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陸、視えるモノと見エナイ物

「リオン、勝原君をあの方と二人っきりだけにして良かったのだろうか?」

 皇城の中にある休憩室。私とリオンは、煙草をふかしながら椅子に腰掛けていた。お互いの煙草の煙が融合し、そして、消えていった。

「もし、視稀と一緒にいることが柊次きゅんにとって良くないことだとしても、私たちに止める権利は無いはずだよ。あの方の権力は絶対だ」

 煙草を灰皿に添え、コーヒーを啜るリオン。確かに、あの人の権力は絶対。私達ごときが逆らえることではない。

「視稀は……柊次きゅんで遊ぶ気なんだろうねぇ。柊次きゅんの能力で、そして、柊次きゅん自体で」

 そう言ってコーヒーを啜るリオンの顔は、何とも言えないような表情だった。

「勝原君で遊ぶ? 一体、どういうことだ?」

 リオンが私の質問に、フッと笑い、カップを机に置く。

「それだけ、柊次きゅんの能力を見込んでいるからということにしておこうかな。ニュアンス的にもその言い方が適している……かな?」

 リオンはそう言って、あの方の部屋の方向をみる。

「サラから少しだけ勝原君の能力について聞いたが……彼の能力って一体……」

「昔ね……」

 リオンは、ワンクッションとしてコーヒーをすする。

「愚かな男が居てねぇ。自ら何でも作りだそうとした。地位も、富も、名誉も。そして、新しい人類をも誕生させようとした。誰もがそんなこと成功出来っこないと思っていたけど、彼はなかなか才能があったのだろうね……出来てしまったんだよ。

 しかし、出来た物体は一歩、作られた環境から出てしまうと拒絶反応からかすぐに死んでしまったんだ。彼は、それを見て思ったんだ。

 そうだ、これを人間に移植したら、きっとこの物体は死なずに済むってね。

そこで彼は、まず自分の子どもの体へ、その物体の一部を植え込んだのさ」

「なっ……」

 私はリオンの発言に言葉が詰まる。自分の子どもをそんな実験に使うなんてありえない。

「彼にとっては、自分の子どもたちなんて只の実験に使うモルモットっていうカテゴリーでしかなかったからね。実験の結果は、長女が拒絶反応で植物状態に、双子の兄弟は見事成功したみたいだけどね。

 それに味をしめた彼は、さらに実験体を欲した」

 リオンの表情が曇る。

「その実験体として勝原君に白羽の矢が立ったと、そういうことだな」

「そう。正確には、ある基点から半径二十キロ圏内の子どもは全員、実験体にされたんだ」

 その基点とは、という質問にリオンはさらに表情を曇らせる。

「その基点は……道柴総合病院だよ。病院というのを利用して、子どもたちの健康診断をしたいと騙り、子どもたちを実験棟に閉じ込めたんだ。実験は酷いものだった……私の口からは実験内容を言いたくないくらい酷かった。そして、その実験で生き残った子どもは最初に集められた数の四割にまで減ったんだ」

 リオンが俯き加減でそう答える。生存者が四割……実験の内容を言われなくても、それがどんなに酷いものだったのか想像できた。

「それにしても、それでよく子どもたちの親が騒がなかったなぁ……騒いだらメディアだって取り上げただろうし」

 私の素朴な疑問に、リオンは目を閉じて答える。

「生き残っていた子どもは実験中の記憶を意図的に消されてすぐに親元に帰されて、良かったんだけど……生き残れなかった子どもの親は、道柴病院を訴えたくても訴えられなかったんだ。連帯責任で殺されたから。一家全員ね」

「え? 今、何と?」

 私はあまりにも衝撃的な事実を聞かされ、一瞬頭が真っ白になる。

「子どもが死んだのは親が強い遺伝子を持ち合わせていなかったからと考えた彼は、一家全員を殺したんだ。順作、一時期ね、パンダの着ぐるみを着て犯行を行った愉快犯がいた事件が話題になったことを覚えているかい?」

