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数時間後、秋葉原に一際高くそびえるアキバプラザ。最新の設備を誇るアキバホールの檀上にライアン・ログスベルトは立っていた。つめかけた関係者達は、マイクを手にしたライアンを注視し言葉を待つ。
「このたび、我が社は画期的なセキュリティシステムを開発いたしまシタ。今後、世界の防犯はまさに新時代に突入するでショウ。我が社のシステム、それは、ネットワーク上のセキュリティだけでなく、物理的侵入者をも撃退する最強の防犯AR犬。その名も『ホーリーシェパード』デ~ス! 」
モニターにサンプル映像が映し出され、その場の人々は「おおー」と声を上げる。
「本日は参考映像のみデスが、実物は近日中に公開出来る予定デ~ス」
耳がピンと立ったスマートで利発そうなシェパード犬の姿。ARを撮影したもののようだ。
「ホーリーシェパードは、リアル警察犬、軍用犬以上のパフォーマンスを目標としているのデ~ス。エリアのどこであろうとセンサーで侵入者を感知し、AR犬は出現し、確実に撃退、追跡しマス。さらに外部に逃亡した侵入者を携帯回線やwifiでネットへ接続できる環境にある限り、どこまでも追い詰めマス。たとえ、車や飛行機で逃走されようとも、AR犬はネット上を一瞬で移動できるので、先回りして出現させる事が可能なのデ~ス」
自信に満ちた様子で語るライアンの姿は、インターネットの動画配信サービスでも生中継されていた。
パソコンでライアンのライブ配信を見ていたリクは、興味が湧いて検索をかけてみる。
「なるほどな……。さっきの妙な外人、有名な人みたいだな」
――『イブラエラカンパニー CEO ライアン・ログスベルト』――
「七年前の世界ハッカーコンテスト準優勝――か」
リクはウィキの記述を読む。
「七年前って、リクが優勝した大会? 」とバボが尋ねた。
店には客がいないので、バボネネ二匹とも人の姿に戻っていた。
「ああ――。でも、あんまり記憶にないんだよな。周りの事、気にしてなかったからさぁ」
「負けた方は覚えているものよ。よっぽど悔しかったんだね」
ネネもPCを覗き込んで、そう言った。
「イブラエラカンパニー……、おもにIT関連を扱うアメリカの会社みたいだな。『情報セキュリティサービスやアプリの開発、最近ではARコンテンツの制作にも力を入れている。今年度よりイブラエラ・ジャパンを設立し、日本上陸』――」
リクは口に出して文面を読んだ後、「防犯AR犬開発ねえ――、うちのAR猫を視察に来たのかな? 」と、ノートパソコンを閉じ、「でも、俺の店のARは趣味みたいなもんだからな。大企業のCEO様には何も参考にならなかっただろうな」と笑った。
「CEOって偉いんだ? あのキモい外人、私の一番苦手なタイプ。頬ずりなんて二度と御免よ。思い出しただけで背中がぞぞ~ってなっちゃう」
ネネは肩をすぼめて、しかめっ面をした。