第30 記憶
目の前に草原が広がる
どこを見渡しても綺麗な緑色の草、何だか懐かしく感じる場所だ
ふと目の前を見ると青年が一人立っている
それを見てようやくわかった
「あぁあ・・・あんさんか・・・・」
目の前に居る青年は嬉しそうに頷いて何かを喋っている
時に大げさに時に小さくいろいろ表現してくれている
その姿は何度見てもやっぱり嬉しいもんやった・・・
だけど・・・青年がくるりと周り反対方向を向きながら喋り始める
うちは、その言葉を痛いほど覚えている・・・
その言葉に今も引き裂かれそうになる・・・・
なんで変わってあげれへんのやろうと思いうつむき掛ける
すると、青年は慌ててこちらに向き直り手を握って笑顔で自分に言う
「僕は大丈夫だよ」
泣いている自分がわかる、青年のその言葉に嘘偽りはない
だけども、どうしても悔しかった・・・
友達になれたのに・・・なのに・・・
こうするしかない・・・こうしないと・・・
青年の手を握りしめる
笑いながら痛がる青年を見て涙を流しながら作り笑いをする
ずっとこの手を放したくない・・・・
でもあの子の為にも・・・この子の為にも
未来の為にも・・・・・
青年が手を離し・・歩いていく
それを見送る自分
青年が数メートル離れた所で前を向く
「まって!!!まってちょうだい!!!お願いやから!!!!」
青年の後を追おうとするが距離が縮まらない
泣きながら追うがどんどん離れていく
「お願い・・やから・・・待って・・・お願いやから・・・・」
青年の姿は見えなくなった
膝を突き泣いてしまう
先ほどまで草原に居たのに今の足元は黒い地面が映し出されていた
それはどんどん自分を飲み込もうとしている
どんどん地面にズブズブと沈んでいく身体
これでええんや・・
これで・・・・
そう思ってそのまま落ちていこうとする
暗いこの深淵に落ちればきっと楽だろう・・そう思いながら身をゆだねようとする
するとどこからともなく声が聞こえる
「ネク・・・」
かすかに聞こえる声
誰なんだろうか・・聞き覚えがある
「ネ・ク・・・ル・・・」
また聞こえた・・確かに聞こえる・・誰かが呼んでいる
「誰なん??うちを呼ぶんは・・・」
声がする方向を向く、そこからはわずかな光が差していた
その方向に手を伸ばす
「戻って・・・来て・・・ネク・・・」
聞こえたその声に暖かい気持ちになった
クスッと笑ってしまう
必死に自分を読んでくれるその声
その声を聞きなんだかホッとしてしまったのだ・・
そして光から伸びてくる手を掴む
「ほんに・・・優しい子やな」
そういって光の中に飲み込まれる
「お願い!!!!戻ってきてネクタル!!!お願い!!!」
目を覚ますと大泣きで自分の胸に覆いかぶさるように泣いている女が居た
服はボロボロで、恥ずかしい格好だがそのボロボロな姿の自分の上で泣いているのだ
思わず呆れてしまったが、何だか嬉しかった
ゆっくりと口を開こうとすると、目線の先に居る賭が目を覚ました自分に気づき、人差し指を立て口に当てた
どうやらまだ声を出すなって事らしいので目をつむる
すると泣きながら覆いかぶさる女は喋り始める
「ごめんなさい・・ほんとにごめんなさい・・・私が・・私がBLなんて描きたいって言ったから・・喧嘩して仲直りしなかったから・・・」嗚咽をもらしながら喋る
それを聞きながら目をつむり続ける
「もう・・・無理に見て好きになってなんて言わない・・・だから・・・お願い・・・戻ってきてよ・・」
そう言いながら洋服をギュッと握りしめる
チラッと賭を見るとどうする?っていう感じにこちらを見ている
そしてゆっくり喋る
「本当に無理に好きにさせようとしない?すぐにBL描こうなんて言わない??」
そう言うと胸で泣いていた女が目を丸くして顔を見た
その顔は本当にグズグズになっていた
「あんさん・・なんて顔してるの・・・可愛い顔が台無しじゃない・・天照・・・」
そう言い天照の頭をポンポンと叩きながら撫でてあげる
それがスイッチになったのかまた大泣きしながら今度はネクタルを抱きしめる
「よかったぁ~~!!!生きてたぁ~~~!!!よかったぁ~」
そう言いながら抱きしめる力がどんどんましていく
ギリギリ閉まるその抱きつきにネクタルが声を上げる
「いたたたた!!!痛いから!!!また!!気絶してまうやろ!!!はなれええ」
そう言いながら天照を引きはがそうとするが離れない
余程嬉しかったのだろう、天照はそれからしばらく抱きついたままだった
「さてと・・・ほんにこの子は昔から変わらへんなぁ」
そういいネクタルは泣き疲れて眠った天照の頭を撫でる
眠っている天照は本当に子どものような寝顔をしている
それを見ているとネクタルがこちらを向いた
「あんさん・・・手加減したやろ最後・・・あの技本当はもっと強力なはずやない?」
そう言いじ~っと見つめてくる
ギクッとして思わず目をそらす
「気のせいですよ・・・ほら!!!まだこの変身とかに慣れてないせいとか想像力が足りなかったとか・・・あとは・・え~っとなにがある・・・」
そう言いながら人差し指を立てて、空に何か絵を描くような動きをしながら言い訳を考え始める
ネクタルが言った事は正しかった
あの技は、本当ならネクタルを消し去ってしまうくらいの威力がある技なのだ。
リメイクされたアニメ新選組の中で放った沖田のあの技は、町一つを破壊してしまうほどの威力なのだ
だから、神子さんはその技を想定して結界を張ってくれていたのだと思う。
