第74 逃げないで!!
賭は全力で走った
両手に二人を抱えて能力をフルに使ってその場を離れていた
あの落ちてきたものが何なのかはわからない人影が見えたのでそういう類の者であるのは確かだ
だがあの場に居るとすごい不安にさせられた
雷龍が言わなかったらもしかしたらその場を動けなかったかもしれない
賭は歯をギリッと鳴らした
敵に諭されて動いた自分にも悔しかった
それもあるのだが・・自分は空から落ちてきたあれを見るのが怖かった
あれを見た瞬間自分が忘れている何かを思い出してしまう気がした
その記憶を思い出すと何かいけない気がするそう言う不安感が大量に自分の心に流れてきたのだ
二人を抱えながら考えてると
「戻れ!!賭!!もどれよ!!!」
光也がバタバタと身体を動かして叩いてくる
だが今変身している銃戸は相当身体が強化しているのでビクともしない
賭はその言葉に反応しつつも構わず走り続ける
すると
「止まりなさい!!!」
その声と共に光也と反対側から攻撃が顔面目掛けて飛んできて直撃した
そのせいでた姿勢を崩し両脇に抱えた二人と共に地面に転がった
「ってぇなぁ!!!何しやがる雛!!!」
そう攻撃してきたのは雛だった
持っていた本で思いっきり殴ってきたのだ
しかも角でだ
殴られた頬を撫でつつ雛に向かって怒鳴ると雛がすぐ近づいてきて襟首を捕まえて俺を見た
「い・ま・す・ぐ!も・ど・る・わ・よ!」
そう言ってにっこりと笑ってきた
その笑顔にビクッとなった
この笑顔は見たことがある
あれは忘れもしない中学校の頃
光也がクラスの女子にちょっかいを何回もしていた時だ
俺の言うことも聞かづずっと繰り返していたので雛が動いたのだ
その後の展開は言うまでもなく
光也は血の海に沈んでいた
俺は止めていたとクラスの人たちの証言で無罪放免だったがその時光也に向かって見せた笑顔がこれだ
笑顔のまま本の表紙や角で光也を殴り倒したその姿は、今だに当時の同級生の間では「あの子を本気で怒らせたら命はない」と言われている
その時の笑顔をしている雛が目の前にいる
だが今回の俺の判断は間違っていないはずだ
そう思い雛を見ていう
「戻ることはできない!!あそこは危険だ。なんだかわからないが空から降ってきたあれは危険な気配がした・・だからこそ雷龍は敵だがお前らを逃がすために俺を動かしたんだ」
「本当にそれだけが理由??他に理由があるわよね?賭気づいてないなら教えてあげるけど癖が出ているわよ」
そう言われ自分が髪をくりくりいじっているのにようやく気づいた
すぐにバッと手を戻したがすでに時すでに遅しだ
雛は目をつぶってため息をついたかと思ったらもう一度賭の襟首を掴みなおし思いっきり引き寄せ頭突きをしてきた
ゴンという鈍い音がその場に鳴り響き二人して悶絶した
頭をさすりながら雛はこちらを向き
「どう?少しは冷静になれたかしら?」
目の前がチカチカなりながらも雛を見ると涙目になりながらじっと見てきていた
すると先ほどまで不安になっていた心が不思議と静まっていた
「あぁ少し落ち着いただけど、あの場の判断は間違っていなかったと俺は思っているよ」
そう言うと雛は頭をさするのをやめてため息をつきながら指をさしていった
「それはこの馬鹿と私がいたから?それとも何か嫌なことを思い出しそうになったから?」
「馬鹿ってひどくないか?」
光也が反論するが雛はそんなことを気づかないふりをする
俺はドキッとし目線をそらすが雛は話を続けるために膝をつき同じ目線になる
恐る恐る見ると雛はさっきの怖い笑顔とは違い今度は真剣な目をして自分を見てきた
「私たちが心配だったからっていうのは本当よね?でもそれと違うもう一つの理由があるわよね?それを正直に答えなさい賭」
そう言って俺をじっとみてきた
目をそらそうとしたが雛が「逃げないで!」と一言いった
その一言を聞いて雛をもう一度見る
よく見ると雛の身体は震えていた
本当は戻るのは怖いのだろう
おそらく雛も気づいているのだ
自分たちが何か忘れているということに
