第5 不思議な出会いは突然に・・・
えっこれまじ?と思わず息をのんだ。
エントランスを抜けて、北コンコースを抜け連絡ブリッジを通り東館と呼ばれる東展示棟に着いた。
そこには数千人はいるのではないだろうか、沢山の人の波があった。
右を見ても人、左を見ても人自分は今先程よりすごい光景を見ているのではないかとさえ思えた。
歩くたびにいろんな人とすれ違う、自分と同じ様にコスプレをしてる人、親子で来ている人、凄い大きいトランク持ってる人など様々な人達がいた。
そうここが、コミックマーケット本当の地獄一般ブースなのである。
といっても自分も初めて来たからよくはわからないが、ここでは企業ではなくひとりひとりが趣味で書いたオリジナルの作品を販売したり、アニメやゲームなどの二次創作系、歌い手さんのCD、アクセサリー、小物類などなど、自分の作品を一般の人が各ブースで販売している。
ちなみに、コミケでブースを確保して出店する為には厳正な審査の元、抽選に当たらないといけないそうだ。
そんな激戦を潜り抜けたサークルたちが今この場にいるわけだ。
特に壁際にあるサークルは、壁サークルや神サークルとも呼ばれており人気の高い作品を作ってるブースが多く点在しているのだ。
中には、声優さん、芸能人、スポーツ選手なども今では自分で作ったオリジナルのグッズを売ったりしているのだからファンが集まり争奪戦になるほどだ。
ちなみに、自分が並んでいた西館側と違い、東側の駐車場の待機列は深夜から並んでいる人がいるとかなんとか聞くが・・・あまり触れたらいけない話だそうだ。
自分は買うものがそこまでなく、好きな作品の同人誌があったらいいな~くらいの感覚で来たが、もっと覚悟を決めてくるべきだった。
コスプレして、いろんな人に手を振ってもらったりしていい気になり過ぎていた。
トランクをクロークに預けて身軽にしていなかったら更に動きづらくなっていただろうと考えると少しホッとした。
人気のサークルだとコスプレとかしてて出遅れたりすると、3時間も並ぶことになるとか。そんな人気のサークルに少し興味があり壁サークルを見に行くとそこには凄い列が出来ていた。
そのサークルは、「rabbit」というサークル名が出されており、どうやらアニメのいろいろなキャラクターにうさぎの耳を付けたグッズを販売しているブースのようだ。
明らかにわかる、ここは神サークルっていうのに分類される所なんだろう、並んでいる人の列が近くのブースよりはるかに長く、見た感じ最後尾の人は約3時間は確実に並ぶと思われるくらい遠くにいるのが小さく見えた。
コミケのスタッフさんも行列を整理するのにとっても大変そうに見えた、本当に俺らの為にありがとうございますと思わず軽く拝んでしまうほどであった。
人込みをかき分けて他のサークルを見て回り、東館を一周するのに大体1時間ちょっとかかった。
自分は、アーサーのグッズはないものだろうかと楽しみにしながら見ていたが中々見つからないので諦めて西館の企業ブースへ行こうと考えた。
企業ブースなら、アニメを作っている会社などが公式のグッズなどを売っているからなと自分に納得させて行こうとすると途中に不思議なブースを見つけた。
「あまてりおん??」
サークル名が書いてある立札を見ながら思わず口に出していた。
チラッとブース内を見てみると、アクセサリーや小説、アニメの絵などが置かれていた。
これだけ見れば、何も不思議ではないブースなのだが・・・目立つ所にあるにしては人があまり近づかない感じである。
その時
「あら、いらっしゃい」とサークルに居た人に声をかけられた。
ふと前を見ると女性が座っていた。
髪は絹のように美しい髪で黒のロング、肌も白くとても気品高いような感じの服を身にまとい、目の色は少し青っぽい感じのとても綺麗な人だ。
はっ少し見とれてしまった。俺の馬鹿・・・
そうしていると女性が更に声をかけてきた。
「なんだい?私に見とれちゃったかい?」
冗談めかして聞いてきたので思わず首をブンブンふったらクスクス笑われた。
「冗談だよ。あんたそのコスプレ似合ってるね、それアーサーの格好だろ?」
「あっはいアーサーです。自分、このキャラクターが好きでコミケ初めて来るなら絶対やろうと思ってそれで今日初めて着たんですが・・・変ですかね?」
