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元伝説の大魔導士は手加減を知りません!!  作者: さくら比古
はじまりはじまり
7/9

6

 書き貯めたストックはもう無い・・・再びまばら更新になりそうです。

「お部屋までお送りいたします」

 今現在この屋敷で一番忙しいはずのレイモンドが、お伺いという名の強制力を発揮しレイラを先導する。

拒否権(要りません)なんて言い出したらにっこりばっさりな予感がしますわ)

 身を竦めながらも逆らわずレイモンドの後に続いて玄関ホールを出る。

 出掛けに感じるパスカルの強い視線は、レイラに胸騒ぎに似た落ち着きのなさを感じさせたが、何も言わずに見送る兄に一先ず安堵のため息を吐く。

 玄関ホールを抜けると途端に集まる視線。自分の部屋まで滅多に見られないレイモンドとの道行きに、使用人たちは不思議そうな顔をしている。嫌悪以外の視線を向けられていなかった昨今、この注目をレイラはまるで同志を得たかのような啓示を受けた。

(そうよね?これって先導されているっていうより捕縛されて連行されているみたいよね?)

 不遇の時間の中習得した妄想力を発揮し、目前の切れ者筆頭執事の背に取調官(レイモンド)に詰問される自分を見ていた。

(やってない事も自白させられそうですわ)

 微笑みの悪魔と呼ばれる取調官のサイドストーリーまで妄想が進んだところで部屋に着いていた。

 流れるような動きで貴族令嬢を誘導するその姿は流石だ。

 妹が一時期騒いでいたことを思い出したところで、ふと余りにも接触が無かった事に思い至る。

(奇妙ですわ)

 筆頭執事と言えば権限としてこの侯爵家の表裏の全てを任される人物だ。ちらほらと聞こえる彼の噂はその能力の高さが他家にも伝わるほどの遣手だったはず。それなのに、侯爵家の問題児(・・・)であるレイラとのこの行き過ぎの思える疎遠さはどうだろうか。

(おばあ様とも浅くは無い関係がある?)

 エリフレーデとの遣り取りはごく親し気なものだった。実の娘であるルミエラより余程の信頼関係を感じていた。家族にはそのことに違和感を感じている気配はないが、どこか他者の秘密に気が付いたような気まずさを感じる。

 無事部屋に着いたレイラに、レイモンドはそのまま部屋の中まで同道する。

(え?え?)

 それこそ不測の事態にレイラの心の中は困惑の一言だが、その鉄壁の無表情からは察することはできないだろう。

 勿論身の危険を感じたというのではなく、何を追及されるのか何かを求められるのか不確定な要素が妄想としてレイラを襲撃してきた。内心ワタワタするレイラはレイモンドを凝視した。

「お嬢様には多大なるご不便やご不快な思いをして頂くこととなり申し訳ございませんでした」

 目の前には最敬礼でレイラに謝罪の意を告げるレイモンドがいた。

(な・・んでしょうか?この事態は)

 侯爵家で重要人物と言えば1番には当主侯爵であり、2番手は継嗣であるパスカルになる。その次に侯爵夫人のルミエラ、残りの子供たちに続く。それは侯爵の家としての序列だ。

 現実的に見れば、侯爵の次には筆頭執事のレイモンドが上げられる。

 家の格として、執事は成人した家族の数だけ存在し、それをまとめるのが筆頭執事という認識でいる貴族以外の者は多いが、高位貴族ともなれば侯爵不在での実質的差配経営は筆頭執事が行うことになる。

 貴族としての細々とした付き合いや折衝、王都や貴族街のタウンハウスや領地のマナーハウス等々の不動産の管理や動産の管理。領民に対する徴税や土木事業の施策など言いつくせない程の仕事を抱え、信を得てそれらを管理統治しているのが筆頭執事だ。それ故に自身が下位とは言え貴族の籍を持っている者が一族から選ばれる。

 レイラは言うに及ばず、ルミエラとて彼に逆らう事は()の部分で許されない。

 レイモンドが『諾』と頭を下げなければルミエラの櫛一つ購入されることはない。筈だ。

 そのレイモンドが自分に頭を下げている。気絶しそうな光景だった。

「原因の究明は私の名に懸けて必ず成し遂げます。

 今迄、お嬢様の窮状に気が付かなかったことは釈明のしようもありません。完全なる不手際です。 これよりは現状の回復とお嬢様の守護に努めて参ります」

(この人は何を言っているのかしら?私の現状についてというのは理解しましたが、そのことが自分の不手際から発生したと言っているのよね?あ、あと守護って何?何から護るの?ええ?怖いのですけれど~)

