「妹の名はミサ?」
まさとが研究室で見たのはブロンドの少女だった。
ミサの電子頭脳・人工知能のデザインは、まさとの妹・さえによる物だった。
「……私のミサとお兄ちゃんのジル、どちらが優秀かすぐに結果は出るわ」
ジルとミサの比較試験が始る。
ジルとミサ、優れているのは……大抵後から出た方がスペックいいよな~
まさとは研究所の階段を駆け降りていた。
研究室に入ると、長崎がコンピューターの画面から顔を上げた。
「大分くん、どうしたの?」
「先生、ジルが、ジルが!」
「ジルが?」
ただならぬまさとの顔を見て長崎は席を立った。
奥の部屋に入るように目で合図する長崎にまさとは頷いた。
部屋に入って椅子に座ろうとしている長崎の手をまさとはつかまえた。
「先生!」
「!」
キスでもしそうな勢いで顔を近付けてくる。
「先生、ジルが!」
「え、あ、何?」
長崎は真っ赤になりながらまさとを見つめた。
しかしまさとの視線にすぐに恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。
「ジルが、メシを作ってくれたんです」
まさとは離れようとする長崎の身体を引き寄せて、
「ジルが自分の小遣いでラーメン買って、作ってくれたんですよ!」
まさとが力説するのに長崎が真顔で聞いていると、今度はまさとが真っ赤になって顔を逸らしてしまった。
「す、すみません……ついつい嬉しくて」
「ジルが料理をしたの?」
「ええ、昨日」
「そう……」
まさとは深呼吸すると椅子に腰かけて、
「料理作ってもらうのなんて久しぶりで……」
「そう、ジルが料理をね」
「それも、百円しかない小遣いで袋ラーメン買ったんです」
「……」
「ジルの頭は……どうなってるんですかね」
まさとは言いながら、その顔はゆるみっぱなしだった。
長崎はそんなまさとを目を細めて見つめながら、
「まるで我が子のようね」
「我が子……ちょっとわかるような気が……」
まさとはにやけた顔のまま頷くと、
「でも、どうしてあんなにかわいくなるかなぁ」
言いながらまさとは長崎の手を握り、
「ジルはロボットなのに、何も言われないで掃除や洗濯して、料理もしたんですよ」
「料理洗濯……」
「洗濯はすごいけど……洗っただけで干してるからゴワゴワ」
まさとの言っている顔がおかしくて長崎はクスクス笑い始めた。
そんな長崎の顔を見て、まさとは真顔に戻ると聞いた。
「先生……何でジルを作ったんです?」
「え?」
「完全機械のロボットだって出来たでしょう?」
「……」
「何も急がなくても」
まさとの言葉に長崎は唇を震わせるだけで、何も言えないでいた。
「それに、人間じゃなくてもって思う事が……」
まさとは視線をテーブルに落して、
「犬や猫のロボットなら、おもちゃ屋にも並んでます……あれも機械仕掛けで簡単な仕組だけれど、最近のはよく出来てて、飼い主を覚えてくれたりします」
「……」
「ジルは人間だから……本当に人間のように思えて……」
そんなまさとの言葉に返事はなかった。
長崎がちょっと怒ったような顔で考え込んでいるのを、まさとは黙って見守った。
(そういえば……)
まさとは長崎の身体の事を聞いた事があった。
あまり考えたり、気にとめたりした事はなかった。
この研究所に入る以前の長崎は、西和大学の医学部に席を置いていた。
在学中、ちょっとした検査の結果、子宮筋腫で子供が産めない体になっている……そんな噂だった。
まさとは研究中、電子頭脳や人工知能の事ばかりで、そんな長崎の身体の事にまったく触れた事がなかったし、その必要もなかった。
(人間の身体のロボットって……)
ジルを思い浮かべながら、まさとはそれが長崎の子供を意味するのではないか……思い始めていた。
「先生……」
まさとが長崎の身体をゆすると、それまでうつろな目をしていた長崎の眼に光が戻ってきた。
「先生、大丈夫?」
「うん、ちょっと考え込んでいただけよ」
長崎は笑みを浮かべると、
「ジルについては、いろいろあったのよ、機械仕掛けが出来なかった……それが本当の理由よ」
「……」
まさとは微笑む長崎の顔をじっと見つめた。
さっきのどことなくもの憂気な顔がまぶたに焼きついていた。
「何よ、大分くん?」
「い、いや……」
長崎は白衣のポケットに手を入れると煙草を出して、
「でも、ジルが思った以上に人間らしいしぐさをしてくれるのは助かったわ」
「?」
煙草に火をつける長崎の顔は研究者の顔になっていた。
部屋の奥に扉も何もないのに、セキュリティのカードリーダーがあった。
長崎はそれにカードを通すと、まさとの方を見ながらテンキーを押していた。
「正直、ジルじゃちょっと不安だったの」
「何の話ですか?」
セキュリティが開錠されたのか、ロックが解除されるような金属音がした。
パテーションを切るのに使っているような壁。
長崎がそれを押すと、壁の向こうから光が漏れてきた。
まさとが息を呑んで見守っていると、長崎が頷き、光の中に消えていった。
おそるおそるまさとは隣の部屋を覗き込んだ。
そこには大きな円筒形の水槽があった。
「ここは?」
「培養槽よ」
「培養槽?」
「ジルの身体を作った、細胞の培養をする……っと、人間で言うなら子宮かな?」
「……」
部屋を見回すと三つの水槽があったけれども、どの水槽も空だった。
「ここでジルが……」
「そう、そして……」
それまで空の水槽に見とれていたまさとだったが、人の気配を感じて視線を長崎に戻した。
「!」
そこには全裸の金髪少女が長崎によりそうように立っていた。
まさとは少女が全裸なのに一瞬顔が熱くなったが、その顔に見覚えがあってすぐに正気に戻っていた。
(誰だっけ?)
