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令嬢は牢の中

作者: ゴロタ

性懲りもなく投稿。

閃いたので書いた。公開は少し後悔している。

 


「うふふっ……………。あのレレイシャ・フィアースタット侯爵令嬢が、こんな薄汚れた牢に入れられているなんて……………うふふ、あははははは…………あ~おかしい!」


 鉄格子の間からこちらを指差しながらクスクス笑う女の名は、シュガー・レイオット子爵令嬢。

 私から全てを奪った女だ。



 スフィンランル王国の名門侯爵家、フィアースタット家の娘であった私は、幼い頃に決められていた婚約者であるオズワルド・スフィンランルと結婚し、王妃になるはずであった。

 しかしそうはならなかった。


 現在私は王都から遠く離れた辺境の牢獄での生活を余儀無くされていた。


 全ての原因、諸悪の根元は私の目の前に居るシュガーである。


 15歳の時に入学した王立魔法学園で起こった、様々な事件の首謀者に仕立てあげられた私は、オズワルドから婚約破棄を言い渡され、更に父様も王宮にて罪を捏造され、そのまま侯爵家はお取り潰しで没落。


 ここまでする必要があるのか? と、思わずにはいられなほど徹底的な叩き潰しだ。


 そしてそんな私の現状を、指差しながらクスクスと楽しそうに笑うシュガー。 性根が腐っているらしい。

 オズワルドが私と婚約破棄して、新に婚約したのが何を隠そうこのシュガーである。


 今後のこの国の行く末が心配である。でもある意味辣腕を振るって冤罪をでっち上げ、たかが子爵家の令嬢が、侯爵家を没落に追い込む能力があるのだから、他国に自ら作った弱味(侯爵令嬢を追い落として手にした王子の婚約者という立ち位置)を突かれる心配も無いのかもしれない。


 まあ実家が没落しており、牢獄の中に居る私には最早どうでも良い事だ。


「………ふうっ……笑った笑った。 ああ、楽しい。 偉そうにオズワルド様にベッタリ引っ付いていた貴女が目障りでしょうがなかったのよね。それに顔を会わせると毎回嫌味ばかり言って来て………ほんと目障り」


 ちょっと待って。

 多分私を罠に嵌めた理由など、下らないだろうとは思っていたけれど、それが事実下らない理由だったとはね。


「…………貴女…………その程度の理由で私を罠に嵌め、我が家を没落まで追い込んだの?」

「はっ? その程度ですって? 何を言っているの? この物語の主 役(ヒロイン)である私に楯突いたんだから、当たり前でしょ!?」


 この物語?

 主 役(ヒロイン)

 一体何を言っているの?


 私には分からない事を一方的に怒鳴り散らすと、シュガーは「ふんっ! まぁ良いわ。もう目障りな貴女とは今後一切顔を会わすことはないのだから!」と言って鼻息を荒くしながら去って行った。


 良くは分からないけれど、私がオズワルドとよく一緒に居たのは婚約者だったからであるし、シュガーに毎回嫌味…………というか、注意していたのは格下である子爵家の子から格上である私や、オズワルドに声を掛けるのは不敬罪にあたるという事を、懇切丁寧に教えてあげていただけだったのですが…………人の受け取りかたって様々よね。


