5-2
「なんだ? これは? サイバー攻撃か?! 」
「サーバーがダウンしました! 莫大なデータが一気に流れ込んだようです! うわぁぁーっ!!」
サーバーマシンが帯電しバリバリと音を立てて青白く輝いた。どす黒い煙のようなものが広がり、空間が歪む。その中に三つの獣の首――。
「ば、化け物ー!!」
「なにか騒がしいですねぇ? 」
スタジオの司会者が物音に気づき、副調整室の方を見るが、よく見えない。
副調整室ではケルベロスが次々に逃げ惑うスタッフ達をなぎ倒していた。ある者は火に焼かれ、ある者は喰い裂かれ、ある者は踏み潰された。まるで地獄絵図だ。
「に、逃げろ! 放送は中止だ!!――ぎゃああっ!! 」
インカムでスタジオにそう支持をするプロデューサーも炎に飲まれた。
「え? 中止って、生放送ですよ?! ――プロデューサー? ……もしもし?! もしもーし?! 」
カメラマンが問いかけても、インカムからは返事がない。
その時、轟音と共にスタジオの防音壁が崩れ、カメラマンは機材共々下敷きになった。続け様に炎と巨大な野獣がなだれ込み、ADはカンペを持ったまま逃げる間もなくケルベロスの前足に弾き飛ばされた。
(――なんなんだ?! こいつは――?! )
バボはセットの椅子から立ちあがる。隣で司会者は「あああ……」と腰を抜かして尻餅をついている。
ケルベロスは動きを止めて、三つの首をそれぞれ三方向に伸ばすとクンクンと臭いを嗅いだ。そうしてから首達は一斉にバボの方を向いた。
「――ターゲット発見――」「――ロックオン――」「――殲滅開始する――」
ケルベロスは電子的な音声を発し、続け様に三つの口からバボに向って炎を放射した。
「うおッ! マジ?! 」
バボは隣で気を失なった司会者を肩に抱え、横っ飛びで炎をかわす。
「――危ねえなぁ」
しかし、一息つく暇もなく、第二第三の炎が襲う。かろうじて避けるバボ。
(人を抱えて、この姿のままじゃ、逃げ切れない――)
「この人の息はあるけど――」バボは抱えた司会者の頬をツンツンと突いてみる。気絶しているようだ。
(気を失ってるなら――)
バボは複合形態に変身をした。身体能力は人の数十倍だ。
「うおおおおおおおーっ!! 」
バボは繰り出される炎の波をかいくぐり、ケルベロスの足元から背後にすり抜けた。ケルベロスの牙を剥いた三つの頭が振り向き襲い掛かるが、それより早くバボはスタジオの外へ飛び出した。そして、そこから数十メートル、一気に距離を取り、安全な場所に気を失ったままの司会者を降ろした。スタジオのあったビルは大きな地響きと共に崩壊し、中から現れたケルベロスは辺りをつんざく様な雄たけびを上げた。
バボは街路樹の陰に身を潜めてケルベロスの様子を伺う。
(しかし、いったいなんなんだろ、あいつは? 明らかに僕を狙ってきたような……)
ケルベロスの三つの鼻が先程と同じ様にクンクンと周囲を嗅いだ。そして、それは正確にバボの姿を発見する。
(――わっ! 見つかった!! )
ケルベロスの吐いた業火が、あっというまに街路樹を灰にする。一瞬早く飛び出したバボは、その場から逃げる。それを追うケルベロスの地上を駆ける速さは、見かけに寄らず俊敏だ。バボのスピードとほぼ変わらない。
車道を突っ走る二頭の追いかけっこで、巻き込まれた通行車両が次々に事故を起こす。火の手が上がり、交通は麻痺をした。
(しつこいヤツだなぁ――)
バボは道端に駐車してある車の屋根からビルの看板に飛び乗り、建造物を立体的に逃げることにした。ケルベロスは追ってこられない。
「木登りは苦手かい? ついて来れないみたいだね。それじゃあバイバイ――」
バボは次々に建物間を飛び移り、ケルベロスを振り切った。




