次のステップへと
「秋―――よくやったの」
「ああ、苦しい戦いだったよ。本当に…」
秋は確かにゼウスの呼び出したドラゴンの王たるドラゴン。レイオニクス・ドラゴンは確かに秋の最後の九振りである阿修羅によって撃沈された。そして今はその五分後。丁度ゼウスによる治癒魔術がかけられある程度の落ち着きを見せていたところだった。
「秋よ。調子は?」
「ああ、まあ落ち着いたところだ」
「いやーそれにしてもビックリしたぞ。まさかぶっつけ本番で阿修羅をぶつけるなど、儂は最後は大魔術の連発で倒すと予想しておったんじゃが」
「ああ、まあ戦闘。それも命をある程度の率で賭けている戦闘。そう言った所でないとああいった技は打てないと思ってな。それにぶっつけ本番で成功させるぐらいしないと―――異世界には程遠いと思う。んだよなぁ…」
(秋―――今倒したドラゴンは、十中八九小国を数多潰せる程の戦力じゃぞ…?それを倒してまだ。お主は先に行かぬといけないのかの?)
ゼウスもまた首をかしげていた。あのドラゴンはそれこそ秋に戦いの絶望と、それを打ち破れるだけの胆力や精神力。そして様々な戦闘に関する素質を見るためのもの。何かあったら手助けしてやるつもりだったし、そのために上空で待機していつでもドラゴンに魔術を当てられるようにしていたのだ。それを秋はある程度の苦戦はしたものの一人で倒すことに成功した。これは異世界のレベルだと数々の国で英雄として称えられる。世界の英雄として名を刻むレベルの快挙なのである。
(ま、まあ、やる気があることはいい事じゃ――――うむ。そうじゃな。それにあの異世界では強い事がそのまま自分の価値にも自分を守ることにも繋がる命が軽い世界じゃ。故に―――これで良い。)
ゼウスはそう結論付けることにして、座り込んで休みながら、それでも勝ったという達成感に身を包んでいる秋を見て、ゼウスはまるで自分の孫のように秋の事を見つめると、異世界でも無事に生きるためにはこれで正しいと心の底から思うようになっていった。
◇
「爺さん」
「ん?なんじゃ」
「じゃあ、スキルを作っていきたいと思う」
「ああ、そうか―――んで、何を作るんじゃ?」
「ああ、今回は複数のスキルをマニュアルで作ってみようかと思ってな」
「マニュアル――ああ、例の海の世界の事か、なるほど、お主の創造は魔力ではなくその精神や心を大きく消耗していくという事かの?それなら合点がいくわい。ホッホ」
この爺さんは、爺さんという見た目をしているだけで脳が衰える事も、増しては忘れるという事もほとんどない。それにスキル『輪廻世界目録』という万能の検索エンジンが存在する以上知らないことなどない完璧な神様なのだ。故に秋が僅かな単語で明らかに説明不足な説明をしたとしてもゼウスはその補正を自分と自分とのスキルでするし、僅かに情報を喋っただけで正解も解決策も模索することもある爺さんなのだ。
そしてそんな爺さんと秋は、少し休んだのちにいつもの神界中央に転移。その後少し休憩がてら先ほどの戦闘の事について話していたところなのだ。
「ああ、そうみたいだな。だからこそ一度スキルを創造して使い方を分かっている俺なら複数回スキルを使ってもあの世界から追い出されないと思うんだよ。爺さん」
「おお、そうかそうか。では行ってこい。お主の思うようにやってみいの、それでよいと思うぞ」
「ああ―――そうか、ありがとう爺さん。まあじゃあやってみるわ」
そうして秋は少し無理をするかもしれないと座りながらスキルを行使するべく念じる。そしてゆっくりと意識を闇の底に沈めると、それに合わせるように体から力が抜けてもぬけの殻の様に顔を項垂れてしまった。
◇
そして秋が目を覚ました世界は、案の定というべきか海と空が青い世界。あのマニュアルでスキルが創造できる世界に到着した。
「さて―――さっそく作るぞ。俺にはもう時間がないんだ。創造――開始」
秋はこの世界に来てさっそく創造を行う。時間がないのは確かなので海の水を救うようにイメージしながら構成要素を抽出していく。
―――耐性×7。減少×2。魔力×2を抽出。
そして秋の目の前には三つの水球。それを一気に合わせてかき混ぜる。
スキル同士が反発しあうそれも前回の魔剣創造スキルよりかは控えめで、つつがなく創造は終了した
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メーベルの盾
昔、強大な敵に傷をつけられた者が、もう二度と傷をつけられるような戦いをすることがないようにとの願いを込めって作られたスキル。仲岡秋専用。
・防御力強化
防御力が飛躍的に増大する。肉体・骨・神経や細胞に至るまでの全体的な強度と耐久性などを上昇させる。
・魔力防御強化
魔力を使った攻撃に対してもある一定の防御を見込める程度に上昇させる。肉体・骨・神経や細胞に至るまでの全体的な魔力に対する強度と魔力に対する耐久性を上昇させる。
・要素真化
自ら必要だと思った要素を吸収してスキルを強化・進化させる。
