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バボとネネは複合体に変身をした。腕組みをして真面目に話を聞くようだ。
「ユー達のおかげで、ケルベロスにダメージを与える事が出来マシタ。倒すのは今がチャンスデス」
「でも、逃げられちゃったよ? 」
「どこへ行ったかわかんないじゃん――」
それは確かにチャンスかもしれないが、居場所が分からない事には無理だ、とバボもネネも思う。
「ケルベロスはどこに居るか――。大体の予想は付いてイマス」
ライアンは静かな口調だ。
「え? 本当に? 」と、バボは聞き返した。
「私とハネヤマでネットにアクセスして探しまわり、ケルベロスが犬小屋にしている場所を発見したのデス」
「犬小屋――? 」
バボとネネは声を揃えた。
「ケルベロスが寝床にしている所デス。プログラムロイドといっても、ケルベロスはユー達高度な者に比べると遥かに下等デス」
「あんなオツムの低レベルな奴と比べないでよね」ネネが口を挟む。
「確かに、ケルベロスの知能は低レベルデス。リアルドッグより劣りマス。不完全なプログラムロイドなのデショウ。生命は自己再生や活動をする為にエネルギーが必要デス。ユー達は『我々と全く同じ様に食事をする事が出来る』とハネヤマから聞きマシタ。ケルベロスはそうではありマセン。ネットの中でエネルギーの補給が必要なのデス。そういった意味でも下等で不完全なのデス」
「で? どこに居るのよ?」
ネネはせっかちだ。
「それは、某大手外資系IT企業の大容量サーバーの中デス。ケルベロスは、そこでファイル偽装をして眠っているのデス。ヤツは私のハッカー技術を全て注いで作り上げた物デス。あらゆるネットセキュリティも意味が無いのデス。ケルベロスは自由自在にネットの中を移動して、どんなサーバーの中にも入り込む事が出来るのデス」
「でも、そんな場所――、分かっても行けないんじゃあ……? 」
と、バボは腕組みをして尋ねた。
ライアンはニヤリと笑う。
「実は、行けるのデス――」
「え? 行けるの? 」
「どうやって? 」
バボもネネも半信半疑だ。
「天才ハッカー二人がコンビを組めば雑作もない事デース」
二匹は真偽を確かめようとリクを見た。リクは苦笑いしながら頷いた。
ライアンは続ける。
「もちろん、我々人間には行けマセン。行けるのはプログラムロイドだけデス。ユー達がネットの中に入ってケルベロスを倒すのデス」
「でも僕達一度もネットの中なんか入った事ないよ? 本当に入れるのかな? 」
バボは首を傾げた。
「炭素化合物で出来ている私達と違って、プログラムロイドの体はプログラムそのものなのデス。ケルベロスに入る事が出来て、ユー達に入れない訳がありまセン」
ライアンは自信たっぷりだ。
「システム名『サイバーダイブ』。このシステムによってバボとネネはネット回線の中に入る事が出来るのデス。端末でアプリを起動し、それぞれのパスワードを叫ぶと一瞬でサイバーダイブする仕組みになってイマース」
と、ライアンは説明した。
「へえー。なるほど――」
「面白そうじゃん――」
バボもネネもヤル気になっているようだ。
「ケルベロスを倒す為には武器が必要デス。中の世界ではネットゲーム用の武器を実装できマス。この中から選んでクダサーイ」
開かれたパソコンには武器のリストが並ぶ。バボとネネは興味深く覗き込む。
「あ、これいいじゃん。『ブラックホールマグナム』私はこれにしようっと――。あんたは? 」
即決するネネに対し、迷っているバボ。
「まったく――。優柔不断なんだから! 早くしなさいよ! 」
「だって……、キララのマジカルステッキ、無いんだもん……」
「はあ?! そんな変なのじゃなくて、もっと強そうなのあるじゃない! 」
「うーん……」
「もう! あんたコレね! 『シャトヤンシーソード』」
ネネは勝手に選んで決定ボタンを押した。
「あ、ちょっと待っ……」
バボはまだ決めかねていたが、もう武器は確定してしまっている。
「ほら、もう、行くよ! ライアン、アプリを起動して! 」
「了解デス」
ライアンは画面のアイコンをクリックして、「パスワードはこれデス」とそれぞれにメモを手渡した。
「――ねえ……。これ言わなきゃ駄目なの? 」
メモに目を通してネネは不満気に言った。
「そうデース。そのパスワードを唱えると音声認識によりサイバーダイブできマス」
ライアンは、ニコニコしながらそう言った。
「……仕方ない。言えばいいのね? 」
ネネは、ちょっと頬を膨らませ横目でライアンを睨む。
「はい。ネネから、元気良くお願いシマス」
ネネはスゥーと息を吸い込んで口を開く。握りこぶしを胸の前で作る。気合を入れた感じだ。
「あー、よっしゃ行くぞォ! サイバー! ファイバー! ダイバー! ボンベイ! ジャージャー!! 」
――ネネが消えた。回線に入ったようだ。
続けてバボもパスワードを唱える。
「もいっちょ行くぞォ! 茶トラ! 火! 繊維! 海女!! 」
バボも消えた。
「やりマシタ。成功デスネ。後は彼らに期待しまショウ」
ライアンは顎鬚を撫でながら、二匹が消えた画面を見つめる。
「ヤツらなら、大丈夫ですよ――」
リクはそう言った。根拠がある訳ではない。信じるだけだ。