「ついさっき水槽から出したのよ」
「ついさっき?」
「そう、身体も出来ていたし、電子頭脳も人工知能もばっちりだったけど、肺の機能にちょっと不安があったの」
長崎が少女の肩を叩くと、金髪を揺らしながらまさとに向かって歩き始めた。
一歩一歩、身体を揺らしながら歩く少女。
まさとはその無表情な顔をじっと見つめた。
少女は身体を揺らし、腕を微妙に振ってバランスを取りながら歩いている。
「前を見る、前を!」
長崎の言葉で少女は下を見てばかりだったのが、しっかりと前を、まさとの方を見て歩くようになった。
少女がまさとの方に腕を伸ばすのに、まさとも手を差し出した。
「おいで……」
まさとはしゃがみ込むと視線を同じ高さにして少女を待った。
二人の手と手が触れ、しっかりと握りあった。
少女は無表情のまま倒れるようにしてまさとの胸に飛び込んだ。
まさとはそんな少女を抱きしめながら、必死になって少女の顔を誰かの顔と重ねようとしていた。
「この娘は……操ちゃん?」
まさとの脳裏では黒髪を揺らしながら行ってしまう操の後ろ姿が思い出されていた。
「先生、この娘は操ちゃん?」
「操ちゃん、知ってるの?」
「ええ……操ちゃん……ですよね」
まさとは少女の頭をしっかりとつかまえ、その顔を確かめた。
操にそっくりだったけれども、髪の色はジルと同じ金髪で、目の色もジルと同じ青だった。
「そう、この娘は操ちゃんの遺伝子情報を元に作ったのよ」
まさとは長崎の言葉を聞かずに、少女の顔を見続けた。
操の事はお人形さんのような女の子で強烈にまさとの記憶に残っていた。
しかし、今、目の前にいる少女は姿こそそっくりだったが、どことなく生気のない、人間らしさが感じられなかった。
「名前は?」
まさとが青い瞳を覗き込むようにして言うと、
「ミサです」
「ミサ……」
「そうよ、ミサ……ミサは私のプログラムで動いているの」
まさとはいきなり割り込んできた声に顔を上げた。
長崎の隣に、まさとの妹・さえが立っていた。
「さえ……」
「どう、お兄ちゃん、ミサは私の人工知能で動いているの」
不敵な笑みを浮かべるさえの顔に、まさとは奥歯を噛みしめた。
まさとの視線とさえの視線がぶつかった。
「お兄ちゃんの作ったジルなんかより、ずっと優秀なんだから」
まさとのにらみ付けるような視線が、そのまま長崎に向けられた。
「先生、これは?」
「比較試験よ、比較試験」
「比較試験……」
「ジルの電子頭脳とミサの電子頭脳、優秀な方をこれから量産する人工知能の基本にするのよ」
「量産って……」
「私はジルにお兄ちゃんの人工知能が載るのが信じられなかった」
まさとの言葉を遮ってさえが言った。
「私はお兄ちゃんよりずっと優れたプログラムをしていたのに……何で先生は私のを採用してくれなかったのか、納得出来なかった!」
「さえ……」
「でも、これではっきりする……私のミサとお兄ちゃんのジル、どちらが優秀かすぐに結果は出るわ」
さえの自信満々な顔を見て、まさとは息を呑んだ。
「どう、お兄ちゃん、病弱で何も出来なかった私が、お兄ちゃんより優れている、お兄ちゃんを追い抜くなんて、思ってもなかったでしょ?」
ニヤニヤしながらさえが言うのを、まさとは肩を震わせて聞いていた。
まさとが高校に上がってすぐの頃、中学に上がったばかりのさえは毎日を病院のベットで過ごしていた。
小さな時から病弱だったさえは、中学に上がると同時に入院し、最初こそ小学校の頃のクラスメイトが見舞いに来てくれていたのが、次第に誰も来なくなっていた。
まさとは両親からさえの病気が長引く事、もしかすれば助からないかもしれない事を聞かされていた。
両親は仕事で海外を飛び回る事が多かったから、さえの入院で世話をするのが困難だった。
それこそ、それまで父だけで世界を回っていたのが、仕事が忙しくなり母も一緒になって動き始めたものだから、家やさえの面倒を見れるのはまさとしかいなかった。
そんなさえを元気づけるために、まさとは毎日のように病院に見舞いに行き、学校に行けない分の勉強を見たりしていた。
しかし、さえは日増しに顔色が悪くなり、手首が痩せ細っていった。
まさとはそんなさえに、少しでも笑ってもらいたくて、あれこれ手をつくしていた。