そしてそれがとても悲しい出来事で
自分たちにとって重大なことだということを
ふ~と一度息を吐いて雛を見て口を開く
「気づいているんだな・・雛俺らがなにか忘れているって、そしてあの降ってきた何かと雷龍がそれに関係しているって」
そう言うと雛はこくりと頷き光也も雛の隣にきて座り込む
当然だが戻れって言った光也も何かに気づいたのだろう
じゃないとあの危険な場所に戻れなんてすぐに言わない
むしろ光也だったら速攻で逃げようぜ!って率先して言うはずだからだ
光也も真剣な目をしている
そして光也も身体を振るわせている
光也もまた怖いのだ
俺と雷龍が戦っているのを見てきっと自分たちが入れるわけがないとは感じているだろう
そして俺と同じくあの空から降ってきた何かに不安感を出させらた
だがそれでも戻れといった
光也は俺らと同じいやもしかしたら一歩手前まで思い出しているのかもしれない
だからこそすぐに俺に言えたのだろう
二人の目を見て俺はうつむく
(俺は何を一人で不安になっているのだろう・・二人は思い出せない何かに立ち向かおうと向き合っているのに俺は・・)
そう思っていると雛と光也が同時に肩を叩いた
顔を上げると二人は笑いながら
「きっとこの思い出せない何かは私たちにとって重要な事・・だからこそ思い出さなきゃいけない」
「そうそう!それが良いことか悪いことかはわからないけどよ!三人いるんだからよ今まで通り助け合っていこうぜ!賭」
二人はそう言って手を取って立ち上がる
思わずクスっと笑ってしまった
「いい友をもったな」
雷龍に言われた言葉を思い出した
(ほんとだよ・・敵に言われたのは癪だけど俺は本当にいい友達に巡り合えたな)
そう思いながら目にたまった涙を拭うと光也が笑った
「お前は昔っから変わらないな、何か嬉しいことだったり悲しいことがあったらすぐ涙流してさ!まっそのおかげで俺らはお前の感情をすぐわかって上げれるからいいんだけどな」
「なっ!俺そんなに泣いてないし!!今も泣いてないし!!!」
「いやいや賭毎回泣いてるよ~ちょっとでも嬉しいことがあったらすぐに涙流して誕生日にプレゼントあげた時だって--」
「あ~聞こえない!!!俺全然聞こえな~い!!!」
そう言って耳をふさぐ動作をすると光也が噴出し笑いはじめ、つられて雛も笑いはじめ、そして最後に自分が笑った
さっきまでモヤモヤしていた不安感は消えてなくなっていた
その代わり今度は温かい気持ちが心の中であふれていた
この二人が居ればきっとこの思い出せない何かも乗り越えていける
そんな気がした
「さて!!!じゃあ最後に聞くけど、危険かもしれんけど戻るか?」
俺が二人を見て問うと二人は頷いた
問いかけるのも間違っていると思ったが聞いたが二人の考えはさっきよりまっすぐになっていた
踵を返し走ってきた道を向く
二人を背中に乗せて戻ろうと準備をしようとしてるその時だった
目の前に黒い渦が現れた
「さがれ!!!」
俺が叫ぶと同時に光也と雛は後ろに下がった
中から人の気配がし拳を構える
すると黒い渦の中から聞き覚えのある声が聞こえた
耳を澄ますとそれは中からどんどん近づいてくる
「いたい!!いたい!!店員オーバーじゃ!!ウチがしっかり賭はんを守ってくるさかいあんた達は戻っておとなしゅうしときなはれ」
「今も一応敵側の言葉なんて信じられますか!!私が賭くんを守ります~」
「お二人とも卑怯です!!私が今はバディなんですから私に任せてください!!」
「桜さんもなんで抜け駆けしようとしているんですか!!賭さんを助けるのは私です!!」
「どうでもいいんだけど・・この狭いの何とかして・・」
「「「「お前は来なくてよかっただろ!!!!」」」」
などという声が聞こえてきた
そしてツッコミと同時に黒い渦からポポポンと声の主たちが雪崩れ込んできた
みんな地面に倒れこんでいる
皆賭に気づき見てあっとなる
「なにやってるんですか・・みんな」
黒い渦の中から出てきた天照・ネクタル・桜・光・優を見て賭はため息をついたのだった