 完全に信用するわけでは無いけれど、レイモンドの真摯な瞳は『取り敢えず受け取れ?』という声が聞こえてくるようで、一先ずそれを受け入れるかを悩むレイラ。

「詳しいお話は後程。一代公爵閣下がご帰宅後という事にさせていただいてもよろしいでしょうか?」

 レイラが答える気が無いと判断したのか、レイモンドがお伺いを立てて来る。

(頭の中の整理がつかないわ。ありがたくこれは受けるべき)

「わかりました。私は荷造りを始めます。

 どれくらいの時間があるのかしら?」

 慇懃に傅くレイモンドの存在の重量感にレイラの胃は疲労困憊だ。今迄接触の無かった分耐性が付いていないのは仕方がないが、もうお腹いっぱいとばかりにレイラは事務的な話題に逃げた。

「・・・その点では色々と思う事も御座いますが、荷造りの方はお願いいたします。

 物理的に部屋を用意する方が時間がかかると思われますので、2刻(4時間弱)程頂ければ」

 完璧な微笑にやや罅を浮かせた魔王様(レイモンド)に大いに引きながらも、レイラは『諾』と返しレイモンドを退出させた。ここに全身全霊で自分を褒めるレイラがいた。


「もう本当にお腹いっぱいですわ」

 半刻も掛からずに旅行用のトランクに持って行く物を詰め終わったレイラは、漸く一息吐けると寝台に身を投げていた。

 ばふんという音と共にへたった羽毛が舞うに任せ悶えるのに飽きれば、緩慢に身を天井に返す。仰向けになって少々お行儀の悪い姿と思わないでもないけれど、誰の眼も無いのだからと自分に言い訳をするレイラ。

 ふと広げていた腕を下げた時に触れた感触にレイラははっと起き上がる。

「忘れていましたわ!・・まだ時間はありますわね」

 手に触れた感触でエリフレーデが残していった『宿題』を思い出し、慌てて小さなその小物入れを持ち上げる。

 二枚貝を模した白い小さな小物入れ。どこにでもあるようなそれは、あのエリフレーデの『お土産』なのだから普通では有り得ない。

 レイラは細い指さきで表面をなぞり、角度を変え光に透かす。

木工細工に胡粉を盛り上げるように形作られているそれは、確かに開くように筋が入っているのにどうやっても開かない。多分筋を何かでこじ開けようにも開かないことは間違いない。

 魔力を持たない自分に魔法陣などを使う事は考えられないから、手で開けられるかキーワードを言う事で開けられるようになっている契約魔法が使われているだろう。

「お歌と仰っていたから・・・貝ならば、海?単純すぎるし教えて頂いたお歌に白い貝のお話は無かったわ」

 呟きながら、キーワードになっている歌の記憶を起こしている。

 白い額がフラフラと音を取るように揺れ、高音の歌が紡がれては途絶える。

 小物入れを手慰みにしながら瞳を閉じ、歌う。

 指を這わせた小物入れの僅かな違和感を感じ、レイラの瞳が開かれる。

「これは・・・?花?小さな花?

 白い小さな花と言えば歌は9つ。

 私の好きな歌は『約束の丘』」

 侯爵家の家紋にも使われている月の涙という真珠に似た宝玉のようだった。それが人の眼では判別つかないほど小さく花を象って小物入れに象嵌されていた。

 その花から連想したのはレイラがエリフレーデに教わった歌の中でも一番好きな『お歌』。

 伝説となった大魔導士の死を悼む歌として残っているものだったが、作者はエリフレーデであったらしくレイラには一般には流通していない歌詞を教えていて、広く知られている歌詞よりもそちらの歌詞の方がレイラは好きだった。

「・・・・・・・~けれど

 少女は待っている

 再び(まみ)えるその日まで

 約束の丘で 白い花 揺れる・・・え?き、きゃあ!!!!!」

 エリフレーデに教えられた歌詞を歌い切るその瞬間、小物入れから強烈な光が迸りレイラの目を焼いた。物理的に圧し掛かられるような圧力にレイラの身体は寝台に押し付けられ、そのあとは呻き声すら上げることは叶わなかった。

(た、助けてえ?誰か・・)

