表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元伝説の大魔導士は手加減を知りません!!  作者: さくら比古
はじまりはじまり
6/9

 もう少し一代公爵を出したかったですが、お城から帰ってからという事で。


 前話の後書き前書きがちょっとばかりワタクシ的過ぎました。ご不快の方があれば申し訳ありません。

 ワタクシあのような負負負の負100%で出来ております。

 



 馬車寄せから門を抜ける馬車が見えなくなるまで見送りの者は立ち並んでいた。

 エリフレーデからの最大級の攻撃に撃沈していたルミエラは、侍女長と専属侍女たちに抱えられるように玄関ホールまで移動を開始していた。

 パスカルは母の様子を見ながらもレイラに視線を向けている。

 レイラはエリフレーデの土産の白い二枚貝の小物入れ様の小箱に夢中になっており気が付かない。

 レインはあまり喋ることのできなかった祖母に未練があるのか、馬車の去った方角を見続けており、侍女や乳母を困らせている。

 セイラは、いなかった。

 父の見送りであっても有り得ない行為だが、はっきりとした理由も無く同席しないことも許されないのに、実の祖母と孫とは言え上位者である一代公爵に対して、侯爵家令嬢とはいえセイラには位階がない以上実に許されない行為だ。

 気分が悪いという理由を溺愛する父は許してもエリフレーデに対しては許されない。

 エリフレーデは何も言わずに発ったが、その行為を気にする余裕のある者が皆無だったことは確かだった。


「レイラ様」

 最後まで美しい礼をとっていた筆頭執事レイモンドが心ここに在らずにいたレイラに声を掛ける。

 この家で自分からレイラに声を掛ける者は家族以外にいないため、レイラは最初気付かない。

 何度か呼び掛けていると、見ていたパスカルが思わずレイラに注意を促すことになってしまった。

「レイラ!聞いていないのか。

 呼ばれているのだから返事くらいはしなさい」

 あまり叱責という声音ではないが厳しい口調でパスカルに窘められて初めてレイラは自分が呼ばれたことに気が付いた。

(私・・・ですの?)

 思わず軽く飛びあがってレイラが振り向くと、軽く頭を下げたレイモンドとパスカルが自分を見ていた。

「も、申し訳ありません。

 何でしょうか?」

 言い訳するとパスカルの機嫌を損ねるだろうと端的に応えるレイラに、気にもかけずにレイモンドが伝える。

「これより屋敷の模様替え(・・・・)を行う事となりましたので、レイラ様には第二応接室へ一時お休みいただくこととなります。

 よろしいでしょうか?」

(問いかけいるけれど決定事項なのですわね。逆らうのも草臥れますから(イエス)一択で)

「勿論ですわ。

 部屋は変わりますか?」

 日当たりの悪いレイラの部屋は北翼にある。レイラ以外の家族の部屋は勿論南翼にあり、見事な庭がそれぞれの部屋に付いていた。その分新しい部屋(・・・・・)を設えるスペースは無かった筈だ。

(あ、お母様とセイラの衣裳部屋を3部屋潰したら・・・無理ですわね)

 何も言わずとも理解しているレイラにレイモンドは口角を微かに浮かすが、知らぬ風に答えた。

「はい、西翼の客間をと思っています。不都合はないように努めさせていただきますので」

 付き合いのなかった筆頭執事の本領に、レイラは微かに表情を変える。

 祖母とは面識があり親しげにもしていたようだった。もしかしたら自分から遠ざけられていたのだろうか。誰かの意図を感じるレイラは、目の前の使用人の頭に信を置くかどうかに悩む。

「南翼は余裕が無かったな。

 水仙の間ならば図書室も近く閣下もお気に入りの筈だ」

 パスカルが入ってきてレイラに返事を促す。

 もう決まっていることを承諾を得ようとすることさえ新鮮な驚きを覚える。レイラはただ頷いて『諾』という返事をすればよかった。


「新しい部屋に引っ越しをするのならば自分の部屋に戻ってもいいかしら。

 持っていくものは小さな荷駄用ワゴン一つもあれば足りるわ。

 荷造りをしたいの」

 レイラからすれば当然でレイモンドやパスカルからすれば衝撃の言葉に場が凍った。

 近くに控えていた侍女は内容に青褪めて震え、レイラの立場は知っていてもこの館で行われていた尋常ではない『行い』の内容までは知らなかった侍従たちは不審の眼を向けている。それでもこの不穏に不安を覚えているそんな顔だ。

「私が同道いたしますわ」

 いつの間にか侍女長が戻って来ていた。

 レイラやパスカルではなく上司に当たるレイモンドに申し出る。

(口止め?証拠隠滅?もう遅いと思うのだけれど。レイモンドもお兄さまも思いっきり信用していませんわ。悪あがきにしかならないのでは?)