でも、まさとも学校に通わないといけなかったから、昼間の大部分の時間、さえは一人でテレビを見たりしてぼんやりと過ごさねばならなかった。
まさとが学校の帰りに立ち寄ると、病室の部屋を開けた瞬間にさえの顔は笑顔で満たされていた。
「お兄ちゃん遅い!」
さえは痩せおとろえた頬を精一杯膨らませていた。
まさとは最初こそ喜んでくれていると思っていたが、その笑顔が早く見たいばかりに部屋を開けた瞬間のさえの顔を見てしまったのだ。
さえが笑顔を作るまでの瞬間、すごくさみしそうな、疲れた顔をしていた。
まさとが看護婦に話を聞いてみると、昼間のさえは人形のようにまったく動かず、無表情で窓の外を見ているらしいのだ。
まさとはどんなに頑張っても、昼間まで一緒にいてやる事が出来なかった。
まさとがいない間、誰もさえをかまってあげられなかった。
まさとは看護婦を責めそうになったけれども、それをなんとな呑み込んでいた。
(何か打ち込む事があれば……)
そう思ってまさとが与えたのがノートパソコンだった。
最初は何気なくCGを描いたりしていたさえだったが、次第にプログラムを組んでゲームを作ったりしているうちに、コンピューターの世界にのめり込んでいった。
(あのさえが……)
勝ち誇ったような、まさとを見下したようなさえの笑み。
まさとは昔なら悔しいと思っただろうが……今は違った。
さえには、そんな顔をして欲しくなかった。
「ベットの中でキーボードに向かっている時、私が何を思っていたか、お兄ちゃんはわからないでしょう?」
「え?」
「私がただ、コンピューターにはまっていただけと思う?」
さえはまさとの様子を見て、一呼吸入れると続けた。
「コンピューターは楽しかった」
「……」
「でも、いつも頭の中ではお兄ちゃんがうらやましかった」
「え?」
「お兄ちゃんは普通の人と同じ暮らしが出来るのに、私はベットから出られない暮らしを送る……ずっとお兄ちゃんがうらやましかった!」
「そ、そんな……」
「私は今、身体がよくなって歩けるようになった……今度は私がお兄ちゃんを見下す番なの!」
「俺はさえを見下してなんて……」
「いいや、絶対見下してた!」
声を大にして言うさえに、まさとは沈黙してしまった。
助け船を出してくれたのは長崎だった。
「まぁまぁ」
「……」
「ミサとジルの性能を比較すれば、どっちが優秀かすぐわかるから」
長崎はさえの肩に手をのせて言うと、まさとの方を見て、
「ともかくミサはジルの妹って事で処理してるから、明日から学校に通わせてね」
「明日って……大丈夫なんです?」
まさとの不安そうな顔を見てさえは鼻で笑った。
「ジルと違って、ミサは優秀だから一年も準備期間はいらないのよ」
「……」
さえの言葉を聞きながら、まさとは改めて長崎に目を向けた。
そんな視線に長崎は小さく頷いて、
「さえちゃんの言う通りよ」
まさとはミサの顔をじっと見つめた。
そこにはまさとを見つめるぼんやりとした青い瞳があった。
まさとはそんな瞳をしっかりと見つめていたけれども、それはジルやその友達のあっちゃん、ベースになった操の目のどれとも感じが違った。
(まるで死んでるような……)
まさとの手がミサの頬を撫でた。
そんなまさとの手にミサの手が重ねられる。
しかしそのしぐさは、どことなく人間らしさが抜けているように感じられた。
「先生……」
「何?」
「ミサは……ジルと同じようにモニター出来るんですよね?」
「そうね、うん」
「ミサとジルは、つながってるんですか?」
「!!」
まさとがミサから長崎に視線をやると視線がぶつかった。
真顔で見つめてくるまさとに、長崎はニヤリとした。
そんな長崎の顔を見て、まさとは笑みを浮かべた。
「大分くんは、もうわかってるみたいね」
「先生こそ、どうなんです?」
まさとと長崎が言葉を交わしているのを見て、さえは不機嫌な顔になると出て行ってしまった。
そんなさえに見向きもせず、まさとはミサを抱きしめ、ブロンドの髪をゆっくりと、何度も何度も撫でてやった。
翌朝、学校でジルは小さくなっていた。
隣の席では操がムッとした顔で正面の黒板の方を見つめていた。
操のまっすぐな視線はピクリともしない。