 やれやれ。

 静かにため息を吐き、ベッドに横になる。


 そう、この牢の中にはベッドがある。


 シュガーは牢内が薄暗かったので気付かなかった様だが、私が入っている牢はベッドとテーブルとチェアーが普通に置いてあるのだ。

 そしてベッドはとても清潔に保たれている。


 辺境の牢獄内ではあったが、別にそこまで酷い環境では無い。


 そもそもこの牢獄、以前の住人がやったのか、壁の煉瓦の一部が外れ、牢から抜け出せるユルユル仕様だ。


 はっきり言って牢獄になってない。

 それに魔力封じもされておらず、魔法が使えれば逃亡は容易い。 そして私は王立魔法学園に在籍していた。なので普通に魔法は使える。



 私がいま居る辺境では、魔獣が頻繁に出没するため、魔法が使える囚人は大体魔獣討伐の苦役に付かされるのが一般的だそうだ。

 ここに入れられる囚人は、大体魔法が使えない犯罪者が主だ。


 何故魔法が使えるのに、魔法が使えない犯罪者が入れられる牢獄に収容されたのか。

 誰かの思惑か、あるいは恩情か。 調べようが無いので放置するしかない。別にそれで困ってはいないし、むしろ助かっている。


 私は魔法収納(インベントリ)から魔法使いが着るローブを取り出して着ると、【サモンダブル】の呪文を唱える。


 すると目の前に、私がもう一人現れる。


「留守番よろしくね」

「うん」


【サモンダブル】の魔法はもう一人の私を造り出す呪文である。

 もちろん難しい行動は行えないけど、牢の中で静かに過ごすという役割には最適な魔法である。


「そうね、父様に会って来るから………大体3日くらいかな?身代わりよろしくね」

「うん。大丈夫。むしろボーっと過ごすの嫌いじゃない」


 そう言ってふにゃんと微笑む目の前の私。


 うぬぬ…………同じ顔なのに、私には浮かべられそうも無い微笑みだ。


「じゃあ。 行ってくる」

「気お付けて」


 煉瓦を外して牢の外へと這い出す。

 ううん…………ちょっと情けない格好だ。 誰にも見られてないから出来る姿だよね。


 牢を抜け出した後、簡単に煉瓦を積み直す。


「まあ、こんなものですかね」


 何かガッタガタだけど、大丈夫だろう。こんな寂れた牢獄の外になどに来る者など居ないかのだから。

 精々元侯爵令嬢であった私の姿を笑い者にしたいという、奇特な趣味を持っており、この辺境にまで足を運ぶのはきっとシュガーくらいであろう。




 身体強化の魔法を駆使して、父様との待ち合わせ場所の街まで颯爽と駆け抜ける。


 途中、中型魔獣と出くわしたので、攻撃魔法でサクッと殲滅しておいた。


 自慢じゃないけれど、私これでも魔法学園では上位に名を連らねるほど強かったんですよ。


 民のために戦える王妃を目指していたのですが、これも最早どうでも良い事だ。




 交易の街ベルベル。


 王国の中でも3番目に大きな街であり、隣国との交易の要となっているため、他国の者も多く比較的出入りは楽な方であった。

 そのため一応人目を忍ぶ相手と落ち合う場所としては最適な街であった。


 魔法収納インベントリから銀貨を1枚取り出すと、街に入る手続きをする。


 体外街に入るには大きくふたつの方法がある。


 許可証を持っているか、通行税を納めるかのふたつである。


 許可証は商人ギルドや、冒険者ギルド、海運ギルドなどで発行してもらうのが一般的だ。

 その他の街に住む民は基本的に街の外には出ない。 街の外に出る場合はいずれかのギルドへの登録が必須である。

 貴族は国から発行される貴族証の提示が必須である。


 だけど大きな街や町などでは、ギルドが在るのは普通であるが、村や集落などにはギルドが無い場合がある。

 そんな者たちが街に入るにはどうするのか? それが通行税の支払いである。


 ただし、税の他に断罪の水晶と呼ばれる少し大きな球体の水晶に手をかざす必要がある。

 許可証はギルドで、この断罪の水晶に触れ前歴が無いかどうか確認して作っているため、この作業が省かれている。


 ちなみに私は罠に嵌められたとはいえ、現在牢獄に収監中の身なので、この水晶に手をかざしたら1発でアウトな身分である。



 だったら私の手をかざさなければ良い。



【サモン】で召喚した人畜無害な人の手をあたかも私の手であるかのごとくかざすだけ。


 はい。楽々通過。

 こんなザル警備で問題ないのかと、心配になるレベルだけど【サモン】の魔法が使えるのは我が侯爵家の者くらいだから国としての問題は無い。

【サモン】は秘匿魔法なのだから。


 上位貴族所有の固有魔法、それが秘匿魔法である。 古に契約した一族の者にしか扱えない血を媒介にした魔法である。もちろん他の上位貴族の家にもこの秘匿魔法はある。そして王家にも。


 ただし、次期王妃であった私は他の上位貴族の秘匿魔法を知り得ていたし、おしゃべりなオズワルドから王家の秘匿魔法も聞き出していた。


 オズワルド……………ただの甘えた思考の持ち主であり、ただの幼馴染みだ。

 もちろん彼に対して情は持っていた。

 それは恋や愛という情では無かったが、嫌いでは無かった。 ほら、良く言うでしょう? 馬鹿な子ほど可愛いって。


 シュガーに騙されてしまう所も、愚かしくて、滑稽で、本当に何て愉しい玩 具(オモチャ)なのだろうかと、牢の中で何度も思いだした。


 そう、私のオズワルドに対しての情とは、幼児が玩 具(オモチャ)に対して抱く情と良く似ている。

 私の所有物だったのに………………。もうオズワルドを使って遊べないと思うと、やはり少し悔しい。

 あそこまで甘えた思考の持ち主に育てるのに、私が幼い頃からどれだけ苦労したことか。


 所詮シュガーに負け、追い落とされた今となってはどうでも良いのだが。シュガー…………本当に奇妙な存在だった。何度も何度も注意をしたのに一向に態度を改めること無く、オズワルドに擦り寄る姿が滑稽で哀れで、実に面白かった。だから他の貴族の手前注意はすれど、決して排除はしなかった。 それが私の敗因なのかもしれない。 でも愉快だったんですよ。本当に。