 パンダの着ぐるみ……。あぁ、あれか。確か、上箕島市で連続殺人事件が発生して、犯人が犯行に及ぶ時着ていたのがパンダの着ぐるみという事件。確か犯人は捕まったのだが、独房で無残な死に方をしたというあっけない最期だったというものか。

「あの犯人、実は替え玉で、本当の黒幕がいたんだ。黒幕の名前は道柴玄一郎。道柴総合病院の院長で、生命遺伝子工学の権威だよ。彼は、その実験内容を若干捏造して学会で発表。そして、多くの賛同を得て更に実験を拡大した。

 彼の思惑は現実と化し、彼の抱く理想はあと一歩で完全に実現するはずだった、しかし、彼は実験中に実験体に殺された。彼の抱いていた理想は、彼の実験によって脆くも砕け散ったってわけだね」

 あの事件の裏にはそんなことが……。そんな誰も知らないようなことを誰から聞いたんだ? 私は頭に浮かんだ素直な疑問をリオンにぶつけてみる。

「ん? 玄一郎の双子の息子たちとは少し交友があってね、前に少し話を聞いたことがったのと、柊次きゅんが総合病院に入院していた時、道柴総合病院に勤務している関係者が病院へ立ち寄っていたからその人から更に詳しく聞いたのさ。その人もまた実験に巻き込まれた人だからね。

 ちなみに、このことは柊次きゅんには内緒にしておくべきなんだけど……視稀が喋っちゃうかもね」

 そうだ、あの方は、人からそんな話を聞かなくても、人の生い立ちを知れることが出来る人だ。私はあの方の能力を思い出し、顔から冷や汗をかく。なぜなら、あの方は、

「全てを視透かせる眼を持っている。だけど、それを止めることは私たちには出来るはずがない。悔しいところだね」

 リオンは、ため息交じりの声を出した。




「勝原君。さぁ、そんなに緊張しないで、こっちにきて座ってお話をしよう」

 視稀様は上手(かみて)の椅子に腰かけ、反対側の椅子へ座るように勧める。俺は、それに素直に応じ、反対側の椅子へ座る。

「視稀様、先ほど仰っていた、俺の進むべき道っていうのは一体?」

「その質問に答える前に、まず僕が眼に包帯をしている理由から話さないとね」

 視稀様はそう言って、自ら包帯を取っていく。包帯が解け床に落ちる。包帯が無くなった眼には更に何かしらの文字が書かれた御札が眼に貼ってあった。何かのまじな呪いの類なのだろうか?

 御札らしきものを取り払うと、視稀様がゆっくりと瞼を開く。

 開いた眼は、澄んだ浅黄色。あまりにも澄んでいて綺麗だったから、俺はその眼に吸いこまれそうになる。

「この眼はね、ちょっと難儀な眼でね。視えてしまうんだ。人の生い立ちを、人の未来を。だから、お札で封印を施している。そして……」

 そして、なんですか? と、視稀様に続きを促す。

「国の未来も見えてしまうんだ。それは、ちょっとのことでは揺るがない絶対の未来」

 絶対の……未来……

「そう、絶対の未来。この仁坂国はあと数年で滅びるという絶対の未来が僕には視えてしまうんだよ」

 え? あと数年でこの国が滅びる? 一体なんの冗談を?

