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元伝説の大魔導士は手加減を知りません!!  作者: さくら比古
はじまりはじまり
8/9

7

 切りどころを見失い短いです。


「ま、まあなんだ。私は魔導屋とでも呼んでくれたらいい。

 ご令嬢。お姫さんの名前は何と言うんだ?」

 忘失状態の間を誤魔化すように魔導屋と名乗る男がレイラに促してくる。

(大魔導士である証を見てしまったけれどそれを訊くのはいけないかもしれませんわね)

「先程も名乗りましたが、侯爵家の末席を汚しておりますレイラと申します。良しなに」

 完璧な礼に男からは感嘆の声が漏れる。

 侯爵からはぞんざいに扱われてはいるが、レイラの所作や礼儀作法は完璧であり、本来称賛されるべき領域に達している。それは歴代の家庭教師たちの評価の高さからも保証されている。

 理由は不明だが現実を受け入れない侯爵家の態度こそが異様なのだ。

 レイラの連ねる言葉少ない受け答えからも男は何かを察していた。

「レイラ姫。こんな状態で何だが私は肉体を失ったわけでは無いので、様々な趣向品を持っている。

 先ずはお茶など如何かな?香りのよいシタ高原産の物があるんだ」

 長い腕がティーテーブルへと誘う。姿の良い背を見ながらレイラはほうっと息を()いた。

(もしからしたらと思うけれど確証はないわ。でももしそうならば私程運のいい者はいないわ)

 目の前で意外と手際良く茶の用意を始める男に、レイラはその素性をはっきりと予想していた。

 我が国で英雄と(うた)われる生きた伝説の祖母の関係する『大魔導士』だ。そうそうそんな大人物はいない。

 頭に浮かぶのは祖母から授けられた課題であるパズル。そのカギの歌はある人物の事を歌っている。

 所謂(いわゆる)業界(・・)で有名な大魔導士は歴代7人。

 この国の英雄王と呼ばれた男。

 海の国の魔女王と呼ばれた孤高の女王。

 戦場(いくさば)に生まれ戦場に果てた魔導戦士。

 魔法薬の祖となった女魔導士。

 魔導理論を構築し魔導士の育成に尽力した賢者と呼ばれた男。育成機関『賢者の塔』の創始者。

 『賢者の塔』創始以来の天才と呼ばれ困窮する民を救い続けた男。

 戦に乱れる大陸の国々に平和をもたらした少女魔導士。

 この内生存が認められているのは最後の少女魔導士。祖母エリフレーデだ。

 彼女以外の者は書類上は皆故人となっている。

 書類上(・・・)は、だ。

 実の所、エリフレーデの師匠でもある慈愛の賢者と呼ばれた天才魔導士は毒に蝕まれたという記録があるのみで、歌われているように墓はあってもその亡骸(なきがら)は彼の功績を記した全ての記録と共に忽然と消えたと伝えられている。

 消えた彼の遺産を未だに喪われた宝として追い求める者が絶えないと言われている所以(ゆえん)だ。

 レイラは考える。目の前で茶を淹れる男の正体を。

「どうぞ」

 香ばしい香りがレイラの胃を刺激する。

 冬であっても温かいものを口にした記憶がない為、カップ越しの熱に戸惑ってもいた。

 痛いくらいの熱が指先から伝わってくる。果たしてこの熱さの物を口に含んで大丈夫なものだろうかと。

「冷めないうちが美味いぞ」

 そんなレイラの戸惑いを不思議に思ったのか男が促してくる。

 軽く追い詰められた心持でレイラはそっとカップに口を付ける。

 さらに濃厚になった香りごと含んだ茶は思ったよりも熱くなく、空っぽに近い胃までするりと滑り落ちてくる。

 温かい。そして

「おい・・しい」

 胸を通り過ぎ胃までの道程を温めた茶は崩壊しそうだったレイラの心を溶かしていく。

 自然頬を涙が伝い落ちてゆく。

 男は何も言わずただレイラの向かいで同じように茶を飲んでいる。何も問わず、レイラを見ている。レイラはその視線から背を撫で下ろされるような安堵を感じ、只管(ひたすら)泣いた。



「もういいのか?」

 泣きながら茶を飲む少女に、内心男は動揺していたが下手な慰めや理由を問いただすのは違うと思い黙って待っていた。

 レイラがしゃくりあげながらも頭を下げてきた頃に、(ようや)く落ち着いたろうかと胸を撫で下ろす。

「は、はい。申し訳ありませんでした。

 はしたないことをしました」

 頬を染めながらも謝罪するレイラを強い子だと感心しながら、その横顔にエリフレーデの面影を探す。

 エリフレーデに似た少女は、同時に二人の違いを大きく(あらわ)している。その違いこそが現実だった。

 縁あってエリフレーデと共に在った時間は、実の所男にとってはつい先日のことだった。だが、目の前にエリフレーデと切り離された時間の永さを体現する少女の存在が、男の止まっていた時間を動かし始めたことを思った。

 何かが自分を求めている。そう確信する。

「エリフレーデのことは良く知っている。

 そして君も私の事を知っているね?」

 (おもむろ)に核心を突く男に、レイラはしっかりと頷く。

(やっぱりそうなのだわ)

 憧れ続けた存在がある。慈愛の賢者と呼ばれた伝説の大魔導士。その彼が目の前の男だと。先ほどまでの涙はあっという間に乾いた。紅潮する頬を感じながらレイラは男を見つめる。

「君が知っている男が私だとして、君は私に対して好意的なのだとは思うが実の所困るんだ」

 男が眉を下げ心底困ったように話し始める。

「まあ、どれだけのことが伝わっているかは分からないが、私としては自分のことを死者だと思っている。

 今更、(その手段があるにはあるが)現世に戻る気は更々ないんだ。だから、此処から君が出た後に私の事を他の誰かに伝えたり、私をここから出そうとしたり等々は勘弁してほしいんだよ」

 ぽかんとレイラは男を見る。

 せっかく出会えたというのに、男はどうにかして縁を繋ごうと考えているレイラを見透かすように告げてきたのだ。

 話すことのできる伝説と語り合える機会が出来たこの僥倖を神に感謝さえしたというのに、鼻先で取り上げられるなんて。

「エリフレーデが何かやらかそうとしているだろう?そんな気配を感じるんだ。

 あいつが何かやる時は必ず私にお鉢が回ってくる。

 散々大変な目に遭ってきたんだ。それだけの経験から見ても碌な事じゃない匂いがする。

 血を分けた孫まで利用するとはな。何をやるつもりかは知らんが、今の私には君を護る力さえないから、此処を出てできるだけこの『器』を遠くへ捨てに行って欲しいんだ」

 

 相変わらず主人公への愛が足りないワタクシです。


 読んで戴き感謝感激!

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