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「―――成功したな。良し、じゃあ次だが―――ある意味で、一番難しいスキルとも言える。かもしれないなぁ…」
そう、秋が作ろうとしているスキル。それは“ステータスの成長速度上昇”という、ある意味では超強力な能力の一つとして知られている。その能力を要素をフルに使って創造しようとしているのだ。幸いなことに要素のそれはそれなりに多種多様にそろっていたため、今回創造に踏み切ったのだ。
「さて―――やるか」
そういうと秋はゆっくりと念じ始める。しっかりと確固たるイメージを以て、広大な海から要素の塊を救い上げる。
――“スキル・成長×2・突破“を抽出
―――“ステータス・限界・増加×3”を抽出。
――――“限界・超”を抽出。
秋の周りに浮かぶ七つの水球が、秋によって降られた意志の指揮棒によって集まり、そして水球の輪郭をお互いが消しあう。新しくなろうとお互いを合わせ食わせている。
秋の顔が少しばかり苦痛に歪む。限界のそれを少しばかり感じているのかもしれない。
だが七つが四つになり、四つが二つになり、そして二つが一つになった。
そして完成したスキルがこれだ。
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存在格天元突破
ある時、強大な敵を見た者が、自らも殻を破り強大になりたいと願い創造されたスキル。仲岡秋専用
・ステータス上昇増加
ステータスの上昇幅が大幅に増加する。
・スキルレベル上昇増加
スキルレベルの上昇幅が大幅に増加する。
・天元存在
自らの存在としての格を引き上げ、その分の力を自らの力として一時的に超増大させる。その力は天にも届くとされているが、発動には厳しい条件と激しい苦痛を伴う。
・要素真化
自ら必要だと思った要素を吸収してスキルを強化する。
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「ふうぅぅぅ……せ、成功だ」
秋は完成した二つのスキルを見合わせる。そして満足いく出来だったことに笑みを見せながら、この世界を眺めていた。
実際に秋の見立てではもう倒れると思っていたので、これから先のプランを考えてなどいなかったのだ。それだけドラゴンの王との闘いに得る物が多かったという事だろうが、それでも今の秋に時間を、それも直接的に自らを強くできる時間を無駄にするほど愚かではない。故に考えて考えて、次に作れるであろうスキルの草案を出来る限り思いつくす。そして
―――これ以上を望むのなら。自分で“視て”みよ!!
あの時ゼウスが言っていた。“自分のステータスを見たいなら自分で見ろ”と。それはつまり
(魔眼のスキルかっ―――)
そう、草案などすっ飛ばして、秋は今すぐ創造に入る。脳内に電流が走ったその時から使う要素はもう決まっていた。スキルのイメージは出来るはずだ。ゼウスに吠え面かかせてやると意気込む秋に敵などいないのだ。多分。
そして秋は息を吸い込み集中し、要素と結果を結びつける。
―――“魔力支配術・気配探知“を抽出
―――――“鑑定×2・魔眼・眼”を抽出
秋が見出したこの5つの要素は、全て魔眼としての要素として十分に使用可能な要素。だからこそ純粋に魔眼としての能力が存在するこの五つに絞り、能力そのものを高く純度の高いものにしようとしているのだ。
そして五つはやがて一つになる。
「で、で、出来たぁ………」
秋の言葉には覇気がないが、それでも完成したスキルはこれだ
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真紅の魔眼
ある時、神の命題を垣間見た者が、神へとその手をかけるために創造したスキル。仲岡秋専用スキル。
・真紅の魔眼
千里眼・透視・魔力を見通すことができる眼。などの基本的な魔眼の能力をほとんどを受け継ぎ、その能力の強大さは見通せないものなど存在しないと言われている程の物になる。
・要素真化
自ら必要だと思った要素を吸収してスキルを強化する。
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「ふう……できたか、よかっ……た……」
そう言い残すと秋は案の状、倒れるようにこの世界を去った。
―――そしてゼウスに魔眼を使ってみるも、やはり全能神の力はまだまだ遠くまだまだ見えないステータスやその他諸々。やはり想像しただけでは神様のステータスを見れるほど、甘くはない。という事である。
◇
そして。このレイオニクス・ドラゴンが倒され、リミットである三か月が宣告されたあの日から、ひたすらに特訓を重ね――――気が付けば、もう二週間が過ぎていた。
お読みいただきありがとうございます。
次回からは別視点でお送りしていきたいと思いますのでお楽しみに。
追記:もしかしたら更新速度がしばらくの間遅いと感じるかもしれません。少しリアルの予定の方立て込んでおります。ご了承ください。




