあった。おそらくだが隣の部屋には他のクラスメイトも眠っているのだろう。
そして丁度一片と一片が交わる角の向こうで二人の派手な色の召し物をした男が会話をしていた。こんな時間のこんな場所に会話をしている時点で怪しさ満点なのだが。
「それで、今日来た勇者候補の事。何かわかったのか?」
「噂では、魔王討伐の前に人族領域を統合させる。と」
「ほぉ!…という事は、やはり…」
「ああ、我らの武器はあ奴らしかおらぬわ。現に王もこの事についてはすでにご存じだ。そして積極的に作戦を進めようとしている。王女殿下もこれに必要な首輪の作成に取り掛かっているそうだ」
「ホホホ!これで我らの勝ちは見えたぞ!」
「ああ、その通り。そしてその後は…」
「いい話を聞けた。助かったぞレイルよ」
「いやいや、これからもお互い助け合えるとよいなブロントよ」
(やっべえ話を聞いちまったなぁ……おいおい、やっぱこの世界は俺たちにとってハード過ぎるぜ、畜生が)
陽は心の中で衝撃を取り込めると、今度は急ぎながら自分の部屋に戻っていった。
◇
(はぁ……この世界は俺たちをモノとしか捉えてないって事かよっ……胸糞悪いな、畜生)
陽は一人先ほどの棒振りよりも疲れ切った体を持ち上げベッドにダイブする。そして
(ああ疲れた。もう眠ろうか、俺も疲れた。本当に……)
そして陽の意識は、夢のまどろみに包まれて閉じた。
◇
「さて娘よ―――あれは完成しそうか?」
「ええ、勇者を召喚したのです。もうすでに完成の目途は立っております」
「よかろう、魔王などどうでもよいわ、あんなもの大陸統一を成した後で何とでも出来る。まずは今ある戦力を全て使い、今こそ!我らの元で大陸を一つに纏めるときだ!」
「ええ、お父様。そのためにも、対勇者支配用の首輪。通称『蛮勇の首輪』の製造・開発を急ぎます」
「ああ、任せたぞ、大陸統一はお前にかかっておる」
「お任せください。必ずや」
こうして、陽を含むクラスメイトに、悪意の渦が迫っている事を、まだクラスメイトも誰もが知らない……。
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