表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/31

2-2

 バボとネネは何者なのか?――それはリクにもよくわからない。元々、二人はリクが造りだしたARの猫だ。茶トラの雄猫バボ。ボンベイの雌猫ネネ。数十匹いる中のただの二匹であった。

 数年前――、秋葉原はゲリラ豪雨に襲われた。神田川の水位が限界まで増し、一帯は数時間停電した。電気街の電飾看板は消え、街は暗闇に包まれた。停電復旧後、落ちたサーバーのメンテナンスの為にむかったmiku店内で、リクは実体化した二匹を発見した。それは意志を持ち、人の言葉を話した。その時はたいそう驚いたリクであったが、興味がわいたリクは二匹をそのまま飼う事にした。


「ねえ、でも、リク。酷いと思わない? あの犯人、私の事見て『バイキンマン』って言ったんだよ」

 ネネはそう言った後、クルリと回りながら、例の姿に変身してポーズを決めた。ピンと耳を立て、スラリとした尻尾をくねらせ、肉球のある掌でピースした。

「こら、だから、むやみに変身するんじゃないって! 」

「いいじゃん。今はリクとバボしかいないんだから」

 ネネは鼻歌交じりに歌いだし、その姿のまま「ワンツースリーフォー」と振り付けの練習を始める。

「おい、邪魔だ。そんな所で踊るんじゃない。開店準備できないだろ」

「だって、この新曲の振り付け、まだ完璧じゃないんだもん。明日のイベントまでに仕上げなきゃ。♪♪♪~」

「まったく――」

 リクは呆れた顔を顔をするが、本気で怒ってはいない。


 バボとネネは、それぞれ『猫』、『人』、『複合形コンパウンド』の三形態に自由に変身する事が出来た。普段の二匹は人型で生活をし、人間社会にすっかり溶け込んでいた。

 ネネは国民的アイドルグループに所属し、黒髪少女の「小嶋音々」として人気者になっていた。最近、研究生から正規メンバーに昇格し、張り切っている。


「リク~。今日のおすすめランチ「舌平目のフローレンス風」、仕込み終わったよ」

 バボは小皿に料理を一切れ乗せて厨房から出てくると、それをフォークに刺してリクの口元へ差し出した。

「はい、リク。味見してよ。あ~ん」

 機材の調整で両手が塞がっているリクは、差し出された物をそのままパクリと食べる。

「うん。うまい! さすがバボ。バッチリだよ」

「良かったぁ」と、バボはニッコリした。

 バボは料理が得意である。カフェのメニューのほとんどはバボが考えたものだ。しかし、猫舌なので熱い物は口に出来ない。試食はリク担当だ。

 バボは、茶色の髪、飴色の瞳のイケメンハーフ「大島バボ」の名でモデル活動をしていた。料理男子モデルとして雑誌で連載も持っている。

 バボもネネも人型の時は普通の人間と全く変わらない。誰もその正体に気づく者はいない。



 入口の扉が開き、人の入って来る気配がした。バボネネは慌てて猫化オルトする。

「コンニチワー。ゴメンクダサーイ。キャッツカフェ、やってマースカ?」

 入ってきたのはカーネルサンダースをスリムにした様な風貌の中年外人だった。

「いらっしゃいませ。どうぞ」

 リクは本日最初の客を案内する。猫型のバボとネネも一応「ゴロゴロ」と挨拶をした。

「オー! プリティ! “リアルキャット”も居るのデスネ。クロネコ、大好きデ~ス」

 外人はネネをひょいと抱き上げ「プリティ、プリティ」と何度も頬ずりをした。

(――ぎゃあああ!! 気持ち悪い! ――)

 ネネは毛を逆立て逃げようとするが、逃げられない。

「ふぎゃー!!」

 散々撫で回され、ネネは猫のまま抵抗する。

「あの……、御注文は?」

 ネネの様子にリクは苦笑いしながらオーダーを取る。

「オー、そうデスネ、ホットコーヒー、くだサーイ」

 外人が手を放し、その隙にネネはやっとの事抜け出して厨房に逃げ込んだ。

「ああ、死ぬかと思った。あの外人臭過ぎるわ。加齢臭ハンパない感じ――」

 肩で息をしながらネネが言った。猫の姿でも人の言葉を話す事はできるのだ。バレる訳にはいかないが――。

「猫好きなだけだろ。悪気はないんだから我慢しろ」

 リクはそう言ってコーヒーをドリップする。バボはクスクス笑っている。

「わ、わかってるわよ! 私はアイドルだもの! 」

 ネネは尻尾を立てて、プルプルと震わせ、

「笑うな! バボ! 」と、バボにむかって八つ当たりをした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