ジルはそんな操の顔を見る事が出来なかった。
「ジルー、操ちゃんに何したのー!」
晶子の言葉にジルは力なく笑うと、チラッと操を見てから席を立った。
「あっちゃん、あっちゃん!」
「?」
ジルが手招きするのに晶子も席を立つと、ジルと一緒になって教室を出た。
そんな二人の後を追うようにして響子もやって来ると、三人は屋上に上がった。
「あっちゃん!」
「何?」
「操ちゃん怒ってましたよ!」
「どうしてだろうね?」
晶子がニヤニヤしながら言うのに、響子も言った。
「そうそう、どうして?」
「そ、そんな……ぼくにはわかりません」
困った顔をするジルを二人はニコニコ顔で見守った。
「ぼくだって、昨日初めて会ったんですから!」
「晶子も昨日電話で聞いたよ」
「うん、あたしも長崎先生から聞いた……操ちゃんの遺伝子で作られてるんだよね」
「それはぼくのせいではないです!」
拳を固めて言うジルに二人は頷いた。
「でも、操ちゃんは、絶対怒ってるね」
「うう……」
予鈴が鳴るのを聞いて三人は教室に戻ると、担任の吉田もちょうど教室に入って来たところだった。
今日の教室はいつもと雰囲気が違っていた。
ジルがミサの手を引いてやって来たのを見たクラスメイトは、運動場にドッチに出る事もなくいろいろな噂を勝手に飛ばしていた。
噂の訳は、ミサが操とそっくりな点だった。
「おらー席に着けー」
吉田の後には、問題のミサが静々と続いた。
「今日は新入りがいる……大分の妹・ミサだ」
吉田の言葉も歯切れが悪かった。
ミサが会釈する。
教室は静まり返っていた。
吉田がやらなくてもわかるのに、黒板に「大分ミサ」なんて書いている。
チョークが黒板を叩く音の中に、クラスメイト達のコソコソ話が混じった。
前の席の連中が、ミサを見ては教室の後ろの操をチラチラと見る。
ジルも教科書に顔を隠しながら、ちょっとだけ操を見た。
操は微笑んでいたけれど、唇が微かに震えているのにジルはすぐに教科書の影に隠れてしまった。
「あー、ジルの妹だから……渡辺、席ずれてくれ」
「な、何で……」
操はブツブツ言ったが、黙って席を立つと隣の席に移った。
吉田に促されて空いた席に向かうミサ。
ブロンドの髪がなびいている姿は操そっくりだった。
操とジルの間に腰を下ろすミサ。
ジルは平然としているミサの横顔を見ながら、その向こうで怒りのオーラで肩を震わせている操が見えた。
「あー、ジル、教科書見せてやれ」
「は、はい……」
ジルは言いながら、ミサの席を寄せようとした。
「おい、ジル!」
「は、はい?」
「お前、それ、教科書違う」
「え……」
ジルが机に出していた教科書は「算数」。
授業は「国語」だった。
ジルはあわてて鞄の中を見たけれども、国語の教科書は出てこなかった。
「せ、先生~」
「な、何だ……」
「忘れました」
教室の空気が一気に重くなった。
吉田が瞬時で鬼の形相に変ると、ジルの所までやって来て出席簿が振り降ろされた。
「忘れんなバカ!」
ジルは叩かれてもちっとも痛くなかった。
ただ、ただ、操からのオーラに震えていた。
晶子や吉田、クラスメイト達を見ても、落胆した顔しかなかった。
吉田は操とミサを見ながら、
「ジルは長船に見せてもらえ……ミサは渡辺に見せて……もらえ……」
「はい」
笑顔で頷くミサ。
「はい……」
操のドスの利いた声が、静かに教室に響いていた。
チャイムが鳴るまでの時間が、まるで十倍にも二十倍にも感じられた。
ジルは晶子の方を向いたまま、操とミサの方を一度も見れないでいた。
操とミサの方から微かに聞こえる鉛筆の音にジルはビクビクしていた。
そしてチャイム。
立って挨拶が終わると同時にジルは逃げようとした。
「さ、学校案内するよー!」
晶子の声。
ジルの腕は晶子の手に捕まっていた。
「さ、早く早く!」
晶子はジルの手を引き、さらにミサを捕まえて教室を出た。
その後に響子が操を捕まえて続いた。
五人は屋上に上がると、早速ミサをとり囲んでいた。
「うわ、操ちゃんそっくりだよ~」
晶子は言いながら、ミサの目を見つめた。
「ジルと一緒で、人間そっくりだね」
響子がミサの手を握りながら言う。
「……」
