表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/31

―― 4 ――


 リクは少し退屈だった。話相手がいない店内は、なんだか殺風景だ。バボもリクもそれぞれの仕事で、今日はいないのだ。意思を持たない他のAR猫達は、客がいない店内でも愛らしい姿で映し出されている。プログラミング通りだ。

 リクは考える。なぜ、バボとネネは意思を持っているのだろう? と――。実体化は驚くべき事だが、人と全く同じような意思や感情が芽生えた事は尚更驚きである。プログラムとは決められた通りにしか動かない、というか、動けない様に作るものだ。それが意思を持ってしまったら、それはもうプログラムではなくて制御コントロールする事の出来ない別の何かに変わってしまったという事だ――。しかし、彼らが何者であれ、今のリクには彼らとの生活を楽しいと感じていた。まるで新しい家族が出来たような、そんな気持ちだ。

 リクがそんな事を考えている時、一人の男が店にやってきた。ライアンだ。その風貌は特徴的で変わらないが、顔色が悪く、やつれて見え別人のようだ。明るくにこやかに来店した先日とは対照的に、肩を落として元気がない。

「あ……、いらっしゃいませ」

 リクが迎える。ライアンは黙ったままテーブルに着いた。

「――ライアンさんでしたよね?――発表会、見ましたよ。AR防犯なんて素晴らしいじゃないですか。うちのニャンコ達なんて、なんの役にもたちませんから――」

 リクが笑顔で話しかけるが、ライアンは無表情だ。

「ミスターハネヤマ――」ライアンはゆっくりと口を開いた。「これほどのARを一人で作り上げるなんて――やはり、ユーは天才プログラマーデス。私の知りうる限りにおいて、最も優秀な技術者デス。何年かかっても、私はユーには敵わないデショウ――」

「どうしたんです、急に――? おだてても料金はまけませんよ」

「実は……今日は話があって来まシタ――」

「なんですか? ヘッドハンティングですか? あいにく僕は企業に入って働くなんてのは興味がなくて……」

 リクは冗談っぽく笑ったが、ライアンは全く表情を変えない。

「ミスターハネヤマ、有機生物体はどうやってこの地球上に誕生したと思いマスカ? 」

 ライアンはリクの方を見ないでそんな事を言った。

「は? 」

 突然の予期せぬ質問に、リクは返答に困る。

「太古の地球上で偶然誕生した――?、神が創りたもうた――? どう思いマスカ? 」

「――、えーと……何が言いたいのでしょう? 」

「そもそも生命って何デスカネ? 有機生命体が偶然発生したなら、他の形態が偶然発生する可能性も否定できないデス――」

「――はあ……」

「機械生命体や情報生命体が、いつ発生してもおかしくない、と言っているのデス! 」

 ライアンは急に荒々しく語気を強めると、テーブルに置いた両手を強く握り、わなわなと震わせた。

「いったい、どうしたんです? まあ、落ち着いて――」

 リクがなだめると、ライアンは一つ深呼吸をした。

「原始の海は高分子物質がごちゃごちゃに溶け込んだスープ状で、そこになんらかのエネルギーが加わり偶発的に有機生命が誕生したという説がありマス――」

「ああ、原始スープ説とかいう――」

「現在のインターネットの海ではあらゆる大量のデータが走り回ってイマス。言わば、『ネット原始スープ』なのデス」

 ライアンは顔を上げ、リクを見る。

「天才ハッカー、ミスターハネヤマ。ユーには言いまショウ、いや、聞いてもらいたいのデス。 今、世界では大変な事が起こっているのデス。人類は神の領域に踏み込み過ぎたのかもしれまセン」

 リクは黙って次の言葉を待つ。

「実は――ARがARでなくなる事例が発生しているのデス! ある時、突然ARが情報生命体として覚醒してしまうのデス。コントロールが出来なくなったARは物理的に実体化し、自ら意思を持って行動するのデス」

「…………」

「……どうやら、知っているようデスネ――」表情を変えないリクにライアンはそう言って、再びゆっくりと口を開く。

「実体化したARは世界中のあちこちで暴れまわってイマス。このままでは人類の脅威となりえマス。しかし、警察ではヤツラは手に負えマセン。そこで開発されたのが今回のホーリーシェパードだったのデス。防犯AR犬の真の目的は、情報生命体の捕獲および駆逐にあったのデス――」

「あった? ――」

「そうデス――、過去形デス。ホーリーシェパードは昨日、データ転送中に実体化し逃走したのデス」

「え?! 逃走?」

「そうデス――。私の作った三体のホーリーシェパードはケルベロスとして覚醒し、街を破壊しているのデス……」

「破壊って……、え? ちょっと待ってください」

 リクは、なんだか状況が飲み込めない。

「私の責任デス。ヤツを倒さなければ大変な事になりマス。ミスターハネヤマ、どうか私に力を貸して欲しいのデス」

 ライアンはリクの手を取り真剣な眼差しで訴えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