表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/31

5-1

 ―― 5 ――


 バボはミラーの前で溜息をついた。そして更衣室のカーテンを開けて「ねえ、僕、このパンツ履かなきゃだめ? 」と、スタイリストの石原留美に向って訴えた。

 バボは用意されたボトムが気に入らないようだ。

「どうして? すごく似合ってるわよ、バボ君」

 バボがコーディネートに意見するのは珍しい、と留美は思った。

「やっぱ、ハーフだから何着ても映えるわね。ヒョウ柄って着こなし難しいのよ」

 グレーのパーカー、ラフに履いたヒョウ柄パンツ。今日のイメージは、さながらジャスティンビーバーか――。留美は今日のチョイスに満足げだ。

「ヒョウ柄っていうのがなぁ……」

 と、バボはパンツの腿のあたりを摘まんで再度ミラーに目をやる。

「ワイルド感が出て素敵じゃない? バボ君は『おっとり王子』なんて呼ばれてるけど、たまにはイメージ変えてみると、ファンが増えるかもよ」

(――てゆうか、僕の地毛はトラ柄なんだよ~。ヒョウ柄を着たらベンガルになっちゃうじゃん――なんて事は言えないしなぁ……)

 バボは自身のトラ柄がお気に入りなのだ。高価な血統ではなくとも茶トラである事に誇りを持っている。毛づくろいをする時など、自分の毛並に惚れ惚れする。ネネにはナルシストだと馬鹿にされるが――。

(まあ、仕事だし、留美さんの見立てならヒョウ柄も我慢するか……)

 留美のスタイリストとしてのキャリアはそんなに長くない。まだ二年ほどだ。バボの事務所の専属になり、最近やっと仕事も順調になってきた。来月結婚もするらしい。バボには結婚という人間儀式の事はまだピンと来ないが、嬉しそうな留美を見るに、きっと素敵な事なんだろうなと思った。


 四階建ての小ぢんまりしたビルのスタジオ。インターネットのトーク生番組の出演が今日のバボの仕事だ。

 本番がスタートし、女性司会者がバボを紹介する。リハーサル通りだ。

「本日のゲストは、雑誌やテレビで人気急上昇中の大島バボさんです」

「こんにちは」

「大島さんは、このお仕事をするようになったきっかけはなんですか? 」

「秋葉原で、アニメのフィギュアとかを見ている時にスカウトされたんです」

「へえー、アニメ、お好きなんですね――」

「もう、大好きです♪ 」

「最近のお気に入りアニメはなんですか? 」

「『魔女っ娘キララ』です。もう最高に萌え萌えしちゃいます♪ 」


――大島バボアニヲタwwww――  ――キララwwwwww―――

――たしかにキララは萌える――  ――王子みなおしたわ――


 流れるコメント。ネットの視聴者は一言に瞬時に反応をする。


 副調整室でPCのモニターを確認しながら、スタッフ達は視聴者の数にしたり顔をする。

「最近、バボ君の人気上がってますね――」

ディレクターはプロデューサーにそう話す。

「日本人離れしたイケメンだけど気取りがなくて、しかも極度のアニヲタ。憎めないキャラがウケているんだろうな」

 プロデューサーはそんな分析をした後、スタジオのバボに目をやり、「彼を起用して、地上波進出狙っちゃうか?」と、ニヤニヤした。


「あれ? ちょっと画面が変じゃないですか? 」

 モニターを見ていたディレクターが言った。

「どうした? 」

 プロデューサーも覗き込む。

 画面いっぱいに大量のコメントが流れている。段々とスクロールのスピードが速くなっているようだ。いつの間にか全てのコメントが三種類の英語だけになった。


――Delete! ―― ――Delete! ―― ――Delete! ――

――Extermination! ―― ――Extermination! ―― ――Extermination! ――

――Cross out. Annihilate! ―― ――Cross out. Annihilate! ――

――Cross out. Annihilate! ―― ――Delete! ―― ――Extermination! ――

――Cross out. Annihilate! ―― ……


 文字が画面を覆いつくし、そのままフリーズしてしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