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3-1

―― 3 ――


 国民的アイドルグループのイベント会場は溢れんばかりの人の波だ。国民的と言われるだけあって、ファンの年齢層は幅広い。彼女達と握手をする為、老若男女の長い列が出来ている。メンバーの一人「小嶋音々」のレーンも他に負けず劣らず盛況だ。気の短い性格をグッと抑えて、ネネは神対応めざして頑張っていた。次々と笑顔で握手を続ける。

「ねねにゃん、応援してるよー」

「ありがとう♪」

 ネネの愛称は『ねねにゃん』だ。猫耳カチューシャとニャン語がトレードマーク。猫耳カチューシャが時折り本物の耳だったり、ニャン語が出てしまう時の心は裏腹だったりするのだが、そんな事をファン達は知る由もない。


「オー! ねねにゃん、会いたかったデ~ス」

 ヌッと伸びてきた毛深い腕の主はどこかで聞いた声だ。

 姿を確認して、ネネは驚いた。隠している尻尾が飛び出てしまいそうになった。

(ゲッ!! ライアン?! なんで?!)


「ねねにゃんをネットで見て、一目で推しになりマシタ。まじ天使デ~ス」

 満面笑顔のライアンは、汗ばんだ両手でガッチリとネネの手を掴む。

「ど、どうもありがとうニャン……」

「握手券付いたCDいっぱい買いまシタ」

「う、嬉しいニャン……」

 ネネは引きつりながらも頑張って笑顔を浮かべるが、背中がぞぞぞ~としてしまう。思わずライアンの掌の中で爪を出してしまった。ネネは握手会で時々ファンに爪を立ててしまう事があるのだ。

「オー。ねねにゃんのネイルが刺さりまシタ。超ラッキーデ~ス」

 ファン心理とは不思議なものだ。爪を立てられたファン達は痛がるどころか、喜ぶのだ。某掲示板には「ねねにゃんのネイル」なる板が存在し、呟きでは「爪を立てられた」と自慢する。

 ライアンは大量の握手券を使用した為、他のファンより握手する時間が長かった。バレる心配はないと思いながらも、ネネは気が気ではない。ライアンは興奮しながら、推し愛を語る。

 やがて、剥がしと呼ばれる担当者が割って入り、ライアンは「サンキュー、サンキュー」と嬉しそうにブースを出て行った。

「また、来てニャン」

 応援してくれるファンは有難いものだ。ネネは反省する。

(キモいと思ってごめんなさい――、次は、平気。……たぶん)



「ねねにゃんに爪を立てられたこの右手。暫く洗えまセ~ン」

 ブースを出てきたライアンは上機嫌だ。

「実物のねねにゃん、想像以上の天使でシタ」

 ライアンが頬を火照らせ余韻に浸っていると、彼のスマホが鳴り始めた。

「ハロー、ディスイズ、ライアン――,ホワッツ! なんだって?! 」

 電話に出たライアンは、一転顔を曇らせ、叫んだ。


 昨日の華々しいプレス発表会が一応の成功を収めたイブラエラ・ジャパンは、その日、アメリカ本社より三体のホーリーシェパードをデータ転送し、運用実験を行う予定であった。途中、サーバーの電源がダウンするというトラブルに見舞われ、転送は一時中断した。その後再開し、全てのデータはダウンロードに成功した――はずだった。しかし、ダウンロードされたデータファイルは解凍と同時に消えてしまったと言うのだ。それどころか、コピーファイルだけではなく、アメリカ本社のホーリーシェパードに関する全てのプログラムが消失してしまっていたのである。ハードディスク内のバックアップ、クラウド上の保存データ、全ての物が一瞬にして消えてしまったのだ。

「オー! ノー! 何をやっているのデスカ! 無くなったじゃすみまセン! なんとかしなサイ! とにかく、戻りマス! ヘリの手配を! 」

 ライアンは電話の向こうを叱り飛ばし、スマホを無造作に胸ポケットに仕舞って、「オー! ノー! 」と頭をかきむしった。

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