「冗談なんかじゃないよ? 僕にはそれが視える。だけど、あっけなく滅んでしまうのは僕にとって面白くないからね。だから僕は冬木原防衛隊を作ったんだよ」

「ご自分が、国が簡単に滅んでしまうのがつまらないからって防衛隊を作った……」

 衝撃発言に目をまるくして驚いている俺を嘲笑うかのように、満面の笑みで視稀様が答える。

「うん。そうだよ。この絶対の未来に足掻いていく人を見たいから作ったのだよ。だから、君もそこで一生懸命足掻いて、僕を楽しませるっていうのが君のこれから進むべき道なんだよ。君の能力があることで、もっと私を楽しませることが出来ると思うからね」

 まるで、楽しそうな子どものように笑う。

「ちなみに、このことは僕と面識のあるものしか知らない。彼らもしっかり足掻いてもらっているけど、最近つまらなくてねぇ。そんな中、防衛隊に君が現れた」

「俺が現れたことで何か変わったんですか?」

 俺の問いに、視稀様は椅子から立ち上がり、俺の方に歩みを進め、そして、俺の座っている椅子の肘かけに腰をかけた。

「面白いことに、よっぽどのことでは変えることのできない未来が、君がリオンの娘に出会った時に少しだけ変わってしまったみたいでねぇ……少しだけこの国の寿命は延びたみたい。でも国の滅亡が完全に無くなったわけではないけど、まぁ、崩壊への余興にはちょうどいいと思って君を防衛隊へ入隊させようと思ったわけなのだよ。

 よかったねぇ、柊次君。皇帝直々に指名されることなんて滅多にないよ?」

 気持ち悪いほどの笑顔で微笑む、視稀様に嫌悪感を覚える。

「視稀様は、この国が滅んでも構わないんですか! 国民が皆、貴方のことを信頼して居るんですよ? そんな国民を……」

「民なんて所詮、私が遊ぶボードの上でしか動かない駒と一緒だよ。居ても居なくても僕は新しい駒を買ってやり直すだけさ」

 そう語る視稀様の顔は、きょとんとしていて、さも当たり前かのような口ぶりだった。

「辞退するなら今のうちだよ? ただし、君が防衛隊に入隊しないのなら、延びていた国の寿命が縮むのだけどね。君のせいで、多くの人が犠牲になっちゃってもいいのかなぁ?」

 どうやら、俺に選択肢は残してくれなかったらしい。

「いいでしょう。引き受けます。ただ、一つだけお願いがあります」

 俺はすくっと立ち上がり、視稀様の方向を向く。

「ほう? 何だね?」

 視稀様もつられて立ち上がる。向かい合う二人。そして、俺は……


 パーン。


 部屋に乾いた音が響く。俺は、視稀様の右頬を右手で平手打ちをしたのだ。

「なっ」

 いきなりのことに、視稀様は驚きの表情を見せる。

「すいません。どうしても許せなかったので平手打ちさせて頂きました。その代償として、俺はどんな罰でも受けます」

 俺はしてしまったことの重大さが後からひしひしと伝わって、顔を俯かせる。

 視稀様を叩いてしまった右手を左手でギュッと握る。

「ほ、本当に……」

 視稀様は体をふるふると振るわせる。

「あははははっ。本当に君は面白い子だ。皇帝に手を挙げるなんて、そうそう出来ないぞ。僕に平手打ちを喰らわせたなんて、君で二例目だ」

 視稀様はお腹を抱えて笑う。俺には何が起こったのか把握できない。

「いきなり笑ってしまってすまなかった。君を試していただけなんだ」

 え? 俺を試していた?

 俺は、視稀様の言っていることが理解出来ずにいた。

「そう、国の運命を少なからず変えた人間の力量を見るためにね。僕は、さまざまな物を視ることは出来るけど、人の力量だけは見ることが出来ない。だから直に会って試してみたかったのさ。

 皇帝の僕が保証する。君はきっとこの国を護ってくれる」

 そう言って、視稀様は座っていた椅子に再び戻る。真実を知った俺は、安堵のあまり腰が抜けて、椅子へペタリと座る。

「そ、そういうことだったんですか……ところで、俺で二例目ということは、誰か俺と同じことをした人がいるんですね」

「それはね……リオンだよ」

 視稀様がフフフと笑いながら、そう答える。

「防衛隊発足直前に、管理官に就任予定だったリオンを試そうと思ってね……柊次君に言ったのと同じような内容を言ったら、思いっきり左手のビンタを食らったよ。リオンは容赦なく顔を叩いたものだから、一週間くらい腫れがひかなかったぞ。リオンは見た目華奢なくせに、いざとなると流石男だよ。馬鹿力が強烈だ」