 父様と待ち合わせ場所であるレストランに到着すると、直ぐに奥の個室に案内された。


「おお、レレイ久しいな」

「あらレレイちゃん、お変わり無いみたいですね?」


 部屋に入ると渋い声音の父様と、母様がノンビリ穏やかに声を掛けて来る。


「母様までいらっしゃったのですか?」


 母様は私や父様と違って純粋で優しい。

 今回の侯爵の没落に胸を痛めて無ければ良いのだが。


「あら? 大事なレレイちゃんに会いに来てはダメだったかしら?」

「いえ、滅相もないです。私も母様と会えてとても嬉しく思います」


 ションボリされると、慰めて差し上げたくなる。 ああ、恐ろしい。魔法など何も使用していないというのに、この人の求心力は本当に恐ろしい。



「それでね、もうこの国に居る必要が無いでしょう? だから他国を旅行がてら回ろうかと思ってるの。ね、タグラス?」

「ああそうなんだ。 それでだな、成人しているからレレイはどうする? 一緒に行くも良し、カイウスの様に己れの力のみで生きていくのも良いぞ?」


 実に愉快な思考回路をしている父様と母様である。

 侯爵家の没落を全く気にしていない。むしろ冤罪をでっち上げられた途端に、これ幸いとそれに乗っかった節があった。


 上位貴族は国外に永く居ることは、留学などの理由が無ければ不可能なのだ。


 もちろん秘匿魔法持ちが、他国に渡らぬ様にと定められた法によるものだ。


 だがしかし現在我らにその貴族の法は適用されない。最早没落して貴族では無いからだ。


「レレイの意見を聞いたら直ぐに出立したい。 ノロノロしていると、国王に捕まる可能性があるからなぁ…………」


 実は今回の王宮での冤罪、国王が諸外国が参加する国際会議を狙って決行されたものだ。


 国王の執務室から御璽(ぎょじ)を持ってきて、勝手に書類に押した。犯人は言わずもがな、オズワルドだ。


 多分何にも考えずに、使用したのだろう。多分シュガーに騙されて。


 その結果がどうなるかなど、あの甘えた思考の持ち主であるオズワルドには一生掛かっても理解できないであろう。


 国際会議は7日間に渡って行われる。その間は国に関わる揉め事は、起こさないのが常識なのだが、シュガーはやってくれちゃった。


 むしろ王が居ない今が、侯爵家を没落させるチャンスでもあった。 その目論みは成功した。そう、してしまった。


 他国に付け入る隙を与えたのだ。


 まあ………今後この国が上手く行くよう願うばかりだ。


「そうですね。 父様と母様のお2人だけの旅路を邪魔するの悪いですし、カイウス兄様同様、好きに生きます」

「そうか。分かった。これを持っていろ。お互いの位置が把握できる魔導具だ」

「これでたまには会いに来てね。カイウスにも持たせてあるから」

「はい。分かりました。ではお元気で」

「レレイもな」

「ええ、レレイちゃんもね?」


 父様と母様に抱きよせられ、頭を撫でられる。


 ううっ………もう幼子では無いので気恥ずかしい。


「レレイちゃん…………お風呂にはちゃんと入った方が良いわ」


 別れ際に母様には苦言を呈された。


 だってしょうがないでしょう。

 牢獄にお風呂など付いて居ないのだし、身体強化の魔法を駆使して走ったので、汗だくである。


 あの牢獄にもう戻る必要も無い。心配だった家族の命も無事である。 むしろこの国から解放されて清々しさに溢れていた。




【サモンダブル】を遠隔解除。



 食事を持ってくる看守に気付かれて、シュガーへと報告が行こうが後の祭りだ。

 もぬけの殻な牢獄を見て、あの散漫な態度のシュガーがどうなるのか、見てみたい気もするけれど、そんな暇多分無いでしょうね。

 そろそろ国王が帰国する。 御璽の件をどうにかしなければならないだろうけど、早々にどうにかなる事では無い。



 まあ、最早私にはどうでも良い事だ。


 この言葉に尽きるな。うん。




 さてと……………………これからどこへ行こうかな?




