16
朝の陽ざしに小鳥たちがさえずっている。
「うう」
しばらく、秋はぼーっとしていた。
五分ほどが経って。
カーテンの隙間から差し込む太陽の光に目を細めながら、秋は起き上った。
ベッドの上で制服姿。
商店街で買ったあのCDはプレイヤーの中で停止していた。
カーテンを開いて、外を眺める。
そこにはいつも通りの見慣れた街並み。
そして、思う。
夢だったのか? と。
見知らぬ街で目を覚まし、魔女に遭って性別を変えられ、奴隷として売られたこと。
一人の老婆に命を救われ、彼女の夢を預かったということ。
ある男の農園からの逃避行とその先で二人の少女に出会ったこと。
魔女と命のやり取りをしたこと。
二人の少女に助けられて、生き延びたということ。
そうして、この部屋に戻ってきたということ。
はっきりと、正確な記憶が秋の頭の中に残されている。
夢かもしれないが、本当に現実かもしれなかった。
秋は伸びをして、体から眠気をほぐす。
「まぁ」
まぁ、いずれにしたところで。
この記憶は。
あの経験は。
秋にとって大切なものだ。
無気力、無感動で、生きることが希薄だった秋が、その性質を変えるに至ったこの記録は大切なものだ。
「やばっ」
秋は机の上の時計を見て、焦燥を浮かべた。このままでは遅刻してしまう。
不思議と。
今日の朝は憂鬱ではなかった。
虚無的ではなかった。
久しぶりに希望的な朝だった。
きっとこれも変化のためだろう。
急いで身なりを整え、鞄の中に教科書などを詰めなおし、秋は学校へと出発する。
慌ただしく、階段を下りた。
「いってきます!」
勢いよく飛び出していった秋を家族が不思議そうな目で見ていた。
秋が変わったということを彼らが知るのはもう少し先になるかもしれない。
そう。
人は変わるのだ。
それも簡単に変わってしまうのだ。
長い時間の中では勿論のこと、たった一つの出来事で人は変わってしまう。
しかしながら、その変化が全て悪い方向へと流れるわけではない。
変化は良い方向にも作用するのだ。
「時間ないって」
初夏の風が走る秋の体を後押しする。
今日は晴天のようだ。
「はぁはぁ――」
秋の息が荒くなる。
じわり、と汗が額に滲んだ。
そろそろ、夏服に衣替えしないといけないかな、と秋は思った。
ちなみに。
その制服の下に女性用の下着を着用していることに華原秋はまだ気がついていない。
――fin.
『異世界性転記録』これにて完結です。
無事に最後まで書くことができました。
拙い文章で読みにくい箇所もあったと思いますが、最後までお付き合いいただいてありがとうございました。