「誰が、馬鹿力ですって?」

 声に、俺と視稀様が振り返ると、リオンさんが入り口の前で仁王立ちしていた。

「リオン、二時間後って自分で言ったよね? まだ、一時間しか経ってないけど?」

 視稀様がニコリと微笑む。その笑顔には黒い何かが少しではあるが滲み出ていた。もしかして、お怒りになられている?

「だって、柊次きゅんのことが恋しかったんだもの。視稀だけ独り占めはずるいわよん」

 そう言って、リオンさんは、俺に抱きつき頬擦り。ちょっと髭が当たり痛い。

「お話は大体終わったでしょ? だからいいじゃない。さぁ、帰りましょうよ」

 リオンさんは、そう言って俺の腋から手を入れがんじがら雁字搦めにし、思いっきり引こうとする。俺はその反動で椅子から引きずり下ろされる。

「私は、視稀ともうちょっと話があるから先に外で待っておいてねん。順作が外で待っているはずだから……逃げたら追いかけちゃうんだからね」

 そう言いながら、ぐいぐいと俺を入り口まで押す。

「わ、分かりましたよ。では、視稀様、俺はこれで失礼いたします」

 視稀様にペコリと挨拶をし、俺は部屋を出た。




 柊次君が出て行った部屋。私は、先ほど柊次君が座っていた椅子に腰を掛ける。

「皇帝の僕が保証する。君はきっとこの国を護ってくれる、ねぇ……なかなかトップらしい台詞を吐ける様になったんだねぇ。なぁ、視稀」

 私は嘲笑するような笑みで、視稀を見つめる。

「お褒めに預かり光栄だよ、リオン。お前も悪趣味だな、盗み聞きだなんて」

 視稀は腕を組み、フッと笑う。

「部下の身を案じての行為だよ。それにしても、あの台詞、視稀の本心では言ってないだろ?」

「お前には全てお見通しというわけか……参ったよ、クックク。あの子の安心しきった顔を見た時は更に笑いそうになったよ。あの顔に絶望というスパイスを加えて、どん底に落としてやったら、どんなに楽しいだろうってね」

 視稀は、アハハハと高笑いをする。本当に趣味の悪い奴だ。

「視稀にはあの子の生い立ちもその眼で視えていたはずだ。何故、言わなかった」

「今、言ったらつまらないじゃないか。最高のディナーは最後まで取っておいて、一気に壊すっていうのは、リオン、お前の受け売りなんだが?」

 企むような目つきでこちらを見る。

「こういう悪いところだけ私の真似をするな。虫唾が走る」

 私は、視稀にそう吐き捨てる。視稀はその言葉にニコリと微笑む。

「真似してもいいじゃないか。僕たち兄弟なんだし……ね? リオン兄さん」

 そう、視稀と私は4つ違いの兄弟。それは、前皇帝と両親、そして私たち兄弟以外は誰も知らない最大の秘密。

「そういう時だけ、弟面するものじゃないぞ? 視稀……いや、今なら誰にも憚ることはないから、リュウスと呼ばしてもらうぞ?」

 視稀という名前は、皇帝を継承した時に付けられた。彼の本当の名前はリュウス。

 仁坂国の皇帝継承システムは特殊だ。一族継承ではなく、前皇帝が次の皇帝にしてもいいと思った人間を養子に迎え入れる。そこで数年間教育を施し、新しい皇帝を引き継がせるというシステムである。