タイトル詐欺罪で、作者牢の中へ。


はい。すいませーん。牢からの脱出は、超イージーモード。 ご都合主義ばんざーーーーい!!!



オマケのその後


レレイシャ⇒他国をブラブラ根なし草。その道中で出会った傭兵のオッサン、エドガーに一目惚れ。押して押して押しまくって見事に射止める。子供3人生まれる。 男、男、女。


オズワルド⇒甘い思考の持ち主であったため、シュガーに籠絡される。結局国王の御璽を無断使用した罪で、王子としての位を剥奪される。

シュガーには蜥蜴の尻尾切りのような扱いを受け、意気消沈。 しかし人柄だけは良いので、シュガーを恨む事も無く、隣国のドS女王の婿養子になる。どんだけ(都合の)良い奴なのか……。


シュガー⇒レレイシャや侯爵に冤罪をでっち上げた手腕は素晴らしいが、実はそれはただの主人公補正であった。 補正力ではカバー仕切れないほど、追い詰められオズワルドを切った。

すると悪女として国外逃亡を余儀なくされるまで落ちぶれた。図らずとも大嫌いなレレイシャと似たような状況になってしまったのであった。


※ちなみに物語の主人公というのは事実である。


タイトルは【君の白い手、君の黒い手】幸せになるのか、不幸せになるかは主人公次第というエンディングがふたつある物語。もちろんこちらはバッドエンドバージョンである。分岐はオズワルドを見捨てるか否かであった。


父様&母様⇒今だ若々しい出来立てカップルの様な2人の間には今後双子の男の子が生まれる。

レレイシャの子供と年齢差が余り無い若い叔父たちとなる。


カイウス兄様⇒斬って!殴って!魔法でぶっ飛ばす!戦闘狂魔法剣士になる。

余りにも強すぎて、周囲を恐怖に陥れまくったため、小さい子に言い聞かせるのにこう言われ続ける事となる。

「良い子にしないとカイウスが来るぞ!」と。


元々王国に居た時には婚約者が居たのだが没落を基に破談。 その後誰かと結婚することも無く、生涯戦闘の中に身を委ねた。その婚約者が忘れられなかったとも言われているが、事実かどうかは不明。


国王⇒国際会議が終了するや否や飛び込んで来た、侯爵家没落の報告に慌てふためく。

直ぐに追っ手を差し向けるが侯爵家の者は誰も捕まらなかった。唯一捕まっていたとされるレレイシャ嬢にも簡単に逃げられてしまい、ここでひとつの秘匿魔法を有する家系が王国を去った事に項垂れる。


ある意味一番の被害者。シュガーとオズワルドのせいで今後何十年も、外交問題に頭を悩ませ続け、結果頭頂部がかなり薄くなる。本当に哀れ。


エドガー⇒隣国クラップランド出身のやる気の無い傭兵オヤジ。無精髭に褐色の肌の怠惰な魅力の持ち主。レレイシャに押されまくって、断るのが面倒になって結婚。

レレイシャの事は嫌いじゃない。ただしそんなに好きでもない。 でも3人も子供をつくるって事は、実はそっちの方は満更でも………………ないのかもしれない。




キャラの外見とか全然でてなかったので、簡単に後書きで説明。


レレイシャは銀の髪に紫の瞳。胸が大きく腰も細い。スタイル抜群。容姿は豪奢な美女。


シュガーは茶色の髪に榛の瞳。胸は細やかで腰回りもほぼ括れは無い。 幼児体型。容姿は可憐。


オズワルドは金色の髪に碧い瞳。身長はスラリと高く、容姿は麗しい。儚げ。優男。


エドガーは黒色の髪に黒い瞳。肌は褐色。身長は高いし筋肉質。容姿はちょい悪オヤジ。無精髭がセクシーな魅力を醸し出している。



そんな感じにて終了。

ここまでお読みいただき感謝です!!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] シュガーがオズワルトを見捨ててなかったらどうなっていたのでしょうか? というか、彼女(シュガー)転生者っぽいけどこの物語を読んでいなかったのですかね? [一言] 面白かったです。
[一言] 色々残念な国が転生令嬢に好き放題されて潰れる様にニヤニヤしてみたくなる一作でした(>ε<。 )
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