操はミサのブロンドを触りながら、口をへの字にしていた。
「ねえ、操ちゃん、いいかげん機嫌なおしたら?」
晶子が言うのに操は膨れると、
「そんな事言ったって……」
操はミサの頬を撫でたりしながら、
「でも、そうだね、うん、しかたないよね」
操はため息をつきながら笑みを浮かべた。
「ジルと一緒じゃないよね?」
操が言うのにミサは頷くと、
「ジルとは人工知能や電子頭脳が違います」
「頭が……違うの?」
響子がブロンドを触りながら首を傾げた。
「私はジルの量産モデルです」
「量産モデル?」
操がびっくりした顔で、
「たくさん作るの?」
「まだ決定ではありませんが……その場合の試作モデルです」
操は話がわかっているようだったが、ジルに晶子、響子は目を白黒させるだけで話に頷く事も出来ないでいた。
「私とジルで比較試験をして、優秀な方を今後のモデルに使用するそうです」
「ジル、試験だってよ」
「うえ……」
晶子の言葉にジルは渋い顔をした。
「うわ、ミサ、操ちゃんそっくりだからジル負けそうだよ」
「う……」
「ジル負けちゃうのか~」
晶子と響子がジルをいじめているのに、操はミサを見ながら、
「ほかに違うところとかは?」
「ジルは普通にクローン技術で身体を作っていますが、私の身体は細胞一個一個を人工的に作って集めてあるんです」
これには操も眉をひそめた。
「ともかく、ジルといろいろ比べるのね?」
響子が聞くと、ミサは黙って頷いた。
「早速次の時間テストだよ」
操が言うと、ジルと晶子の顔色が瞬時で変った。
「え、テスト?」
「晶子聞いてないよ!」
二人が言うのに響子が、
「抜き打ちテストがある日だよ……」
その言葉に晶子はちょっと考えてから、さらに暗い顔になった。
ジルと晶子が落ち込んでいるのに、操が一瞬目を泳がせてから、
「ね、ミサ……」
「はい?」
「もしもミサが優秀ってわかったら、何かあるの?」
「分解……」
「嫌ー!」
ジルは叫ぶと真っ先に階段に向かって駆け出した。
四人はそんなジルの後ろ姿に表情をこわばらせていた。
「……分解整備、調整なんですよ」
ミサが続きを言うと、三人の少女は胸を撫で下ろした。
吉田はテストをやるべきかどうか、ちょっと迷っていた。
しかし、転校生・ミサが操にそっくりで大丈夫だろう……そんな根拠のない理由でテストを配っていた。
一時間全部を使ったテスト。
算数の計算問題と応用問題が並んでいて、三十分はかかりそうなテストだ。
「よーし、一時間全部使っていいからなー」
「はーい」
「じゃぁ、名前書く時間はサービスしてやる、さっさと書け!」
そんな吉田の指示に、生徒達は黙って鉛筆を走らせる。
ジルはそんな吉田の言葉に身動き一つしないでテスト問題を見つめた。
計算問題を見、応用問題を見て額に汗を浮かべる。
『ジル?』
『ミサ!』
通信機能を使ってミサが話かけてきた。
ジルが目を向けても、ミサは見向きもしないでテスト用紙に名前を書いていた。
『ミサ……聞いてる?』
『はい……でも、名前書かないでいいんですか?』
『ミサ……勝負だ!』
『?』
『このテストで勝負だ!』
ジルはテスト問題を頭の中で解きながら、その目は血走っていた。
そんな二人の会話を知るよしもない吉田は、黒板を拳で軽く叩いた。
「始め!」
生徒達の頭が一勢に下げられた。
鉛筆の音だけがする中、二人の会話は続いた。
『ミサ、イチ・ニのサンで始めだよ!』
『はい……』
ミサは今ので開始と思い、鉛筆を走らせ始めた。
それを見てジルはいきなり立ち上がると、
「イチ・ニのサンで始めだってばーっ!」
教室全員の視線がジルに向けられた。
吉田は怒った顔で、
「おい、ジル、いつからお前そんなに偉くなったんだ」
「ふえ、何でもないです~」
ジルは真っ赤になって席に着くと、ミサをにらんで改めて心の中で言った。
『じゃ、ミサ、イチ・ニのサンだよ!』
『はい』
『イチ・ニのサン!』
ジルとミサの鉛筆が握られた。
ジルもミサも、軽快に鉛筆を滑らせ始める。
ジルは……解いていた問題に対してだけは、ミサに負けていなかった。
吉田は鉛筆の音だけがする教室を見回っていた。
一番気になるのは、新入りミサの出来だった。
(操とそっくりだから、大丈夫だろ?)