 レイラの心の声は事情を知る者ならば当然の帰結だが、当事者の侍女長には起死回生の機会と信じているのか自棄になっているのかもしれない。大人しく受けるだけだったレイラ程度を御すのはまだレイモンド相手より勝機があると信じたいのかもしれない。

「結構よ。持って行く物など殆どありませんし、水仙の間をそれらしく(・・・・・)設える仕事に専念してくださいな。

 侍女長の手を煩わせるわけには参りませんわ」

 無表情にきっぱりと断るレイラに、侍女長の顔面が崩壊する。

「侍女長。聞いていましたか?

 レイラ様のお言葉ですが流石に荷造りは他の者を行かせますので侍女長は水仙の間を設えてください。

 他の者も、閣下がお戻りになる前に侯爵家の名を汚すこと無き様心して掛かりなさい。

 時間がありません。

 侍女長。水仙の間はファブリックを新しいものに変える程度に、客間からレイラ様の私室になるように整えて下さい」

 手を打ち周囲の耳目を集めてレイモンドが指示を出す。

 まるで統率のとれた軍隊のように立ち尽くしていた使用人たちが動き出す。

 的確な指示を出しながらレイモンドは自ら動く。

 いつの間にか母親の姿はホールには無く、使用人たちの姿も僅かで、レイモンドの伝令役である侍従たちが入れ代わり立ち代わり出入りするだけになっていた。


(はあ・・・すごいですわ。もしかしたら父よりも統率力ならば上を行くかもしれませんね)

 うっかり感心してその様に見入っていると、くいくいとレイラの手が引かれた。

 ハッとして見下ろすとそこには目をキラキラさせた弟のレインが見上げていた。

(はうっ!ま、眩しすぎますわ)

 純粋な好奇心いっぱいで見上げてくる弟の可愛さは半端なく破壊力があった。触れ合うどころか近付くことも許されなかった弟に触れられている。手を握られているのだ。息の止まるような衝撃がレイラの身を走った・・・のは無理が無いだろう。

「ねえねえねえさま。おばあさまのおみやげってなあに?レインも見てもいい?」

 小首を傾げて聞いてくる弟に何でも聞いて!と精神が高揚するレイラだったが、レインのおばあさまのおみやげという言葉に現実が戻ってくる。

 これは拙い。他の物ならば(何も持ち得ないレイラではあったが)何でも差し出すことができたが、これだけは拙かった。

「ごめんなさいレイン。

 これはお土産ではないの。おばあ様が私に授けて下さる宿題なのよ。 

 見ての通り普通にしても開けることはできないの。

 宿題を解いておばあ様の許しを戴いたら見せてあげるわ。

 それでいい?」

 レインの目線までしゃがんで説明するレイラにレインは寸の間考えると大きく頷いた。

「わかった。

 あけたらみせてね?」

 握っていたレイラの手を一緒に振って甘えるように抱き着いてくる。今、レイラは幸せの絶頂にいた。

(鼻血が出そうですわ・・・)

「レイン。乳母たちが待っているぞ。

 今日は昼食まで部屋で待っているように。

 レイラも準備があるだろう。早く行きなさい」

 今朝のように弟と無理やり引き離すことなくパスカルが声だけを二人に掛ける。

 レインは長兄に逆らうことなく元気に返事をすると、レイラに手を振り振り乳母たちの元に戻って行った。おろおろと立ち尽くしていた乳母たちに五月蠅げに手を振り促すパスカルを見、レイラは自分から声を掛けた。

「申し訳ありません身を弁えず。

 ・・・部屋に戻って支度をしてきます」

 パスカルは妹が何に対して謝って来たのか分からず、不審げに見返してきたが虚を突かれたような顔に変わり凝視してきた。

「お前は・・レイラか?」

 兄の問い掛けの意味を図りかねたが、レイラは真っ直ぐ見返して一言だけ返すと自分の私室へと足を向ける。

「私はずっと私ですわ」



 読んで戴き感謝感激!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