と少し恥ずかしくなりうつむくと女性は首をふった。
「何言ってるんだい。とても似合ってるよ、頑張って勉強したんだろうねウィッグのつけ方とか化粧まで上手くいってるじゃないか。自信を持ちなさい。」
女性は、笑顔でそう言ってくれた。
なんだか少し嬉しかった。口に出して言ってもらえると少し自信がみなぎってきた感じがした。
「あっ僕、夢見間賭っていいます。あのよかったらお名前お聞きしてもよろしいですか?」
何故か緊張しすぎたせいか、凄く丁寧に聞いてしまった。
女性は少し微笑みながら
「私の名前は天照神子って言うのよ。よろしくね賭くん。」と名前を教えてもらえた。
神子さん・・・なんか不思議と初めて会った気がしない感覚だった。
「賭くんそういえば朝、君を見た気がするよ。すれ違いで一瞬だったけれどね」と言われてああ!!と納得した。
朝一瞬すれ違った不思議な雰囲気をもった女性、あれは神子さんだったのか。
「はい、本当に一瞬すれ違いましたね。よくわかりましたね。」
「うん。なんとなく覚えていたんだよ。それより賭くんここで会ったのも何かの縁だよかったらうちの作品一つあげようじゃないか。」
思わず戸惑ってしまい。「へぇあい」と変な声が出た。
「いやあぁ、いいですよ!!すれ違っただけでもらっちゃうのはなんか変ですよ」
と思いっきり断ってしまったが神子が言った。
「そうかい?ん~じゃあ一つなんか買ってくれたらプレゼントするってのは?」
「あっはい!ん~~まぁそれなら大丈夫です。」
と返事をしたが、これなんか軽い押し売りされたみたいになってるぞと思ったが自分の思ったことをスルーした。
ブースの中にはいろいろな作品が置かれていたが、中でも自分が気になった物があったので手に取ってみた。カードの束である。
「おっいいもんに目を付けたね。それはおまじないのカードさ、願えば叶えてくれるかもしれないカードだよ。」
「へ~~~なんかいろいろ描いていますね。」
「そう。カードの種類は「剣」「銃」「魔法」「双剣」「愛」「槍」「頭脳」「神」他にも数種類あるけどね。」
と得意げに話してくれた、きっと自信作なんだろう。
そう思うとなんかとても欲しくなり、「じゃあこれ下さい」と言うと神子さんも嬉しそうに「ありがとうございます。」と言ってくれた。
値段は手ごろな1000円だった。こんな綺麗な作品が1000円は安すぎるんではないかと思ったがまたなんか言ったら迷惑かもしれないのでひっこめた。
「そしてはいこれも、約束のプレゼントだよ。」
笑顔で渡してきたのは、綺麗な5センチくらいの水晶玉であった。
なんて綺麗な玉なんだろうか、透き通るその玉を覗くと虹のような光が見えたりして思わず見とれてしまった。
「気に入ってくれたようだね」と笑顔で声をかけられハッと気が付く。
恥ずかしかったがもらえたのは嬉しかったので「はい!気に入りましたありがとうございます。」と伝えた。
神子さんも嬉しそうに頷いてくれた。
すると、スマホの音楽が鳴り響く、賭のだった。
失礼して見ると桜さんからメッセージが届いていたのだ。
「賭くんへ、東館と西館どちらにいますか??私は今東館の飲食店がある所に来ていますがよかったら一緒に食事でもどうですか?」
という誘いのメッセージだったのですぐに返信をした。
「僕も東館にいるので今から向かいますので待っていてください。」っとこれでよし。
メッセージを打ち終わりスマホをポケットに入れる。
「いいね~彼女からからかな?青春してるね~」とにやにやしながら神子さんが見てきた。
「違いますよ。今日、友達になった人に誘われたんですよご飯食べませんか~って。」
そういうと神子さんはな~んだという感じで笑ってくれた。
「じゃあ相手を待たせたらいけないのでこれで、ありがとうございました。」
「ううん、こちらこそ買ってくれてありがとう。よかったら大事にしてね。もしかしたら君を守ってくれるかもしれないからね。」と言われた。
言われたことに少し疑問を抱いたが、きっとおまじないの事なんだろうなと思い会釈をして神子さんと別れた。
賭には聞こえないくらいの声で「何事もないといいのだけれどね」とつぶやいた神子の声は賭には届かないままに・・・・