思いながら、まずは操のテストを覗いてみた。
三十分を経過しようとしている操の答案は大方埋まっていて、確認をしている最中か何かのようだった。
(おお、よく出来てるよく出来てる)
吉田は操の出来に満足気にあご髭を撫でた。
それから隣の席のミサの答案に目をやった。
ミサの答案はすごく奇麗で、そこには答えの数字しかなかった。
「……」
ミサは身動きもしないで、たたずんでいる。
吉田はその姿をじっと見つめていたが、ミサが視線に気付いてくれる事はなかった。
「あの、大分……」
「……」
「大分ミサ!」
「はい?」
吉田はミサの席の前に立つと、テスト用紙を指でつついてから、
「途中、ちゃんと書く」
「?」
ミサがわからないような顔をしているのに、吉田は後ろの黒板を使ってかけ算やわり算の筆算を書いて、
「この、途中を書く」
吉田が黒板を叩くのを見てミサは頷いた。
再びミサの手が動き出すのを、吉田は再び席の前まで行って、
「ミサはそろばんでもやってたのか?」
「はい」
ミサは小さく返事をすると、スラスラと鉛筆を動かした。
(すげー、渡辺より頭いいかも)
操とミサを見て、吉田はそっくりなんてどうでもいいと思っていた。
(ミサも手がかからないで、案外ヒットかもな)
すごいスピードで埋まっていくテスト用紙に吉田は頷き、隣の席に目を向けた。
「……」
ミサの隣、ジルは鉛筆を持った手が震えていた。
机に身体を預けるようにして考え込むジル。
吉田はとりあえず計算問題が終わり一歩手前なのを確認して、その隣の席に視線を移した。
晶子は苦戦しているみたいだったが、吉田が見たのと同時に終わっていた。
「ふー!」
晶子が鉛筆を握ったまま背伸びするのに、吉田はそのテスト用紙を確かめた。
吉田は改めてジルに目をやるとつぶやいた。
「ジル……大丈夫か?」
「……」
「名前も書いてないし」
ジルの鉛が音をたてて折れた。
「!!」
吉田がびっくりしていると、ジルの拳が机に叩き付けられた。
「先生っ!」
ジルは席を立って、吉田をにらみつけた。
(き、切れた!!)
「先生、テスト中は静かにしてください!」
「あ、ああ……」
「気が散ります!」
そんなジルの態度に、クラスじゅうの視線が注がれる。
「ああ、悪かった……」
「……」
ジルは席に着くと、改めてテストを前に唸り始めた。
吉田は背中を丸め折れた鉛筆を握っているジルを見てつぶやいた。
「っても、長船より遅いんじゃなぁ……」
「!!」
ジルの身体が一瞬弾かれたようになって、それからピクリともしなくなった。
「わーい、晶子の勝ちー!」
晶子はジルと吉田を見ながらガッツポーズを決めたが、すぐに眉をひそめると、
「先生、それ、どーゆー事?」
「そーゆー事だよ」
ジルに背を向けて行ってしまう吉田。
テスト用紙に向かっていたジルの額に光っていた汗は、そのまま頬を伝って流れ落ちると、テスト用紙にしみを作っていた。
チャイムが鳴るまで、ジルの手が動く事はなかった。
ジルは応用問題全滅でテストを終えていた。
「テストで勝てたからって、大きな顔しないで下さい!」
休み時間、ジルとミサ、晶子・響子・操は屋上に集まっていた。
ジルは涙目でミサをにらみ、肩を震わせていた。
しかしそんなジルの態度にミサはさっぱり訳がわからないような顔をしていた。
「次の時間は体育です、勝負勝負!」
「あー、そうだ、次、体育だね」
晶子はニコニコ顔で言いながらジルの肩を叩いた。
「ぼくは体育なら負けません!」
ジルの怒ったような口調。
晶子に響子はあきれて笑みを浮かべていたが、操は難しそうな顔でジルを見ていた。
「ミサは妹なんだから、お兄ちゃんのぼくは負けません!」
ジルは眼鏡の奥の瞳を揺らしながら、ミサのぼんやりした顔をにらみつけていた。
体育はドッチ。
男女対抗のドッチにクラスは湧いていた。
女子チームの内野では晶子がミサにボールを見せながら、
「ドッチ、知ってる?」
「はい、ドッチボールですね」
「うん、ルールもわかる?」
「はい、大丈夫です」
「ミサ、外野の方がよくなかった?」
「はい?」
「だって……ミサ、操ちゃんそっくりだし」
晶子が言うのを聞いてミサは、
「外野は外で、ボールをぶつけたら中に入って来れるんですよね?」
「そ、そうだけど……」
「では、どこにいても一緒です」
「でも、内野にいたら男子、本気でぶつけてくるよ」
言いながら晶子は男子内野のジルに目を向けた。
「それは取ればいいんですよね?」
「まぁ……」
晶子がボールを持ったままなのに、見ていた吉田が笛を吹いた。
駆け出した晶子がライン際でボールを投げると、一人の男子に当たった。
そしてこぼれたボールを拾った功が、全身をバネにしてボールを投げる。