 声も出せずにどれだけの時間が流れたのか、押し付けられた体制のままレイラはふと拘束していた圧力が消えていることに気が付いた。

「あ、あれ?もう終わったのかしら?」

 恐る恐る眼を開いた時、そこはもうレイラの部屋では無かった。

「ここは?・・・どこなのかしら」

 煤けた絨毯も古い家具も無い。レイラが寝ていた寝台もいつの間にか立派なカウチへと変わっていた。

 カウチに張られた織物の美麗さと手触りにうっとりしていると、カウチの下に敷かれている絨毯が目に入ってくる。

(グラルド織りだわ。ランチマットサイズで馬車が買えるのだったかしら?織り手がいなくなって途絶えてしまって私の部屋の絨毯並みに傷んだものでも信じられないお値段だったはず)

 余りにも常識外の出来事の連続に却って現実的な方面へと逃げたレイラだったが、自分を取り囲む物の異常さにうそ寒い思いが湧き上がってくる。

(流石に侯爵家と言えどもグラルド織りを普段使いに出来る財力は無いわ)

 では自分は何故見知らぬこの部屋に寝かされているのか?拐す人間の方がお金持ちというのはどうなんだろう?金銭ではなく自分自身という可能性は考え難い。学園での騒ぎのせいで自分を得ても何らかの利益を得ることも出来ないことは周知の事実だ。

(とうとうお父様外国に私を売り飛ばすことにしたのかしら?)

 不穏な想像だが、各国からの王侯貴族の留学生のお陰でレイラの悪評は各国(よそのおうち)にまで広がっていて、バルカス侯爵家令嬢レイラとしては無価値故に名を奪って売り飛ばしたのかという発想だ。

 それにしても金銭的にかなり余裕があるらしいこの部屋の主を想えば無理があった。

(それにしても凄いわ)

 カウチに座った姿勢でレイラは改めてこの部屋を見回していた。

 2階分はあろうかという高い天井の下の四方の壁が全て書棚だった。

 侯爵家の広い玄関ホールくらいの部屋に、4面の天井まである書棚の上更に等間隔5棹の両面書棚が設置されている。それら全てにぎゅうぎゅう詰めに書物が並べられている。

 両面書棚の側面にはそれぞれ小振りのライティングデスクが設えてあり、背凭れの高い椅子が添えられていた。

 家具と言えば大まかにそれだけと言えるが、書棚やデスク以外の見える床全てに件の絨毯が敷き詰められている。しかも家具の配置に沿って絨毯も誂えられている特注品のようだった。

 次に目を引いたのは、デスクの中でも使用頻度が高いらしい大きなものには堆く書付の紙が積み上げられ、一枚でも引き抜けば雪崩れること間違いなしな絶妙なバランスで存在している事だろうか。

「パ」

 呆然と見ていたレイラはやがて陶然となり叫んでいた。

「パラダイスですわ~~~~~!」

 この時代書物と言えばかなり高額であり、高位貴族であってもこれだけの数を揃えることは難しい以前に不可能だ。加えて女性が学問を嗜むことは異質とも言われ、学問でさえ礼儀作法やそれに付随する分野以外を学ぶことは許されていない。

 そんな世の中でレイラは書物によって啓かれる世界に傾倒気味な令嬢だった。

 父や母はそんな所も嫌う所以となっているのだが、人に構われることのない孤独なレイラにとって、書物に耽溺している時間だけが自分でいられる幸せな時間だった。

 それにしても書物は高価で、エリフレーデが送ってくれる物だけが両親から奪われる事のない貴重な財産だった。彼等も流石にエリフレーデから送られた物を取り上げる訳にはいかず、忌々しく思われていた。

 そのレイラの目の前に書物の山が顕現すれば、言わずと知れるだろう。

「理解した。お前はエリフレーデの身内の者だな?容姿は似ていないが、娘か?」

 陶然としていたレイラに冷や水が掛けられる。

 はっと巡らせれば、誰もいなかった筈の部屋に忽然と影を纏ったような男が立っていた。

 言葉も無く見つめ返してくる少女に、その顔に男は困ったように首を傾げると再びレイラに話しかけてきた。

「どうやってこの空間に入って来たかはお前自身理解の外であろうから訊かんが、どうせあのとんでも弟子がやらかしているのだろう。取り敢えずこうなった経緯を話してくれんか?」