 前皇帝の真寿様はリュウスの何でも視える眼がお気に召されて、リュウスを新しい皇帝をしようと養子に迎え入れたのである。

「お互いが偽りの仮面を被り続けるっていうのは楽じゃないから、こういう兄弟水入らずの時だけは、本音のぶつけ合いもいいんじゃないかな? どうかな、リオン兄さん」

「リュウスが本音? 嘘も休み休み言え。お前が本音で語ったことなんて、兄弟間でもなかったのに、そんなことが良く言えるな。そんな軽々と嘘を言える口へ針を千本飲ませるぞ」

 私は、易々と嘘を並べる、リュウスが嫌いだ。その並べた嘘で、私を、親を、先生を、友人を、先代の皇帝を、そして、今は国民を騙しているのだ。

「おっと、これは手厳しいねぇ。兄さんだって同じ穴のむじな狢のくせに、そんな口が叩けるね。僕は昔から一人だけ正義のヒーローを気取っている兄さんが大嫌いだよ。だから、兄さんには苦しんでもらわないとね、運命に抗うという苦しみを存分に味わうがいいよ」

 私たち兄弟はお互いに本音を語ったことなんてなかった。リュウスの言う通り、私たちは同じ穴の狢。

「リュウスが仕組んだゲームの駒に、私はいくらでもなってやってもいい。だがな、柊次君の運命を玩んだりしてみろ、いくら肉親の弟であり、皇帝のお前でも、容赦なく闇に葬ってやるからな。その時は覚悟するんだな」

 リュウスに睨めつける。リュウスは私の顔を見て、少しばかり驚愕したが、またすぐ鼻で笑う。

「おー怖い怖い。兄さんを怒らせたらお得意の黒魔術で僕が殺されちゃうね。あ、それとも『望めば何でも殺めてしまう』その眼で消されちゃうのかな? まぁ、今すぐ柊次君を玩ぶことなんてしないよ、ゆっくりじっくりと遊んであげるから安心して。そう、じっくりと恐怖であの子を壊してあげる」

「お前がさっき言ったように、思いっきり左手でビンタしてやろうか?」

 私が左手を構えると、遠慮しておくよとリュウスは笑みを浮かべる。その笑顔も何となく人を嘲笑っているように見えて、昔から嫌いだ。

 しかし、こんな性格になったのも、リュウスの何でも視えてしまう眼の所為だというのは、小さいころからなんとなく分かっていた。弟の特殊な眼は何でも視えて、弟は視えてしまった事象に苦しまれ続けてきた。特殊すぎる故に周囲から嫌われていたこともあった。

 だから、リュウスは苦しんできたことを今、皇帝となって復讐しようとしているのだ。仁坂国の全国民に。

 だから、私は幼いころ弟の苦しみを分かってやれなかった償いとして、こうして冬木原防衛隊の管理官として、運命を足掻いていこうと決めた。そして、最悪の未来ではないシナリオへと持っていこうと誓ったのだ。

