あがる、あがる、どこまでも。
吾輩は社畜である。
その日はなぜか気分がよかった。
仕事がうまくいっていたからか、いつもより早く帰れたからか、またはその両方か。
ともかく帰り道に鼻歌交じりで、回り道してしまうほど気分がよかったのだ。
その結果道に迷った。
はじめの三十分はそれこそ見慣れない道を楽しむ余裕さえあった。
しかし、迷い始めて一時間もする頃にはすでにそんな余裕はなく彼は必死にもとの道を探していた。
これを読んでいる君はこう思ったかもしれない。
「人に聞けよ」 「スマホは?」
順に説明していこう。
まず彼は極度のあがり症だった。
子供のころ、授業で先生にあてられたり、人に話しかけられたりしたときに顔がすぐに真っ赤になる子、いなかっただろうか?
彼はそれである。
小学生のころまでは、彼も気にしていなかったのだが、成長していくにつれ顔が赤くなることに対して恐怖心を抱くようになり、それに伴って人と話すこともだんだんと減っていった。
つまり彼はコミュ障なのである。
道を聞くくらい、簡単なことだと思うが彼には少々荷が重すぎた。
次に、彼はスマホを持っていなかった。理由は友達がいないからだ。
某有名アニメ映画で姉妹が傘を渡されそうな場所で彼は体操座りをしながら彼は途方に暮れていた。
彼はガチ泣きしていた。
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながらサラリーマンが道で体操座りしているのだ。
少しキモい。
その時だった。
突然彼の体が紫色に光りだしたのだ。
しかし彼は気づいていなかった。 彼は自分が光っていることに気づかないまま号泣し続けていた。
こうして彼は地球とお別れすることになったのだった。
(なんで俺がこんな目に・・・・・)
サラリーマンの夏目は泣きながらそう思っていた。
(糞がっ。誰か助けろよ!! こんなに泣いてるんだぞ!!)
ふと顔を上げると十数人の目が一斉に夏目を見つめていた。
(・・・・・・・え?)
そこは先ほどの暗い田舎道とは打って変わって、明るい広間のような場所だった。
ぽかーんと思考停止してしまっている夏目を見たガタイのいい男が叫んだ。
「お、おい! 人間が召喚されたってのはどういうことだ!?」
その大男はガタイがいいくせにゲームの魔法使いが着そうなローブを羽織っていた。
(アンバランスすぎてきしょいわ)
夏目はかろうじて冷静になった頭でそう思った。
こんなに偉そうにしているが、夏目はすでに十数人に見つめられたことで顔は真っ赤になり、
顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃなので見るに堪えない姿であった。
「こいつはなぜ泣いている!! 見苦しいッ!!」
顔に嫌悪感をあらわにした見るからに頭の良さそうな男が叫んだ。
(あ? 殺すぞ?)
夏目はこう思いながらもその男に対し泣きながらこう言った。
「・・・うぐぅ、ぐふっ、ずびばせん。 うっ、えぐっ、ひっく」
(糞がよ、偉そうにしてんじゃねぇよゴミ)
夏目がそう言った途端に広間は騒がしくなった。
「おい、しゃべったぞ・・・・!」
「なんだ、あの黒い服は?」
「なんであいつはあんなに泣いてるんだ!?」
中には長い棒でつつこうとしたり、石のような物を投げようとする人もいた。
「お黙り!!」
その時部屋の奥から派手なドレスを着た、いかにも身分が高そうな少女が夏目の方に向かって歩いてきた。
「王女様、危険です!」
髭を立派に伸ばした小太りの男が彼女を止めようとするが、彼女は全く動じずにそのまま夏目の目の前まで来ると、こう言った。
「・・・・あなた名前は?」
夏目はゆっくりと立ち上がった。
「おい、お前何をする気だ!?」
数人の兵士らしき鎧を着た方々が夏目を取り囲むように剣を構えたが、夏目はそれを気にも留めずに
歩き出した。
「おいっ、止まれッッ!!!」
「動くな!!!」
兵士たちが牽制のため、声を張り上げるが夏目は止まらない。
「うぐっ、すびあせん、ひっく、うわぁぁ、ほんとにごめんなざい、」
「止まれといっているだろうが!!!」
「誰かこいつを捕らえろッ!!」
「ひぃっ!! すびばせん、すびばせん!!」
そう言った次の瞬間夏目は少女に対して全体重をかけたタックルをかました。
「うぐっ・・ッ・・・!?」
夏目は少女を後方の兵士もろともふっとばした。
そしてそこにできた小さな隙間を泣きながらダッシュで通り、奥のドアへと夏目は駆けていった。
「おいっ!!誰か止めろ!!!」
「そいつを殺せ!!!」
兵士達が声を荒げるが、夏目は兵士達をすり抜け、扉の方へと進んでいく。
「なんだあいつはッ!!?」
「うぅぅ、すみばせん、すびばせん!!」
最後の兵士をフェイントでかわし、夏目は扉を蹴破ると、広間の外へと出ていった。
初投稿です。
評価よろしくお願いします。