功のボールがひしゃげながらミサに向かって飛んできた。
「ミサ!」
晶子の声と同時にミサの腕に当たったボールは青空に舞った。
ゆっくりと弧を描きながら落ちてくるボールの先には、ミサが回り込んでいた。
長いブロンドが宙をなびいていた。
ボールが落ちる前にミサはキャッチすると、すぐに駆け出した。
その流れるような動きに男子は一瞬見とれ、逃げるのが遅れていた。
それはジルも一緒だった。
操と同じ容姿のミサ。
しかし動きは滑らかで、ボールを投げる姿勢は慣れたものだった。
「!」
操と同じで身体の小さいミサは、思い切り身体を反らしてからのスローイング。
そのボールは功が投げたボールと比べても遜色のないものだった。
風を切る音をさせながら飛んでいくボール。
一人の男子の身体に当たって、再びボールはミサの足元に転がってきた。
新入生の活躍に見とれるクラスメイト。
ミサはボールを拾うと、ボールを持った手をさっと上げた。
その瞬間、ジルとミサの視線が合った。
「ひっ!」
ジルが頭を抱え、しゃがみ込んで小さくなる。
ミサは振り上げていた手を下ろすと、両手でゆっくりとボールを投げた。
ボールはフラフラと飛んでいくと、丸くなっているジルの背中に当たった。
「あ……」
ジルはゆっくり顔を上げると、ミサを見つめた。
ミサがさっと引いて女子陣地の奥に逃げるのを見て、ジルは目に涙を浮かべていた。
とぼとぼと外野に向かいながら、ジルはミサの活躍をずっと見守っていた。
ジルの横をボールを持って駆け出すミサ。
全身をバネにして放たれるボールは男子顔負けだ。
男子のリーダー・功がボールを受け止め、サイドに立っていたジルにパス。
ジルはそのボールを思い切り投げたけれども、威力の差は明らかだった。
放課後、ジル達は晶子の家に集合していた。
響子はミサを前に感心した口調で、
「ミサ、すごいね、勉強もドッチもばっちり!」
「ありがとうございます」
「あたしは操ちゃんそっくりだから、運動はダメかと思った」
ミサは響子の言葉を聞いて微笑んだ。
一方ジルの方はうなだれてばかりだった。
算数のテストで負け、ドッチでも負けた。
ジルはさっきから半ベソ状態でクロウを膝に乗せ、黙り込んでいた。
「晶子もちょっとびっくりしたかな~」
操と晶子・響子はジルに目を戻した。
いじけた顔をして、ジルはクロウの身体を撫でている。
「本当、ジルとミサは出来が全然ちがうみたいだね」
その言葉を聞いて、丸められたジルの背中がビクンとした。
ゆっくりと顔を上げるジル。
眼鏡の奥の瞳は涙が溜まっていた。
そして涙があふれ出すと、ジルは抱いていたクロウの黒羽根で拭った。
「うう……」
「ジル、大丈夫?」
涙を拭いながら、ジルは声を震わせて、
「ぼくは……スクラップになっちゃうんでしょうか?」
「……」
「ミサに勉強で負けて……ドッチもかないません」
言い終わると同時に、さらに涙の勢いが増した。
「ジル……さっきジルは行っちゃったから聞いてなかったと思うけど、分解整備・調整なんだよ」
操がジルの肩を抱き、優しく言った。
そんな言葉にジルは肩を震わせ、小声で聞いた。
「分解整備って、どんな事するんです?」
ジルの言葉に操達は目を丸くし、手術台に縛り付けられているジルの姿を思い浮かべていた。
「そりゃ、頭を割って電子頭脳を……」
晶子が言うのを操と響子が口を塞いだ。
操と響子の目が晶子を責めるのに、ジルは嗚咽が大きくなって、
「頭割るって……そんな事したら死んじゃいます!」
晶子の口は響子にまかせて、操はジルの肩を再び抱いた。
「そ、そんな事ない、長崎先生だから、ちゃんと麻酔して、痛くしないよ」
ジルは操の言葉を聞いて目を大きく見開いた。
「そうです……頭割ったら、すごく痛そうです!」
そうつぶやくと、ジルはクロウに顔を埋めて大泣きした。
「ジ、ジル……」
「操ちゃん……調整したら、どうなっちゃうんです?」
「調整したら?」
ジルの言葉に操は再び考え込んだ。
わからなくなってミサに目を向けると、
「人工知能のプログラムを新しいものにするか……ハードの方に問題がある場合は新しい電子頭脳を載せかえる事になります」
「だって!」
操が笑顔で言うと、ジルはクロウの羽毛に顔を埋めて、
「わかりました」
しかし、響子と晶子が首を傾げていると、ミサが簡単に解説してくれた。
「プログラムを書き換えたりしますと、今のジルの記憶はなくなります」
沈黙の後、もう口を塞がれてなかった晶子がポツリと言った。
「それって死ぬのも同然……」
「ふわああああ!」
晶子の言葉を聞いてジルは泣き叫んだ。
力いっぱい抱きしめられたクロウはもがいたが、ついには力つきてぐったりした。
操の手が晶子の頭をはたくと、
「ね、ジルの方が優れてるところとか、何かないの!」