もしもの為の安全策だったのだろう
だけどネクタルを消したくない、ちゃんと神子さんと仲直りさせるんだという思いがありそのおかげで技の制御ができ、威力を落とすことができたのだ
おかげで神子さんも少ない怪我で済んだのだ
言い訳をしようと必死に考える自分を見てネクタルはため息をついた後笑った
つられて自分も笑ってしまった
お互い笑いながら空を見る
そこには綺麗な青空が広がっていた
ネクタルを見るとネクタルはとてもスッキリした顔をしている
その顔を見て少しホッとした
そうしていると、空がパリパリパリと音を立ててヒビがはいっていく
どうやら神子さんが眠ってしまった事により結界が崩れるのだろう
すると遠くから桜さんと光ちゃんがクタクタな顔をしながら歩いてきた
神子さんの話だと周りに配置していた天使たちに事情を伝える為に走りまわり、残り少ないパワーで結界を張るのに使っていたそうなのですっごいフラフラしている
おかえり~そしてありがとうと声をかけると手をあげてその場に倒れこんだ
2人とも空を見上げながら大きな声で叫んだ
「「もう!!!!無理!!!!疲れた!!!!しんどい!!!!」」
そう叫んだあと2人してネクタルを見る
ネクタルは2人を見ながら申し訳なさそうな顔をしていると桜が口を開いた
「アニメは・・・好きですか???」
そう問いかけるその問いは戦う前ネクタルに桜が問いかけた言葉だった
じ~っと見ながらネクタルを見続けるとネクタルは息を吸って言った
「ええ・・好きや・・・あてはアニメも漫画も・・・大好きや」
素直にそう答えるネクタルは何だか嬉しそうだった
それを見て桜は空を仰ぎながら目をつむりながら喋る
「あなたの事は正直許せないけど・・・まぁ・・アニメが好きって言うのは認めてあげる・・・じゃなかったらあんなに賭くんが苦戦するわけありませんから・・・」
そういいチラッとこちらを見て来たのでうつむいてしまう
そうしていると、今度は光ちゃんが「ネクタルさん・・・もう同人サークルはやらないんですか???天照様と一緒にやっていたのに・・・あの絵もったいないですよ・・・」と問いかける
ネクタルは指を唇に当てながらう~~んとうなった
するとどこからともなくヴ~ヴ~という携帯のバイブ音が聞こえた
賭と桜、そして光は自分の携帯を確認するがどうやら三人の物ではなかった
辺りを見回してもどこにも見当たらないので探しているとピッと目の前で音がした
「もしもし~ウチや~どないしたん??」とネクタルが電話をしている
三人とも驚きはしたが、まぁ神子さんが持ってるんだからネクタルも持っているのは不思議ではないかと見守っていたが「ほんま!!」と言いネクタルが凄い笑顔になって立ち上がった
次に放たれた言葉に驚きを隠せなかった
「私たちが描いたユリ漫画全部完売したんか!!!やったやんぎょうさん売れたなぁ~ほんま嬉しいわ、ふんふんわかったわブースの片づけはまかせるわ、ほなまたあとでなぁ~」そう言い携帯を閉じた
嬉しそうにネクタルが顔をあげると三人がじ~~っと見ていてあっという顔になった時には遅かった
「ネクタルさん・・・今ユリ漫画が完売したとか何とか言ってましたよね・・・」
「私も聞きました・・・私たちが!描いた!!とも言ってましたよね・・・」
「同じく私もききましたが・・・ブースの片づけともいってましたね・・・」
「「ネクタル~~~~~~!!!!!」」
賭は呆れ顔をしているが2人の女子は凄い形相になりネクタルは慌てて逃げ出そうとする
疲れて倒れていたのも忘れ2人は立ち上がりネクタルを追いかける!!!
「どういう事!!!BLはダメでユリはいいのかい!!!ネクタル!!!」
「そうですよ!!ネクタルさん!!!説明してください!!!」
「商売やったんやお金が欲しかったんや堪忍して~なぁ~~お願いや~賭はん!!2人止めてぇ」
ネクタルがこちらを向いて助けを求めるが桜と光からキッと睨まれた為両手を手に上げた
二次元を破壊しようと目論んでいた内の一人がまさかの同人誌で、しかもユリ本でお金儲けしようとしていたのを知り怒る2人に追われながら逃げるネクタル
それを見ながら笑う自分と、とても幸せそうに寝息を立てて寝る神子さん
ちょっとしたすれ違いわあったのかもしれないがこうやっている光景を見るとなんだか嬉しく感じた
そんな嬉しさを感じた次の瞬間ドクン!!!と心臓が一瞬ズキっとなり
あれ?と賭が心臓に手を当てると今度はズキっと頭痛が走った
すると脳内に何かの映像が流れ始めた
そこには人々が逃げ回り、街が燃えがっている光景だった更に逃げる人たちを殺していく一人の男の姿が見えた
姿は見えるのだが顔はもやがかかったように見えない
剣を構え一人、また一人また一人と殺していくその姿はまるで悪魔の様だった
それに耐えられなくなり「やめろ!!!」と声を出そうとするが声が出ない、するとその男はこちらに気づいたのか指をさしてこう言い放った
「いずれ・・・お前もこうなる・・・・」
そう言われた瞬間元に戻った
一瞬意識が飛んだのか、はたまた違う何かだったのか・・・わからないが恐ろしく感じた
「いずれお前もこうなる・・・」
心臓を抑えながら考えた
どういう事だろう・・・殺された人たちのようになるのか・・・それとも・・
そう考えそうになったが首をブンブンふった
ないないと言い聞かせ神子さんを見た後、目の前で喧嘩してる三人の光景を楽しむのだった