 小柄とは言えないレイラが見上げる上背の、影のような男は美しかった。

 呆けたままレイラは男を無意識に観察していた。

 この国では儀式でさえ省略されるようになった魔導士の黒いローブに、裾から覗くのはブーツではなく黒い軍靴。身振り手振りで眼前に閃く手は長い指を持った男らしい美しさを持ち、その黒い袖口には魔導士の最上位である大魔導士の紋を象ったカフスが光っている。

 そう、一般の人間は貴賤を問わず滅多にお目に掛かれない大魔導士がレイラの目の前にいた。

 秀麗な額に好奇心に満ちた輝く星を浮かべた黒瞳。櫛の入っていないような不精をした黒髪は男の美貌を損ねず、彼を見た者は十人が十人とも男を美青年と言うだろう。

 その美貌は果たしてレイラにもそれなりの変化を齎したのかと言えば、微妙と言わざるを得ない。

 男を見てレイラが先ず思ったのは「黒い」そして「大魔導士様?!」だった。

「あ~・・もしかしてお前は阿保のお子なのか?それともただ単純に残念な人なのか。

 俺の話を聞いているのか?」

 呆れたような男の声に、ハッとレイラが飛ばしていた意識を取り戻す。

 伝説に近い大魔導士との遭遇に動悸が激しくなるが、相手は出自を問われない上位者だ。礼を失しては令嬢としても立つ瀬がなくなるのだけは意識していた。

「も、申し訳ございません。

 理由は分からず迷い込んだようです。

 私はバルカス侯爵家の一子レイラ・バルカスと申します」

「ふむ」

 気を取り直したレイラの自己紹介に男が先を促す。

「私がこの部屋に居りましたのは私自身解りかねる事態があったようです。その為理由はお答えできません。

 そして、エリフレーデ様の縁者という御下問には是と。しかしながら娘ではありません。孫にあたります。外孫です」

 レイラの答えに起用に眉を跳ね上げた男はにやりと口角を上げた。

「孫だと?あのエリフレーデを娶る男は勇者だとは思ったが孕ませて孫まで作っているとはなあ!

 待て、そうすると今は大陸歴で何年になる?」

 心底愉快だとばかりに身を抱えて笑う男に、レイラは呆気に取られるが、問いかけには辛うじて反応する。

「今?でしょうか

 大陸歴は50年前に廃されまして陽暦62年となります。

 あ、因みに大陸暦は2750年でその役目を終えております」

 レイラが訊かれるままに答えると男が固まってしまった。

「120余年・・だと?そんなに時間が経っていたのか。

 それではエリフレーデは流石に故人となっていよう。

 お前がここに来たのはエリフレーデの遺した何らかの仕掛けに引っ掛かったというわけか?」

 寂しげに呟く男にレイラは忖度せずに答えた。

「いいえ?おばあ様は現在御年151歳のご長寿を満喫(・・)されておいでですわ」

 空気を敢えて読まないレイラの発言は男の顔面崩壊と雄叫びを引き出したのだった。

「はああ?!あいつどんだけ化け物なんだよ!!」

 それまで纏っていた威厳をすっ飛ばす勢いで叫ぶ男に、自分が何か仕出かしてしまったのかとレイラは委縮してしまう。

「・・・すまない。あまりなことを聞いたがために素が出てしまったな。

 元々出が貴族の端くれだと言うだけの低級貴族の三男坊でな。育ちは下町なんだ。

 侯爵家のお姫様には馴染まんだろう。驚かせたな」

 声も無く見つめているレイラにハタと気が付き男が謝罪してくる。その瞳がきゅうっと細められ優しい色になるのをレイラは急激に熱くなる顔を感じながら見ていた。

「お、おい?どうしたんだ?顔が赤いぞ。熱が出たのか?」

 大きな男が少女の異変に右往左往する。両手を少女の目の前で(こまね)き立派な不審者となっている。

「い、いやいや!そんな筈はないだろう。

 ここは肉体の変容には左右されない空間なのだが、魔力の差による弊害か?

 魂が汚染されたか?

 肉体に戻る時の影響を考えたら不味いかもしれんな」

 黙って固まっている少女に、おろおろと解決策はとぶつぶつ呟き始める男。

自らが心のツッコミ要員であるレイラが機能しないまま、この場は混沌化していった。

 

 

 

 

 アイデアはありますが集中力に欠け崩壊するパターンで無いように我ながら願います。


 読んで戴き感謝感激!

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