操が必死の形相で言っても、誰も返事をくれなかった。
晶子と響子は首を横に振り、ミサは、
「電子頭脳の性能から、ジルと私とでは百倍以上の差があります」
「ミサは黙ってて!」
操が怒るのに場の空気が緊張した。
「ね、ジル、何かないの?」
「ぼくが優れてる事……」
ジルは改めてクロウで涙を拭うと、部屋に置かれたテレビに目を向けた。
次の瞬間、真っ暗だったテレビが唸りを上げて画像を結んだ。
「うわ、テレビがついたよ!」
晶子が驚くのにジルは涙で汚れた顔で笑みをみせると、
「えへへ、テレビつけられますよ~」
ジルがテレビを見つめる度にチャンネルが変わり、音量が変る。
「ぼくはリモコン要らずです~」
「すごい……」
響子が感心していると、ミサが身体を揺すった。
途端にチャンネルが変わり、音量が変わり、電源が落ちてしまった。
晶子達がミサを見つめていると、
「赤外線通信は私も出来ます」
三人の顔がジルに向けられた。
ジルの瞳は揺れ、クロウの羽根は涙で濡れていた。
操と響子がミサをつかまえて部屋の隅に押しやった。
「あたしさ、ミサってちょっと気がつかないと思うんだけど……」
「私もそう思う」
響子と操が怒った顔で言うのを見て、ミサは何度も頷いていた。
一方の晶子は泣いているジルを前にテレビのリモコンを操作していた。
「ジルってテレビのリモコンみたいなんだね~」
「ほっといてください!」
ジルが涙を拭くのを嫌ってクロウは逃げ出すと、晶子の肩にとまった。
「ああ、クーちゃん……」
「ジル、これはなーんだ!」
「は?」
「今、晶子は何を押しているでしょう?」
クロウに気を取られていたジルは晶子の手元のリモコンに目をやった。
「はい、何でしょう?」
ジルはリモコンの先端をじっと見つめた。
「3?」
「ピンポーン!」
晶子の声を聞いてジルの表情が少し明るくなった。
「では、こっちはどうでしょう?」
「7?」
「ピポピポーン!」
さっきまで泣いていたジルは、もう満面笑みだった。
「ではではこれは?」
「9!」
「ピンポーン!正解です」
ジルはガッツポーズで全身で喜びを表現していた。
「はい、これは?」
途端にそれまでのジルの笑顔が消えた。
「これは?」
困惑したジルの顔を晶子が覗き込むようにして見つめる。
すると響子・操に捕まっていたミサが、
「11ですか?」
「うう……」
ミサの答えにジルは唸り、晶子は目をしばたかせた。
「せ、正解……」
ジルは膨れてミサをにらみつけた。
「もう、ぼくが言おうと思ったのに!」
そんな言葉を聞いて晶子達はため息をついた。
「みんな信じてない!」
「はいはい……」
晶子は嫌がるクロウをジルに渡すと、改めてリモコンのボタンを押した。
「はい、これは?」
晶子の声と同時にミサが口を開こうとした。
その口を操の手が塞いだ
ミサは黙ったけれど、ジルは答えられなかった。
「わ、わかんない……」
「音量プラス」
「う……」
「じゃ、これは?」
晶子はボタンを押すと、今度は響子にウィンクした。
最初響子は気付かなかったが、目と目が合うとウィンクを数えた。
「8かな?」
ジルが自信なさそうに言う。
「じゃ、響ちゃんわかる?」
「あたしは12にしようかな~」
「ミサは?」
「12です」
「はい、正解は12でーす」
響子が笑顔になるのを、ジルはクロウを抱きしめて叫んだ。
「あっちゃんのバカ、二桁はなしです!」
「って、ミサも響ちゃんもわかるのに!」
「二桁はダメなんですダメなんですダメなんです!」
怒りだすジルを見て晶子はリモコンを置きながら、
「ジル、壊れてるんじゃないの?」
「うう……」
「分解したほうが、調子よくなるかもよ!」
滝のような涙がジルの頬を濡らした。
そんな涙をクロウで拭いながらジルた立ち上がると叫んだ。
「あっちゃんのバカっ!」
ジルは靴下のまま晶子の家を出て行ってしまった。
笑い転げる晶子と響子を見て操は般若の顔になっていた。
「あっちゃんのバカ!」
「バ、バカってそれはジルで……」
「ジル行っちゃったよ、どうするの!」
「そ、そんな事言ったって……」
操が怒っても笑い続ける二人に、操は膨れて玄関に向かった。
「あの……」
「何!」
操の肩にミサの手が重ねられた。
「あの、私が行きます……ジルとリンクしてますから、すぐに場所もわかります」
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「でも……ジルは自分で笑ったり、泣いたりします」
「ミサだって笑ってるよ!」
「私が笑うのは、皆さんの反応を見てプログラムがそうさせてるだけです」
「……」
「ジルは自分の為に泣いたり、面白かったら笑ったり、怒ったりします」