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2-1

―― 2 ――


 日本サブカルチャーの聖地、秋葉原の一角にAR猫カフェ『初猫miku』はあった。オーナーは羽山はねやまリクだ。AR猫カフェというのは、ただの猫カフェではない。そこにいる猫達は、リクがプログラミングして作り出したAR(拡張現実)の猫達である。店内においては、猫達が最新技術によって、あたかもそこに存在するかの様に見えた。さらにリクは特殊な装置を装着すれば触れた感覚までも再現する事ができるプログラムを開発していたのだ。

 ARカフェでは、実際には手に入れるのが難しい日本に数頭しか存在しないスキフトイボブテイルやエルフキャットなどの貴重な猫も、バーチャルで触れ合う事が可能なのである。ただ、ネコ科繋がりでライオンの赤ちゃんまでもが居たりするのは、リクのしゃれっ気である。

 ARカフェの経営はバーチャルである為、リアルな猫カフェで必要な通常経費である餌代は掛からないし、トイレの世話や去勢手術も必要ない。運営は実に手間がかからない――という利点がある。しかし、一時期こそ何度かメディアにとりあげられ話題になりもしたが、最近では飽きられたのか客の入りも芳しくはない。大儲けできるかもしれないと読んだリクの目論見は外れてしまった状態だ。



 ある午前、初猫mikuオープン前の店内。

 営業中はいつもアイドルグループのプロモやアニメを映しているモニターであるが、開店前は地上波の情報番組が流されていた。

 リクは機材のチェック、厨房では調理服姿のバボがつまみ食いをしながら食材の仕込みをしている。ネネはホールの壁にPOPを貼っていた。開店準備の様子はだいたい毎日こんなものだ。


〈――それでは次のニュースです。昨日未明、秋葉原の路上で、男がいきなりハイヒールを片方だけ剥ぎ取って逃走する、という事件がおきました――〉

 テレビの内容が耳に入り、思わずピクリと猫耳が飛び出すネネ。

「秋葉原? この近くか? 靴を脱がせて奪うなんて変な趣味のやつもいるもんだな」

 リクがそう言いながら顔を上げてモニターを見た。


 画面ではレポーターが現場中継をしていた。

〈自転車で逃走した犯人は、ここ万世橋から下の神田川に飛び込み泳いでいるところをかけつけた警察官によって確保されたのです――〉


「なんだ、そりゃあ? なぜ神田川に? 変な犯人だなぁ」

 興味を示したリクはテレビを見つめる。

 バボも猫耳を出し、包丁を手にしたまま、恐る恐るホールにやってきた。


〈――犯人の男は警察の取り調べに対し、鬼とバイキンマンのコスプレをした男女に追いかけられ、怖くなって川に飛び降りたと供述しており……〉


「おい、お前ら……」とリクは首を回し、交互にネネとバボを見る。二人は猫耳を伏せリクと目を合わせない。

「変身して騒ぎを起こしたな?! 」

「……なんの事かニャ? ネネは知らないニャ」と、顔を逸らしたままとぼけるネネ。

「今、『ニャ』って言ったな、ネネ――。お前が嘘をつく時はニャン語になるからな」

 ネネは何かを誤魔化す時や、心にも無い事を言う時に、思わず語尾に『ニャ』を付けてしまう。それを知っているリクには嘘がばれてしまうのだ。

「えーと、そ……そんな事ないニャン」

 ネネはそれでも否定しようとする。

「どうなんだ?! バボ」

 と、リクは今度はバボを追求する。

「それは……」口ごもり、困った顔でネネの方を見るバボ。


〈――後ろで急に自転車が止まった音がしたかと思うと、いきなり足をつかまれて――〉

 番組では、被害者が事件時の様子を語っていた。三人はテレビに視線を戻す。

 ガタイの良い女性だ。ハスキーな声。毛深い腕。

 テロップには

〈――女装が趣味だと語る権田原龍蔵さん(47)――〉

 アップになった顔は青々しい髭そり跡。角張った頬。太い眉。


「えええーッ!! 男?! 」驚く三人。

「まじで?! 女の人だと思ったから助けたのに」

「まぎらわしい格好してんじゃないわよ! 」

 思わず叫ぶバボとネネ。

「やっぱり、お前らか――」

 完全にリクにバレ、「あ……」とネネとバボは顔を見合わせた。

「あの形態には変身するなと言ってるだろ」

 リクは二人をジロリと見た。

「ごめんなさーい」

 二人は声を揃えて素直に謝った。


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