 時計を見れば、柊次君が部屋を出てから三十分が経過していた。そろそろ戻らないと、二人とも待ちくたびれている頃だな。

「話過ぎたな。順作と柊次君が待っている。それでは、視稀。私はこれにて失礼するよ」

「久々にたっぷりお話できて楽しかったよ、リオン。近々、またお話しようね」

 私たちは、またいつものように、兄弟から視稀皇帝とリオンお目付け役という立場に戻る。私はスタスタと入り口まで歩みを進めると、

「リオン、ひとつ予言をしておくよ。もう少ししたら、とっても楽しいことが起きるみたいだよ。僕が柊次君を壊しちゃう前に壊されることなんて駄目だからね」

 視稀の言う、“楽しいこと”とは、大規模な事件のことを指す。

「ご忠告をどうも。何があっても、柊次君を死なせはしないよ。では、失礼する」

 そう言って、部屋の扉を閉め、私は順作たちの待っている入り口へと向かう。

「あいつは本当に子どもだなぁ……まぁ、私も同族だから子どもか……滑稽だな」

 そう独り言をつぶやきながら窓から空を見る。空は、鳥肌が立つような真っ赤に染まっていた。

 サラにクッキーを買ってやるという約束をそういえばしていたなということを思い出す。破ったらきっと河豚ふぐのように膨れるから買ってやらないと。

 そう考えながら、順作たちが待っている場所へと急いだ。




 リオンが去ったあと、僕は執務机を見る。

「ヴァリオ、もう出てきていいよ」

 僕がボソッと呟くと、金髪の白衣を着た青年が机の物陰から出てくる。

「やっと終わったか。何で私がこんな机の下に隠れなくてはいけないのか……」

 ヴァリオはそう言って、肩に付着した埃を払う動作をする。

「柊次君の手術を担当した君がココにいるなんておかしいでしょ? 君が柊次君に見つかってしまったら、柊次君へ人体実験を施した道柴総合病院の関係者が偶然を装って手術の助け舟を買って出るというシナリオのキャスティングが台無しになるじゃない」

 そう、柊次君の手術をヴァリオが手伝ったのは偶然ではない。ヴァリオが学会ついでに立ち寄ったというのは真っ赤な嘘。僕がそう仕向けたのだ。

「視稀には借りがあるから仕方なく協力したが、彼にどうしてそんなに執拗に迫るんだ?」

 ヴァリオが僕に問う。僕は何食わぬ顔で答える。

「ヴァリオは仁坂国の皇帝継承のシステムはもちろん知っているよね?」

「あぁ、現皇帝が次に継がせたい奴を養子に……ってまさか!」

 彼の頭の中では一つの答えが浮かんだらしい。

「そう、そのまさか。柊次君には次期皇帝になってもらおうと思って。まぁ、今の状況で次があるかどうか分からないけどね」

 僕はニコニコしながらヴァリオにそう返答した。

「柊次君の力は強大だ。だかしかし、まだ力自体が目覚めていなくて未熟。そこで力を覚醒させる必要があった。その為にワザとあのストーカー青年とショッピングモールで鉢合わせさせて、柊次君を瀕死の状態にさせるように仕向けたんだ」

 そう、事件が起こるように仕向けたのは僕だ。

 掲示板にストーカー青年に殺意が芽生えさせるような書き込みをすることを指示させ、その結果、思惑通り青年はショッピングモールに赴き、柊次君と対峙することになったのだ。

「柊次君に眠っていた力は覚醒一歩前までに倍増したし、ストーカー青年も捕まったことだし、一石二鳥じゃないか」

「視稀……お前って奴は!」

 ヴァリオは僕の胸倉に掴みかかってくる。僕は掴んできた手をさっと払いのけてヴァリオに冷たい表情でこう告げる。

「僕は君も柊次君も使えるから多少の目に余る言動でも目を瞑ってあげているんだ。皇帝の僕に対する言動は慎みたまえ。君が使えないと判断したときは処分してもかまわないんだよ?」

「俺は処分されてもいい、だが柊次君だけは……」

 ヴァリオは僕にそう懇願してくる。

「どいつもこいつも柊次君のことはそうやって護るんだね。全く、誰からも護られる彼のことが羨ましいよ。彼も僕と同類じゃないか。特殊の能力を持っていることで周りから様々な目を受けて今を生きている。羨ましがられ、妬まれ、疎まれ、バケモノ扱いされてだんだん心を壊していくんだ」

 僕は自嘲気味に話す。一方ヴァリオは呆れた顔で部屋の扉に手をかける。

「柊次君は視稀とは全く違う。お前は何も分かってないだけだ。柊次君と関わることで少しはお前も、国の未来も変わるといいな」

 ヴァリオは「失礼する」と言って部屋を出て行った。

「僕が柊次君とは違う? 冗談はやめてくれよ」

 僕はくつくつと笑う。

「あー、面白かった。さぁ、もっと僕を楽しませてよ。アハハハハハハ!」

 部屋の中では僕の笑い声だけが響いていた。

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